フェイト・ねむねむオーダー 作:ねむこ
お気に入り等ありがとうございます。
愉悦も深い意味も何も無いですが楽しんでいただけるなら幸いです。
――――魔力切れだぁ…。
そんなことを思いながら目を覚ます。私は未舗装の地面がむき出しになったところに転がっているようだ。立ち上がって周囲を確認し、何もない岩山を眺め、危険がないことを把握した後、ぺたりと座り込む。
『死にたくない…』
『水、水が欲しい』
『母さん、母さん!』
脳裏に過ぎる様々な声。馬車馬のごとく働いていた時は気に留める隙すらなかったが、いざ手が空くと堰を切ったようにあふれかえってくる。
私は何人治療しただろう。…何人助かっただろう。………何人、見捨てただろう。
「………」
ズブズブと沈みゆく思考は重たく、地面を握りしめた手も感覚がない。涙すら出ない。冷却魔術の同僚は無事に命をつないだだろうか。コフィンに入っているから、冷凍保存からの生命維持はなんとか出来ていると思いたい。
――――でも、その資格すらない職員は、………
ぐるぐると思考が低い地点で堂々巡りし出した時、女性の声が聞こえた。
「ななな、何で?!」
振り返る。鮮明には認識できないが、女性のように思う。
「何で生きてる人間が冥界にいるのよ?!」
冥界?冥界。冥界か…あれ?死後の世界?でも生きてる人間って言ってたよな…?
「あー…もしかしなくても夢、」
「生きてるのに霊体化してるとかホンモノの生き霊なのだわ!!!恐怖そのものなのだわー!!!」
「あっやめてそんな道具取り出さないで本当に死んでしまいますから!!!」
よく分からないが、何か物騒な籠みたいなものを取り出された気がする。捕まえないでほしい。多分、それは生きてる人間を捕まえる道具ではない…と思う。てか、夢じゃない感じなの?もしかして生命の危機?
とりあえず、女性と思しき相手に落ち着いてもらうため、通じるかは分からないが、無抵抗の意を示すために両手を上げた。ちょっぴり静かになったので、自己紹介をする。
「カルデア所属の職員、メルレイン・ブーゲンビリアです」
よろしく、と手を差し出してみるが、流石に握手は断られた。
「私は冥界の女主人エレシュキガル。…その、あなたね」
「メルレイン」
「うぇ?!」
「名字は長いし、名前でどうぞ」
「えっ、じゃあ…その………メルレイン」
何かコミュニケーションに難ありの気配がする。もしかして、プライベートは絶対一人で過ごしたいとか、引きこもり気味とかそういうタイプなんだろうか。ちなみに、私は通常のカルデア職員よりも知識に偏りがあるので、エレシュキガルなんて聞いたところで誰かも分からない。とりあえず、冥界の女主人らしいので、偉い人なんだろう。女神かな。
「…あなた、魔力がすっからかんなのだわ。まだ生きてるけど、それが信じられないくらい」
「爆発事故に遭った同僚たちを、重傷から軽傷まで可能な限り治療魔術かけまくったんで…」
「だからってこんな、底をつくほど使えるわけないじゃない!メルレインは生きた人間なのだから、生命を保つために自然とセーブがかかるはずなのに」
「そうなんだ」
「そうよ!」
他にもいろいろと説教をされるが、もう何言われてるか分かんない。カルデアに来たばかりの時に聞いたような気もするけどね?
そもそも私、魔術とかよく知らないのにマスター適性はないけど魔力はあるって言われて、試しに魔術を使ってみたら治療魔術にのみ適性があって、しかもなんか作成したスクロールがちょっとだけ他人より良い効果が出た点しか優位性はないんだよう。ある日突然オルガマリー所長が私を誘拐して強制的に南極に就職しただけの本当にどうしようもない一般モブなんだよう。
ってか、本当なら今頃は病院で研修医としてこき使われてるはずだったのに!試験通ってるか否かも確認できてないんだぞう!おかげでカルデアに来てからもずっと国家試験の勉強し続けてるんだ!ロマニ先生は優しいから研修医扱いで仕事も教えてくれてるけど、(自分の知る限りでは)無資格状態なんだぞ!国連機関らしいけど私の資格状態確認させてくれよ!人理消えちゃってるとか言わないでさあ?!
俺は!正規に医者したいんだ!!!うわーん!!!
「あなた、苦労してるのね…」
突然同情された。声に出てたらしい。は?本当に???
