今回のお話は気がついたら1万文字を超えていたのでもし良ければ最後までお付き合いください。
第83話:G1!皐月賞!
遂に皐月賞当日を迎えた。キングとスカイは各々の待機室でレースの準備をしている。そして、最後の作戦会議のために俺も待合室に向かっていた。2人の作戦を知っているからこそ公平に作戦を考えるのは中々難しかった。
「スカイ入ってもいいか」
「どうぞー入っちゃってください」
一応扉をノックしてから入室する。もしも、勝負服に着替えてる途中とかだったら嫌だからな。
「おぉやっぱり良く似合ってるな」
部屋に入るとスカイは既に準備万端だった。椅子に座りながら体を伸ばしてリラックスしてる。
「えへへ……ありがとうございます。我ながら可愛い勝負服を着こなしてると思うんですよ〜」
スカイの勝負服は本人の要望を少し取り入れたデザインだった。フリフリが欲しい〜とか可愛いのがいいといった大雑把なものだったけど。
「褒めておいてなんだけど本題に入るぞ」
最初はリラックスするために軽い話題から入ったが、本人も以前よりは緊張していなかったので本題に入ることにした。さっきまでフワフワとリラックスしていたスカイが一気に引き締まる。
「今回もいつも通り基本的には逃げで行ってもらうつもりだけど問題はないな?」
「もちろんです。私もそれ以外は考えられないですし〜」
先行で様子見ながらっていう考えもあったが本人に1番合う走りで戦うべきだろう。何より今日の相手はスペとキングだからな……余計相性が悪い。
「ただ、レースの様子を見ながらできる限り脚を溜めて欲しいんだ」
俺の作戦にスカイはちょっと不満そうな顔をした。スカイ的にはできる限り後ろと距離を離しておきたいだろうしな。
「スタミナを温存してラストの坂の手前から仕掛けるぞ」
「坂前からラストスパートですか!?」
スカイが驚くのも分かる。坂はただでさえスタミナを多く消費するし、スピードを出すためにはさらに消耗が激しくなるだろう。
「スペは先行、キングは差しで来るはずだ。そうなると2人が攻めに来るのは坂を登った直後だ。スカイのラストスパートを見てペースを上げるかもしれないがそれはそれでいい。ラストの末脚を十分削れるはずだからな」
並のウマ娘なら難しいかもしれないが、スカイにはステイヤーとしての並外れなスタミナがある。それを活かせば十分に逃げ切れるはずだ。それに、同タイミングで仕掛けたらスピードの差で勝てない可能性が高い。
「ん〜セイちゃん辛いの嫌だな〜……でも、そうすれば2人に勝てちゃいますかね?」
スカイはイタズラっぽくニシシと笑う。辛くても勝つためなら1着でゴールするためならスカイならやり遂げてくれる。
「絶対に勝てるとは言えない……だけど、スカイなら逃げ切ってくれると思ってるよ」
そう言うとスカイは嬉しそうに小箱を俺に押し付ける。スカイに視線を送ると開けてみろと首をクイッとしてきた。小箱を開けてみると中には俺が以前に買ってあげたタンポポの髪飾りが入っていた。
「トレーナーさんに直接付けて欲しいな〜ほらほらー送り出すと思って」
俺は別に構わないんだけど……これで本当にいいのだろうか?
