俺はダービーを終えて、メンバーを全員寮へと届け終わった後に飲み会の準備を始めた。スカイもキングも全力を尽くした。今日は早く休息をするべきだし、ダービーという節目を終えて俺も疲れがドットきた。
(それにしても負けたのか……)
全く先輩にどんな顔して会えばいいんだか。先輩だって気まづかったりしないのかな。
そんなことを考えながらも目的地である飲み屋に向かった。飲み屋の前では東条さんと先輩の2人が既に待っていた。
「よー後輩!今日はギリギリのレースだったな!勝ったのはスペだったけどな!」
先輩はそう言いながら俺の背中をバシバシっと叩いてくる。
「先輩痛い痛いって!」
なんでこの人こんなにテンション高いんだ?いや、それもそうか。担当のウマ娘がG1のレースで勝ったんだから。
「おめでとうございます!先輩!」
結構強めに先輩の背中をバシ!っと叩いた。先輩は痛そうに背中を抑えてたけど、このくらいしてもいいだろ。負けて悔しいもんは悔しいからな。
そして、メンバーが次々と集まっていき飲み屋に入っていった。
「それにしても随分な大所帯ですね」
「元々この日にしようって話してたからな。みんなスケジュールを合わせてくれたんだ」
俺はその予定聞かされて無いですけどね〜。沖野先輩、東条さん、葵さん、南坂さん、たづなさんの俺を合わせて6人での飲み会だ。
「それじゃあ、俺のダービー勝利を祝してカンパーイ!」
「「「「「カンパーイ!」」」」」
とりあえず、こいつで疲れを癒すとしますか。ここ最近は飲む余裕なんて全くなかったからな。
「そういえば、葵さんたちは今日のレース見てたんですか?」
「もちろんですよ!ね、南坂さん」
葵さんは南坂さんと見に来ていたのか。南坂さんの方を見ると笑顔で頷いている。
「声をかけてくれれば良かったのに」
すると、葵さんは笑いながら横に首を振った。
「柴葉さんは集中していたし、チームメイトのみなさんも応援の準備だったりで忙しそうだったので。邪魔しちゃ悪いかと思って」
気を使って話かけないでいてくれたのか。あの時は見ることで頭がいっぱいいっぱいだったから。
「ありがとうございます葵さん」
「いやいや、私はクラシックに挑む娘を今年は担当していませんでしたから」
そういえば、グラスはどうなったんだろうか。今年に怪我をしてからどの程度まで復帰したのだろうか。
「そういえば、チームの方はどうですか?」
すると、葵さんは少し恥ずかしそうに指で頬をポリポリとしながら話始めた。
「上手くいってますよ。グラスさんも復帰も近いので燃えているし。ウララさんはハードなトレーニングも楽しそうにやってくれるのでチームの士気も高いです。ライスさんは相変わらずネガティブな面が多いですが、ウララさんの明るさのおかげで楽しそうにしてることが増えてきました」
どうやら、チームの方は上手く纏まっているらしい。ハルウララがチームに良い影響を与えてるっぽいな。
「そして、ミークは宝塚記念に向けて調整中です」
宝塚記念……ダービー直前の金鯱賞を勝利したことによってスズカは駒を進めた。
「宝塚記念……負けませんよ。スズカも今日のレースを見て燃えてます。チームとして、何よりもスズカ個人として負けたくないはずですから」
スズカは今日の熱いレースを見て刺激を受けていた。最近は更にスピードを伸ばしているし、後1ヶ月もあれば更に強くなるはずだ。
「私達も負けませんよ!」
一旦は肩の荷が降りたと思ったが……まだまだ油断出来ないな。ライバルがいるのはいい事だ。けど、トレーナーとしては考えること多くてたまらねえな!
