ドールズフロントライン ~魔術師殺しの夜~   作:弱音御前

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すっかり涼しくなって気分の良い日々になってきた今日この頃、皆様、いかがお過ごしでしょうか?
どうも、弱音御前です。

古城でのバトルもいよいよ佳境。鉄血とは全く違う敵を相手にキャリコ達はどう戦うのか?
今回もどうぞごゆっくりとお楽しみください~


魔術師殺しの夜 5話

「よいですか? 私がダメだと判断するまでは絶対に手を出さない、口を出さない。お口に

チャックですよ?」

 

「分かってる。人間の子供じゃないんだから、その腹立つ言い方やめてよね」

 

 3階へと上がる階段の最中、先ほど取り決めた段取りを再確認する。

 ちょっと気の短い性質のワルサーにこれでもかとクギを刺しておいて、先頭に立つステアーはゆっくりとした足取りで再び階段を登りはじめた。

 カツンカツン、と響く2人だけの足音。この西棟にはステアー達以外には誰もいないのではないかと、そう思えるような静寂だが、それは錯覚である。

 階段を登りきった廊下の先では、果たして、先ほど驚異的なまでの戦闘能力を見せつけた白と黒の人形がステアー達を待ち受けていた。

 白い人形アイリは前で手を組み、静かに嫋やかに佇み、黒い人形アルトリアは抜き身の剣を構え、眼光鋭く立ちはだかる。

 ワルサーと共にリベンジを硬く誓いあったステアーであるが、やっぱりやめておけばよかったか、と情けなくも思ってしまうほどの威圧感だ。

 

「あのまま逃げ帰っていれば見逃してあげたのに・・・懲りない方達ね」

 

 アイリが溜め息交じりに零した言葉に対し、ワルサーが眉を顰めたのが視界の端に入る。勢い余って手が出てしまわないよう、さりげなくワルサーの前に立ち位置を直しておく。

 

「迅速に排除します」

 

 アイリの煌びやかな銀髪がフワリと揺らぐ。さっきと同じ攻撃の前兆。直後にはまた得体の知れない遠距離攻撃が襲い掛かってくるのだろうが・・・

 それを制止したのはアルトリアだった。無言のままアイリの前に歩み出て、強引に攻撃の手を

止めさせてしまう。

 

「どうしたの? ・・・あのサムライと1対1? なぜ、わざわざ勝率が下がる方法を選ぶのでしょう?」

 

 ステアー達を差し置いて向かい合う2人。アルトリアは依然として無言だが、お互いに何らかのコミュニケーション方があるのだろう、会話が成立しているようだ。

 

「本当に上手くいったわね。ちょっと驚いたわ」

 

「だから言ったではないですか。武士に二言はない、と」

 

 アイリとアルトリアの2人がかりで襲い掛かられたら、先ほどの二の舞になるのは目に見えている。ステアー達にとっては願ってもない事だが、向こうにとっては明らかなマイナス行為。アイリが渋るのも当然の事である。

 

「騎士の誇り? それは、旦那様をお守りする以上に大切な事なの?」

 

 正論で勝負するアイリだが、無言のアルトリアもなかなか折れないのだろう、話は平行線を辿っているようである。

 そうして、ワルサーが欠伸を漏らしはじめたころになって再びアイリが大きく溜め息をついた。

 

「・・・・・・分かりました。致命的なまでの勝率低下ではないと試算が出たので、あなたの意見を取り入れましょう」

 

 その言葉を聞いて、またもワルサーの表情がピクリと動く。

 これからの状況を鑑みるに、ステアーはアルトリアの相手を、ワルサーはアイリの相手をすることになる。今のアイリの言葉は、ワルサーが相手でも楽勝と言わんばかりのものだ。

 もう、ステアーは苛立ちの頂点といった様子だろうが、とりあえず、予定通りに1対1の状況にもっていけたことで良しとして、後の事はもう知らんぷりを通すつもりなステアーである。

 

「・・・」

 

 アルトリアがステアーに向けて手招きをしながら、客室の1つに歩み入る。

 ワルサーをちらりと見やると、行ってこい、というアイサインを返してくれたので、淑やかに佇むアイリの傍を抜けてアルトリアの後に続く。

 1階の捜索からこの方、すっかりお馴染みになった間取りの部屋の先、ベランダへ続くドアを

抜けるアルトリアの背中を追う。

 

(邪魔が入らない場所で戦うつもりなのでしょうが、あんな狭いベランダで?)

