ドールズフロントライン ~魔術師殺しの夜~   作:弱音御前

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あんなに暑かったのに、急に気温が落ち着いてきた今日この頃。いくらか気分良く過ごせてイイ感じですね。
どうも、弱音御前です。

新シリーズも今回からいよいよ本番。別作品のリスペクトという立ち位置で考えた作品ですが、知ってる人も知らない人も楽しんでもらえたらな~と思います。
それでは、今回もどうかごゆっくりと~


魔術師殺しの夜 2話

 

「・・・ですから、そこで私は言ってあげたのです。レールを搭載していない、アタッチメントも満足に付けられない私の苦労が、貴女に分かるはずもないでしょ、って。ふふふ、可笑しいでしょう?」

 

「あ~、そ~ね。うんうん、おかしいおかしい」

 

 これが感性の違いというものなのだろう、笑いどころが少しも分からない話を、さも楽し気に

語り聞かせてくるステアーにワルサーは気の無い返事を返す。

 東ウィング1階と2階の捜索は、ずっとこのような調子で進み、2人はこれから廊下の突き当りにある階段を上って3階の捜索に移るところであった。

 

(ったく・・・なんか、評判と随分と違う娘だけど。最近、メンタルを弄ったりでもしたの

かしら?)

 

 腕利きが特に多いアサルトタイプの戦術人形の中でも、常に上位の成績を叩き出し、〝死〟に対して固執した考えを持っている事から、基地では死神というあだ名までつけられている。それが、ワルサーが得ていた彼女に対しての事前情報だった。

 ところが、実際に蓋を開けてみれば、ワルサーが怖がっているのを良い事にからかってきたり、やたらとベタベタくっついてきたり、勝手に世間話に花を咲かせたり。死神が聞いて呆れるような雰囲気の娘である。

 静かで落ち着いた物腰の相手だったら良い友達になれるかも? と、ちょっとだけ期待していたワルサーは完全に肩透かしをくらってしまったのだった。

 

「あとは・・・そうそう、こんな事もあったのですが」

 

「ちょっと口を閉じなさい。まずは3階の安全を確かめてからね」

 

 階段に足をかけたところでワルサーがクギを刺す。

 1階、2階と異常は全く見受けられなかったが、だからといって上階が安全だとは言い切れ

ない。

 

「申し訳ございません。私としたことが、以後、気を付けますわ」

 

 強く注意したつもりは無かったのだが、途端にしゅんとしてしまったステアーを見ると、小さな罪悪感が浮かんでしまう。

 誰かと話すこと、特に、それが今まで交流のほとんどなかった相手だったら尚更の事、ワルサーはどうしたら良いのか分からない。

 

「はぁ~・・・」

 

「本当にごめんなさい、ワルサー」

 

 ステアーに対して漏らした溜め息ではないのに、思いっきり勘違いされてしまう。

 思考が負のループに陥っている間に、気付けば階段の中腹に差し掛かっていた。

 気分を切り替え、上階に神経を集中させる。

 後ろに続くステアーに合図を送ると、銃を構え直し、壁に背を押し付けるようにして階段を

上がっていく。

 そうして、3階に到達。壁の角で一旦足を止め、恐る恐る廊下の先を覗き見る。

 構造は2階とほとんど同じだが、廊下は突き当りで左に折れている。

 外観から考えるに、3階が最上階になっているので、何か特別な部屋でも設けているのかもしれない。

 そして、相変わらず動体の気配は無し。鉄血人形だったらいいのだが、何か良からぬモノに出くわさなかった事に関してワルサーは安堵の息をつく。

 

「廊下はクリア。手近な部屋から見ていくわよ」

 

「かしこまりました」

 

 ステアーが先行し、その背後にワルサーがつく。

 そうして、1部屋、2部屋、と調べていくが、これまでと同様に小動物の一匹たりとも見つける事はなかった。

 

「3階もゲストルームばかりなのですね。一体、どれだけの賓客を招くつもりなのでしょうか?」

 

「城ってのは権力の象徴みたいなものだったらしいから、見栄だけの部屋なんじゃない?」

 

 規律正しく並べられた家具も、ベッドシーツにも一縷の乱れも見受けられない。

 持ち主も判明せず、長い間放置されていた物件だ。綺麗に残されていて当然か、と傍の化粧台に何気なく手を置く。

 ニスで上品に仕上げられた艶やかな木板の上を、ワルサーの手が音も無く滑る。

 

(埃が浮いてない・・・ずっと放置されていた城なのに?)

