「イベント下準備なう」
「もうそろそろ時間ですね。蒸し終わった物は運びましょうか。」
鬼灯は蒸し器の蓋をあけ、調理が完了したもち米からカートに乗せて運び始める。
「広場まで行くので急ぎましょう。」
「わかりました!」
「はい!」
先を行く鬼灯についていく唐瓜と茄子だったが次第に増えていく周囲の鬼に驚きを隠せない。
「スッゲェ、パッと見300人以上はいるぞ。」
「みんな広場の中心みてるな。」
「目的地はそこですよ。」
周りなど気にせず突き進む鬼灯に慌ててついていく二人だったが、いつの間にか開けた場所に出る。
「あれ?」
「急に人が居なくなったな。」
「少し離れないと巻き込まれますからね。」
鬼灯の物騒な発言に背中に嫌な汗が流れる二人。しかし、そんなもの知らんと言わんばかりに鬼灯は目的の人物に声を掛ける。
「あとはお願いしますね、月見さん。」
「はい、任されました。」
そこには着飾った月見がいた。普段の服と似てはいるが、何処か神事のような雰囲気を感じる。そして何より包帯をしておらず火傷の痕も見えない。
「ねぇ月見、そろそろ始める?」
「そうだね美穂。」
月見が向いた先には臼の横に立つ美穂がいた。こちらも先程までの服が更に豪華になったような衣装だ。
「お二人共、さっさと離れますよ。」
「え?どういう……。」
「さっき言ったでしょう。巻き込まれますよ。」
言い終えると鬼灯はすたすたと周りの輪のなかに混ざってしまう。置いてかれた二人も慌ててついていく。
「………てか一つ思ったんだけどさ。」
「なんだよ茄子?」
鬼灯の元へいく途中茄子が唐瓜に話しかける。
「やけに臼でかくなかった?」
「………まぁなんとかできるんだろ。」
横の直径が普通の臼の3倍ぐらいです。
「それでは始めさせていただきます。」
月見がそう言うと、美穂と共に周囲の観客に礼をする。その後、二人が臼を挟んで立つ。すでに月見の手には杵が握られている。
「自律水式 玉。」
美穂が両手で印を結びそう呟くと、臼の上に直径10cmほどの水の球体が浮かび上がる。その様子を見ていた月見は持っている杵の杵頭を臼の真上にくるように構え、自分の炎を杵と臼に移す。青から少しずつ黄金に変わる炎を見た観客は緊張したように息を飲んでいる。
「てい」
月見が燃えている杵を振り上げ、そのまま水の玉に叩きつけるように振り下ろす。振り下ろされた杵が水の玉と共に臼に触れた瞬間
臼が纏っていた炎が弾けとんだ。
「下準備が終わりましたね。」
「今の下準備だったんですか!?」
端から見ていた鬼灯が呟いた言葉に反応する唐瓜。
「餅つきをする際には事前に杵と臼をお湯で温めて置かないといけないんですが、それを月見さんの炎で省略してるんですよ。」
「というか美穂さんもすごい事してましたけど……。」
「なんか水の玉が浮いてるな。」
「美穂さんが独自に編み出した術らしいですよ。」
先程の光景に冷や汗をかいている唐瓜としきりに感心して絵のテーマに出来ないか考える茄子だった。
あたりに金色の火の粉がまだ舞っているなか、美穂が着物の袖から何十枚もの人形の紙を取り出すとそのまま放り出す。その直後、印を結びまた何かを呟く。
「自律紙式 人紙。」
瞬間、宙を舞っていた紙がその場で止まり、ピシッと立った。美穂が印を解いて置いてあったもち米の方に指を振るうと紙が一斉に動きだし、そのままもち米の入った器の下に潜り込んで持ち上げる。
「ほいっと。」
美穂が紙を操作し、温められた臼のなかにもち米をぶちこむ。
「てい。」
空になった器を紙が運び出した直後、月見が杵でもち米をこね始める。軽く十五合以上はあるはずなのに、ものの数十秒で纏まりはじめた。
「美穂。」
