「悟空参戦」
「悟空~どこ行ったの~?」
長い杖を持った女が涙目になりながら街を歩いている。とぼとぼという音が聞こえてきそうな程弱々しく、声に覇気もない。杖の先についた金属の輪がカチンカチンと音を鳴らす。
「う~……なんでこんなことになったの~。ただ気になるお店を見つけてそこから幾つか巡っただけなのに~。」
言っている事が完全に自業自得だが、本人が気づく様子はない。そうぼやいていた女はふと足を止め、肩にかけた鞄を開く。
「あ、そういえば携帯あるんだった。いや~すっかり忘れてたな~、早く連絡しよっと。」
そう言いながら鞄をまさぐる女性だったが、いくら時間が経っても目的の物が見つからないようだった。
「……………………もしかして落とした?」
「ねぇねぇマキちゃん。」
「?どうしたのミキちゃん。」
「あれなんだろう。さっきからずっと鳴ってるんだけど…。」
プライベートな格好のまきみきの二人が甘味処でお茶をしている。するとミキが何かを見つけたようで何処かを指差す。その先に視線を向けたマキは震える携帯電話が見えた。
「携帯?誰かの落とし物かな?」
「………というかもう3分ぐらい鳴り続けてるんだけど。」
「……どうしよっか?」
「………あぁクソ、電話にも出ねぇ。恐らく充電忘れたかどっかに落としやがったな?」
「…あの人のドジまだ治ってなかったの?」
「なんなら昔よりひどくなってるぞ。」
ガチャ『あの~すいません。』
「あ?」
『師匠の声じゃねぇな。どちらさんだ?』
「え?あ、道端に落ちてたこの携帯を拾った者なんですけど…」
『やっぱりかあのバカ………すまねぇなわざわざ拾って貰って。近くに持ち主っぽい奴はいるか?』
「えっと……。」
いい加減気になって出たマキだったが、相手からの質問を考えてなかったのか若干しどろもどろになっている。
『あぁ、わりぃ。杖を持ってる奴なんだか……どうだ?』
「ええ……ミキちゃんいるかな?」
「ここら辺にはいなさそうだけど……。」
二人揃って周りを見渡すが、該当する人物は見つけられない。
『……まぁいい、あんたら今何処にいる?近くだったら俺の知り合いがいるところに届けて欲しいんだが。』
「えっと、何処の誰に届けに行けばいいですか?」
『あ~なんだったか月見……あぁ了解…花割烹狐御前っつう店に来てる美穂って女なんだか、頼めるか?それか閻魔庁でもいいぞ。』
「自律紙式 隼」
「あら、どうしたの美穂姉さん。いきなり術なんて使い始めて。」
「ごめんねきぃちゃん、今閻魔庁に来るお客の内の一人がはぐれて迷子になってるらしくて月見から手伝ってって頼まれたの。」
「随分と抜けてるわね。」
妲己が経営する花割烹狐御前の一室から美穂が紙で作った隼を何体か外に解き放つ。
「さ~て、視界共有視界共有っと。」
そう言いながら美穂は何かを念じながら目を閉じる。
「ふ~ん、なんか便利そうねそれ。」
「あ、きぃちゃんも覚えてみる?多分きぃちゃんなら1ヶ月もかからないと思うけど。」
「パスよ。店のこともあるし何より面倒だから。」
「そっかぁ………。」
美穂の耳と尻尾が少し垂れ下がる。その様子を見ていた妲己は飽きたのか美穂からもらったマニキュアを試し始めた。
「ところでその探す相手って誰なの?」
「玄奘三蔵さん。」
「……………そういえば知り合いだったっけ。」
「あっ月見から電話。ごめん、ちょっと代わりに出てくれないかな?」
「もしもし美穂?」
『美穂姉さんなら今術使って人探ししてるわ、月見兄さん?』
「あ、妲己さん。いつも美穂がお世話になってます。」
『やめてちょうだいそんな堅苦しいの。で?なんの用件でかけてきたの?』
電話の向こうから呆れたような声が聞こえて来るが、月見は大して気にしていないようだ。
「さっき三蔵さんが落とした携帯電話を拾ってくれた子がその店にいる美穂に届けに来るからそれを伝えようと……。」
『三蔵法師が携帯ねぇ……。』
一度会話を切った妲己だが少し黙った後、口を開く。
『まぁいいわ、美穂姉さんに伝えとくわよ………何よ美穂姉さん、もう切るわよ?……ちょっとそんな怖い顔しないでちょうだい……はいはいかわるから。』
「……どうしたの?」
『月見~私頑張ってるからなんか声援が欲しいなぁー?』
