「お二人共、最近調子はいかがですか?」
「俺は相変わらずだなぁ。白澤様の女癖も変わらないけど…。」
「俺の所には何人か新人獄卒が来たな。まぁまぁ上手くやってるよ。」
地獄の街のとある茶屋で一匹と二人がお茶をしていた。質問している芥子やそれに答える桃太郎と一寸法師はとてもリラックスしている。しばらくすると桃太郎がふと何かに気づいたように目線を大通りに向ける。
「おや、どうされました?」
「あぁ、あそこにいるの月見さんじゃないかって思って…。ほら、あれ。」
そう言って桃太郎が指を指した先には杵を担いだ月見が歩いていた。
「ホントだ。」
「せっかくなら月見さんも混ぜてお茶したいですね。……おーい!月見さーん!」
芥子が声を出して呼び掛けると月見が足を止め、呼び掛けた相手を探し始める。やがて芥子達を見つけると軽い足取りで近づいてきて口を開き、
「おやおや?皆さんお揃いで何の用なのかな?」
「「「………はい?」」」
「ティヒヒ、どうしたの?呼んだの君達でしょ?」
いつもの彼とは似ても似つかない口調で喋り始めた。
『あぁ、そういえば今日あたりでしたね。』
「いや、どういうことなんですか!?ここまで変な月見さん初めて見たんですけど!?」
「?別にいいじゃん。」
「イメージと違い過ぎて心臓に悪いんだよ!」
「僕だって時には笑いたい時があるんだよ。」
楽しそうに二人と一匹の反応を見ている月見。表情筋がちゃんと仕事をしていることも含め桃太郎達はキャラが変わり果てた月見に対し、困惑を通り越して若干の恐怖を感じ始めていた。
「くひひ、鬼灯様に電話かけるほど?」
「そりゃあ…まぁ。」
「もうイメチェンとかの次元じゃないでーすよー。」
「人格でも入れ替わったのかと。」
『事情を知ってる私が言うのもなんですが、初見じゃビビりますよ。』
三人と一匹からの言葉にチェシャ猫のような笑みを浮かべる月見だった。
「で?何が気になってんの。」
『確実に貴方の変化の理由でしょうね。』
「はっはは、メンドくさいね。」
「簡単なもんだよー。」
「まぁまぁそう言わずに。」
芥子に引き留められ、とりあえず自分の分の緑茶を頼んだ月見は向かい側に座る桃太郎達にため息をついてから話しかける。
「まず僕の元ネタは分かってるよね?」
「確か…「月のうさぎ」でしたよね。」
「そうだ、ついでに言うとその時に僕は月に描かれてる訳だ。」
月見はちょうど来た緑茶に手をつける。一口飲んだ後、再び口を開いた。
「んで、次に月に関するイメージを言ってみて。」
「え?……えーと……お月見?」
「十五夜ですか。」
「いんや、そっちじゃないよ。」
月見の言葉に頭を捻る桃太郎達。月見はその様子を見てまたケラケラと笑っている。
「ごめんごめん、少し足りなかったね。
「……じゃあ、狼男。」
「あ、近くなった。パチパチパチパチー。」
「え?マジで?結構適当に言ったんだけど…。」
答えた一寸法師も呆気に取られる中、グイッと残りの緑茶を一気飲みした月見は片手で丸を作った。
「アジアじゃ月っていいイメージが多いけど、ヨーロッパとかになると途端に悪いイメージばっかなんだよね。笑えるよね。」
「そ…そうですね。」
心底面白そうに笑う月見のノリについてこれなくなったのか若干引き気味になる芥子だった。
「そのイメージの中に今の僕の状態に一番合ってるものがあるのー。」
「なんですか?」
「「気が狂う」とか「狂気」、あと「本能の解放」。」
「「「あぁ……………。」」」
「ひははっ、揃いも揃って納得してるー。」
足をパタパタさせて楽しそうにしてる月見とは対照的に、既に疲れている様子の芥子達だった。
「まぁ実際月の光には生き物を狂わせる効果があるからね。そりゃ月の象徴の一つになった僕に影響が無いわけないじゃん?」
「まぁ、そう考えると妥当なのか…?」
「でもなんでそんな状態に?」
「現世での月明かりの影響だね。」
自分のポーチから大福を取り出して食べ始めた月見はそのまま話を続ける。
「よく聞くでしょ、スーパームーンだとかストロベリームーンとか。」ハムッハグ
「はぁ……まぁ現世の番組で聞いたことはありますけど。」
「そういう時は月の「狂気」の面がでやすいの。」ハムハムハム
