どうも、弱音御前です。
少し趣向を変えてみたドールズフロントライン二次創作、お楽しみいただけていますでしょうか?
あくまでも、当方の趣味100%含有の作品なので、どうか温かい目で見ていただけたら幸いです。
それでは、今回もどうぞごゆるりと~
「うわ、何これ? こんなとこに人形の製造所?」
1階の捜索を終え、2階に上がってきたキャリコ達が見つけた部屋は、古き良きを称えたこの城にはあまりにも似つかわしくない装いだった。
普段からあまりにも見慣れた風景だったので、一瞬にして現実に引き戻されてしまったような
気分である。
「製造所というよりは、メンテナンスルームといった感じの設備のようですね。それにしても、
こんな場所に置いていい規模の設備ではないですよ」
広さはこの西ウィングの端から端まで。やたらと長いデスクにはPC端末にモニター、何に使うのかよく分からない金属製の器具が所狭しと並べられている。
それでいて、一歩廊下に出てみれば1階と同様のレトロな廊下が伸びているのだから、全く
もって奇妙な城だとキャリコは改めて思う。
「この修復器、うちにあるのと同じ物だね。コンテンダー、入ってみれば?」
「勘弁してください。電源が落ちてだいぶ時間が経っていたせいで、設定がリセットされてるじゃないですか。下手に入ったら何されるか分かったもんじゃないです」
いくつも並んだモニター群はいずれも、黒いバックグラウンドに緑色のコードが羅列されて
いる。
起動処理を行っている様子があるので、設備はまだ生きているのだろう。
「ほんと、ここは何なんだろうね? 秘密の軍事基地とかだったりするのかな?」
「民間施設に偽造して、というのはありがちな話ですね。しかし、それにしたってセキュリティがお粗末すぎます。センサーやカメラの1つたりとも設置されてる気配がないんですから」
「だよね。このPCからなんかしらの情報を引き出せたらいいんだけど」
起動が終了し、ホーム画面が表示されたモニターに向かう。
デスクトップのバックグラウンドでは、やたらと可愛いドレス姿の女の子が笑顔でピースサインをしている。
キャリコはあまり詳しく知らないが、いわゆる、アニメキャラクターというやつなのだろう。
「やはりというか、ロックがかかってますね」
「ふふ~ん、こんなこともあろうかと持ってきたコイツの出番だね」
得意げに言って、キャリコはポーチから取り出した外部メモリをPC本体のポートに差し
込んだ。
「なんですか、その怪しげなメモリーは?」
「極秘ルートで入手したクラックプログラム。現在、この地球上に存在するシステムの7割を破れるんだってさ」
「そうですか。入手ルートは言わないで下さいね。私は面倒に巻き込まれたくないですから」
ちょっとしたジョークなのはコンテンダーも分かっている。お互いに笑い合ったところで、
システムアンロックのアナウンスが表示される。
「無事にアンロックされたのはいいですが、どのファイルを覗きましょうか?〝Fate〟〝Unlimited Bladeworks〟〝Hevens Feel〟 ・・・ファイル名を見ただけでは、どんな中身かさっぱりなものばっかですね」
「入ってるデータそのままのファイル名なんて付けないだろうからね。試しに、このファイル開いてみようか」
カーソルの近場にあったファイルを指し、マウスを握っているコンテンダーがそこをクリック
する。
表示されたのは、画像が添付されたテキストファイル。カルテなのだろう、2人の女性の検査データが日毎に記録されている。
「女性のデータだね。・・・もしかして、人体実験とかじゃないよね?」
「ええ、目を通した感じ、この2人は人形ですからね」
コンテンダーの答えを聞いてキャリコはほっと胸を撫で下ろす。
「白い方が〝アイリ〟黒い方が〝アルトリア〟という名前のようです」
「ふ~ん、IOPの娘じゃあないみたいだけど、2人ともすごい美人さんだね」