「これ菊と間違えて買ったやつなのにいいのか?」
「トレーナーさんが私に初めてくれた贈り物ですからね〜セイちゃんやる気フルマックスです!」
スカイが頭をグイグイとこちらに押し付けて来るものだから、俺はそれを手で押さえつけてそのまま髪飾りを付けてやった。
「ほら、これで満足か?」
「もちろんです!私はこれで大丈夫なのでキングちゃんのところに行ってあげてよ」
髪飾りを付けたスカイは尻尾をフリフリと揺らしてご機嫌に俺を部屋から追い出した。
「私……トレーナーさんと一緒に勝ちますから」
最後何かをボソッっと言っていたが俺には上手く聞き取れなかった。スカイに時間をずっと使う訳にもいかないので、俺はキングの待機室へと向かった。
「キング入るぞ」
「えぇ、こっちはもう準備は出来てるわ」
部屋に入ると勝負服を既に着終えて準備万端のキングが座っていた。キングの勝負服の基本デザインはキング本人が作ったものだ。スカイの可愛らしさとは違って大人びたデザインでまるでドレスの用に見える。
「綺麗だ……」
あっ口に出してしまった。相手は去年まで中等部の少女だぞ!?いくら似合いすぎてるからと言って綺麗だなんて。
俺はキングにドン引きされるか叩かれるくらいの気持ちで目を開けたが、目の前に広がるのは全く想像していない状況だ。
「きっっききれいだなんて!嬉しくないわけではないいのよ?ただレース前にはちょっとわきまえなさいよ!」
顔を真っ赤になりながらテンパって俯いていた。マイナス的なイメージを……受けてるわけではなさそうだ。
「落ち着けキング!俺の言葉選びが悪かったな。良く似合ってるよ」
「落ち着いてるわよ!ほら、早く作戦会議に移りましょ」
そうだ、こんなことをしてる場合じゃなかった。キングはいつも以上の落ち着きを見せている。別の出来事で慌てては居るがレースに対する緊張感はあまり無さそうだ。
「とりあえず、今回のレース基本的には王道的な走りで勝負していこうと思ってる。前半は溜めてラストの坂を登りきったところで一気に差しに行く」
今回のレースはシンプルな実力勝負になってくると読んでいる。弥生賞を経てレース場の感覚を掴んでるウマ娘もいるだろうから、余計にミスが減っていくレースになるだろう。
「そうね……でも隙があれば付け入るつもりよ」
「もちろんだ。そこは臨機応変に対応してくれ」
キングの走りは相手のミスなどを誘発させる物じゃない。けれど、相手がその隙を見せたなら利用しない手はない。それに、スカイは今回、仕掛けるポイントが特殊だったりするから臨機応変に対応していく必要がある。
「特別な作戦を立ててやれなくてすまないな」
謝るとキングは俺の方を見て軽く微笑んだ。
「大丈夫。あなたは私とスカイさん2人のトレーナーだもの。お互いの特性と作戦を知った上で考えるのは難しいわ」
「そう言って貰えると助かるよ」
作戦会議も終わったし、あとは本人が1人で集中する時間も欲しいだろ。俺はそう思って部屋を後にしようとした。すると、いつの間にか横にいたキングに袖を掴まれる。
「最後に背中を少し押してくれないかしら?」
その手は少し震えていた。流石のキングも初めてのG1レースは緊張もすれば不安もあるよな……
俺はキングの背中を軽く叩く勢いで押した。
「キングの意地ってやつを見せつけてやれ」
「えぇ!」
スカイとキングを送り出した。あと俺に出来ることは応援して見守ることだけだ。キングの部屋を後にして観客席へと向かった。
「よお後輩」
観客席に戻る途中の通路で沖野先輩とすれ違った。先輩はどこかおちゃらけてるような態度からは考えられないその真剣な眼差しで俺を見ている。
「先輩……今日は負けません」
前回は敗北したが、今回はスカイもキングもスペに勝つ自信がある。そう出来るようにチームで努力してきたんだから。
俺の言葉を聞くと少し嬉しそうに笑い『上等だ』そう一言だけ行って俺とは別方向の観客席に向かった。
「トレーナーさん。スカイさんとキングさんのご様子はどうでしたの?」
観客席にたどり着くと、マックイーンがソワソワした様子で2人のことを聞いてきた。チームに所属してからの初めてのチームメイトのG1レースだ。2人のことが気になってしょうがないって感じだろう。
「2人とも絶好調だよ。特別緊張してる様子もなかった。最高のパフォーマンスでレースに挑めると思う」
それを聞いてマックイーンとすぐ近くに座っていたグラスワンダーもホッとしていた。同期のG1レースだから気になってたんだろう。ただ、もしもグラスワンダーがこのレースに参加してたと思うとヒヤヒヤとする。
「グラスさんも人の心配ばかりしていないで、レースも見てくださいね。いずれは戦うことになる相手なんですから」
グラスワンダーの横から葵さんが顔を出す。その横にはライスとミークそしてハルウララがいた……ハルウララ!?
