「宴の始まり」
「おーい月見さ~ん、一緒に飲みませんか~?」
「?」
度数の弱い酒を少しずつ飲んでいた月見に声がかかる。月見が声が聞こえた方向に振り向くと、動物と人間が入り交じった集団がいた。その中にいたカニが器用に近づいてくる。
「いいですよニッパーさん。」
「そうですか!ではこちらに。」
ニッパーと呼ばれた肩掛け鞄を持つカニは月見の腕をハサミで優しく挟むとゆっくりと歩き出す。それに合わせて月見も前にすすむ。
「最近どうですか?お仕事と貴方の奥さんとの暮らし。」
「どちらも充実してますよ。ニッパーさんは?」
「潮の満ち引きの管理はばっちりですよ!自分の担当はヨーロッパ付近ですが最近他の国の方々とも交流するようになりましたね。」
「豊玉姫様もいらっしゃいましたか?」
「あの綺麗な鮫の方ですか?ええ、仲良くさせてもらってます。」
カニであるため表情が月見以上に分かりにくいが、なんとなく楽しい様に見える。すると月見とニッパーに気がついたのか話していた二人がこちらに顔を向けた。
「あ、久しぶりだね月見さん。」
「遅かったわね、また誰かにからまれたの?」
「どうもトファルさん、ユナさん。」
白髪でメガネをかけた男性…トファルドフスキと少し癖のついた金の長髪の女性…ユナに月見は挨拶を返す。先程とは違い、この二人しかいない。
「…他の皆さんは?」
「各々好きなもの取りに行ったよ。」
「私達が目立つからって立たされてるのよ。全く…ここにはもっと目立つ物とか人いるでしょうに。」
「ははは…。」
ユナは少しいじけた様にそっぽを向く。その様子を見たトファルは苦笑いしながら頬を掻いている。
「…まぁいいわ。そういえば月見さん、美穂さんは元気にしてる?」
「ええ、それはもう。この間も3日間ぶっ続けで襲われましたし…………うっ頭が。」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫…ただの致命傷です……。」
「私が悪かったから無理に思い出さないでいいわよ。」
目が据わり、頭を抱えた月見になんとも言えない表情になる二人と一匹。気まずくなったニッパーが話題を変えようと口を開く。
「そ、それよりも、お二人とも最近のお仕事の調子はいかがですか?確かどちらも人間に関することでしたよね?」
「んー…別段忙しい訳じゃないからなぁ…強いて言うなら自律神経が私でも治せないぐらいブレブレになってる女の人がいたぐらいかな。」
「自分も似たような感じだね。何であんなにボロボロなのに生きられるのかが不思議だよ。」
二人揃ってため息をつくがその話を聞いていた月見がふと口を開く。
「それって日本人でした?」
「「そうだけど……ん?」」
「あぁ、やっぱり。日本人は仕事第一なことが多いので自分の体調をよく後回しにするんですよね。」
「休みなさいよ日本人。」
「それを許さない風潮があるから無理です。」
「闇が深いね。」
そんな雑談をしていると月見の後ろから声がかかる。
「おや月見さんもいらっしゃいましたか。」
「あぁ、お久しぶりですシンさん、ゲオルギウスさん。」
「この間ぶりだな、試作の毛の手入れクリームとても良かったぞ。妻も喜んでいたからまた送って欲しい。」
「ありがとうございます、美穂と相談して改良したものをまたお送りしますね。」
料理と飲み物を両手に持った男性…ゲオルギウスと隣に浮いた皿を携えたライオン…シンがこちらに寄ってくる。
「あら、月見さん達そんなことしてたの?」
「最近美穂と一緒に動物用の美容品を開発していまして、その試験役としてシンさん達に協力して貰っているんです。」
「試作といっても彼らの作るものに間違いはないからな。」
尋ねてくるユナに返答する月見とシン。シンの毛並みは一本一本に艶があり、ごく自然にたなびく様子はどこか幻想的だった。月見はシンの言葉に少し恥ずかしそうに頬を掻く。
「ふ~ん…ねぇ月見さん、今度
「いいですよ。でも…来るなら日本の冬あたりにしたほうがいいかと。」
「あら、何で?」
「一番過ごしやすいんですよ。僕が住んでる八大地獄は一年を通して暑いので、夏になると少しつらいかと……。」