 

 違和感を覚え、手を見てみるが、やはり少しの汚れも付いていない。

 昨今の技術を利用した空調設備であれば、埃を完全に除去するという事も可能だろう。しかし、この城にはどうしたってそんな先進的なモノは見当たらない。

 

「2階にあった調度品の保管庫はとても興味深かったです。調査が終わったら、少し覗いてみてもよろしいですか?」

 

「え? ああ、キャリコが良いっていうなら別にいいんじゃない?」

 

 確信を持てない今の状況では考えても仕方ない。違和感を思考の端に寄せつつ、部屋を出ていくステアーに続く。

 そうして残りの部屋も同じように調べていき、廊下の曲がり角へと差し掛かる。

 

「以前、ブルパップ仲間のRFBのお部屋にお邪魔した時に見たのですが」

 

「アンタ、意外な交友関係があるのね」

 

 いかにも合わなそうな性質の2人だなと思うワルサーだが、よく考えてみれば、ブルパップ仲間というだけなので性格とかどうでもいいのか、と妙に納得してしまうのであった。

 

「これまでとは明らかに雰囲気の違う、いかにも! という通路の先には強敵が控えているもの

みたいなのですよ」

 

「・・・そうやってまた私の事をバカにして。ここはアニメやゲームじゃないんだから、そんな事あるわけないでしょうが!」

 

「確かにゲームの話ではありますが、この雰囲気は明らかに・・・ちょっと、私の話を聞いて

下さい~」

 

 真剣な様子で引き留めるステアーを追い越して、ワルサーは廊下の先に進んで行く。

 角を曲がり、すぐ先の突き当りには扉が1つ。これまでの客室の扉などとは違う、木造りの重厚な両開き扉である。

 ステアーが言っていたような、いかにも! な扉が本当に目の前に現れたものだから、つい怯んでしまうワルサー。

 

「だから言ったではありませんか。この先はボス戦ですよ、きっと」

 

「うっさい! ここは現実なんだから、そんな事があるわけがないの!」

 

 思い出してしまった怖さを押し込むようにワルサーは喚き散らす。

 もしかしたら、そんな騒がしさがきっかけになったのかもしれない。

 音も無く、突然に扉が開いたのだ。

 

「っ!!?」

 

 驚きのあまり声を出すことも忘れ、反射的にステアーの背後に身を隠す。

 1秒にも満たないその身のこなしは、日頃の訓練の賜物である。

 

「すぅ~・・・ふぅ~」

 

 ワルサーの行動など意にも介さず、ステアーは扉に銃口を向ける。

 ゆっくりと、静かに呼吸を繰り返す彼女の吐息をすぐ耳元に聞いて、ワルサーの気分も少しづつ落ち着いてくるようだ。

 扉の隙間から白い影が覗く。

 ふわりと揺れる服の裾。新雪のように澄んだ肌。人形のように繊細な細い指。

 照明を受けて煌めく銀色の髪を靡かせ、1人の女性がワルサー達の前に姿を現した。

 歳は若いようにみえるが、純白のドレスを纏ったその佇まいからは、戦術人形でも分かるほどの魅力を感じとれる。

 

「貴女は・・・この城の主ですか?」

 

 相手が人と見て取ったステアーは銃口を外し、静かに問いかける。

 その問いに、白い女性は小さく首を横に振った。

 ルビー色の瞳から送られる視線は冷たく、全く生気を感じられない。

 

「ワルサー、この方は・・・」

 

「人形ね。でも、IOP製じゃあなさそう」

 

 人形が相手だと分かり、冷静さを取り戻したワルサーも銃を構えてステアーの隣に並び立つ。

 

「入城を許可した記録はありません。早急にお引き取りを」

 

 手を前で組み、やや頭を下げ、穏やかな口調で白い女性は言うが、その言葉には有無を言わさぬ強制力を感じる。

 言われた通り、明らかな不法侵入なので文句を言えた立場ではないのだが、こんな言われ方をして黙っていられるほどワルサーは素直な性格ではない。

 

「辺鄙なところに怪しい城が建ってるっていうから調査に来たのよ。人形のアンタじゃあ話にならないから、早いとこ城主を呼んでくれないかしら」

 