「あの、葵さんのところになんでハルウララが?」
「あっそれはですね……」
「私ね!桐生員トレーナーのところでしゅぎょうちゅう?なんだ!」
俺と葵さんが話してると後ろからハルウララが会話に乱入してきた。彼女が言うには修行中らしい。
俺が頭を傾げていると「それはまた後で話しますー!」と言ってハルウララを席に戻していた。
「あなたの周りは随分と賑やかですね」
俺たちのすぐ後ろには南坂さんとナイスネイチャの2人が座っていた。ナイスネイチャは軽く目が会うと会釈して目を逸らした。
「南坂さんも見に来ていたんですね」
「もちろんですよ。ネイチャさんのいい刺激にもなりますし……見ないのはあまりにももったいないですよ」
南坂さんの言いたいことも分かる。黄金世代と言われる5人の内3人が参加するレース、それもクラシックG1。これを見逃すのはもったいない。
「すいません隣座ってもいいですか?」
南坂さんと話してると横から声が聞こえたのでそちらを振り向く……が誰もいなかった。
「こっちです!こっち!」
そうすると目の前に手が現れて、下を向くと小等部くらいのウマ娘が2人いた。見た感じ小学校中学年くらいだけどこの歳で競技場までくるのか。
「あぁ、気付かなくって悪かったな。特に誰かが来る予定もないし座って大丈夫だぞ」
俺がそう言うと2人は喜びながら席に座った。今日は競技場は混んでるし席を探すのは大変だっただろう。
(そういえばこの前ゲーセンであったナリタタイシンも今日のレースを見に来てるんだろうか)
そんな事を考えていると、横の2人は耳をぴょこぴょこさせたり尻尾を揺らしながら目をキラキラさせていた。
「2人はレースをよく見に来るの?」
「いえ今日が初めてです。キタちゃんがどうしてもレースを見てみたいって言うから……」
もう1人の茶髪のウマ娘の娘が答えてくれた。どうやら黒髪のウマ娘はキタちゃんと言うらしい。それにしても初めて見るレースがG1レースとは。下調べとかは特にしてないっぽいし運がいい。
「ダイヤちゃんだって私も見てみたいって言ってたじゃん」
茶髪の子はダイヤちゃんと言うらしい。2人がワイワイと話しているとパドック入場が始まった。
『本日のレースに参加するウマ娘がパドックに入場します!』
入場のアナウンスが入ってからウマ娘がパドックに入場する。
『2枠3番セイウンスカイ!2番人気です!』
『前回のレースではスペシャルウィークに敗れてしまいましたからね。今回のレースでどこまで成長してきたのか注目ですよ』
パドックに入場したスカイはフワフワした感じで観客席に手を振っている。その仕草にうちのマックイーンさんがメガホンを手にはしゃいでいる。
「スカイさんやる気も気合いも十分ですわ!」
傍から見るとフワフワしていて読めないスカイだが、ずっと近くにいるマックイーンには無意味らしい。スカイのやる気なんかをあそこから読み取れるのは中々……
「スズカから見てスカイはどうだ?最近は1番近くで見てたわけだし」
そう話をふると、スズカは静かにスカイの足を見つめている。表情や上半身は見ずにただ足だけを見つめてた。足の仕上がりでやる気や調子はある程度分かるけど、それ以外を少しも見ないのは流石スズカさん。
「今までで1番いい仕上がりだと思います。ふふ、早く一緒にレースで走るのが楽しみ」
スズカから見てもスカイの足の調子は良さそうだ。するとキタサトコンビの方から大きな声が聞こえた。そちらを振り向くとキタちゃんが目をキラキラさせながらスカイのことを見ていた。
「スカイさん可愛い!」
どうやらスカイのことが偉く気に入ったらしい。椅子から立ち上がってパドックの方を見てピョンピョンと跳ねている。
「キタちゃんまたいつもの一目惚れ?」
いつもの一目惚れってなんだ。でもあのくらいの歳じゃ好奇心旺盛な歳頃だろうからそんなものなのだろうか?