「?…でもスーパームーンってたしか年一で起きる現象ですよね。そんな頻度で狂気に呑まれてましたっけ?」
芥子からの質問に「んー…」と首をかしげるながら何かを思い出すような仕草をする月見。頭の耳はブンブン振り回されており、炎の跡が円のようになっていた。
「僕って普段表情が出にくいじゃん?だからばれてないだけだと思うよ?正直、こんなになるの久々だし。」ハグッ
「じゃあ鬼灯様がおっしゃってた「今日でしたね」って何が起こってるんです?」
「スーパーブルーブラッドムーンだよ。」
月見から聞かされた言葉に馴染みがない二人と一匹は一斉に首を捻る。
「あ、知らない?」
「まぁ今の現世の事はあまり詳しくないからな。」
「んーと、簡単に説明するとね………。」
すると月見はポーチから三種類の菓子の箱を取り出す。色はそれぞれ青、赤、黄色である。まず最初に月見は黄色の箱に手をつける。
「まず「地球に最も近くなった満月か新月」が「スーパームーン」。」ハグッムグムグ
「それは聞いたことがありますね。」
月見は黄色の箱に入っていた最中を取り出して食べる。
「次に「すでに満月が終わった月のうちにもう一回来た満月」が「ブルームーン」。」ムグムグ
「そんな事があるんですか?」
「2~3年に一度ぐらいにあるよ。」
青の箱に入っていた柏餅を食べながら、月見は桃太郎からの質問に答える。
「んで、最後に「皆既月食」が「ブラッドムーン」だね。その三つが同時に起きるのが「スーパーブルーブラッドムーン」。250年に一度起こるかどうかレベルの珍しい現象だよ。」ハムハムハムハム
「いい加減食べるの止めません?」
「あ、蓬餅ならあるよ?」
「そうじゃないですよ?まぁいただきますけど。」
赤の箱に入っていた苺大福を食べながら蓬餅を芥子に渡す。それをよそに一寸法師が口を開いた。
「まぁ今の説明で知りたい事は分かった。でもあんたはそこまで狂ってるように見えないんだよなぁ……。」
「?さすがに制御してるもん。」
一瞬キョトンとした月見だったが、すぐさまとてつもなく歪んだ笑みを見せた。若干目が先ほどよりも濁っている気がする。
「それとも、見たいの?」
「な、何を?」
桃太郎が恐る恐る訪ねると、更に笑みを深くした月見がゆっくりと口を開く。
「僕が高笑いしながら殺戮するとこ。」
「「「エンリョシトキマス…………。」」」
「えー?別に相手罪人だから問題ないもん。」
月見は頬を膨らませながら側に置いてあった杵を手に持つとおもむろに立ち上がった。ついでに懐から何枚か千円札を出して桃太郎に渡す。
「ま、いいや。これからストレス発散ついでに亡者相手に実っkゲフンゲフン仕事してくるから。」
「今中々に不穏な単語が聞こえた気がするんですけど!?」
「気のせい気のせい。あ、これ代金。」
「え、ちょっと多いですけど?」
「僕の奢りだよ。じゃあねー。」
そう言って月見はその場でジャンプし、屋根の上を高速で走って行った。時折楽しそうな声が聞こえてきたあたり、本人にとっては遊びに近いようだ。
「………嵐みたいに成ってたな。」
「というか月見さん俺達の分も含めた分のお金置いてったぞ。」
「やっぱりあの人本質はお人好しなんですかね。」
桃太郎が渡された千円札を一枚一枚確認していると、ふと何かに気がついて固まった。その様子を不審に思った芥子が桃太郎に訪ねる。
「どうされましたか?」
「………やっぱりあの人いつもと全く違うっぽいな。」
「「?」」
言葉の意味がよくわからない芥子と一寸法師が、桃太郎の手元を覗き込んだ。
「どこかおかしいところでもあんのか?」
「にしてもなんかこのお金変な臭いしますね。…なんというか鉄臭い?」
「そりゃそうだろ。」
据わった目をした桃太郎が一枚持ち上げて芥子達に見せるように掲げる。その千円札には端に少量の血がついている。ついでにいつの間にか紛れていたメモ書きらしき物も見えるように持っていた。
「「さっき強盗してたやつフルボッコにして巻き上げた金です。気にせず使って下さい。」だってよ。」
「使えませんよ!?」
「……………血ついてないやつだけ使おうぜ……。」
月見だけではなく、月の模様組はもれなくこの特性を持っています。月見さんは自分の中で狂気を押さえ込んでいるため被害は月見さんのみになっています。
次回予告
「うるさい」