 

 首を傾げつつベランダへと出て・・・そこで、彼女の意図を理解する。

 

「これは・・・素晴らしいですわ」

 

 今まではベランダまで出ていなかったので分からなかったが、2階のベランダはそれぞれの部屋を通して繋ぐ構造になっていた。そして、ちょうど城の中央にあたる位置には、エントランスの

大階段にも負けないくらい豪奢な階段が真っすぐに降りている。

 階段を優雅に下るアルトリアのその先に広がるのは広大な中庭。月明りを浴びて、鮮明に、白く揺らぐ花が一杯に咲き誇る庭園である。

 この世離れした美麗な光景に、思わず呟きを零しつつステアーも階段を下りていく。

 数十メートル四方はあるだろう庭園に足を踏み入れると、白い花々がステアーの脛の辺りを優しく撫でてくれる。

 まるで、炎が燃え盛るような形をしたこの花は、ステアーの知識にも載っている植物だ。

 〝リコリス〟又は〝曼殊沙華〟と呼ばれる花で、今はちょうど開花時期なのだろう、まさに満開といった装丁だ。

 戦場は花を踏みながら前に進まなければならない、というのがステアーの信条であるが、それを曲げてしまいそうになるほどにこの足元の花達は美しい。例え根に強い毒性を持っているのだとしても、それを頷けてしまうくらいに、である。

 

(と、観光はこれくらいにしておきましょう)

 

 視線を上げると、正対する位置にアルトリアが佇んでいた。

 感情の欠片も纏わない、冷たい金色の瞳がステアーをまっすぐに射抜いている。

 

「1対1の戦いを選んでいただいた事、感謝しますわ。2人で臨めば、そちらの勝ちは間違いなかったはずでしたのに」

 

 ステアーの感謝の言葉に対しても、アルトリアは口を開かない。その代わりに、真っすぐに伸ばした上体をそのままに浅く曲げ、流麗な〝お辞儀〟を返してきた。

 

「ふふ、ご丁寧にありがとうございます」

 

 両手を腿に軽く添え、身体を折って頭を下げる。これも剣術同様にRFBから教えてもらった

武士の作法である。

 顔を上げ、一呼吸つくとアルトリアがゆっくりと剣を構える。西洋の剣術は全く分からない

ステアーであるが、それでも、実戦データに基づいた本物の〝型〟だということが理解できる。

まるで、すぐ鼻先に銃口を突き付けられているかのような威圧感である。

 

「す~・・・はぁ~・・・」

 

 そんな恐怖心を拭うかのように大きく深呼吸。左腰元に差した刀の柄を掴み、引き抜く。

 囀るような金属音を上げながら姿を現したのは、月光を受け、薄い青色を放つ刀身。アルトリアの持つ実直な剛剣とは正反対の、緩く反った細身の刀身は微かな穢れもなく、雨垂れのような波紋が秋雨の銘を如実に体現している。

 

(さあ、一世一代の大勝負といきましょう、雨ちゃん)

 

 今しがた思いついたニックネームで刀に語りかけ、ステアーも構えをとる。

 両者の動きを見ていたかのように、一迅の風が吹き抜ける。髪を梳き、上着の裾を浚い、揺すられた曼殊沙華の華達が2人に声援を送る。

 そして、風が収まったのと同時に動いたのはアルトリアだ。たったの3歩で間合いを取った

アルトリアの軌跡を大量の白い花びらが彩る。

 一撃で仕留めると言わんばかりの速く、鋭い剣戟がステアーの頭上に降ろされる。

 完全に出遅れてしまったステアーであるが、これはもとより承知の事。刃を上向きに、自分の顔の真横に置いた上段の構えは、受け流しを狙った後手の型。RFBいわく触れたもの悉くを霞のように透かす型〝涼風〟という呼び名だそうだ。

 刀身を返し、降りかかる剛剣を迎え撃つ。まるで、レールの上を走るかのように鋭い金属音をあげながら刀の背を滑る黒い剣先。

 

「!?」

 

