「セイウンスカイさんお待たせしました」
ミノルさんに後ろから話かけられただけで私の体は跳ね上がった。この人の圧倒的強者感に怖気付いたのか……それとも、さっきの発言がどうしても頭から離れないせいなのか。
(いや違う……私は怖いんだ。この人に何か言われるんじゃないかって)
私はできる限り平常心を保っている様に振り返る。無理にでもそうしないとこの人に飲み込まれてしまうような気がしてしまう。
「いや〜私なんかが相手になるか分からないですけどお手柔らかにお願いします〜」
私がそう言うとミノルさんの表情が一瞬にして冷めていく。まるで楽しみにしていた何かが想像よりも良くなかった時のように。
「今のあなたでは私の相手にも楽しむことも出来ないでしょう。私もまさかそこまでと思っていなくて期待していましたが……どうやら過大評価だったようですね……」
今すぐにここから逃げ出したくなった。自分の無力さをどんどんと指摘されていくようで。それでも私は平常心を保とうとしていた……だってトレーナーさんが見ているから。
「あはは〜確かにそうなのかもしれないですね……」
「紫葉トレーナーには個人的に思うところもありますし……レースに移るとしましょう」
そう言ってそのまま彼女はゲートインしていった。私も後に続いてゲートに入る。自分が流しているその涙にも気付かずに。
「トレーナーさん……スカイさん大丈夫ですの?」
マックイーンの言いたいことは十分にわかる。今のスカイは正常ではない。けど、俺は今ここで声をかけるべきなのか?
「スカイさんはG1で戦うウマ娘と言えどまだ私と同じで子供ですのよ!?あんな風に傷ついているスカイさんを見て何も思いませんの!」
そうだ、スカイは俺の担当であると同時に守るべき存在だ。伝説がなんだ、俺はスカイを近くでずっと見てきた。その俺がスカイに声をかけないでどうするんだ。
私は不安に潰されそうになりながらもゲートに入った。怖かったはずなのに、何故かゲートにはすんなりと入ることが出来た。そうしてスタートを待っているとトレーナーさんの声が聞こえた。
「シャキッとしろスカイ!勝負する前に諦めるな!お前は俺の自慢の担当ウマ娘だろうがあああ!」
トレーナーさんにしては珍しく感情的で周りも気にしないような大きな声だった。
「そんな大きな声じゃなくても聞こえてるよトレーナーさん」
私はその時つい笑ってしまった。レース直前に集中力を欠くようなことだったかもしれないけど……それでも自慢のウマ娘って言って貰えたのが嬉しくって。
(相手が伝説だからなんだって話だよね……彼女に評価されなくてもトレーナーさんは私を評価してくれるんだから!)
そうして私はいつも通り……いや、いつも以上に気合いの入った顔でスタートを切った。
(まずは先手を打って少しでもレースの主導権を握る)
仮に相手が逃げを打ってきても、少しの無理をしてでも先頭を奪う。実力は相手が格上なはず。なら少しのリスクは承知で勝負に挑まないと確実に負ける。そう思っていた……
俺は今の状況に唖然としていた。スカイは良いスタートを切っていたし、全力で先頭を取りに行っているのも見ていたわかった。けれど、先頭に立っているのはミノルさんで今も差が広がっている。
「ミノルさんすごいスタートですね」
スズカも彼女のスタートを見て驚いている。スズカのスタートは早く綺麗だ。けど、ミノルさんのスタートはそれをはるかに上回っていた。
「冷静に考えればおかしいことは無いか……スズカのコンセントレーションを教えてくれたのはたづなさんだった。もしかしたらミノルさんの走りを知っていたからかもしれない」
マックイーンは俺の横で口をパクパクとして言葉を発せずにいた。だけど、気持ちは分からなくはない。キングの時の走りも凄かったが……今の走りはその比にならない。
「これがトキノミノルというウマ娘の走りか……」
(まだ……もう1ギアだけならあげられるはず!)
今までなら絶対にしないような走りだった。レース中盤でここまでペースを上げるなんてしたことはない。けど、私のスタミナならここまでのスピードなら耐えられる!勝負はまだまだこれからだと思っていた。
(今、笑った?)
