嬉しい限りです。
とてもかんたんなあらすじ
「治療する側が一番重傷」
「?」
月見は首をかしげている。どうやら叫んでいる内容が自分の事ではないと思っているらしい。
「唐瓜さん、どうしようもない事実なのはわかるので落ち着いてください。」
「鬼灯様も認めちゃってるじゃないですかぁ!」
「まぁ事実ですし」
人にうさみみが生えている時点でツッコミ所があるのに、それが燃えているんだからそりゃこうなる。
「わぁ~、スゲェ!これどうなってんの~?」
「あぁ、この炎の事ですか?」
一方でマイペースな茄子は月見と会話を始めていた。わりと和やかである。
「というか、燃えやすい重要書類がたくさんある閻魔庁で耳(?)が炎上しているって大丈夫なんですか?」
「大丈夫ですよ。絶対に紙なんかがあの炎で燃えるはずないので。」
唐瓜は鬼灯の言葉の意味がよく分からないようで難しい顔をしている。
「やはり初対面の方はだいたいそうなりますよね。」
「そうじゃない人が…あいつでしたね。」
「私も「あぁ、なんか燃えてるなぁ」位には興味を引かれましたし、篁さんなんか今の茄子さんみたいに月見さんを質問責めにしてました。」
その後、秦広王に怒られるまでが1セットです。と言う鬼灯とは対照的に唐瓜はすでに疲れていた。
「あと、あの炎は大抵の生き物にとって得しかないんですよ。」
「?どういうことですか?」
不思議そうにする唐瓜に対し、鬼灯様はすっと指をさした。
「ああゆうことです。」
鬼灯が指が指した方向をみる。
「あ~唐瓜~。みてみてすごいことなった~。」
茄子が燃えていた。
「ちょっ、おまっ!?」
目の前で友人が炎上しているのをスルーできるはずもなく、火を消そうと消火器を探す唐瓜を尻目に鬼灯は話を続ける。
「月見さん、私にもやって下さい。」
「はい、いいですよ。」
鬼灯様まで燃えだした。
「どぅえあっ!?」
唐瓜の口から言葉とはいえない声が出た。
「落ち着いてよ唐瓜~。俺なんともないしむしろ暖かくていい気分だよ」
「いやでも、絵面が…」
「大丈夫ですよ。」
今まで会話に参加していなかった月見が入ってくる。
「燃えているのはあくまで身体の中の老廃物とかですから。」
「まぁドクターフィッシュ的なものと考えていただけたらよろしいかと。」
「えぇ…」
「だから言ったでしょう。大抵の生き物にとって得しかないと。」
「落ち着きましたか?」
「まぁ、はい。」
「いきなりはダメでしたね、大丈夫ですか?…えーと…唐瓜くん?」
月見が申し訳なさそうに尋ねる。
「あっはい、大丈夫です!」
「面白いぐらいに動揺してたもんな。」
「あなたが何の前触れもなく燃え始めたのが原因では?」
唐瓜は茄子を一発殴ってもいいと思う。
「では、話を戻しましょう。」
鬼灯が手を叩いて
「改めてご紹介を。彼が閻魔庁及び全ての庁の医療関係の仕事を取り仕切っている月見さんです。」
「「月のうさぎ」の月見です。よろしくお願いします。」
そう言って月見が頭を下げる。それに伴ってうさみみも青い炎と共に前に垂れ下がる。
「月のうさぎ」
地獄からは見えないものだが、伝承ぐらいなら知っている者は多いだろう。唐瓜も茄子も現世視察で月をみたことのある者の内の一人だ。
「月のうさぎってたしか芥子ちゃんの講習で鬼灯さまがはなしてたやつだっけ?」
「あぁ、なんだったっけ…中国では「うさぎは月で薬草をついて仙薬を…」ってやつでしたっけ?」
「はい、よく覚えてましたね。」
すると鬼灯は懐からおもむろに一冊の本をだす。
小鬼二人がみたそれには、「今昔物語集」と書かれていた。
「これには日本版になった「月の兎」が入っていますが、本来は仏教と深く関わっている「ジャータカ」という本…日本語で言えば
「鬼灯さま、本生譚ってなんですか?」
物事を覚えるのが得意ではない茄子が問いかける。隣の唐瓜もしきりに頭をひねって思いだそうとしている。
「インドの方の書物なのであまり日本では馴染みがないんですよね。」
「はい、そして本生譚というのが仏教における重要人物である仏陀、ようはお釈迦様の前世を記したとされる物語集です。」
月見からのフォローが入り、鬼灯様が話を続ける。
「…ってことは月見さんってお釈迦様の一部なの?」
茄子の疑問に月見は恥ずかしそうに首を横に振る。
「いやぁ、その質問はよくあるんですが、あくまで本生譚はお釈迦様の前世「だろう」っていう物語を集めたものなので少なくとも僕は違うんですよね。」
「「釈迦の前世としてふさわしい活躍をした」ということですよ。」
「へぇ~、月見さんってすごいんだね。」
その鬼灯と茄子の言葉にさらに照れくさそうな雰囲気になる月見。とてもうさみみが荒ぶっていらっしゃる。
「「月の兎」ってたしかうさぎが自分の身体を犠牲にして老人を助ける話…で合ってましたっけ?」
「そうですね唐瓜さん。しかし、元祖である本生譚のほうでは、老人の正体がはっきり書かれているんです。」
その話の続きが気になったのか、茄子がすぐさま質問する。
「その老人の正体ってなんですか?」
「お二人とも聞いたことあると思いますよ。」
鬼灯が口を開く
「帝釈天、つまり神様です」
突然のビックネームに唖然とする二人。しかしそんなことも気にせず鬼灯は話を続ける。
「正体を隠して行き倒れていた神様に親友である猿と狐が食べ物を施していくのですが…」
「ここからは僕が話しますよ。」
鬼灯から話を引き継ぎ、月見が話し始めた。
「当時の僕はかなり不器用だったからその老人に対してなにもできなかったんです。ただ隣にいるしかできなかったんです。」
月見は懐かしげに目を細める。
「だから僕はどうすればいいかと考えました。どうしたらその人を元気にできるか考えました。」
ああそうだ
僕を食べさせたらいいんじゃないか
「…とまぁ、そういう結論に至りまして、自分から焚き火に飛び込んで焼きうさぎになりました。あとは物語のとおり、帝釈天様に行動を認められ、こんがりになりすぎた息絶えた僕の身体を月に昇らせました。」
おしまい、と月見が締めくくるが小鬼二人は唖然としたまま動かない。
「…刺激が強すぎましたかね?」
「いえ、大丈夫ですよ。ただ情報処理が追い付いてないだけです。」
鬼灯が手を叩くと二人がはっと帰ってくる。
「と、いうように本人の性格や人格はとても善良なものなのに、外見や過去が奇抜過ぎるのが月見さんです。」
「いや奇抜すぎますよ!?」
「だから「癖が強い」と言ったじゃないですか。」
「そういえばなんで月見さんってそんなに怪我してるの?」
「あ、僕が包帯まみれなのは火傷の跡を隠すためなんで怪我をしてるわけではないですよ。」
「追い討ちしないでください!」
やっぱり重傷じゃないかぁぁぁ!、と叫ぶ唐瓜に対し、自分はこれがデフォルトなんだけどなぁと思う月見だった。
帝釈天はインドラと同一視されている神様です。
Fate知ってる人には「アルジュナの父親」のほうが分かりやすいですかね?
ちなみに茄子と鬼灯様についてた炎はドクターフィッシュのくだりの後に消えているのでご安心ください。
次回予告
「とてもがんばりました」