ミノルさんとの模擬レース翌日はトレーニングが休みとなった。私とスカイさんの体の負担を加味した上で、レースで学んだことをまとめる時間だそうだ。
(ミノルさんは、私の長所をもう一度見直して見るといいと言ってた。ならまだ自分を活かしきれていないはず……)
自分の長所を知ってるのは何しも自分だけじゃないわ。私と走ったことのあるウマ娘なら、私の強みが何か実感したことがあるはず。
(別のチームや一緒に走るライバルに聞くのは気が引けるけど……背に腹は変えられないわね)
廊下を眺めていると、スペさんがちょうど通りかかったので話しかけた。
「スペさんちょっといいかしら?」
スペさんは私が声をかけたのに気がつくと嬉しそうにこちらに寄ってきた。
「キングちゃん!キングちゃんから話しかけて来てくれるなんて珍しいね」
まずはスペさんに聞いてみますか。クラスも同じでレースでも何度か走っているし。
「私の長所について聞いて回ってるのだけど……あなたは私をどう思うかしら?」
彼女も急にこんなことを聞かれて驚いた様子だったが、すぐに質問に対する回答を考え始めた。彼女は真面目な性格だからしっかりと真剣に考えてくれる。
「キングちゃんはいつも冷静で、みんなをしっかりと見ててすごいと思うよ!私もキングちゃんみたいにしっかり者だったらよかったけどなー」
冷静で周りを見ている。レースでも重要な能力よね。差しの戦法を良く取る私には必須と言ってもいい。ミノルさんとのレースでは、ラストの直前で冷静さを欠いてしまったけれど。
「そう……忙しそうなところ悪かったわね」
「ううん!また困ったことがあったらなんでも言ってね!」
彼女は笑顔でそう言いながら去っていった。全く本当に優しい娘なんだから……それで助けられているわけでもいるのだけどね……
次に会ったのはエルさんだった。お互いにグラウンドに向かう途中に校舎の入口で鉢合わせになった。
「こんにちは。エルさん今お時間大丈夫かしら?」
「大丈夫デース!私に何か用事デスか?」
エルさんはいつも通りのハイテンションで私のお願いに応じてくれた。彼女はクラシック三冠にチャレンジしていないから聞きやすいわね。
「うーん、中々難しい質問デース……走ってて追いかけられる感覚はやっぱり慣れませんね〜」
エルさんは基本的に前よりの先行策をとることが多いから、差しで威圧してくる私はあんまり良い存在ではないのかしら?
「キングちゃんの威圧感はすごいデース!まるでグラスの怒ってる時みたいデース!」
すると、エルさんの背後から人影が出てくる。そして、そのままエルさんの頭を鷲掴みにしてしまった。
「あらあら、エルったら適当なこと言っちゃいけませんよ?キングさんは真面目に悩んでるんですから」
その人影はグラスさんだった。とっても笑顔でエルさんの頭を掴んでいる。正確には笑顔ではあるけど目は笑ってないのよね……
「私は真面目に答えてマース!今だってこんなにすごい威圧感でって痛い痛いデース!」
エルさん……それは威圧感というか殺気のようなものに近い気がするのだけれど……
「キングちゃん、エルがすみません」
エルさんの頭を離すと、こちらを見て一礼した。
「いえいいのよ。それよりもグラスさんにお願いがあるのだけれど……」
「なんでしょうか?」
私がグラスさんにお願い事をすることが滅多にないせいか、グラスさんは首を傾げてキョトンとしてる。
「ミークさんにもお話を聞きたいの……あなたのチームルームに案内してくださる?」
グラスさんは少し悩むと、首を縦に振って了承してくれた。
「桐生院トレーナーはキングちゃんのトレーナーさんとも面識がありますし、多分大丈夫だと思います。ちょうどこれからチームルームに向かうところでしたからご案内します」
私はグラスさんのあとを追ってチームルームへと向かった。そして、チームルームに入るとミークさんと桐生院トレーナーが部屋で待っていた。
「こんにちはグラスさん……それとキングヘイローさんですか?珍しいお客さんですね」
桐生院トレーナーは、グラスさんの後ろにいる私に気がつくと驚いた顔をしていた。トレーナーさんと一緒じゃなくて私単体で来ることなんてないから仕方ないけど。