「ちょっと、ワルサー。そんな言い方はいけませんわ」

 

 ワルサーの無礼な言い方にステアーも思わず慌てるが、それを向けられた当の本人は無反応。

 姿勢はそのままに、眼を閉じて何やら思案しているような様子。

 そうして、きっかり5秒経過した時だった。

 

「警告に従う意思は無いと判断。強制退去させます」

 

 そう言い終えると、女性の髪がフワリと浮き上がる。

 それはまるで、床から風が吹き上げたかのように。当然、床からは風が吹き上がるような通気口も何も存在しない。

 

「っ!?」

 

 ゾクリ、と背中を氷が滑り落ちていくような感覚で体が総毛立つ。

 なにが起こるのかなんて予想もつかない。ただ、確実に襲いくる危機をワルサーの戦闘本能が

察知する。

 示し合わせたかのように、ステアーとワルサーそれぞれ左右に身体を投げ出す。

 直後、2人が立っていた位置を、幾つもの鋭い風切り音が通り過ぎた。

 遠距離兵器。複数発。散弾? いや、銃は持っていない。投擲? 何を投げた?

 床を転がり、身体を起こすまでの間で瞬時に考えを巡らす。

 敵の兵装も分からない不利な状態であるが、迷っている暇は微塵も無い。

 攻撃は最大の防御。最近知った、ワルサーお気に入りの格言だ。

 

「ステアー、応戦!」

 

「はい!」

 

 石造りの壁に反響し渡る無数の銃声。ステアーの連射弾に合流させるように、ワルサーも弾丸を撃ち込む。

 相手は見た目にも華奢な人形。これだけの弾丸をまともに浴びれば、ひとたまりもないだろう。

 ちょっと容赦なさすぎにも思えてしまうが・・・それは今回、幸いにも杞憂に終わってくれたようだ。

 

「な、何よ、アレ?」

 

「壁? 一体どこから!」

 

 発砲から着弾までの僅か一瞬、ワルサー達と女性との間を遮るように現れた銀色の壁を見て戦慄する。

 それは、正確には壁というの間違いのかもしれない。女性の身体を完全に覆い隠すほどのそれには、翼を持った女神の豪奢なレリーフが施されている。盾というのが正解か。

 盾に弾丸が防がれているのを見て前言撤回。謎の機能を備えた強力な人形が相手という事なら、容赦の必要など微塵もない。

 

「非常に硬い盾ですが・・・」

 

「少しづつ削れてる。怯まず撃ち続けて!」

 

 ステアーがリロードを行っている間、ワルサーが射撃の速度を上げてフォローする。

 材質や特性は依然として不明だが、鉛の集中打撃によって徐々に削れる程度の耐久性能のようだ。特に、ワルサーの使用するフルサイズ弾は当たり所によって大きく抉れている様子が伺える。

 

(正体不明だろうが関係ない。このまま押し切れる!)

 

 虫食いだらけの木板のようにボロボロになってきた盾を見て、ワルサーの戦意が昂る。

 勝てる糸口が見え、攻撃の手に一層熱がこもってしまう。

 ・・・だから、もう一つの脅威に対しての反応が遅れた。

 白い人形の背後、扉から飛び出してきた黒い人影の存在を認識した時には、もう、ワルサーとの間合いは2メートル弱。

 反応が遅れたとはいえ、ソイツの脚はあまりにも速すぎる。

 

「っ!?」

 

 地を這うかのような低い姿勢のまま肉薄してきた相手・・・金糸のようなブロンドに黒いドレスを纏った少女は、手に持っている何かを横薙ぎに振るう。

 舌打ち交じりに強引に床を蹴り、ワルサーは身体を飛び退かせる。

 背後に倒れるかのように崩れた身体の、ほんの数センチ前を長柄の武器が通りすぎた。

 息をつく暇も無く返しの2撃目。少女の身の丈に迫ろうかという長さの黒い剣が軽々と空を

奔る。

 

「こんにゃろ!」

 

 無理に態勢を整えようとは考えない。更に床を強く蹴って身体を跳ね上げると、長い手足を用いた華麗なバク転で剣戟を回避する。

 

「ワルサー! そちらの援護を!」

 

「自分の事だけ考えなさい!」

 

