フェイト・ねむねむオーダー 作:ねむこ
なんか続きそうなので連載に切り替えよう…かな…ドウシヨウ…
あの日は何となく運がなかった。
朝起きた瞬間なぜかベッドから転落するし、インナーは前後逆で着ちゃうし、朝食のフォークはトレーから落とすし、人に指摘されるまで寝癖に気づけなかったし、しかもその寝癖が治らなくて遅刻しそうになるし、果てはレイシフト直前に紅茶を衣服に溢した。
「熱っ!えっあっホントに熱い焼ける焼けてる!!」
「何やってるんだよ、もー!」
冷却魔術が得意な同僚が熱湯に近い紅茶の温度を一気に下げてくれたので、私は軽い火傷で済んだ。同僚に礼を言いながら治療魔術で火傷を治す。
「着替えておいでよ。私のことはいいからさ」
「うん。…気を付けていってきてね」
私は所長の目を盗んでこそこそ医務室へ向かって歩き始めた。どうして白衣に、しかもインナーに染みるまでぶっかけてしまったのか。
「でも所長の話を聞かなくてもしばかれないのはラッキーかな…?」
私はレイシフト候補者ではなかった。時計塔とは無縁なくせして魔力は人並み以上にあったが、異空間への転送に体が適合しなかったのだ。それでも治療魔術のために医療従事者としてこのカルデアに半分拉致される形で就職。国試の結果が知りたかったし、卒業式も出たかったし、あと1か月待ってほしかった。仕方がないのでドクター・ロマニの部下として、医学を学びながら働いている。治療魔術が使える以外は、私はモブ職員に過ぎない。
「え、うわ!」
そんなことを考えていたら転んだ――――違う。転んだ理由が違う。
衝撃と轟音が襲いかかる。耳を塞ぎ、口を開けたのは偶然だ。目は転んだ衝撃で閉じていた。
警報やらアナウンスやらが響く中で、私は立ち上がる。今の音は中央管制室からだ、それしか把握しなかった頭は身体を走らせた。閉めきられた出入り口の前で自分の上司を見つける。見た感じ、無傷。良かった。
「めーちゃん!」
「ドクター・ロマニ!何が起きて…?!」
「僕にも分からない!でも、最悪な状況なのは間違いない…!」
君は大丈夫?!と肩を掴まれる。無事です、と返せば安堵したようにゆるっとした笑顔を見せた。しかし、それも一瞬の話だ。
「僕は状況の確認に行くから。医務は任せていいね?」
「はい」
「上司なのにごめん、肝心なときに側にいられなくて」
「問題ありません。私の自慢の治療魔術と、ロマニさんが教えてくれた医学があります!」
「ありがとう。中は消火中だ。…頼んだよ」
彼と別れ、医務室へと走る。持ち出せる医療器具やら何やら全部引っ提げて、消火が終わった中央管制室の扉を抉じ開け、絶句する。
「………………」
所長が立っていた辺りを中心に、爆発の跡が見られる。彼女の身体も、そのとなりに立っていたであろうライノールの身体も見当たらない。それどころではない、あれだけ丈夫に作ってあるコフィンの外も中も、機材を操作していたであろう技師達も、管制室担当の職員も、みんな、みんな、血だらけで、人によっては焼けていて、砕けていて、跡もなくて、どうして、どうしてこんな――――
「なんで、………」
呆然と呟いた言葉に返事をするものは何もない。何もかもが私の疑問には答えない。
皆がこんなにも傷ついているのに、私は偶然にも軽い打撲程度だった。まるで先程までの不運が全てこの一瞬のための代償だったかのように。
…話を変えるが、カルデアの医療従事者はほとんどいない。理由は想像でしかないが、医務室の扱いはマスターと職員の健康管理程度にしか考えられていなかったのだろう。ドクター・ロマニのように魔術ではなく学問で医療に携わる人ですらほぼいない。そういう意味では私は『唯一の医務室付き』と特筆される魔術師だったのかもしれない。
――――私は、地獄を知らない。
肝心なところで足を踏み外すような不運は知っているが、幸せな世界しか知らない。だから、この程度はそれに当てはまらないかもしれない。でも。
私にとって、これは正しく地獄だった。
「…私は負けてない、死んでない、まだなにもしてない」
両手で両頬を叩く。ペチンという音と、痛みが感じ取れた。私はまだ、この地獄で生きている。ならば、やれることをやるべきだ。
引っ提げてきた鞄から自分の仕事道具を引っ張り出す。衛生用品も片っ端から引っ張ってきて、私は動き始めた。
命の選択をした。職員を片っ端からトリアージし、自分の魔力をリソースに治療魔術をひたすら展開し、自分の知る範囲で医療用品を使用した。比較的命に別状のない人たちには申し訳なかったが順番を後ろに回す。
自分の端末に緊急通信が入る。
『中央管制室!どうなってるんだ?!地下から爆発音がしたんだが?!』
「中央管制室も爆発しました」
『は?!え?ブーゲンビリア?!何で?!』
「治療中です」
相手はどうやらエリア指定で通信を発したらしく、想定外の人間の返答に更に驚いたらしい。話を聞けば偶々非番で健康体そのものに事件を乗り越えたらしいその職員と同じく非番の職員たちにお願いして、中央管制室や地下の発電施設近辺において息のある人を発見・移送してもらい、優先して命を繋いだりもした。
階級も身分もどうでもいい。とにかく助かる患者を片っ端から助け、既に息絶えた人、もう息が絶える人たちを見捨てた。それは連れてきてもらった人たちも、どこにいるかも分からない人たちも含めて。
せめて自分近辺の人は苦しまないように、と痛みを緩和する処置だけはしたが、限界を迎えた人たちはそれすら受ける前に苦悶のうめきをあげて静かになる。人によっては、水のひと口すら与えられなかった。
『――――が欲しい』
現場には、その声を発する余力すらない人がほとんどで、私はその中の一部、助かる可能性がある人を優先しないといけなかった。
『もしもし!こちらロマニ!』
「はい、ロマニさん」
ようやく連絡を入れた上司は、指揮系統における上位職員の死亡を確認して自分が所長代理として状況を解決することになったと言った。…ロマニさんが指揮官になるって、事件想定の範囲外では?
『悪いけど、状況が落ち着くまでめーちゃんを手伝えない』
「はい。頑張ります」
『本当にごめん!』
余裕のない声とともに通信が切れた。私も同じだ。余裕が無ければ言葉数が減る。血まみれのゴム手袋を外し、新しいものに取り替えてまた仕事に戻った。
暫くしてまだ命がある重軽傷者はみな医務室へと移されたが、それでも余裕はない。
「隣の奴の様子がおかしくなってる!」
「怪我人を運んできたぞ、ブーゲンビリア」
「まだ息がある!助けてやってくれ!」
状況が落ち着くまで――――仮眠こそとったが、何徹かしたと思う――――ひたすら活動を続けた。
そして、その時が来る。
治療魔術を展開して患者に手を伸ばしたその時。気付けば視界がぐるりと回って、
「ブーゲンビリア?!」
天井を見たのを最後に、私の記憶は途切れた。
fateについても医療についても詳しくないので間違ったことを書いていたら教えてほしいです。
あと、現実世界における医療従事者の皆さん、いつもありがとうございます。薬を飲めるのも、体調を回復させることが出来るのも、彼らのお陰ですからね!