「月見さんは燃費が悪い」
「うまっ!?なにこれ!?」
「うわスッゲェなぁ。ここまで餅って美味くなるんだな。」
「月のうさぎ本人が作ってますからね。本物の加護なんかも付いてますよ。」
「実際運気とかも良くなるみたいよ。」
イベントの片付けも大体終わり、スタッフ達が談笑しながら餅を食べている。鬼灯・唐瓜・茄子・お香も例外ではなく、それぞれが好きな味付けで餅を楽しんでいる。向こう側では座敷童子達がお汁粉をすすっているのが見えた。
「にしても月見さんあんな動いてよく体力もったよな。」
「あぁ、さっきの話を聞いた限り体力削られながら太い杵ぶんまわしてたって事だもんな。」
餅を食べている途中、ふと茄子が呟く。唐瓜も同意するように頷いている。
「あら、月見さんの話?」
「ええ、彼の使う力について詳しく話したところでしたので。」
「あの炎の事かしら。それとも月見さん自身の身体能力の事?」
「前者の方ですね。後者もある程度関わっていますが。」
お香と鬼灯の会話を聞いていた茄子が口を開く。
「術を使うことと身体能力って関係あるんですか?」
「月見さんが特殊なんですよ。」
鬼灯が自分の持っている雑煮の汁をすする。
「先程もお話しした通り、月見さんは術を使うのにも体力が必要ですが、かなり燃費が悪いんです。それを補うには効率をよくするか、体力を増やすしかありません。」
「なるほど、だから身体能力ですか。」
「あなた方も見たことあるでしょう?あれが体力の増強のため鍛えまくった結果ですよ。」
唐瓜と茄子は医務室で見た捕獲劇を思い出し、納得したような顔になる。
「それでもぶっ倒れるんですね……。」
「美穂さんに習って術の改善もしたらしいんですが、変化の術はせいぜい一時間が限界みたいです。」
「でもかなり長くなった方よ。」
「どういうことですか?」
会話に参加してきたお香の言葉に疑問を持つ唐瓜。
「鬼灯様は知ってると思うけど1000年前は5分保つのでいっぱいいっぱいだったのよ。」
「月見さんが様々な方に教えを乞うようになったのもそこあたりでしたね。」
「へぇ~。」
「やっぱり努力してんだな~。」
二人はしきりに感心していたが、今度はお香が首をかしげている。
「でも……なんで月見さんはわざわざ火傷を消しているのかしら?別に火傷の痕が見えてても醜いわけでもないし……。」
「そういえば……なんでだろ。」
「本人曰く、「めでたい所で怪我してるように見える人が主役だったら全員の縁起が悪くなりそうだから」だそうです。」
「それはなんともまぁ月見さんらしいっていうか……。」
「特に他人の為にやるあたりな。」
全員が無言になって手に持つ器の中身を食す。どうやらもうすぐ食べ終わるようだ。
「さて、これを片付けたら閻魔庁に戻りますよ。」
「「分かりました。」」
「私も衆合地獄のみんなの様子を見に行くわ。」
「………………………………。」
閻魔庁にある二人の自室に月見を抱えた美穂が入って来た。抱えられている月見は穏やかな雰囲気で眠っている。
ポスッ
「……これでよしと。」
美穂が抱えていた月見をベッドに降ろす。月見は特に起きる気配も無い。美穂はベッドの縁に腰かけると月見の頭を撫で始めた。
「お疲れ様、月見。」
「……………………んむぅ。」
寝ている月見が触れられた事に反応して身を捩らせる。その様子を美穂は愛おしそうに見ていた。
「………あんまり無理してほしくないんだけどなぁ。もう死なないってことは分かってるんだけど……。」
美穂が自分の尻尾を布団のように被せる。心なしか月見の表情が緩んだ気がする。
「かわいいなぁ。……名残惜しいけどさっさと着替えなきゃ。」
そう言って美穂が立ち上がろうとする。
「…………ん。」
ギュム
「へ?」
「むふー…………。」
月見が寝惚けて自分に乗っていた美穂の尻尾に抱きつく。いきなり抱きつかれた美穂は驚いているが月見はとても満足そうだった。
「あ、あのぅ月見?ちょっと放してほしいなぁって。」
「………………………。」
返事はない。思い切り眠っている。
「………どうしよう。」
「…………………………みほ……………….。」
「?」
美穂が途方に暮れていると月見が何かを呟く。
「私?」
