ミノルさんは今日1日で2回走るつもりのようで、まずはキングと走るらしい。その間スカイは近くをウォーミングアップで走りに行った。
「いいんですか?一日2回も入るなんて……」
「クラシック終期のお2人と走るなら辛いと思いますが、今なら大丈夫です。私の心配よりも終わったあとの2人のケアのことを考えていてください。それはあなたの仕事なのですから」
ミノルさんからは強者の余裕を感じられる。どうすればここまで絶対的自信をもてるのだろうか。
「あの二人を相手するのはそこまで簡単ですか?」
「キングヘイローさんは苦戦すると思いますよ?ただ、あの状況のセイウンスカイさんは相手にならないと思います」
スカイはさっきから調子があまり良さそうじゃない……その状態なら相手にもならないということか。
「私も準備が出来たのでそろそろスタートしようと思います」
キングは既にゲート付近でストレッチをしながら待機していた。ミノルさんもゲートに向かいゲートインした。キングは一息入れてからゲートインする。かなり緊張してる様子だ……
「キングさん勝てるのかしら……」
不安そうにマックイーンがゲートの方を眺めている。
「勝つのは厳しいだろうな。でも、キングにはこのレースで多くのことを学んで欲しいと思うよ」
(なんて威圧感なの?まだゲートに入ってスタートもしてないのに)
「今日はあなた自身の走りができるように頑張ってくださいね」
当の本人は余裕そうな顔で体を伸ばしている。そんな威圧感を出しながらもなんてリラックスしているのかしら……
「それじゃあスタートするから準備してくれ」
トレーナーさんの合図でスタートの体勢に入る。相手がどういう走りをするか分からない以上は好スタートを切るしかない!
ゲートが開いてスタートした。スタートは悪くないわ。さて……ここから相手がどうでるか。
(スタートから全く前に出てくる様子がない……)
それなのになんなの?すぐ後ろから今にでも抜かそうとしてくるこの気迫は。
緊縛する空気の中……ゲートが開いた!
(相手は私の走りを知っているけど、私は彼女の走りを知らない……)
これによってあちらには大きなアドバンテージがある。だからこそ今私にできることは……全身全霊で走りきること。
「キングはいいスタートを切ったな」
「その割に……ミノルさんは普通の後ろからのスタートですね」
スズカもレースに夢中だ。どんなレースを繰り広げて行くんだろうと。
「キングは相手の走りを全く知らない中の勝負だ。自分にできる全力を尽くすしかない」
スタートからの序盤は問題はない。キングは自分のペースを上手く作っているし、ミノルさんが何かを仕掛ける様子はなかった。
(さっきから後ろから着いてくる気配がする……全体見渡せるコーナーで様子を見る!)
そうして、第1コーナーを過ぎようとして後ろに目を向けると……ミノルさんが今にも抜かさんばかりに視界に写ってくる。1度見てからその情景が頭から離れない
(大丈夫よ……まだ仕掛けてくる様子はないもの)
私はまだこの時いつも通りの走りが出来ていると思っていた。威圧感に萎縮せずに走りを崩されていないと。
「ペースが上がったな」
第1コーナーを超えた所からジワジワとペースが上がって行っている。遠目から見る限りでは上手く分からないが恐らく……
「なんだか皐月賞の時を思い出しますわ……」
マックイーンもレースをしっかりと見ている。あれはミノルさんに煽られたキングが少しずつペースを上げさせられている。
「ペースが乱れ始めたのは第1コーナーを過ぎてから……キングちゃんどうしちゃったのかしら」
スズカもレースを見て何が起こったか考えている様子だ。キングだけじゃなくて俺達も良いものを見る機会に感謝しなくちゃいけないな。
「お前らはレースをしている時後ろを確認するとしたらどのタイミングだ?」
2人とも真剣に考えていたが先に答えたのはマックイーンだった。
「全体を一気に確認できるコーナー……なるほどそういうことでしたのね」
マックイーンは何が起こったかある程度予想出来たみたいだが、スズカは未だに頭の上にクエスチョンマークを浮かべてる。スズカは自分の走りをして周りを気にしないから、今回のことはあまり体験がないから分からなかったのか。
「実際に何が起こったかまでは分からないが、あのタイミングでミノルさんが何かしらのアクションを仕掛けたんだろうな」
その後もミノルさんは前に出る素振りを見せつつも、キングの後ろに着いて行った。そして、勝負が動いたのは最終コーナー手前からだった。
(ラストのコーナーに入ったら仕掛ける!)