雪のように白く長い髪の大人びた女性アイリと、白みがかったブロンドに満月のような冷たさを称えた瞳の少女アルトリア。2人とも、美人揃いのグリフィンに負けず劣らずの美貌である。
「2人とも武装してるみたいだね。アルトリアの方は剣。アイリの方は・・・リキッド・メタル? よく分からないけど、戦術人形なのかな?」
「・・・これは例の〝白い勢力〟の拠点なのではないですか? 確か、白と黒2体の人形で、それぞれ近距離と遠距離武装という情報でしたよね」
眉を顰め、神妙な面持ちでコンテンダーが問いかける。
コンテンダーの危惧している通りであれば、もう一刻の猶予もない。今の戦力では絶対に勝てない相手に出くわす前に即時撤退を決めるべきだが・・・
「あいつ等じゃないから安心して。こんなに可愛い姿の人形じゃなかったもの」
例の2体を退けた唯一の部隊に所属していたキャリコは、落ち着いた様子でコンテンダーに答えてあげた。
「ああ、そうでした。あなたはシュタイアーの特戦隊にいたのでしたね。それを聞いて安心しましたよ」
「でも、城内に配備されているだろうこの2体だって、どれだけの性能を持ってるのか分からない。たぶん、地下のエクスキューショナーはこの2人にやられたんだろうね」
「あなたの言う通り、これだけ立派な剣なら、あの傷痕に合致しますね。襲われて、勝てないと
見たエクスキューショナーは命からがら逃げだし、城の電源を落とした」
「なんで電源を落としたんだろう?」
「たぶん、この2体のバッテリー切れを狙ったのでしょう。動けなくなった頃になって逃げようと考えて、その前に自分が、というオチでしょうね」
散らばっていたピースがカチリと嵌まってくれたような感覚。コンテンダーもキャリコも、
揃ってスッキリとした表情である。
「こっちのウィングは2階まで全部捜索したけど、この人形達には遭遇しなかった。ワルサー達の方で待ち受けてる可能性が高いね。連絡を入れておかないと」
「どうせ連絡するならもっと情報を集めてからにしましょう。もう少しだけ探る時間を下さい」
「それじゃあ、3分経ったら連絡を入れるよ。そこまでに得られた情報だけ教える」
情報収集はコンテンダーに任せ、キャリコはPCから離れて室内を見回る。
この城の素性を探るのに良い情報でも転がってないかと、ラックに整頓されたファイル、デスクの引き出し、キャビネットの中も覗いて見るが、これといって目ぼしいモノは見つからない。
そうして部屋を半周したところで、少し変わった物が置いてあるのに気が付く。
「なんだろう、これ? ・・・バスタブ?」
部屋の隅に置かれた樹脂製の箱は、膝を抱えて丸くなったキャリコがすっぽりと収まるほどの
大きさ。覗き込んでみると、中は液体で満たされている。
照明の白い光をキラキラと反射させ、緩やかに波打つ銀色の液体である。
その見た目に気味の悪さを覚えたキャリコは、触らぬが吉、とロクに覗き込む事もせずに水槽を離れた。
そうして、踵を返したところで時間を確認。コンテンダーに言った時間まであと30秒。すぐに連絡できるよう、通信機に手を伸ばしておく。
「あれ? 急にファイルにロックが・・・」
そう、コンテンダーが呟いたのを耳にして、彼女の方に目を向ける。
「なんかトラブル?」
「はい。ファイルを探っている途中にいきなりロックがかかったかと思えば、もうシステムから
締め出されてしまいました」
キャリコが傍らのデスクに置かれたモニターに目を向けると、セキュリティ警告のウィンドウが表示されている。
コンテンダーのモニターも同じであるなら、きっと、この室内のシステム全部のセキュリティが復帰してしまっているのだろう。
「得体のしれないクラックプログラムなんて使うから、システムを怒らせてしまったのではないのですか?」
「その可能性は否定しないけど、どうせ、グリフィンで使うようなシステムじゃあないし、放っておいてもいいよ。ここまで集まった情報だけ教えて。ワルサー達に伝えるから」