「…………………
頑張って美穂お姉ちゃん。」
『あ~~癒されるぅ~~。………よーし!携帯届いたら早くみつけちゃうから、また後でね~。』
ガチャリと電話が切れて、月見がゆっくり電話をポーチにしまう。周りにいた桃太郎ブラザーズと閻魔大王はなんとも言えない顔をしている。
「伝え終わったよ、これで大丈夫?」
「おう、お前らが今もバカップルだってこととあいつの愛が留まる事はないってのはわかった。」
「言わないで恥ずかしい。」
「だったらちったぁ表情動かせや。ほれ。」
「
月見の頬をむにむにしている悟空におそるおそる柿助が話しかける。
「あのぉ~、悟空さんと月見さんはどういう関係なんですか?」
「あん?…あー…弟分?」
「
「悟空さん、いい加減月見さんから手を離されては?月見さんがなに言ってるのか分かりにくいので。」
「おう、それもそうだな。」
悟空の手から解放された月見は赤くなった頬をさすりながら柿助の方に向き直った。
「僕の生前にお世話になって一緒に暮らしてたんですよ。」
「「月のうさぎ」の話に出てくる猿が、不老不死を求めて旅をし始めた頃の悟空さんです。」
「その頃はまだ悟空じゃなくて美猴王だけどな。」
「「?」」
悟空の説明にいまいちピンと来ず、首をかしげるシロとルリオだったが、隣にいた柿助が口を開く。
「悟空さんはな、最初は一つの島の猿達の王様だったんだよ。そこで名乗ってたのが「美猴王」。そっから数百年旅をしてとある仙人に弟子入りしてそこで名前を貰うんだ。」
「それが「孫悟空」ってわけだな。よく知ってんなお前。」
「だって全猿達の憧れですから!いやぁ~同僚に自慢できるなぁ~。」
柿助は先程もらったサインの興奮がまだ残っているようで、若干早口になっている。
「鬼灯様~なんか柿助が変だよ~。」
「大丈夫ですよオタク特有の推しを前にした性格の変化という奴です。」
「どういうこと?」
「最新のアニメを前にした蓬さんと似たようなものですよ。」
「ああ、なんかスッゴい顔でウキウキしてた時ですか?」
「そうですね。」
しばらく雑談をしていると月見の電話が鳴る。
「おお、早い。流石美穂。」
「それにしてもじゃねぇか?20分も経ってねぇだろ。」
「恐らく電話を拾った人が案外近くにいたんじゃないかな?」
そう言って月見は電話に出る。
「もしもし。」
『あ、月見?三蔵さん見つけたよ~。近くに美猴いるでしょ?ちょっとかわって。』
「了解、はい美猴兄さん。」
月見は美穂に言われた様に隣の悟空に軽く投げ渡す。投げられた悟空もなんの苦もなく受け取り話し始めた。
「あいよ、で何処だ?」
『衆合地獄の繁華街のショッピングコーナーでさ迷い疲れて休んでる。私の紙式がいるからその気配辿って。』
「おーう、月見連れて回収してくる。すまねぇな迷惑かけて。」
『ちゃんと奢りなさいよ?』
「わかってるっての。月見に返すぞ。」
悟空が月見に携帯を返し、何かを念じる様に集中し始める。
「じゃあ今から行くから切るね。」
『あ、そうだ月見?』
「どうしたの?」
『……いや直接聞いた方が早いから後でいいよ。じゃ、また後でね。』
「?」
何か不穏な気配を感じた月見だったが、既に電話が切れているために気にしないことにした。携帯をしまうと月見は隣の悟空に話しかける。
「美猴兄さん見つけた?」
「………おう、いたわ。じゃあ行くぞ。」
「あ、そっち?」
目を開けて壁の方向に顔を向けた悟空が月見の後ろの襟を掴む。なにかを察した月見は鬼灯達の方に顔だけを向け、口を開く。
「じゃあ鬼灯様、30分ぐらいで戻って来ます。」
「はい、行ってらっしゃい。」
そのやり取りに桃太郎ブラザーズの頭上に疑問符が浮かぶ。
「どういうこと?悟空さん向こう向いてるよね。」
「見てれば分かりますよ。」
「よっと。」
シュン
「………………………はい?」
「ほら、瞬間移動ですよ。悟空さん伝承にも残っている通り多才なので漫画の技よくパクってるらしいんですよね。」
この世界の孫悟空は美猴王として花果山から旅立ち、不老不死を求めて須菩提祖師に弟子入りするまでの数百年間の内の10年間ぐらい、月見さんと美穂さんと一緒に生活してます。
次回予告
「ナイスリアクションです。」