月見からそう返されたユナは少し悩んだ様子だったが、やがて納得した様子で口を開く。
「わかったわ、じゃあ行く時には連絡入れるから。」
「あぁ、僕も行っていいかい?」
「自分も行きたいです!」
「ええ、お待ちしてます。」
月見はうさみみを嬉しそうにピコピコと揺らし、周りはそれを見て癒されている。
「月見さんうれしいの?」
「?まぁそうですけど……そこまで僕って分かりやすいですか?」
((((その耳自覚ないのか。))))
「いいですね、一枚撮っておきましょう。」パシャッ
他が月見の耳を見ていると、ゲオルギウスが何処からかカメラを取り出して月見を被写体にシャッターを切る。持っていた料理は側にあったテーブルに置かれていた。耳のいい月見はシャッター音でびくっと体を震わせる。
「!?……びっくりしました。」
「おっと、すいません。配慮が足りてませんでしたね。」
「いえいえ、お構い無く……カメラですか?」
「はい、最近趣味として始めたんです。」
そう言ってゲオルギウスはいい笑顔で手に持つカメラを掲げる。それを見上げるニッパーは感心するような声を出す。
「へぇ~一眼レフですか、結構立派ですね。」
「はい!実を言うと大分前から気にはなっていたんですよ。最近になってようやく安くなったので思いきって買ったんです。」
「手を出さない理由が貧乏性ね?」
「ははは、いやはやお恥ずかしい。何分大きな買い物にはいささか抵抗がありまして…。」
「まぁ理解出来ますし、その上新しい事を始めるというのは勇気ぐ要りますからね。私もそうですし。」
両手のハサミを掲げてアピールするニッパーに対し、トファルが問いかける。
「おや、そうなのかい?何か始めたりしたのかな?」
「はい!
このハサミを生かして「切り絵」を始めてみたのです!」
「切るのに適してるのかなそのハサミ。」
どや、と言わんばかりに胸(?)を張るニッパーに思わずトファルが突っ込む。
「あぁ、ちゃんと紙を切るためのハサミ使ってますよ。で、作ったのがこれです。」
ニッパーはそう言って肩にかけた鞄からスマホを取り出して操作し始め、こちらに見せてくる。
「基礎的ですけど土偶です。」
「十分器用じゃないですか。今度そちらに伺って写真撮ってもよろしいですか?」
「ええ!こんなので良ければぜひ。」
盛り上がる一匹と一人だったが、その光景を見ているユナとトファルはなんとも言えない顔をしている。
「……今のどうやって操作したのかしら。」
「少なくとも魔力はありませんでしたよ。」
「カニのニッパーさんまでスマホ扱えるんですか……。」
月見の耳が力を失った様にしおれる。
「僕ガラケーでも電話とメールぐらいしか使えないんですよね……。」
「そういえば月見くん機械音痴だったね。」
月見さんのメールは改行する場所がおかしくなります。
「あぁ、そうだ。せっかくなので皆さんで撮りませんか?」
「いいですね!」
ニッパーとの話が一段落したのか、ゲオルギウスがこちらに問いかけてくる。ニッパーも賛同しているようだ。
「ふむ、私はいいぞ。」
「僕もかまわないよ。」
「別に私も問題ない………月見さん、いつまで落ち込んでるのよ。」
「……ふぇ?どうしました?」
「写真撮るわよ。さっさと準備しなさい。」
「そういえばゲオルギウスさん、それって何処で購入したんですか?」
「日本のヨ○バシカ○ラですよ。」
月の模様組の名前とイメージです↓
・カニ(南ヨーロッパ) ニッパー
由来→蟹のハサミ
イメージ→カニノケンカのシオマネキ
・月に住む男(ヨーロッパ)
月に昇った魔術師トファルドフスキ(ポーランド)
トファルドフスキ(通称 トファル)
由来→これ↑
イメージ→ファイアーエムブレムのルフレ(眼鏡付き)
・女(横顔)(ヨーロッパ) ユナ
由来→ユエ+ルナ (月の呼び名と月の女神)
イメージ→ウマ娘のゴールドシチー(耳と尻尾無し)
・ライオン(西アジア) シン
由来→ライオンキングのシンバ
イメージ→ポケモンのカエンジシ(♂)
・ゲオルギウス(ポーランド)→FGOのゲオ先生
次回予告
「まっず!?」