今度こそ通話スイッチを入れようとした・・・その時だった。
「キャリコ! こっち!」
室内に響き渡るような大声をあげ、コンテンダーがキャリコの腕を引っ張る。
「え? ちょっ!?」
身体から腕が抜けるのではないかというくらいの力で引っ張られ、宙に浮いたキャリコの身体をコンテンダーがしっかりと抱きとめる。
何かの本で読んだ、王子様とお姫様のような構図になっている事に気付き、少し赤面してしまうキャリコ。
「い、いいいきなり何するのよ!?」
「後ろを見てもらえれば言わずとも」
漆黒の銃口とナイフのように鋭利な瞳が見据える、その先にキャリコが眼を向ける。
「うぇ・・・あれって・・・」
今しがたキャリコが立っていた位置に、銀色のぶよぶよした質感の塊が鎮座している。得体の
知れない物質だが、キャリコはこれに思い当たるものついさっき目にしていた。
「こいつ、バスタブの中に入ってたヤツ?」
「知っていたのになんで見て見ぬフリしていたんですか、あなたは」
「さっき見た時はあんなじゃなかったんだもん!」
キャリコが弁明を返すと、銀色の物体が動き出した。
位置はそのままに、何本もの触手のようなウネウネがキャリコ達に向けて伸びる。
「イヤ~!? キモイ~!」
緩慢な動きではあるが、その異様さに驚き、2人揃いデスクの上を乗り越えて距離を取る。
着地と同時、キャリコは銃を引き抜くとすぐさま反撃に打って出る。
明滅するマズルフラッシュ。9ミリ弾の豪雨が謎の敵に襲い掛かった。
「くそ・・・当たってるけど、やっぱり効いてない」
ジェルのような見た目の通り、弾丸は命中しても飲みこまれてしまっているかのようでダメージを与えている様子は無い。
「私のもダメですね」
より高威力のコンテンダーの弾でさえ、全く意味を成していない。
「っとぉ!」
攻撃を受けた影響か、緩慢だった動きから一変、まるで目が覚めたかのように速度を増した触手がキャリコに向けて奔る。
デスクの陰に屈みこみ、鞭のようにしなる触手を回避。
だが、それで一息というわけにはいかない。デスクの下から、銀色の液体が水溜まりのように
広がり、キャリコを迫ってくるのが見える。
長いデスクを遮蔽物にして、身を隠しながら距離をとる。
「っ! しつこい!」
振り向いてみれば、すでに部屋の床は半分以上が銀色の液体に侵食され、壁にまで這い上がりはじめている。
その奥、部屋の無事なエリアでコンテンダーが佇んでいるのが見えた。
(外に出るよ)
(了解)
キャリコのサインを受け、コンテンダーがすぐ傍のドアから廊下に出る。
続いて、設備機器の上を乗り越え、デスクを潜り、キャリコも廊下へと転がり出る。
「あれ何!? あんなの初めて見たんだけど!」
「私だって分かりませんよ。キャリコの事を執拗に狙っているようでしたが、何か心当たりは?」
「そんなの分かんないよ。とにかく、銃弾が効かない相手じゃあ対抗のしようがない。一旦、
ワルサー達と合流して態勢を立て直そう」
運の良い事に扉から出た先は廊下の端、エントランス中2階に通じる扉のすぐ傍だ。
駆け足に扉に近づき、ドアノブを握りながら体当たり。しかし、すんなりと開いてくれるはずだった扉にキャリコの身体は弾き返されてしまう。
「いたっ!? あ、あれ? ドアが開かないんだけど!」
「鍵がかかってないのは確認していたのに。もしかして、セキュリティによる電子ロック? よく見れば、窓にもシャッターが下りてますし」
暗がりの中にうっすらと木々の影が映っていた窓は、その全てにシャッターが下りて塞がれてしまっている。
「1階はどうかな?」
「望み薄ですが、今は行ってみるしかないですね」
踵を返して廊下の反対、階段のある側へと走り出す。
通り際、部屋の中から銀色のブヨブヨが出てこようとうごめいているのが見えた。
「あいつ、追いかけてくる気だ。急ぐよ」
