「アクロバティック餅つき」
餅つきを終えた二人が礼をすると辺りが歓声につつまれる。観客達が二人に拍手を送るなか、スタッフの何人かが事前に調理していた物をワゴンに乗せて持って来た。お香も大量の食器を乗せたワゴンを動かしている。
「つきたてのお餅が欲しい方はこちらにお並びくださ~い。」
その声を聞いた観客たちがワイワイガヤガヤと話しながら何列かに別れて並びはじめた。その様子を端から見ていた鬼灯は小鬼二人に話しかける。
「唐瓜さん、茄子さん、私達の分は後で出るので先に片付けを終わらせましょう。」
「あっはい!」
「え~まだ食べれないの~。」
「おいおい茄子…。」
鬼灯の言葉に返事をする唐瓜だったが、食い意地の張った相方に思わず呆れてしまっていた。
「ちゃんと働かないと餅配りませんよ。具体的に言えば働かない奴を縛り上げてその目の前で餅を全て食します。」
「はい……。」
「鬼灯様、ここにいらっしゃったんですね。」
鬼灯から諭され落ち込む茄子。するとそこに餅の切り分けを終えた月見と美穂がやって来る。
「あぁ、お二人ともお疲れ様でした。今年もご協力ありがとうございます。」
「いえいえ、毎年恒例の行事ですから。」
「たまには全力で遊びたい時もありますし。」
その美穂の言葉に小鬼二人が反応する。
「「遊び?」」
「あー……そうですね。言われてみればそんな感じなんですかね。」
月見の返答にさらに頭上に疑問符が重なっていく唐瓜と茄子。その様子を見ていた鬼灯が二人に向かって話しだす。
「この新年の餅つき、千年程前からやってるんですが最初はただの餅つきだったんです。」
「え?そうなんですか?」
「本当ですよ。その頃から僕と美穂でやってましたから。」
「じゃあなんであんな派手に?」
「それは………なんでだっけ。」
「覚えて無いんですね……。」
頭をかしげる美穂に対して月見が話しかける。
「ほら………500年前ぐらいに「新しい術式完成した~。」て言って餅つきの返しを紙式でやり始めた時だよ。」
「あ、そうだった。」
「そっからどんどん改造を重ねていって今に至ります。」
「へ、へぇ~………。」
やっていることがぶっ飛んでいることに引いている唐瓜だったが、そんなのに構うことなく鬼灯は話を続ける。
「「やらなくてもいいことを全力でやっている」んですよ。つまり全力全霊でパフォーマンスして遊んでるんですこの二人。」
「やることのスケールが違いすぎる……。」
げんなりしている唐瓜の横で茄子が月見に話しかける。
「そういえばさ月見さん、なんで包帯巻いてないの?火傷の痕も見えないし。」
「あぁ………言ってませんでしたっけ。一応僕人化の術使っていつもの姿になってるんで応用で色々出来るんです。」
「人化の術?」
「簡単に言えば……「人とは遠い姿をした存在を人に近い容姿に変化させる」というものです。白澤様に教えて貰いました。」
「そういえばそうだったね。」
月見は時々眠そうに目をこすっている。
「というか大丈夫ですか月見さん。もうそろそろ限界なのでは?」
「………やはり鬼灯様は察しがいいですね。美穂、後頼める?」
「?………あ、そういうこと。いいよ、おいで。」
美穂がそう言った瞬間、月見の体が青い炎に包まれる。突如起こった人体発火に呆然とする唐瓜と茄子をよそに、鬼灯が美穂に話しかけた。
「とりあえず速く自室に連れ帰って休ませて下さい。前回より短かったので起きるまで時間はかからないと思いますが。」
「分かってますよ。」
鬼灯に返答した美穂は燃え続けている月見に向き直る。すると急に炎が弾け、中から出てきた月見が美穂の方へ倒れ込んむ。先程までの姿ではなく、火傷の痕が至るところに見られるいつもの姿だ。耳の炎が消えている事から、意識が無いことが分かる。
「よっと。」
美穂が倒れ込んできた月見を抱き止める。
「鬼灯様私達はこれで失礼します。」
「ええ、お疲れ様でした。ふふっ♪」
そう言って美穂は月見を抱え直し、踵を返して閻魔庁の方へ歩きだした。
「あぁ、美穂さん一つ言っておきます。」
「?……なんでしょうか?」
「それは
「……………ソンナコトシマセンヨ?」
「前科何犯でしたっけあなた。少なくとも一昨年やらかしてしばらく月見さんが再起不能になったの忘れた訳じゃないでしょう?」