「柴葉トレーナーお疲れ様でした」
葵さんとの会話を終えた所でたづなさんが話しかけてきた。彼女には今回のレースのために力を借りた。けど、その恩に報うことが出来なかった。
「ありがとうございます……そして、すいませんでした。どうでしたか?2人の走りは」
たづなさんはビールジョッキを持ち上げ、ゴクッゴクっとビールを飲みジョッキを置くと笑顔でこう言った。
「満足も満足!大満足です!あの状況でのキングヘイローさんの冷静な判断。最後こそ足に限界を迎えましたが、セイウンスカイさんがあの状況であそこまで競り合ったのは予想以上でした。そして、スペシャルウィークさん。彼女のラストの末脚はキングさんを上回りました」
酔っているのもあってかなりのハイテンションだが、実際に彼女たちの走りを見て大いに満足しているらしい。
「セイウンスカイさんの走りはまだ未完成でした。寧ろあのレースで最終的に走りを完成させたのはキングヘイローさんです。あの極限状態での勝負で完全に彼女は目覚めまして。それでも、スペシャルウィークさんに負けた……理由はお分かりですよね」
俺の慢心……いや、スカイとキングは確かにスペのことを警戒させてたし、その他のウマ娘には実力でも作戦でも上回っていた。
「上を見るがばかりに足元を掬われました……今回ばかりは俺のミスです。ダービーというレースにかける想いを近くで見てきたはずなのに、俺はそれを見誤りました」
たづなさんはコクンと頭を縦に振り俺の頭を撫でた。その瞬間俺の中で何かが切れたような感覚と同時に涙が流れてきた。
「クラシックに入ってから、ずっと気を張り続けていたのは周りから見ても分かりました。僕もその舞台で早く戦いたいです」
南坂さんも俺に労いの言葉をくれた。そうだ、頑張った。全力で頑張った。その時に思いつく限りのことをやり尽くした。それでも負けたんだ。
「そうだ後輩!お前はよくやったよ。2年目でクラシック2着3着独占なんて上等じゃねえか!」
「スペシャルウィークが勝って嬉しいのは分かったから、あんたはもう少し空気読みなさい!」
東条さんが、盛り上がっている先輩の頭にゲンコツを食らわせていた。それを見て俺はつい笑ってしまった。
(本当にいい人たちに巡り会えたな)
みんなでワイワイと酒を飲んでレースのことについて話し合った。
「そういえば、後輩はこれからどうするんだ?流石に菊花賞も楽々取らせてくれるわけじゃないんだろ?」
先輩もスペも菊花賞までにまだまだ実力を付けるはずだ。そのために俺たちはまだまだ強くならないと行けない。
「もちろんです……今年の夏にチームレグルスは夏合宿を開く予定です」
毎年のように夏合宿を開いている東条さんは特別リアクションはなかった。葵さんと南坂さんもなるほどって顔をしている。しかし、先輩だけは唯一ニヤついている。
「そうか、お前のチームも夏合宿か」
お前のチームもってことは先輩のチームも合宿ってことか。夏の合宿は殆ど丸一日を2ヶ月間トレーニングに費やす。この時期を耐えたウマ娘は夏の前よりも遥かに強くなる。
「内容はかなりハードな物を予定していますから……菊花賞は負けませんよ」
菊花賞は3000mの長距離レース。スカイは有利なレースだが、スペが食らいついてくる可能性は十分にある。キングは逆に不利なレースになる。それを夏合宿で一気に補っていく必要がある。
「それで、もし良かったらなんですけど。チームレグルスとシリウス、南坂さんと一緒に合同合宿なんてどうですか?」
唐突な俺の提案に南坂さんは若干困惑しているが、葵さんは嬉しそうに両手を合わせている。
「ぜひやりましょう!私も夏合宿するかしないか迷っていたところだったので」
スズカと競り合う相手が欲しかったから、葵さんのミークが一緒に参加してくれるのはありがたい。それに、南坂さんはナイスネイチャの1人だ。ほかのウマ娘たちと一緒にトレーニングすればいい刺激になるはずだ。
「僕もよろしくお願いします。それだけレベルの高い空間でトレーニングすることはネイチャさんにとって良い経験になるでしょうし」
良し。これで夏合宿の準備は殆ど整った。覚悟しててくださいね先輩に東条さん。俺たちもそのレベルに追いついて見せます。
その後はくだらない談笑をしながら時間を迎えて解散した。さてと……宝塚記念までにできる限りの準備を整えないとな。