すでに廊下にまで出てきている敵に向け、スピードを緩めず器用に逃げ撃ちで牽制する。
相変わらず、効果どころか怯む様子も見せない事に心の中で小さく舌打ち。
どのような強敵でも必ず弱みは存在する、と、シュタイアーの特別部隊に編成された際に指揮官からかけられた言葉を思い出す。結果、その通りにシュタイアー達は強敵を退け、指揮官に思いっきり褒めてもらうことが出来た。
だが、全く手応えの無い、煙でも掴むかのような敵を迎えた今はその言葉を疑わしくすら思えてしまう。
(もしかしたら、あいつは本当に・・・)
幽霊、という言葉と弱気を寸でのところで振り払う。
そうこうしているうちに階段へ到達。走ってきた勢いもそのままに階段の踊り場に向けて飛び
降りる。着地と同時に180度ターン。続けて1階へ飛び降りた。
1階の廊下も同様に窓には全てシャッターが降りている。この分ではエントランスに繋がる扉も絶望的だろうが、ここまで来たらもう走り続けるしかない。
「ああ、これじゃあもう絶対にダメですね」
「分かってたけど言わないようにしてたのに! 空気読んでよ!」
リアリストなコンテンダーに返す言葉に混じり、遠くからガラスが割れるような音が微かに聞こえた。耳の良さには自信のあるキャリコなので、実際に聞こえたのは間違いないが、この危機的
状況ではどうでもいい些細な事だ。
体当たりする勢いで扉を開けようとするも、やはり2階と同じくビクともしない。
ショットガンがいれば吹き飛ばせたのになぁ、と、つい先刻、玄関前で自分が言った事を早くも全否定しているキャリコである。
振り返ってみれば、敵はすでに廊下の半分くらいの位置にまで迫っている。
キャリコより2倍近くも大きい銀色の丸い塊が、床を這うようににじり寄ってくるその様子は
キモイという一言に尽きる。
今更になって気付いた事だが、以前、RFBの部屋に遊びに行った時に見た、昔のテレビゲームに出てくる敵に見た目がそっくりだ
この敵の事は〝スライム〟と呼称しようとキャリコは心の中で決める。
「仕方ない、こっち!」
前方、後方、窓側も封じられてしまい。すぐ傍の部屋に苦肉の策で飛び込む。
扉を閉め、きっと無駄だろうとは感じているが、カギをしっかりと閉めておく。
「これでスライムが入ってくるまで少しだけ時間稼げるかな」
「スライム、ですか。見た目通りの分かりやすい呼び名でいいですね」
考えた呼び名を褒めてもらえたのはいいが、状況は相変わらず切迫しまくっている。
キャリコ達が逃げ込んだここは厨房。金属の調理台にシンク、巨大な冷蔵庫が何台も置かれており、広さは2階のPCが並んでいた部屋の半分ほどだが、所属するグリフィン基地の食堂に負けないくらい立派な厨房だ。
「・・・来るよ」
扉の隙間からスライムが染み出してくるのを視認して、キャリコが銃を構える。
2階で連射発砲した際の銃身の熱で、扉が微かに揺らめいて見える。
「待ってください。下手に刺激するのは控えましょう」
「ぅ~・・・じゃあ、隠れてやり過ごす?」
「これだけ遮蔽物の多い部屋ですから、それが賢明でしょう」
コンテンダーに諭され、大人しく銃を仕舞うと調理台の陰に身を潜める。
調理台の上から顔だけ覗かせてスライムの様子を伺う。
扉の隙間から染み出してきたスライムが扉のカギの位置に向かって真っすぐに伸びていく。そうして、いとも簡単にカギを回し開けると、扉がゆっくりと開いた。
「見た目に似合わぬ器用さですね」
「ホント、動きのいちいちがキモイんだよね」
各々、感想を小声で述べつつ、厨房に侵入してきたスライムと距離をとるように、調理台に沿って静かに移動する。
しばし扉の前に鎮座していたスライムが、やがて移動を開始。調理台を挟んで反対側の死角に
潜んでいるキャリコを目掛けて真っすぐに進んでくる。
距離でみれば、キャリコの後方に居るコンテンダーの方が近いはずなのに、だ。
(ちょっとちょっと! なんで私ばっか狙うわけ!?)