 全力でバク転回避を行ったことで、意図して黒い少女との間合いが広がる。

 それでも、尚もしつこくワルサーに突進してくる少女に反撃を試みる。

 初見は虚を突かれた事もあって動揺したが、その速さを一度視認して、少し冷静になって処理すれば何も恐ろしい速さではない。

 緩くスラロームしながら迫りくる黒い影に弾丸を撃ち込む。少女の速力とワルサーの弾道、弾速から割り出した直撃予測コースに通した。算出した命中率は90%オーバー。かくして、弾丸は

見事に命中。

 しかし・・・

 

「くそっ! 剣で弾くとか!?」

 

 少女が持つ剣が、ワルサーの弾丸の悉くを弾き落とす。むやみやたらに振っているのではない。弾道を見切り、的確に防御しているのが分かるってしまうというのがまた恐ろしい。

 狼狽しながらも、貫通の可能性を頼りに撃ち込み続けるワルサー。着弾による眩い火花を散らしながら、黒い少女は突進の速度もそのままに窓枠の淵に足をかけ、踏み台にして大きく飛び上がった。

 左右への動きを考慮して射撃するので手一杯だったのに、上下の動きまで加えられてしまったら、さすがの戦術人形もすぐには対応ができない。

 

「っ!」

 

 身体の回転を利用し、勢いが乗った斬り降ろしを横っ飛びにかわす。

 再び間合いをとろうと、大きく身体を投げ出したのだが・・・それが災いしてしまった。

 たまたま、ワルサーの左側にあった部屋の扉が開けっ放しだったので、運悪くそこに飛び込んでしまったのだ。

 

「私ったら、なんてバカ・・・」

 

 広い廊下でさえ相手の剣をかわすのに苦労しているのに、こんな障害物だらけの狭い場所に逃げこむなんて自殺行為に等しい。

 早いところ部屋から出たいのは山々だが、入り口には、すでに黒いドレスの少女が立ちはだかっている。

 身長はワルサーの胸の高さくらいしかない、幼さを残した可愛らしい顔立ちだが、まるで満月のように煌めく黄色の瞳は息を呑んでしまうほどに美しく、妖しい。

 

「・・・・・・」

 

 無言のまま、黒い少女が一歩踏み出す。

 それに合わせるように、ワルサーが一歩後退する。

 あまりにも間の悪い事に、マガジンの中身は空。下手に攻撃に転じようと動くぐらいなら、間合いを保ちつつ防戦に回った方が分がいいとワルサーは判断した。

 決して、目の前の美少女に気圧されて後退ったわけじゃないんだからね! とは、ワルサーの談である。

 光を飲み込むような漆黒の剣が微かに揺れる。剣術は見慣れていないワルサーだが、それでも、攻撃の初動である事くらいは見抜ける。

 少女の足が床から離れた刹那、半身を逸らす。

 一瞬にして踏み込んできた少女が突き出した剣先が空を切った。

 重厚な造りの西洋の剣に貫かれたらどうなる事かと、想像して寒気が奔る。

 矢継ぎ早に繰り出される小さく、素早い剣戟を寸でのところで避ける、避ける、避ける。

 周囲の障害物に気を配りながら立ち回るが、しかし、無理を抱え続けた防御は長続きなど

できない。

 

「くっ!?」

 

 絨毯の皺に足を取られ、床に尻もちをつく。

 薪でも割るかのように振り下ろされる刃を横に転がってやり過ごす。

 すぐさま立ち上がり、態勢を整えなければいけないのだが・・・

 

(なんだってこうなるかなぁ! もう!)

 

 すぐそばに置かれていたベッドが脚の高いものだったので、その下に上手く転がり込んでしまったのだ。

 自分の逃げ場をわざわざ潰すように客室に逃げ込んでしまったことといい、ベッドの下に入り

込んでしまったことといい、偶然にしたってあまりにも不運極まりない。

 ベッドの隙間から少女の足が見える。

 カツ、カツ、とヒールの音を鳴らしながら、一対の足がベッドの真正面で立ち止まった。

 

(ヤバい・・・今度こそ逃げ場がない)

 

 このままベッドごと真っ二つか、それとも串刺しか。逃げるチャンスがあるとすれば、それが

運良く外れてくれた直後の隙を狙うしかない。

 

「はぁ、はぁ・・・はぁ・・・」

 

 少女の身体は見えないので、耳を澄まして動きを探る。

 目の前のベッドに反響する自分の呼吸。廊下で応戦を続けているステアーの銃声。耳にまとわりつくそれらにフィルターをかけ、今は目の前の脅威にのみ意識を集中させる。

 ・・・そうして、少女の足を睨みはじめ、しばしの時が流れる。

 さっきまで問答無用で猛攻を仕掛けてきた少女なのに、今になって何を待っているのか?