そんな事を考えているとパドックのウマ娘は次のウマ娘の紹介へと移っていた。どのウマ娘も仕上がりが素晴らしい。みんなが1生に1度のクラシックに全力で挑んでいるんだ。
「スズカ……去年俺たちが取りこぼした夢をスカイとキングが取りに行くぞ」
去年は俺はトレーナーとして、スズカは選手としての実力が足りずに皐月賞出走が出来なかった……その夢を同じチームメイトが繋いでいるんだ。
「スカイちゃんとキングちゃんならやってくれます。だって2人は速いですもん」
スズカらしい反応というかなんというか。先輩として成長はしても、その根本にあるのはスズカのままってことだな。
『6枠12番キングヘイロー!3番人気です!』
『彼女の末脚は凄まじいですからね。今日のレースどう攻めるか注目です』
キングはパドックに出ると人差し指を空に掲げて早々に退場した。キングなりの宣戦布告……いや、このレースを勝つのは私だと言わんばかりのポージングだったな。
「すごい仕上がり……」
俺の真後ろにミークが立っていた。さっきまで葵さんのところにいたと思ったんだが。
「どうだ?うちのキングは」
「前に言いすぎたこと少し心配してました。でも……心配はいらなそう」
去年の皐月賞を取ったミークがそう言うなら間違いない。それに俺もキングの成長は確信している。
「今日のキングは今までとは次元が違うぞ?楽しみにしとけよ」
「楽しみにしてる」
そう言うと、コクリと頭を下げて葵さんのところに戻って行った。
「これで残るはスペか……」
次々と出走ウマ娘が紹介されていき、ついにスペの番が回ってきた。スペの勝負服は紫とピンク色が目立つ可愛らしいデザインだ。
「仕上がりは悪くはないけど、でも……」
「スペちゃんは今回のレースは厳しいと思います」
俺が思っていることをスズカが横から言ってくれた。スズカはスペのことが大好きだけど言う時はしっかり言うのな。それに、スズカはスペと同室で同じ空間にいる時間も長いだろうし。
「どうしてそう思うんだ?確かに仕上がりが凄い良いわけじゃないが……それでもスペの実力は1級品だと思うが」
スズカの言い分は分かる。それでもそこまできっぱり言うほどだろうか?スペの実力は他チームの俺から見ても高い。それに指導しているのは沖野先輩だ。
スズカは少し考えた後に自分の意見を話し始めた。
「最近のスペちゃんは少し慢心してるかなって……なんだか少しフワっとしてると言うか、多分体重管理とかも……」
慢心か……スペはここまでほぼ無敗で来ているからな。負けたレースと言っても極々僅差で2着のレースが1度だけ。俺はたんとうしている訳じゃないから気づけなかったが、心の隙は必ずレースにも影響してくる。
「なんだか去年のスズカを見ている気分になるな」
1度だけ慢心と油断で1着を取りこぼしたのを思い出した。スズカもそれをしっかりと忘れずに覚えていたらしくて、その話題を出した俺に向かってムクれている。
「私はしっかりトレーニングもしてたし体重管理もしてましたよトレーナーさん」
「分かってるからそんなに怒るなって」
そう言うとスズカはイタズラ交じりにクスッと笑いターフの方に視線を戻した。
「ついに始まるんですね」
「あぁ、今年のクラシックの王者を決める1番最初のレースが」
パドック入場が終わってゲートインを待っている間、私はスペちゃんのことを見ていた。
(やっぱり仕上がりがあんま良くない気がする……1番警戒するのはキングちゃんだな〜)
スペちゃんからはやる気も感じるし調子も悪いって感じじゃなかった。だけどどこか浮ついてる気がするんだよね〜。
「レース前にライバルの観察でもしているの?」
私が周りの娘の様子を見ていたら、パドックから戻ってきたキングちゃんに話しかけられた。今日のキングちゃんからは自信というか……なんて言ったらいいか分からないけど気迫のようなものを感じ
る。
「いや〜?セイちゃんはただみんな強そうだなーって思ってただけですよ」
「なら私のことをよく見ておきなさい。今までの私とはもう違うんだから」
そう言いながらキングちゃんは私の前に堂々と立つ。同じチームのキングちゃんに真正面から堂々と宣戦布告されちゃうとはね〜。
「おぉ〜怖い怖い。お手柔らかにお願いしますねキングちゃん?」
「もぉ……こんな時まで人からかって」
呆れたようにキングちゃんは私の前から居なくなった。
(今までと違うなんて分かってるよキングちゃん……でも私も今までとは違う)
今日はなんだか冷静でいられる。初めてのG1レースで緊張もしている……でも、自分に自信が持てる。そのおかげか焦りなどはなかった。
(スカイさんもやる気満々のようだったわね……私は今の私に出来る最高の走りをするだけよ。そうよねトレーナーさん)
あの人は私をキングヘイローとして見てキンギヘイローと言う1人のウマ娘として育ててくれた。私のことをキングというものはもういる……なら、キングの最高の走りを見せつけてあげるわ。
『ゲートの準備が完了しました。出走するウマ娘はゲートに入ってください』
ゲートインの合図が出たので私たちは各々のゲートの前に案内されていく。
(私ゲートってあんま好きじゃないんだよね〜……狭いし、なんだか1人で孤独になってる気分)
ゲートに入ろうと、その狭い空間に近づこうとすると少し足が後ずさってしまう。でも、今の私は1人じゃないんだよね。
私は髪飾りを触ってトレーナーさんのことを思い出していた。私は1人で走るんじゃない、トレーナーさんも一緒に走ってるんだから。
『各ウマ娘がゲートインしました』
(大丈夫私は1人じゃない……1人じゃないんだ!)