キャリコ的に嫌な相手なのに、何でか知らないがつけ狙われてしまっている事に内心で焦りを
感じてしまう。
スライムの挙動を逃すまいと目を向けながら早足に移動して・・・そんな行動が仇になる。
調理台のフックにぶら下がっていた調理器具に身体が当たってしまったのだ。
(ヤバっ!)
耳を劈くような金属音が木霊し、それに呼応するかのようにスライムが大きく跳ね、調理台の上に飛び乗った。
落ち着いていた様子のさっきまでとは打って変わって、興奮した様子を表すかのようにプルプルと震えながらキャリコのもとへとまっしぐらに猛進してくる。
(やだぁ~~~! キモイキモイキモイキモイキモイ~~~~!)
もうどうせ見つかっているのだから、と姿勢を起こしてスライムに対して攻撃を試みる。
牽制にでもなればと撃ち込んだ弾丸にスライムは怯むような様子は無く、それどころか丸かった身体を大きく広げ、まるでキャリコを包み込もうとでもするような形状に変化する。
「ひいぃぃいいぃぃ~~~!!?」
キャリコの正気度もついに限界点に差し掛かったところで彼女に更なる追い打ち。慌てた拍子に足がもつれてしまう。
キャリコの身体が倒れていくその先には大型冷蔵庫が。
「きゃあ!?」
激突した拍子に開いたドアから吹き降ろす冷気が、尻もちをついたキャリコを冷ややかに
撫でる。
すぐに立ち上がらなければ、と顔を上げるが、もう遅い。
キャリコの真正面にはすでにスライムが鎮座していた。
「~~~~~~!?」
あまりの恐怖で声も出せず、背後の冷蔵庫に背中を張り付けて固まる。
このままキャリコを飲み込むつもりなのか? それとも、また触手のようなモノを伸ばして身体を引きちぎりでもするのか? 様々な悪いケースが思考を巡り巡り、もう涙がジワッてきそうになる。
キャリコの前に立ちはだかっていたスライムが細い触手を何本も伸ばしてくる。
水棲の軟体生物のようなそれを見て、全身がゾクリと粟立つが、いくら嫌だって、もうキャリコには逃げ道もない。
うねうねと揺らぎながら、触手はキャリコの細くしなやかな身体に向けて・・・ではなく、銃を持った右手に伸びていく。
「っ!」
銃を奪われたくない、と反射的に両手を頭上に回して左手に銃をパスする。
すると、触手も銃を追うようにキャリコの左手に。
嫌がるキャリコが再び頭上で右手に銃をパスすると、触手もまた銃を追って右手に伸びていく。
(な、何がしたいのよコイツ)
武器を奪って無力化しようという魂胆なのか。どうせキャリコの攻撃は当たったところで意味を成さないので、そんな事をしても意味は無いようにも思える。
そうして、追いかけっこを何度か繰り返しているうちにスライムは突然に触手を引っ込めてしまった。
まるで、いきなりキャリコに対しての興味を失ってしまったかのような様子である。
「・・・・・・」
表面を小さく波立たせ佇むスライムの正面で、キャリコはまだ動けずにいる。
行動の予測が全くできない相手だ。下手な行動は即死を招く可能性も十分にある。
少し落ち着いて、よく相手を観察して。そうやって、気分を落ち着けたところで、あるものがキャリコの目についた。
スライムの遥か背後。厨房の奥でコンテンダーが音をたてずになにやらコソコソとやっているのである。
大変な目に遭っているというのに、助けにも来てくれない薄情者と思っていたが、コンテンダーなりに何か策があるのかもしれない。