 ワルサーがその事をいよいよ不審に思い始めた、その時だった。

 ガリガリ、と嫌な音をたてながらベッドが動き始めたのだ。

 

(え? え? なになに?)

 

 一体何を考えているのか、少女がベッドを引き摺っているのだろう。立派な天蓋の付いた

セミダブルベッドだというのに、今更ながらとてつもない馬力の少女である。

 動くベッドに合わせて芋虫のように床を這いつつ、ワルサーは思案を巡らす。

 

(ベッドを動かして私を出したいの? なんでベッドごと斬らない?)

 

 相変わらず疑問は尽きない状況だが、斬りかかってこないのならば、それを利用するまでだ。

 大きく一呼吸。ベッドを挟んで少女と反対側に転がり出ると、すぐ目の前に迫っていた入り口から廊下へと飛び出る。

 広い廊下に舞い戻った。反撃に転じようとするワルサーだが、それよりも少女の動きの方が

早かった。

 

「きゃあ!!?」

 

 後ろ頭を掴まれたかと思えば、次の瞬間には正面の石壁に叩きつけられる。

 小賢しく動き回るワルサーに痺れを切らせたのだろう。壁に押し付け、動きを封じて斬りつける魂胆か。突き放そうともがいても、掴まれた頭はビクともしない。

 もう、逃れる術はない。諦めの言葉がワルサーの思考に過ぎる。

 

「ワルサー!」

 

 そんなワルサーの眼を覚まさせたのはステアーの声と銃声。

 視界の端で、弾丸を防がれているのも構わずに突撃してくるステアーの姿を捉える。

 

「自分の事を考えろって・・・言ったのに」

 

 ステアーの特攻をワルサーよりも優先すべき脅威と判断したのだろう。少女がワルサーの身体を無造作に放り投げた。

 投げ捨てられた空き缶のように勢いよく床を転がるワルサー。

 最中、ガギン、とやけに神経をざわつかせるような気持ちの悪い音を遠くに聞く。

 ようやく勢いが収まるが、石畳に何度も頭を打ちつけたせいで視界がグルグルと回り、立つこともままならない状態だ。

 

「ワルサー、大丈夫ですか?」

 

 駆け寄ってきてくれたステアーに肩を抱えられる。

 上手く少女の攻撃を避けて駆けつけてきたのだろう手際は心強いが、まだ安心はできない。

 

「平気。それよりも・・・アイツらを」

 

 白と黒、一対の人形が並び立っている。

 まだ眩暈の真っ只中のワルサーはまともに戦えない。撤退しようにも、階段は背後、廊下の

遥か先。打つ手はもう思い浮かばない。

 

「ごめんなさい。少し無茶をしますわ」

 

 ステアーに耳元で囁かれたかと思えば、次の瞬間には身体を担ぎ上げられる。

 

「へ? 何?」

 

 絶望の崖っぷちにいたワルサーは、あまりの展開に思考が追い付いていない。

 まるで、土嚢を肩に担ぐかのように抱き上げられているのだ。普段のワルサーなら、恥ずかしさのあまり顔を赤くして暴れているところだが、今は完全にされるがままである。

 

「行きますよ!」

 

 ちょっと控えめながらも、きっと気合を入れたつもりなのだろう一声とともにステアーが身体を投げ出した。

 ガラスが盛大に砕ける音を纏い、2人の身体は宵闇の宙へ。

 廊下の照明を受け、星々のようにキラキラ輝くガラス片と共に、地面へ向けて真っすぐに落下していく。

 

(あぁ・・・やっぱりアホだ、この娘)

 

 城の外観から予測して、3階から地上までは20メートル程だろうか。戦術人形であれば、上手く着地すれば無傷で済む高さではある。

 しかし、今の2人のように態勢が崩れている状態で地面に激突すれば、全損にはならずとも、

行動不能は免れないだろう。

 着地に備えて目をギュッと閉じて歯を食いしばる。

 直後、身体が柔らかい何かに激突した。

 