『中山競バ場2000m晴れバ場状態良。クラシック路線最初のレースが今……スタートしました!』
(スカイさんが出遅れた!?)
スカイは自分の中の葛藤には打ち勝ったがスタートが少し出遅れた。周りからしたら気づかないレベルの出遅れだった。しかし、周りを良く観察していたキングは見逃さない。
(理由はどうであれ、このチャンスを無駄にする訳には行かない!)
『おぉっと!キングヘイローがスタートから一気に前に出た!これは大胆な作戦です!』
「キングちゃん良く見てましたね」
「あぁ……これが吉と出るか凶と出るかは分からないが、少なくともスカイへの影響は少なからず出るだろうな」
『キングヘイローのスピードが落ちない!まだ後続との距離を離していく!』
『彼女は逃げウマ娘じゃないのですが……何かの作戦なのでしょうか?』
200m手前でキングとスカイの2人が並んで、キングが少しずつ減速していきスカイが先頭に立つ。後ろからスペや他のウマ娘たちが上がって来てキングは後方に位置を取った。
「レースが全体的にハイペースだな。最初にキングが先頭を取ったせいで大分掻き乱された」
後方のウマ娘からすれば、後方から攻めるキングよりもスカイが後ろにいることによる困惑もでかいだろう。それによってスカイが今回はローペースからのスタートなのでは無いかと思い込んで掛かって行ったな。
「スペちゃんも掛かっちゃってますね……」
スペもスカイの少し後ろの先頭集団にくっついている。キングの影響でごちゃごちゃになったレース状況を利用してさらに煽りをかけてるなスカイのやつ。
「キングさんはスタート無理な走りをしましたがここから大丈夫ですの?」
マックイーンの言う通りではある。ただでさえ普段ならしない戦法からのスタートだ。スカイを煽る為にペースもかなり速めでスタミナを消耗している。キングのことだからその辺の管理はしてると思うが。
(キングちゃんのせいでかなり脚を使わされちゃったな〜でも、おかげで先頭集団のペースはめちゃくちゃになってる)
キングちゃんは後方で今は脚を溜めてるはずだ。だからといって先頭を走る私とあまり距離は離したくないはず。私もかなり脚を使わされたし辛い状況だけど……
(それはキングちゃんも一緒だよね!)
800mを通過したところでもう一段階ギアをあげていく。後ろの集団にバレない程度に少しずつ少しずつスピードを上げる。周りのみんなはスタートの時に、今日の私はスピードが遅いんじゃないかと思ってるから騙されてくれると思う。
(トレーナーさんに言われた通りにできる限り脚を溜めようとは思ったけど……かなりギリギリの勝負になりそうかな)
『セイウンスカイがレースを引っ張り1000mを通過しました!』
『初めに先頭を取ったキングヘイローは後方に控えていますが大丈夫でしょうか』
逃げのスカイが先頭で後方に先行メンバーが固まっているが、そのすぐ後ろに差しメンバーが追従している。
「なんでここまで集団が前によってるんだ……?キングはポジションもペースも悪くはない。むしろ周りが全体的に掛かってるから問題はないんだが……」
ペース自体が狂うのは分かる。キングとスカイの2人が意図してぐちゃぐちゃにして行ったからな。それでも集団があそこまで固まるか?