〝静かに。そのまま動くな〟
スライムの死角から覗くようにしてコンテンダーがサインを送ってくる。
動きたくても動けないので、目で肯定の意を返しておく。
すると、サインを送られてから数秒足らずでスライムがキャリコの傍を離れはじめた。
この動きにはコンテンダーが何らかの関与をしているのは間違いない。案の定、スライムが離れて視界が開けた先を見てみれば、コンテンダーが幾つも並んでいるキッチンコンロに火をいれているの確認できた。
キャリコには何がどうなっているのかまだ分かっていないが、逃げるチャンスであることは
確実。
コンテンダーに向けて這い寄っていくスライムとは反対方向に、四つん這いのまま進んで行く。
息を、音を殺して、ゆっくり、ゆっくりと慎重に進んで・・・突然、キャリコの身体から電子音が鳴り響いた。
(こんな時に!?)
無線機のコール。別動隊のワルサー達は今のこの状況を知らないのだ。しかし、それにしたってあまりにも悪すぎるタイミングである。
気付かれていませんように、と心の中で淡い期待をしつつ背後に視線を向ける。
そこには、見事に期待を裏切って猛突進してくるスライムの姿が。
(ですよねぇ~~!)
傍にあった調理台の陰に転がり込むように隠れ、通信機に手を伸ばす。通話オフのスイッチを押そうと探るが、あまりにも焦っているせいで上手く操作ができない。
ベチャリ、と頭上から気味の悪い音。スライムが調理台の上に乗りあげたのを察し、キャリコはその真下へと潜り込む。
(ヤバいヤバいヤバい~~!)
コール音を止めようとパニックになっている最中にも、頭上から何本もの触手が伸びてきている。
身を縮めに縮め、それでももう限界。そんな時になってコール音が止まった。
キャリコが操作できたのではなく、ワルサー達が諦めて呼び出しを止めてくれたのだ。
触手の先がキャリコの脚に触れる直前でストップ。手で口を塞ぎ、息を殺していると触手はその場でしばらく揺らめいた後、ゆっくりと引き返していった。
調理台を伝ってブヨンブヨンと跳ね飛んでいくスライムを見送り、厨房の出口へと早足に向かう。
すでに扉を開け、キャリコ待ちをしているコンテンダーのもとに滑りこむと、2人して廊下へ。音をたてないよう、ゆっくりと扉を閉めて、ここでようやく安堵の息をつく。
「ごんでんだぁ~~、ごわがっだよぉ~~」
「よしよし。よくあの状況を乗り切りましたね」
極度の恐怖とキモさから解放され、コンテンダーに抱き着いて泣きじゃくるキャリコ。隊長らしからぬ甘えっぷりだが、隊員に頼る事も隊長には必要、と考えて今は良しとしておく。
「うぅ~~・・・アイツどうしよう? まるで倒せる気がしないよぉ~~」
「キャリコがあれを引き付けてくれたおかげで色々と分かった事があります。まずは場所を変えてあいつからもう少し離れましょう。話はそれから」
場所を変える、という提案はキャリコも大賛成だったので、素直にコンテンダーの言葉に頷き、抱き着いたまま廊下を進んでゆくのだった。
銀色のスライムみたいなヤツ、ということで、Fateシリーズをご存じの方は察しがついているかもしれません。
キャリコとコンテンダー組を割り当てたのもそれに準じて、という細かいネタ設定にしてみたりしました。
例のごとく、次週も投稿を予定しておりますので、気が向いたら足を運んでやってくださいな。
以上、弱音御前でした~