「っ~~~! はぁ~・・・」

 

 背中から落ちたせいで少し呼吸が乱れるが、痛みはほとんど感じない。

 手足も問題なく動くので、ダメージも無いようだ。

 

「けほっ、けほっ・・・ワルサー、無事ですか?」

 

「ん・・・なんとか。そっちは?」

 

「私も、無事といえますわ」

 

 着地の際にクッションになってくれた庭の植え込みから2人揃って這い出る。

 なんの植物か分からないが、幹も枝も細くて柔らかく、葉は横に広く生い茂っている、まさに、クッションになるべくして生えてきたような植物だ。

 

「これの上に落ちるよう計算して窓から飛び出したってわけね。やるじゃない」

 

「え? え、えぇ、もちろん! ここにこのようなふかふかの植え込みがあったのを覚えていましたので。もう、これしかない! と考えた次第ですわ」

 

 本気で称賛しようかと思っていたのだが、動揺しているのみえみえで答えるステアーを見て、

ワルサーは方針を180度転換。大きく溜め息をついて芝生に腰を降ろす。

 思いっきり運任せな一手だったが結果オーライ。そういう風に良い方向に考えて割り切っておくのも、戦場では必要な事である。

 

「・・・追撃してくる様子は無いみたいね」

 

 自分たちが飛び降りてきた窓を見上げる。

 割れたガラスの向こうにはさっきの2人の姿は見当たらず、その下の階の窓にも、人が通っているような影は浮いていない。

 

「おそらく、自分のテリトリーへの侵入者に対して攻撃を仕掛けてくる、という設定なのではないでしょうか?」

 

「3階に足を踏み入れる、もしくは、あの扉に近づく、っていうのがトリガーか」

 

 あの2体はガーディアンということだろう。あれだけ強力な戦闘能力を備えた人形を配置するくらいだ、それ相応のものがあそこにあると考えてよさそうだ。

 探れば探るほど謎が増えていく不思議な城である。

 

「とりあえずキャリコに連絡・・・外からじゃダメか。仕方ない、エントランスまで入る。

たぶん、奴らは降りてこない予想だけど、警戒は怠らないように」

 

「畏まりました」

 

 空っぽになっていたマガジンを交換すると、周囲を警戒しつつ玄関扉へ向かう。

 

「・・・西ウィングの窓、全部真っ暗になっているのですね」

 

「カーテンを閉め切ったままなんじゃないの?」

 

 ステアーの言葉にあまり関心も示さず返し、玄関扉を開く。

 広大なエントランスはさっきと同様、敵影は見当たらない。安全であることを確認できたところでキャリコに連絡を試みる。

 正常なコール音が何度も鳴り響くが、いつまでたってもそれに応答する気配は無い。

 

「・・・おかしいわね。城内ならば通信できるのは確認済みなのに」

 

 連絡がつかなければ直接赴くまで。ステアーを連れ立って東ウィングへ繋がる扉へ向かう。

 

「っ? なんで開かない? 鍵でもかけてるのかしら?」

 

 ドアノブをしっかりと抑えたままドアを押し引きしてみるが、全く開いてくれる様子がない。

そもそも、感触にも少し違和感がある。鍵がかかっているというよりは、まるで溶接でしっかりと固められてでもいるかのように、扉がビクともしないのだ。

 

「私、中2階の扉を見てまいります」

 

「ん、よろしく」

 

 エントランスの中央の大階段をステアーが駆け足に登っていく。その間も、全力で叩いたり蹴飛ばしたりしてみるが、やはり効果なし。ドアノブと蝶番を撃って破壊しようかとも考えたが、余計に状況が悪くなってしまうリスクを思って踏みとどまった。

 

「2階に通じる扉もダメです。石の壁でも押しているかのように微動だにしません」

 

 肩を落としながら戻ってきたステアーが、ワルサーの予想していた通りの言葉を投げかけてくる。

 

「ったく! どうなってんのよ、この城は」

 

 あまりにもネガティブな状況が続いてイライラが募っていく。

 戦場では自棄になったら負け。そう自分に言い聞かせ、気を落ち着かせるために一旦、扉から

視線を外して大きく深呼吸を繰り返してみる。

 茹だっていた頭が段々と冷え、ようやく思考がクリアになってくれる。

 そこで、ふと、ステアーの上着が傷ついているのが目についた。

 