 剣を振るった勢いのままに予期せぬ方向に軌道を逸らされたことで、

アルトリアが大きく姿勢を崩す。ステアーに完全に背を向けてしまっている状態だ。

 

「ふっ!」

 

 ガラ空きの背中に向けて袈裟に斬りかかる。容赦なく全力で斬り込んだつもりだったが、

アルトリアが咄嗟に回避行動をとったので手応えは浅い。

 それならば、と振り切った体勢から矢継ぎ早の2撃目。大きく踏み込んで斬り上げを見舞うが、これも、距離をとろうと飛び退いたアルトリアの腹部を掠めるに留まる。

 距離が開いた両者の間に舞う花吹雪を幕代わりに、わずか数秒程度の攻防戦が一旦幕を下ろす。

 

(ふぅ~・・・上手くいきましたね。感謝しますわ、RFB)

 

 剣を受け流した痺れと、身体を裂いた感触がまだ手に残っている。銃撃とは全く異なる未知の

感覚に、なかなか気分の高揚が収まらない。

 落ち着こうと深い呼吸を繰り返すが、その最中に再びアルトリアが口火をきる。

 

「荒っぽい方ですね」

 

 そんな相手にこそ効果を発揮するのが火の型である。切っ先を正面に、刃を上に向けて

アルトリアを迎え撃つ。

 猛進してくる相手を紙一重でいなし反撃を浴びせるその光景は、かつて、とある国で行われていた人間と牛との競技、闘牛のよう。

 一撃でも受ければ致命傷は確実な剣戟を前に、ステアーは臆することなく綱渡りの攻防を展開していく。

 ザクリ、と今までで一番の手応えを感じたのは6撃目の事。わき腹を刀の切っ先が深く通り抜けた際の感触だ。

 

「・・・・・・」

 

 アルトリアはやはり表情一つ変えないが、今のは少し堪えたのだろう、途端に距離をとって

ステアーの様子を伺い始めた。

 

(致命打は与えられませんが、負けてはいません。このまま続ければ、先に根をあげるのは向こうです)

 

 ステアーの刀を回避しきれないながらも、重傷は避け続けているその反応力は厄介なものである。しかし、ダメージが蓄積していけば性能も低下してくる。段々と刀に手応えが出てきているのが何よりの証拠である。

 勝機を掴みつつも、けれど、決して慢心はせずと自分に言い聞かせて、ステアーは堅実に立ち回る。

 ・・・すると、ここでアルトリアの動きに変化が現れる。

 

(? あんなに姿勢を下げて、何を?)

 

 まるで、足元の花畑に隠れでもするように、アルトリアがその場にしゃがみ込む。

 本当に姿を隠したつもりで襲い掛かる魂胆なのだろうか、と訝しむステアーだったが、次の

瞬間、一気に背筋が凍り付くことになる。

 小さな爆発でも起こったかのように、アルトリアの周囲の花びらが一斉に舞い上がる。それらに紛れるようにアルトリアの身体も宙を舞う。

 

「っ!?」

 

 踏み込みの速度から相当な脚力だというのは見当がついていたが、まさか、見上げるほど高く飛び上がろうとは予想だにしないことだった。

 ステアーに向けて飛び掛かるアルトリアが空中で体を捻る。一回転、二回転、と回転数が上がるごとに回転速度も増している。重量のある剣で強い遠心力がかかっているのだろう。

 受け流しのタイミングを計り、待ち受けていたステアーだったが。

 

「っ!?」

 

 直撃の寸前になって、身体が咄嗟に構えを解き、回避行動をとっていた。

 彼女の小柄な体躯から繰り出したとは到底思えない重い風切り音を纏い、ステアーのすぐ真横にアルトリアの斬撃が着弾する。

 

(今の勢いは、受け流せたかどうか・・・)

 

 立ち上がりの勢いを乗せた横薙ぎの一撃。回避は間に合わない。

 本能が警告を鳴らしているが、それでも、ここは受け流しでいなさざるを得ない状況だ。

 頭の芯にまで響くように刃が鳴り散らす。

 

「ちぃ!」

 

 アルトリアの剣は刀の背を滑ることなく、刀ごとステアーの体を押し込んだ。

 まるで、大型車両でも突っ込んできたかのような衝撃に耐え切れず、ステアーの身体が弾き飛ばされる。

 後退しながらもなんとか態勢を保つステアーに更に追撃。背面まで大きく振りかぶった兜割りが襲い掛かる。

 再び受け流しを狙うステアーだったが。

 

(駄目、刃が流せない!?)