一瞬だけミノルさんが後ろを振り向き嬉しそうに微笑んでいるように見えた。ただ、その目はまるで勝ちを譲るようには思えないほどの迫力を感じた。
「あはは……嘘でしょ?」
走っている途中なのに自然と声が漏れた。起こったことは単純に相手が更に加速しただけ。ただ、そのスピードが圧倒的であっという間に私は置いていかれた。
(力の差はあると思ってた……でも、ここまで離されるものなの!?)
そこから先は一方的なレースになった。ペースアップをしてからはスピードが落ちることはなく、最後のスパートでは更にスピードが上がって行った。私は出来る限りの走りをしたつもりだった……それでも背中が近づくことは無かった。
「まさかここまで圧倒されるとはな……」
スズカはミノルさんの走りに集中していたし、マックイーンは全力でスカイのことを応援していた。俺は、クラシックで現役で走っているスカイをここまで一方的に負かしている光景に驚きを隠せなかった。
「そんな……スカイさんが一方的に……」
どうやらマックイーンも同じ気持ちのようだ。いや、この光景を目撃したら誰でも同じような感想を抱くだろう。
「トレーナーさんスカイちゃんのところに行ってあげてください」
スズカが俺の背中を押した。彼女の顔はどこか不安そうな顔だった。あれだけのレースをされたスカイのことが心配なんだろう。
俺はそのままスカイの元に駆け寄って声をかけようとしたが、スカイはこちらを一瞬だけ見てその場から逃げ出してしまった。
「私が追いかけますわ!」
逃げて言行ったスカイを見て、マックイーンが咄嗟に追いかけて行った。
「悪いけど頼む!」
スカイは俺を見てからその場から逃げ出した……なら、今俺が追いかけるのは得策じゃないだろう。
マックイーン達を見届けて少しするとミノルさんが俺の元にやってきた……いや俺がそう呼ぶのはおかしいかもしれないな。
「2人の成長に助力して貰ったのは感謝していますけど、少しやり過ぎじゃないですか……たづなさん?」
俺がそう言うとたづなさんは少しだけ驚いた顔をして、それも当然かという諦めたような表情を浮かべた。
「いつから気付いたんですか?」
「気付いたのはスカイとのレース中です。たづなさんが教えてくれたコンセントレーション。そして、たづなさんが呼んだと言うあなたに瓜二つのウマ娘……さすがの俺でも予想はつきます」
たづなさんは自分がたづなである事を否定はしなかった。しかし、トキノミノルと言う名前を隠してたづなという名前でいるには理由があるはずだ。これ以上の言及は野暮だろう。
「大丈夫です。別にこの件を誰かに言うつもりはないです。それよりもスカイのことを説明してもらってもいいですか?」
スカイの件について言及すると、たづなさんは俯きながら申し訳さそうにしていた。
「私も大人気ないことをしてしまいました……元々レース展開はあの通りにする予定でしたが、スタート前のセイウンスカイさんの発言がどうしても私は嫌でした」
スタート前にスカイの様子が明らかにおかしくなったのは、2人の会話の内容が原因だったってことか。
「謙虚と自信の無さは違います。それを取り違えると他人を傷つけることにもなります。それに……彼女の発言はいつもどこかに逃げ道を残すような物が目立ちます」
たづなさんの言わんとすることは分かる。それに、スカイに言い過ぎてしまったことも反省してるみたいだし……
「たづなさんの言いたいことは理解しました。次からは気をつけてくださいね」
たづなさんは、もう少し俺が怒ると思っていたのか驚いた顔をしていた。
「ありがとうございます……今日はここで帰った方がよさそうですね」
そう言うと彼女は帰宅の準備を済ませて、その場を後にしようとした。しかし、去り際にこちらを振り向く。
「昔約束した私の夢……本当にあなたなら叶えてくれるのかもしれませんね」
昔約束した夢……思い出した!ずっと何か引っかかってると思ったら彼女は!そう思った時には既にたづなさんはそこにいなかった。
「いつかその約束叶えてみせます」
その日は、スズカとキングには時間も時間なので先に寮に帰ってもらって、俺はスカイとマックイーンからの連絡を待つことにした。
日本ダービーを制するのは
-
スカイ×キング×スペ
-
スカイ×キング
-
スカイ×スペ
-
キング×スペ
-
セイウンスカイ
-
キングヘイロー
-
スペシャルウィーク