「…………………………みほぉ…………………
しゅきぃ。」
「」
「むふふん…………………。」
満足げに尻尾にしがみついている月見の寝言に美穂の体がピシリと固まる。
「…………。」
「すぴー…………。」
月見はすぴこら寝ている。美穂の体がぷるぷる震え出した。
「ふーっ!ふーっ!……………………月見?」
「みほぉ………………………。」
心なしか月見が笑みを浮かべている気がする。美穂の震える速さが増した上に息が荒くなってきた。
「だいしゅきぃ。」
「………………断音結界。」
美穂が何かを呟くと部屋の壁に光る幾何学模様が現れる。
「月見いいいいいいいいいいいいいいわたしもしゅきいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!」
「ぶふぉあっ!?」
美穂が叫びながらとんでもないスピードで月見に突っ込んで行った。抱きつかれた月見はいきなり叩き起こされて変な声が出た。
「月見月見月見月見月見月見月見月見月見月見月見ぃっ!!」
「?みほ?」
「あああああああああああかわいいいいいいいいいよおおおおおおおお!!」
月見をがっちりホールドした美穂が月見に頭を擦り付ける。
「みほ、まって。」
「誘ってる?誘ってるよね?明らかに誘ってるもんね?誰がどう考えても誘ってるよね!?」
「みほどうしたの。」
「ああごめん!ちゃんと合意してくれたのに気づかなくって!責任とってしっかりとメチャクチャにしてあげるから!!!」
「はなしきこ?」
頬を赤く染めて口をだらしなく開き完全に目がおかしくなっている美穂。月見は寝起きのせいかまだ疲れが残っているのか呂律があまり回って無い。その月見の声を聞いてさらに美穂が暴走する。
「ああもうこの布邪魔っ!私と月見の姫始めができないじゃない!」
「ひめはじめ?」
「月見待ってて!今すぐ私たちを隔てるこの布を取っ払って神聖な行いができるようにしてあげるから!!!」
「やぶかないで?あとひめはじめはあしただよ?」
「え!?明日までやる!?まったくもう!そんなこと言われたら張り切っちゃうしかないじゃない!!」
「ぼくしぬよ?」
今現在元日の午前10時です。
「大丈夫よちゃんとこの前買った薬飲ませるから!」
「しごとが………。」
「紙式達にやらせるから問題ない!さぁ私たちを拒むものなんてなにもないわ!速く始めましょう!!」
「たすけてぇ。」
もちろん助けなんてくるはずもない。
「イッタダッキマース!!!」
「あっ(死ぬ)」
「………なんだあれ?」
「どうしましたか唐瓜さん。」
「あっ鬼灯様。」
廊下で呆然としていた唐瓜に鬼灯が話しかける。
「いやあれについてなんですけど…。」
そう言って唐瓜が指をさす。鬼灯がその方向に目を向けると大量の紙が宙を舞っている。よくよくみると一つ一つがしっかりと自律して動いている。ついでに言うと何か人らしきものを運んでいる。なにが起こっているかを察した鬼灯は呆れたようにため息をつく。
「…………………………ハァ。」
「あの~鬼灯様?」
「いえ、お気になさらず。……あれは医務室の搬送係の代理のようなものと考えて下さい。」
「?」
「…………………………………………………。」
「大丈夫ですか?」
「………………大丈夫に見えますか?」
「見えませんが。」
1月3日の昼、食堂の机の一つでうどんの器が置いてある横で突っ伏している月見に鬼灯が話しかける。
「いえこっちの方がいいですね。"ゆうべはおたのしみでしたね"」
「だれが勇者ですかぶっ飛ばしますよ。」
「あんたはどっちかって言うと姫側だろ。」
横抱きされて部屋に連れ込まれたのは月見の方である。
「あなたの奥さんは?」
「満足そうに寝てますよ。」
「三年に一度はこんなことになるんですからちゃんと制御してくださいよ。」
「無事な年も毎回ギリギリなんですけど………。」
「というかあなたの体力が増えた理由半分ぐらい美穂さんじゃないんですか。」
「…………………………言わないで下さい。」
美穂さんの月見さんへの愛は深海よりも深いです。
ちなみに医務室勤めの皆さんは事情を知ってるので生暖かい目で見守っています。
次回予告
「もうちょっとオブラートに包も?」