 

 さっきまでは面白いくらいに滑っていたアルトリアの剣が、まるで、牙でも立てているかのように刀にしっかりと食いついている。おまけに、パワーが段違いに上がっているものだからたまったものではない。

 

「きゃあ!?」

 

 被撃は免れたものの、刀と共に両腕も持っていかれる。

 たたらを踏みながら腕の痺れに耐えるステアーに対し、アルトリアは容赦のない剣戟を浴びせ続ける。

 白い花びらを逆巻きながら荒れ狂うその様は、さながら嵐か竜巻か。

 

(もしかして、戦闘の中で学習している?)

 

 何度か弾き飛ばされたところでようやく状況が把握できる。

 アルトリアの剣が受け流せなくなったのは、刃が激突する瞬間にアルトリアが力のベクトルを変えているから。剣に対して刀を角度を付けて当てる事で力を受け流していたのだが、その原理に

気が付いたアルトリアは、刀に対して垂直に当たるように調整し直している。

 たった数分で、その原理を見切る戦闘勘とすぐにフィードバックを施す器用さ。力も速さも戦術人形を凌駕する高性能人形を前に、ステアーは一気に窮地へと追い込まれてしまう。

 

(くっ・・・このままだと私の腕もですが、雨ちゃんがもたない)

 

 刀はスラリとした細身の刀身だが、決して曲がらず折れずと称されるほど頑強な刃である。しかし、此度の相手は、厚い金属製の鎧兜ごと敵を両断することを目的に造られた西洋の剣だ。とんでもない馬鹿力での激突を繰り返されては、その謳い文句も意味を成さない。

 

(長期戦なんて悠長なことを言っていられない。一撃必殺の心構えでなければ)

 

 アルトリアの僅かな隙をつき、片手で握った刀を振るう。おおよその人形であれば動力系統が

集中している首元を狙うが、そんな魂胆はお見通しだったのだろう、軽く後退されただけでかわされてしまう。

 直後、腹部に強い衝撃。アルトリアの前蹴りをまともに受けてしまう。

 

「っ!!?」

 

 身体が軽々と宙を舞い、視界が流転する。それでも、自分の状態は理解していたので地面に激突する寸前で受け身が間に合った。

 

「ぅ・・・けほっ! けほっ!」

 

 吐き出してしまった空気を強引に取り込み、身体を起き上がらせる。

 ステアーの手の内は見切ったといわんばかりに悠々と歩み寄ってくる黒い死神。その周囲でゆらゆらと揺れる曼殊沙華が、ステアーを地獄へと招く無数の手のように見えてくる。

 四肢の痺れと弱気を振り払い、刀を構え直す。微かに刀身と柄の接続がガタついた感触が手に伝わる。刀の耐久限界が近づいているという事実が、ステアーのメンタルに揺さぶりをかけてくる。

 ザッザッ。そんなステアーの気も知らず、死の宣告は着々と近づく。

 自分の間合いを計ろうと一歩だけ後退。

 

「っ!」

 

 足元の華に足を引っ掛けてしまい、態勢が大きく崩れる。

 踏みとどまり倒れはしなかったが、そんな状態のステアーを見逃してくれるようなアルトリアではない。

 一息のうちに間合いを詰めてステアーの前に躍り出ると、剣を頭上高く振り上げた。

 ステアーを両断せんと、大気を逆巻きながら黒い刃が奔る。

 足元が崩れている状態のステアーに、その狂刃を避ける術はもう無い。

 ・・・・・・否、避ける必要はもう無いと言った方が適切か。

 アルトリアの駆る黒い剣の、一点をステアーの鋭い眼光が射抜く。

 

(視えました!)