「キングさんの走りは凄い威圧を感じますわ……以前よりもスピード感と勢いを感じますの」
なるほど、真後ろにラストスパートでもないのに通常よりも低姿勢のウマ娘がいれば圧も感じるか。前はスカイは引っ張って、後ろからキングが押し上げるせいで集団が自然と固まっているのか。
1000m通過からしばらくはレースは動かなかった。1500mを通過したところでレースが動き出した。
『おおっと!ここでキングヘイローが後方から前に出ます!』
キングは特別ペースを上げたわけじゃない。少しづつペースを上げ始めただけだ。けれど、ここまでのレース展開でスタミナを削られてギリギリのウマ娘何人かが着いて行けずにいる。
ゴール500m手前……いつもならそろそろスパートに入ってラストスパートに備えるところだけど、このレース場はゴール170m手前に急坂がある。最後に差しに行く私には不利な展開になるはずだから、それまでにスカイさんとの距離を詰めつつポジションを取りに行くわ!
ゴール300m手前に入る頃にはレースは動き先頭にスカイさんがいて、その後方にスペシャルウィークさんがいる。そして、私はスペシャルウィークさんの後方に控えている。
(残り200mで仕掛け始める。そして、坂を登りきってから一気に差し着る!)
300mから200mの間に少しづつペースを上げていき前との距離を詰めていく。そして、残り200mに入りキングが動き出す。
(もう私をキングと呼んでくれる人はいる……私と共に一流を目指してくれる人がいる。あの人は坂を登りきってからって言ったけど私はこの勝負を勝ち取りたい!キングの意地を見せてあげるわ!)
【Pride of KING】
(キングちゃんが上がってきたね〜。でも、それってまだ全力じゃないよねキングちゃん……)
『ここでセイウンスカイとキングヘイローが仕掛ける!遅れてスペシャルウィークもスピードを上げていく!』
スペちゃんは坂でスピードに着いてこれてない。だけどキングちゃんがじわじわと距離を詰めてきてる。多分坂を登りきったところで一気に差し着るつもりだと思うんだけど……それにしては少しペースが速いッ!
(キングちゃんはここからペースを上げるつもりでいる。あのペースで登りきってそこからまだペースを上げる気だ!)
「坂に入る前にキングが仕掛けたか。仕掛けたからには登りきれよキング。そして、登りきったキングから逃げ切るんだぞスカイ」
スペはスカイのペースについていけずに距離が離れるが、キングはもう少しでスペを追い抜く。坂ももう少しで終わりだ。
『キングヘイローがスペシャルウィークを追い抜いた!そして、セイウンスカイは坂を登りきりました!少し遅れてキングヘイローも坂を登りきります!』
キングが坂を登りきったその瞬間、キングが力強く地面を蹴り出した。そして、前傾姿勢のフォームがさらに前傾になっていった。
『キングヘイローがここに来て更にペースをあげる!すごい前傾姿勢だぁ!』
キングがペースを上げてスカイに一気に迫っていき。2人はほぼ横一直線になろうとしていた。
「逃げ切れえぇぇ!セイウンスカイ!差し入れぇぇえ!キングヘイロー!」
どちらが勝ってもおかしくない。どちらにも勝って欲しい。どちらにも負けて欲しくない。そんな気持ちが爆発して俺は全力で2人を応援し叫んだ。
『『はぁぁぁぁぁ!!』』
『セイウンスカイがペースを上げてキングヘイローと横一線!セイウンスカイか!キングヘイローか!横一線のままゴール!』
電光掲示板には写真判定の文字。3着は少し遅れてスペがゴールした。
「セイウンスカイさんとキングヘイローさんどっちが勝ったんだろう!」
俺の横ではキタちゃんがピョンピョンと跳ね上がってる。目視では本当に横一直線で判断出来なかった。
「トレーナーさん……どちらが勝ったんでしょうか」
スズカが俺に結果を聞いてきた。スズカの後ろではマックイーンも興奮した様子でこちらを見ている。
「全く分からない……目で見た限りは横一線に並んでたからな」
俺たちは結果出るまで静かに待った。その短い数分間が俺には何十分何時間という長い時間に感じる。
『写真判定の結果が出ました!1着は……同着です!1着はセイウンスカイとキングヘイローの2名!クラシックG1皐月賞!まさかの結果で幕を閉じました!』
「どう……ちゃく?」
結果のアナウンスが鳴り響く中でレース場は沈黙する。同着というのは有り得ない話ではない。3名が同着だったことがあったぐらいだからな。ただクラシックG1で同着を見ることになるとは。
そして、一気にレース場が歓声で溢れた。
「俺は2人のところの行ってくる。ライブ会場の席取りは任せたぞ!」
「「はい!」」
私は歓声の中で呆然と立ち尽くしていた。最後の数十mでキングちゃんに差されると思って一心不乱に競り合った。その結果が同着。2人とも1着なんだ。