「…………………………むぅ。」
すぴこら眠る月見を横抱きにしている美穂が肩を落として去って行った。
「これでよしと。」
「鬼灯様~、こっちは終わったわよ~。」
「あぁありがとうございますお香さん。」
「あら?この子達どうしたのかしら。」
お香の言葉に小鬼二人の方へ顔を向ける鬼灯。ちなみに唐瓜と茄子は月見が炎上した時点からずっと固まっている。
「どうしましたか?」
「いやいきなり人体発火するのは慣れてないです。」
「びっくりした~。」
二人とも少し顔が青くなっている。
「月見さん大丈夫かなぁ。」
「単純に極限まで疲れてるだけで命に別状はありませんよ。」
「そうなんですか?」
心配そうな二人に鬼灯からフォローが入る。
「先程の月見さんが人化の術を使っているという話は聞いてましたか?」
「まぁ一応……。」
「普通、人化の術は使う前の姿を参考に変化する技でして、それが月見さんの場合いつもの姿なんです。」
「?でもさっきまで火傷なんてありませんでしたけど。」
「別の術も合わせて強制的に変えてるんですよ。」
そう言って鬼灯は美穂と月見が去って行った方向を見る。
「そもそも彼、体質上術を使う事自体合って無いんです。」
「「?」」
「片付けしながらでいいなら話しますよ。」
「月見さんの耳って常に燃えてますよね?あれが月見さんが数少ない自由に使える術の一つなんです。」
「?」
「まぁそれらに特化しすぎているとも言えますが。」
会場のゴミを回収する最中、鬼灯が二人に説明を始める。
「彼の炎は彼自身が焚き火に飛び込んだ理由が能力の元になっています。」
「確か老人を助けるためでしたっけ?」
「ええ、なのであの炎は人を助ける事から転じて人に害がある物のみを燃やします。」
鬼灯は地面に落ちていた紙皿をトングで拾ってゴミ袋にぶちこみながら話を続ける。
「あともう一つありますが……まぁ月見さん自身があまり使いたがらないものなので省略します。」
「そんなのがあるんですか?」
「月に関係しているとだけ言っておきますが、あまり詮索したらいけませんよ。」
「「アッハイ」」
話しながら缶を潰した鬼灯だった。
「まぁいいです、話を戻しましょう。」
先程潰した缶をゴミ袋にぶちこむ。
「月見さんは自身の体に宿る力を操作する事には長けてるんですが、他のものに変換するのが苦手なんです。」
「どういうことですか?」
「染まっている水を透明に戻すのは大変でしょう?」
「あ~、そっか。」
鬼灯の言葉に茄子が納得したようだ。
「どういうことだよ茄子?」
「つまり月見さんの力はあの炎を操ったりするのに適合しすぎて他の事に使えないんだよ。」
「ええ、その認識で構いませんよ。」
目に見えるゴミを全て拾い終わったのか、鬼灯はゴミ袋の口を縛りだす。
「ゲームで例えましょうか。」
そう言って鬼灯はゴミをまとめている場所へ歩き始める。すぐ後ろには小鬼二人がついて来ている。
「ファイアーボールという魔法があるとします。その魔法を使うにはMPが通常の人なら3必要です。」
「通常?」
「プロの美穂さんはMP1で使うことができます。」
「そういえばあの人色々してたな。」
「さてここで問題です。月見さんが使う場合はMPがどれぐらい必要になると思いますか。」
いきなり質問が飛んできた唐瓜と茄子が驚きながら頭を悩ませている。
「えーと……10ぐらい?」
「じゃあ思い切って30で!」
「答えは3です。ただしMPでファイアーボールを使える仕様にするためにHPを50消費します。」
「「はい?」」
あっさりと告げられた答えに唖然とする二人。鬼灯はそのまま続ける。
「それぐらい向いてないんですよ。人化の術は神獣の標準装備なのでなんとかなったみたいですけど、さっきは火傷の痕を隠すために変化の術まで使ってましたから。」
「そっか、HP切れたから倒れたのか。」
「その認識で大丈夫です。」
そんな会話をしていたらいつの間にか他のスタッフが集まっている場所の近くまで来ていた。
「ほら、さっさと餅食べますよ。」
「え?あっ、はい!」
「わ~いやっとだ~!」
月見さんは基本受けです。
次回予告
「たすけてぇ。」