「はいはいっと、独律水式 数珠。」
美穂が印を結ぶと月見の背後にいくつもの水の玉が浮かんだ。縦に円を描くようにゆっくり回っており、正面から見ると水の玉を背負っているように見える。月見はその水の数珠に自分の炎を移す。
バシャッ
月見がもち米をこねる途中、急に背後に浮かんでいた水の玉の一つを杵で叩いた。叩かれた水の玉は弾けて杵を湿らせる。それを確認した月見はすぐにこねる作業に戻った。
「ええっと………今のは?」
「単純に杵にもち米が付かないようにお湯で濡らしてるだけですよ。見た目が派手なので何か複雑なことやってるように見えるんです。」
困惑している唐瓜に鬼灯が答える。どうやら見慣れてるようで、真顔で解説していた。
「というかまだつかないんですか?」
「茄子さん、餅つきはこのこねでもち米をしっかり潰さないと出来上がりが悪くなるんですよ。」
「へぇ~、知らなかった。」
「…まぁもうそろそろつき始めるみたいですね。」
鬼灯のその言葉に二人は改めて月見達の方を見る。
「独律水式 悲苦吼処、断律木式 纏。」
美穂が呟いた後、二人の周囲に水でできた首長竜(首から上のみ)が三体現れ、月見の持っていた杵が二倍ほどの太さになった。いきなり現れた竜達に周りの観客は大きく盛り上がる。
「燃えあがれ。」
自分の手から杵に炎を移した月見が一発餅に向かって打ち込む。いつの間にか炎の色は赤に変わっていた。
「ぺったん。」
力を込めず、重さを最大限に生かして振り下ろされた杵の頭が餅に直撃した瞬間
焔があたりに広がった。火の粉が宙を舞っていた。
角度を変えながら何度か餅をつく度に杵の先から炎と火の粉が舞い上がる。少し後、今まで佇んでいた水の竜たちが餅に頭から突っ込んだ。臼と餅の間に水でできた舌を入れて餅を真上に放り投げ、体を上手い具合に捻らせて餅を空中で折り返す。
「ぺったん。」
いつの間にか跳んでいた月見が縦に一回転してその力を杵に乗せて思い切り餅をつく。空中にあった餅はすごい勢いで臼に戻った。杵頭が纏う炎が軌道を描くほどの速さで振るわれており、衣装のこともあって何処か舞のような雰囲気がある。
「ぺったん、ぺったん。」
着地した月見はその場で体を横に回転させてその勢いを乗せて斜め上から杵を振り下ろす。そして数回ついたらまた竜たちが餅を空中で畳んでそれを月見が打ち落とす。何回も繰り返されているうちに餅の方も粒がなくなって滑らかになっていた。
「美穂、終わるよ。」
「了解~。」
一瞬で会話を終わらせた月見と美穂がそれぞれ動きだす。
「そーれっ!」
美穂が三体の竜の操作を行い餅を真上へ天高く投げ飛ばした。直後、月見が勢いよく跳躍する。
「ぺったん。」
何の遠慮もなくとてつもない速度で杵を振り下ろす。それに伴って餅が真下へ落ちていく。
「断律木式 盃、断律紙式 神皿。」
餅の落下地点に美穂が器を作り出す。そうして落ちてきた餅がその器に衝突した瞬間、
バシュン!
地面から生えていた水の竜が爆発し辺り一面に水を撒き散らす。先程までの作業で舞っていた火の粉の光を屈折させ、キラキラと輝いている。観客に水がかかってないあたり、配慮はしっかりしているようだ。
「よっと。」
少し遅れて月見が軽く音を立てて餅のそばに着地する。美穂もゆっくり月見の方へ移動する。
そして二人が並び立つと観客へ向き直る。
「「以上で終わりです。ご覧いただきありがとうございました。」」
※餅つきです
美穂さんの技について
「○律●式 ~~」
○→「自」や「独」を入れてどうやって動かすかを示す。
●→動かす物質を指定する。
~~→対象をどのような形にするか決める。
みたいな仕組みです。
次回予告
「スケールが違いすぎる。」