 

 つま先から手指の先までを繋ぐ全関節を同時に跳ね上げる。それら全てが生んだ加速力を合算し、ステアーが握る刀は瞬間的に爆発するかのような勢いを伴う。

 その向かう先はアルトリアの剣身の根元。重量による遠心力の影響が少なく、反力に弱い一点だ。

 

「!!?」

 

 耳を削ぎ落さんばかりの強烈な金属音、目も眩む盛大な火花を伴い、両刃が激突する。

 勝ったのは、狙ってこの状況に誘い込んだステアー。まさか、力で押されるとは予想だにしていなかったアルトリアは、思い切り跳ね上げられてしまった自分の両腕を前に目を丸くしている。

 今の一撃は、ただ攻撃を〝弾き返し〟ただけ。アルトリアの真正面で完全なアドバンテージを得たステアーが刀を構え直す。

 

(そこですわ!)

 

 地面一蹴で繰り出した突きは、さながら闇夜を駆ける一発の弾丸。アルトリアの白く可憐な首筋を裂き、一瞬のうちに過ぎ去る。

 その通った軌跡をなぞるように、パチン、と鋭い音をたて、紫色の閃光が迸った。

 

「その鋭さ、防ぐ事叶わず」

 

 左手に携えた鞘に刀の切っ先を軽く添える。漣のようなさえずりを響かせながら、蒼色の刀身が鞘の中へと消えていく。

 

「その速さ、捉える事叶わず」

 

 アルトリアの体がガクリと崩れ落ちる。しかし、それでも絶対に倒れまいと、左手に携えた剣を地面に突き立て、膝立ち状態で踏みとどまっているのは流石といったところか。

 

「雷光の如き剣戟。名を〝紫電一閃〟ですわ」

 

 RFBから教えてもらった決めセリフまで、しっかりとキメたところでアルトリアに向き直る。

 

「今の一撃であなたの右半身の伝達系統を断ちました。無理に動くと、他の箇所の負担がかかってしまいますよ」

 

 そう冷静に言ってはいるが、そもそも、IOP製の人形と同じく首元に伝達系統が集中しているという確証はなかった。イチかバチかの出たとこ勝負だったのだが、結果オーライで世は事も

無し、である。

 無事な左半身で体を支えるので精一杯なのだろう、アルトリアはその場で屈んだまま微動だにしない。

 そんなアルトリアの前にゆっくりとした足取りで歩み寄り、正面に回り込む。顔を上げてくれたアルトリアとステアーの視線が交錯する。

 アルトリアの表情も眼も相変わらず色が無い。しかし、さっきまでの背筋が凍るような敵意はすっかりと抜け落ちている。

 早く行け、という凛とした少女の声が聞こえたような気がして、アルトリアは再びその場で俯いた。

 行動不能というのは間違いないだろう。一対一の戦いを申し込んできたような相手だ、ステアーが背を向けたところをバッサリという可能性は万が一にもあり得ない。

 勝利したステアーは、このままさっさとワルサーの加勢に向かうというのがお手本である。

 

「・・・なし崩しで戦闘になってしまいましたが、そもそも、私はあなた達を襲いに来たわけではないのです。誤解を招いてしまったこと、お詫びいたしますわ」

 

 けれども、ステアーはアルトリアのすぐ傍で屈むと、力の抜けた右手を手に取り、背中から自分の首へと回した。アルトリアの無事な左手には、さっきまでステアーを斬り裂かんと猛威を振るっていた剣が控えているが、特に気にする事はなかった。

 

「アイリさんというのでしたか? あの方の誤解も解いて仲直りしたいので、一緒に戻りましょう。ね?」

 

 小柄な見た目以上に軽いアルトリアの体に少し驚きながらも、背中に担ぎ立ち上がる。

 顔も見えないが、特に暴れるような様子は無く、携えている剣を腕で抱きかかえてステアーが

歩きやすいように気を遣ってくれている辺り、まんざらでもないといったところなのだろう。

 

「いえいえ、戦った相手に敬意を示すのも武士の嗜みですので」

 

 なんとなく聞こえてきたような気がした背中からの言葉に返し、ステアーは雪景色のような

曼殊沙華の花畑を引き返していくのだった。

 

 




お気づきの方もいるかもしれませんが、今回のシーンは対馬を舞台にした剣戟アクションゲームが元ネタになっています。ちょうど、これを書いていた時期に当方がハマっていたゲームだったんですね。

次週も定期投稿は変わらずの予定なので、気が向いたら足を運んでやって下さいな。
以上、弱音御前でした~
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