「ちょっと、アンタもしかしてケガしてるの?」

 

「え? ああ、これくらい大したことありませんよ」

 

 一度気が付いてしまえば、それはどんどんと目につくようになってしまうもので、ステアーは

腕やわき腹に幾つもの切創を受けているようだった。

 

「負傷したら適時報告! ほう・れん・そう、って指揮官から教わったでしょ!ファーストエイドするから、そこのデスクに座りなさい」

 

「いえいえ、ですからほんの掠りキズ」

 

「うるさい黙れ先輩命令よ。座りなさい」

 

「・・・はい。では、お願い致します」

 

 たった1週間くらい早く着任した程度の先輩であるが、その権限を行使し、有無を言わさず傍のデスクにステアーを座らせる。

 

「まずは腕から。上着を捲って」

 

 ミニポーチからエイドキットを取り出し、薬剤と器具を並べる。

 ステアーの石膏のように艶やかな白い肌には、やはり、上着についていたものと同じ数だけの

切創がついていた。いずれも、表皮を浅く裂いている程度のものだが、それでも、放っておいて

いい代物ではない。

 

「地下に転がっていたエクスキューショナーも多分アイツらにやられたんでしょうね。似たような切創だもの」

 

「気付いていたのですか?」

 

「遠目でも、ちょっと目を向ければそれくらい分かるわよ」

 

 コンテンダーが興味深げに見ていたので調査役は譲ったが、ワルサーなりに状況を多岐にわたって予想し、警戒しながら城内を歩いていたつもりだ。

 

(それでも、あんなバケモノが潜んでるなんて予想外もいいところね。ああ、頭がイタイ・・・)

 

 溜め息交じりに視線を落とす。

 ステアーが右腕に抱えていた銃を体に寄せた。

 

「・・・」

 

 ワルサーが半歩だけ立ち位置をズラしてみると、それにタイミングを合わせたかのように、

ステアーは銃を身体の陰に隠すように動かす。

 

「ステアー、銃を見せて」

 

「それよりも、先にキズの手当てを」

 

「ほんの掠りキズなんでしょ? こっちが先」

 

「イタタタ! 急に腕が痛みだしましたわ! 早く手当てしていただかないと痛くてメンタルが

崩壊してしまいそう!」

 

 下手な芝居で誤魔化そうとするステアーを肩越しに真っすぐ見つめると、それで観念したのか、ステアーはゆっくりと自分の銃をワルサーに差し出した。

 

「・・・・・・ごめんなさい。私のせいだよね」

 

 フレーム部を深く抉られ、内部機関が剥き出しになったステアーAUGを目の当たりにして

ワルサーの表情が曇る。

 城内から飛び降りる前、気持ちの悪い金属音を耳にした記憶がワルサーの思考をリフレイン

する。

 

「捕まった私を助けに来てくれた時に」

 

「あの、その・・・確かに、その時に受けてしまったキズですが。決して貴女のせいではありません。私の立ち回りが悪かったというだけですので」

 

 ステアーの慰めも、ワルサーの耳には少しも入らない。

 戦術人形達の中でも抜きん出てプライドの高い彼女は、自分のせいで他の人形が負傷したという事実を絶対に許すことはできない。

 自らの不手際で招いた結果であるのなら、自分が重傷を負った方が百倍マシなくらいである。

 

「そ、そうですわ! 2階にあった調度品保管庫に武器類もありましたから、もしかしたら私の銃もあるかもしれません。早速、見に行ってみましょう」

 

「でも・・・まだ処置の途中・・・」

 

「こんなものは掠りキズですもの。どうという事はありませんわ。そうと決まればすぐに、

さあさあ」

 

 まだ納得していないながらも、ワルサーは手を引かれてとぼとぼと連れていかれるしか

なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 




銃VS剣というのは非常に難しい表現だと個人的には思っています。
どうしたって銃が有利なのを剣で互角に立ち回らせるのかぁ~・・・と、いつも頭を痛めるのは、きっとリアリストな頭故の独創性の無さなのでしょう。

そんなこんなで色々ありますが、うまく続けていきますので、次回もどうぞお楽しみに!
以上、弱音御前でした~
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