そう思った瞬間に、まるで背筋が凍り付くような感覚が走った。何が起こったか理解できない。体に異常はないはずなのに体が固まるようだ。
(来る!ここで抜かされると不味い!)
私がペースを上げてから少ししてミノルさんも後ろから上がってきて横の並ぶ。
(まだ着いていける。ならここからが勝負のはず)
更にペースを上げて行こうと思ったのにペースが上がっていかない。それに対してミノルさんは一気にペースを上げていく。それでも追いつこうと必死に食らいついて行った。
残り100mに差し掛かったあたりでミノルさんが更にペースを一気にあげた。
(さっきのがラストスパートじゃないっていうの!?)
「なんですのあのスピード!」
「ありゃ度肝抜かれたな……」
マックイーンは驚きで口をパクパクさせている。残り200mでスパートを掛けたと思ったら、100mのところで更にもう一段階スピードを上げるとはな。
「2度差しですよね……トレーナーさん」
スズカはあの走りを2度差しと言った。差しに行ってそこから更にスピードを上げる。スズカも似たようななことをしているが差しでやっているのは初めて見た。何よりもそのスピードが尋常じゃない。
「ウマ娘は極度の集中状態になると自分の限界を超えたスピードを出すとは聞くが……模擬レースでその状態に意図的に入ってるのか?」
スズカやキングも体験したことがある領域。ある程度ルーティン化されていて、スズカなんかはレース終盤に安定して自然とその状態に達する。
「伝説と言われるだけあってとんでもない走りをしますわね……」
レースはそのままミノルさんがゴールしてキングは勝利を収められなかった。
ゴールして私が息を整えているとミノルさんが私の元に歩み寄ってきた。
「分かりましたか?」
そして、その一言だけを私に問いかける。彼女はレース開始前に私の可能性の先の1つを見せると言っていた。直接対決して彼女の強さを知った。そして、その走りをまじかに見た私は分かっていた。
「えぇ、分かったわ」
私がそう答えると彼女は満足した顔して彼女は笑った。どうにも彼女に選別を受けてるというか……何か試されている感覚がずっとある。
「そんなキングヘイローさんの1つだけアドバイスです。自分の長所を今一度見直して見たらいいかもしれませんね」
そう言って彼女はトレーナーさんたちの方に行ってしまった。それ以上は自分で考えてと言われてるように感じるわね……
「どうでしたかキングの実力は」
俺は一息ついていたミノルさんにレースの感想を聞こうと話しかけた。休んでいる彼女の顔は満足そうな顔をしていた。
「素晴らしいです。自分をしっかりと抑制しようとする精神力と経験を力に変えようとする吸収力……どちらをとってもトップクラスです」
彼女は随分とキングの素質の高さを喜んでいるようだった。そして、嬉しそうにレースの感想を語り始めた。
「本当ならもっと彼女のペースを乱してレースを進める予定でした。しかし、乱れたペースはわずかでした。最後のスパートは冷静さを欠いていたせいで本来の力を発揮できなくなりましたが……それでも想像以上のペースで追ってきました」
キングも弥生賞と皐月賞を経て大きく成長している。ライバルとの真剣勝負はここまでキングを成長させるとは。
「そこまで評価してもらえるとトレーナーとして嬉しい限りです」
「本当にあなたたちは私の想像を超える成長をしていきますね。キングヘイローさんが皐月賞で1着を取れたのも、あなたたちだからこそできたことでしょう」
彼女は俺たちのことを高く評価してくれているようだ。それに、キングに対してもしっかりと為になるような走りをしてくれた。どうしてここまで良くしてくれるのだろうか。
「スカイも期待に応えられるといいんですけどね」
そう言うと、ミノルさんは少し言いにくそうに話し始めた。
「正直……セイウンスカイさんには今回の模擬レースで期待はしていません」
スカイを平凡な走り彼女は言い切った。そして、スカイもその言葉にショックを受けて立ち直れていない状態だ。けれど、俺はそれを聞いてどうしょうもなく辛かった。
「でも、日本ダービーに期待しています。セイウンスカイさんなら……いや、あなたたちチームなら必ずもう1つ上の段階に到達してくれます」
そう言って彼女はスタート地点へと再び向かった。彼女はスカイが日本ダービーまでにレベルアップできると確信しているようだった。なんだか嬉しいようなむず痒いような感覚に襲われた。
(さて……次の模擬レースでスカイがどこまでくらいつけるか)
日本ダービーを制するのは
-
スカイ×キング×スペ
-
スカイ×キング
-
スカイ×スペ
-
キング×スペ
-
セイウンスカイ
-
キングヘイロー
-
スペシャルウィーク