フェイト・ねむねむオーダー   作:ねむこ

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 お気に入り登録、評価、ありがとうございます。エレシュキガルとレオニダス一世のご加護に違いありませんね!





ねむねむ職員とシャルル=アンリ・サンソン

 

 深夜、睡眠を必要としないサーヴァントと夜勤の職員を除いてすべてのものが寝静まる時間帯。

 

 カルデアの奥まった通路に面した部屋の中、一人の女性がベッドから起き上がる。その目は固く閉ざされ、裸足のまま冷たい床へと降りた足取りはおぼつかない。それでも慣れたように、もしくは何も意識することなく、部屋の鍵を中から開けると、ふらふらと真っ暗な闇の中へと歩き出していった。

 

 

 

 

――――今日か、今日だろうな………。

 

 内心でそう呟いたサンソンは、カルテに向き合っていた顔を上げた。声に出さなかった理由は、ついさっき目の下にクマをこさえて医務室へやってきたロマニ・アーキマンがようやく寝付いたからだ。

 

 ケーキを食べて労働を継続しようとしたところを物理的に阻止し、ケーキを奪って歯を磨かせ、そのまま病人用のベッドに押し込んだのが30分前。すぐに寝息が聞こえてきたので、彼の睡眠不足を察する。最後に寝たのはいつ、何時間寝たのやら。あまりにも寝付きがよすぎる辺り、病の心配すら出てくるのは困ったものだ。

 

 カルテを閉じ、手ごろな白衣と貼り付けるタイプのカイロ、フェイスタオルを掴み、それを抱えて部屋を出る。この階に来ることは分かっているので、一度ぐるりとフロアを回っていく。管制室以外に人の気配はしなかったので、エレベーター前で待機することを決めた。

 

――――外れなら、それでいい。

 

 15分は経っただろうか。徐に顔を上げればエレベーターが動き始め、想像通りの階で止まった。手早くカイロを開封し、白衣の内側にくっつけていく。

 

 ピポーン、と音を立てて到着を知らせたエレベーターから現れたのは人間の女性。

 

「こんばんは、ブーゲンビリア嬢」

 

 長く重たい髪をゆるく三つ編みにし、瞳と同じ色のリボンでくくっている。服装はロングワンピース型のパジャマのままで、足元は熱を失って真っ白くなった素足。切りそろえた前髪の下、本来なら穏やかな光を灯す瞳が見えるはずだが、瞼に隠されている。やはり、眠ったままだ。

 

 とりあえず、持っていたカイロ付き白衣を肩に掛けてやる。外は極寒の吹雪である以上、建物内とはいえ冷えるのだから、せめてこれくらいは受け入れて欲しい――――その願いを聞き届けてか、それだけは落とすこともない。なお、靴の類いは全て拒絶されたので、毎回裸足のままだ。

 

 ふらふらと歩いていく彼女に続いて、僕もその後ろを歩く。

 

 おもむろに立ち止まって、壁に向き合うと、そこへ手をつく。しばらくそうして、また彼女はふらつきながら歩きだす。また立ち止まっては壁に向き、手をつく。歩く時間も、止まっている時間も不均一だが、毎回そのサイクルは同じ。部屋に立ち入ることはなく、廊下でのみ行われる。

 

 僕がカルデアに来る以前の彼女のことは、職員登録情報とカルテ上の内容しか知らない。故に、これが何の習慣なのか、何の願いが込められているのか、想像の範疇でしか考えることはできないし、答えは彼女の心の中にしかないのだろう。

 

 なお、この行動はカルテに書かれていない。少なくとも、ここの職員は気付いていないのだ。サーヴァントは僕以外に気付いている者がいるかもしれないが、エレシュキガルが付き添っている姿を見たことはないので、知らないのだろう。知っていたら絶対に飛んで来る、たとえサポート出撃で疲れていようと何だろうと。

 

 泣きもせず、笑いもせず、ただ固く目を閉ざした眠りの中においても、現実に身体を動かしてまで行うだけの思いがある。定期的に行われるこの行動を観察していくうち、そこにあるのは罪悪感なのではないかと感じるようになった。

 

『頑張っても掴めないものってあるよね。――――めーさんは、それが一度にたくさん、1人で抱えきれないくらい短時間で押し寄せてきて、それでも1人で頑張って、頑張って、頑張ったんだよ』

 

 彼女について、マスターはそう言う。マスターだけではない。過酷な労働を続ける職員たちも、眠り続ける彼女に対して一定の敬意を持って接する。起きている彼女を知るサーヴァント達で彼女を気に入っている者は多いが、その中には同情の念を持つ者だっている。

 

 きっと、同情する事情に、彼女の思いの理由があるのだ。それに対して、彼女は罪を、悪を感じているのかもしれない。

 

 しかしカルデアにおいて、あの多忙を極めるどころか不眠不休のロマニ・アーキマンでさえ彼女に会いに行く時間を作るくらいに、彼女は好かれ、心配されている。そこに彼女を詰る心はおそらく無い。

 

――――………。

 

 そのようなことを考えていたら、彼女がまたエレベーターを操作し始めた。そうなれば、この夜回りの習慣も終わりが近い。

 

 一緒にエレベーターに乗り、彼女の部屋へ。ふらつきながらも戸締まりをしっかりこなした彼女は、ぽすんとベッドに倒れ込む。そうなればもう彼女がこの夜に動くことはなくなる。

 

 僕は持ってきたタオルを濡らして、彼女の足を拭う。肩にかけてやっていた白衣を回収し、代わりに掛け布団を肩まで掛けてやる。

 

 穏やかな寝息が聞こえる。しかし、その表情は安寧とは程遠い。

 

 朝になり、エレシュキガルが来る頃にはいつもの寝顔に戻るだろう。だがそこに、救いはない。心の奥底に押し込み、1人で抱え込むだけだ。

 

 きっと、どんな言葉をかけても変わらない。神に祈っても、何をしても、結局のところは彼女自身が解決する内容。他者の入り込む余地はない。

 

 故に僕の主観であり何の救いにもならないが、それでも毎回伝える言葉がある。

 

「ブーゲンビリア嬢。それは悪ではないよ」

 

 だから安心して、お休み。

 

 

 








 ご報告

 エレシュキガルがLv.100になりました。

 新しく葛飾北斎ちゃんに聖杯を捧げました。



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