「突然の来訪失礼するわ。今日はミークさんに用があってきたのだけど、お時間大丈夫かしら?」
そう言うと、表情を変えずにミークさんが前に出てきた。どこかフワフワしてるのだけど……しっかりとこちらを見つめて来ている。
「何か用?心当たりがない……」
言葉が冷たくてトゲトゲしく聞こえるのに、何故か悪意などそういったものは感じられない。これが彼女の素なのだろう。
「実は、私の走りを見てくれていたミークさんに助力を得たいと思ったの。私たちは別のチーム同士……もちろん断ってもらっても構わないわ」
彼女のチームには私と同世代のグラスさんもいるし、助言を貰えなくても仕方ない。
そう思っていると彼女はグラスさんの方をチラりと見た。その視線にグラスさんが気が付くと首を縦に振った。
「分かった……私から見た限りだけだけど教えられることは教える」
どうやらグラスさんに確認を取ったらしい。前回の事もあるからそれ相応の覚悟を持って聞こう。
「無理なお願いを聞き入れて頂いて感謝するわ」
そのあとは、ミークさんと桐生院トレーナー、私の3人を残して他のメンバーはトレーニングに向かった。桐生院トレーナーが話をこの3人だけにするために配慮をしてくれた。
「早速だけど、あなたと私は少しだけ似てる」
ミークさんは最初にそう言った。私たちが似ている?彼女の冷静な部分とかかしら?走りも先行と差しで同じだし……私が少しだけ首を傾げると彼女はそのまま話を続ける。
「私はよく周りから冷静な走りをするって言われるけど……レース中はそうじゃない。勝ちたいって思いでいっぱいだし、ゴールに1歩でも早く辿りつこうと必死になってる」
今の彼女からは考えられない事実だった。いや、彼女の冷静な走りを見たことがあるからこそ信じられない。
「それでも……勝つために、速く走るための冷静さを保とうと必死になってる。何も考えないで走ったら勝てないから」
そう言って彼女は拳を強く握りしめる。スズカさんと同世代で多くの修羅場を駆け抜けてきた彼女だからこそ、その冷静さを保つことの難しさを知っているのだろう。
「つまり、私はミークさんと同じで全力で走りつつも冷静さを保って走ることができるということね……」
私がそう言うと桐生院トレーナーがクスっと笑っていた。
「なにか私がおかしなことを言ったかしら?」
彼女は軽く咳払いをしてから質問に答えた。
「いえ……ミークの本質は負けず嫌いで熱くなりやすさです。そして、それが強みでもあります。なので冷静な走りといざ言われると面白くって」
彼女はさっきのことを思い出したようで、もう一度笑い始めた。ミークさんはというと、桐生院トレーナーの方を見てムスっとしていた。
「トレーナーが言ったことは間違いじゃない……私はあくまで冷静でいようとしているだけ。だから私とあなたは少しだけ似ているの」
彼女はこちらを再び見て真剣に話し始めた。
「それじゃあ、私は冷静で熱く走れるって言うのかしら?」
私がそう聞き返すと、ミークさんが口を開こうとした瞬間に桐生院トレーナーがその口を塞ぐ。
「一見矛盾しているように聞こえますが……あなたなら可能な気がします」
そう言う彼女の表情は、前にトレーナーさんが同じことを言った時の表情によく似ていた。それにしても、トレーナーさんと全く同じことを言われるとわね……
「どうやれば私はそう……」
「私たちが出せる助言はここまでです。あとはあなた自身で考えてトレーナーさんと共に進んでください」
桐生院トレーナーはそう言うとミークさんと一緒に立ち上がって部屋を去ろうとする。そして、去り際に。
「もしも紫葉トレーナーがあなたをスカウトしていなかったら……私はあなたを育成してみたかったですね」
「それも良かったかもしれないわね。でも……私のトレーナーはあの人だけよ?」
つい口に出してしまった言葉。冷静になると恥ずかしさで顔が真っ赤になっていた。それを見た桐生院トレーナーはどこか嬉しそうに笑いながら去っていった。
そして、私はこれからの事を考えながら帰路についた。
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