「いい勝負だったわスカイさん」
すると横にいたキングちゃんが私に手を差し出した。私がその手を握るとキングちゃんは口を開いた。
「今回は引き分けね。でも、次は私……キングヘイローが勝利するわ」
「ううん。次こそ1着を独占するのは私だよ……でも今日は2人で1着を喜ぼうよ〜」
キングちゃんは一言『そうね』といい笑いながら私の手を取ったまま観客席に手を振った。そして、電光掲示板を眺めるスペちゃんと観客を後に控え室の方に向かった。
「スカイ!キング!」
控え室の通路に入るとトレーナーさんが私たち2人の元に飛び込んできた。私たちは驚いて慌ててトレーナーさんを受け止めた。
「お前らよくやった!本当によく頑張った!」
トレーナーさんは私たちの頭を撫でながら私たちを褒めちぎってくれた。
「もう……走った私たちじゃなくてトレーナーさんがそんなにはしゃいでどうするの?」
「全くだよトレーナーさん」
トレーナーさんは私たちことをギュッと抱きしめると1歩後ずさった。
(やっぱりトレーナーさんと一緒にいるのは落ち着く……暖かい)
「今日の勝利はお前たちの夢に近づく大きな前進だ。だけど、レースはウィニングライブを終えるまでだからライブも気合い入れて行くぞ!」
「「はい!」」
トレーナーさんはそう言うと観客席の方に戻って行った。ずっとここで私たちと一緒にいる訳には行かないから仕方ないんだけどね。
「私たちは本当に良いトレーナーに恵まれたわね」
キングちゃんは恥ずかしいそうにしながらも、トレーナーさんから頭を撫でられたりして嬉しかったみたい。耳もピコピコ動いてるし尻尾も揺れてる。キングちゃんから見たら私も同じかな。
「本当に恵まれ過ぎだよ」
俺がライブ会場の方に向かうと観客席で一緒に居たメンバーが集まっていた。
「今日はレースでおつかれかもしれませんが今晩軽く1杯行きませんか?」
俺に気がついた葵さんが飲み会に誘ってくる。明日は皐月賞の祝賀会をチームでするつもりだし、それが終わればダービーに向けて忙しくなるしな……
「分かりました。お気持ちに甘えて軽く行きますか」
多分お祝いの為のお誘いだろうし、最近は忙しくてそういう機会もなかったからいこう。俺が了承すると葵さんはチームメイトの元に戻って行った。
「トレーナーさん!トレーナーさん用のサイリウムですわ!」
俺もチームメイトのところに向かうとマックイーンが緑と青のサイリウムを手渡してきた。マックイーンの格好を見ると青かった。青のサイリウムを片手に青のメガホンを装備していた。
「キタさんもダイヤさんも準備はいいですの!」
「「はい!」」
マックイーンの横には青のサイリウムを持つキタちゃんと緑のサイリウムを持つダイヤちゃんがぴょんぴょん跳ねていた。
「マックイーンちゃん楽しそうですね」
スズカがニコニコしながら後ろから声をかけてきた。
「スズカも楽しそうじゃないか」
「楽しいですし嬉しいです。自分のチームメイトがG1初勝利ですから」
本当に嬉しい。去年のスズカのG1勝利時は1人で喜んでいたが、今年は一緒に喜びを共有できる。本当に担当ウマ娘に恵まれたんだな。
ウイニングライブは何事もなく無事に終了した。スカイがマックイーンに気がついてファンサービスした時はどうなるかと思ったけど。
帰りの移動ではみんなが疲れ果てて眠ってしまった。レースを走ったスカイとキングだけじゃない、応援していたスズカとマックイーンもかなり体力を使っていたからな。
当初の予定では皐月賞でキングが勝つ予定ではなかったです。ただ、キングの成長物語を書いてるうちに情が凄い湧いてしまいこういう結果になりました。
日本ダービーを制するのは
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スカイ×キング×スペ
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スカイ×キング
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スカイ×スペ
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キング×スペ
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セイウンスカイ
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キングヘイロー
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スペシャルウィーク