「――――むぅわあああああああああああ!!!!」
羞恥のあまり地面を転げまわる。散々転げまわって、感情がぐちゃぐちゃになって、最終的にぐすぐす泣き始めてしまった私は悪くない。
もう涙が止まらぬ。うつ伏せになって泣いていると、強い力で地面から引きはがされる。エレシュキガルさん、力強くなぁい…?
「生者は嫌い。………でも私、頑張ってる人間は好きなのだわ」
そう言って、抱きしめてくれた。多分、背中もさすってくれてる。
朧気で何ひとつくっきり見えない相手なのに、優しさだけははっきりと分かって、また涙がこぼれた。
散々泣いて、泣いて、泣き止むまでずっと抱きしめてもらってしまった。そんなの子供時代にもなかった出来事で、羞恥と感謝と喜びが入り乱れてまた感情が暴走しているが、流石にもう初対面の人に迷惑をかけられない。
いや、散々かけているから今更だし、さらに言うなら目上の人にこんなことをしてしまった時点でハラキリ案件。そう脳内で懺悔している間に、エレシュキガルさんが私の服の汚れを叩いてくれた。
「とりあえず、これで冥界を出れるはずよ。ちゃんと身体に戻って、眠るなり目覚めるなりするのだわ」
しかも何やらエレシュキガルさんに片道切符疑惑だった冥界訪問の復路切符を貰ったようだった。本当に何から何まで面倒を見てもらってしまっている。
「このお礼、どうすれば…?!やっぱり命差し出す?」
「生者が冥界に住めるわけないのだわ!いい加減になさい!」
ほら、もう行きなさい!と肩を掴んで方向転換させられる。いつの間に作ったのか、ゲートと思しき光の円があり、そこに入れと言われた。
「ありがとうございます、エレシュキガルさん。…頑張ってるって、そう言ってくれて嬉しかった」
「別に…」
多分、彼女はそっぽを向いている。なんだ、ツンデレなのだろうか。
ゲートに片足を突っ込む。さよならの挨拶を一瞬考えて、振り向く。
「次は死を前提にお会いしましょう、冥界の女主人様」
「…!」
手を振って、今度こそゲートを潜り抜けた。
それから現実世界で眠りに眠り続けて、私は目覚めたようだった。
「めーちゃん!」
「………?ど、どくたー…?」
ひどい声だ。ドクター曰くひと月ぶり。そりゃあおかしくもなる。
あれよあれよと検査にかけられ、カルデアの現状と、自分の肉体が健康そのものであることを聞かされた。ひと月も寝ていればそりゃあ元気だろうし、眠りの原因は魔力が底をついたことだ。それが回復すれば目覚めるのは当然だろう。
――――魔力、そっか魔力は回復したのか。
「ドクター・ロマニ!」
「な、何だい?!」
眠りの中で出会った彼女を思い出す。
「サーヴァントを1人喚んでもいいですか?契約は私で」
「えっ…多分いいけど、突然どうしたのさ」
ふらつきながらもベッドから降りて歩き出す。筋力を回復させねばならないが、それよりも今はこちらだ。
「夢の中でお世話になった子を喚びたいのです。きっと来てくれる気がします」
「はあ…」
ダヴィンチちゃんにも話を通し、面白そうだからやってみようということになった。レイシフトはできないが、マスター適性が皆無なわけでは無いのだから試せばいいとのこと。
そうしてやって来た召喚室で、私は光の柱へ手を伸ばした。
「――――!」
現れたのは煌めく金髪、赤い瞳、人の形をとった疑似サーヴァント。
夢の中で出会った姿とは違う。それでも、私には何故か彼女がエレシュキガルなのだと確信できた。だから、笑顔で言った。
「よろしく!エレちゃん!」
口上前に真名まで看破され、さらには愛称までつけられたことは彼女の長い年月において初めてだったらしい。顔を真っ赤にして動揺し、一通りの反応をして見せた後の彼女は、とっても嬉しそうに笑ってくれた。
「本っ当に変な人間なのだわ!まあ、でも…アナタがどうしてもっていうのなら、死を前提にお付き合いしてあげてもいいわよ?」
だから生きたまま冥界をさ迷うのはやめてよね!
そう言ったエレちゃんと、私は契約を結ぶ。
掴んだ右手がとても温かかったことは、ずっと忘れない。
バビロニアのエレちゃん可愛すぎて尊死したので冥界に囚われたい…エレちゃん…
めーさんの名前は「メルレイン」にしました。