「月見さんは護衛である」
「待ち合わせ場所ここですか?」
「ええ、もうそろそろ来ると思います。」
某羽がつく系空港のエントランスにて、鬼灯が腕時計を見ながら立っていた。近くには辺りを見回す人間形態のアヌビスもいる。
「そういえば、鬼灯様って税関通る時どうやってるんですか?今は帽子で隠れてますけどその角見られたら厄介な事になるでしょう?」
「これを使うので大丈夫です。」
そう言って鬼灯は鞄の中からいくつか瓶を取り出す。蓋には少々気色が悪いデザインの顔の飾りが付いていた。
「うわ~スッゴいデザイン。」
「ホモサピエンス擬態薬です。人間に近しい姿の生き物はこれを飲むことで一定時間人間の姿になれるんですよ。まぁ代償として眠くなりますけど。」
鬼灯の説明に納得したかのように頷くアヌビスだ。しかし、周りを見回し続けるのを止める様子はない。
「……ふむ。」
「どうされましたか?」
「いやぁ、単純に幽霊が多いなと。」
「あぁ、その事ですか。さっきお迎え課に連絡したので気にしなくていいですよ。」
一般人に紛れた大量の幽霊という光景を前に二人は呑気に会話している。
「それにしても多くないですか?ここまで幽霊が集まるのもイベントぐらいな気がするんですけど。」
「ここにいる亡者は皆飛行機に乗ろうとしてるだけですよ。」
「日本の現世の幽霊って飛べませんでしたっけ。」
「ぶっちゃけやろうと思えば何処にでも行けますよ。ですが無謀、無茶そうな事は文字通り
ほら、と鬼灯が指をさした先をアヌビスが見ると、そこには律儀にゲートを通って搭乗口に向かう亡者達がいた。
「必要なんですかねあれ。」
「気分の問題でしょう、日本人は形式に拘りますから。」
そう話を締めくくった鬼灯が鞄から本を取り出して読んでいると、入り口の方向が少し騒がしくなる。二人が反応して振り向くとこちらへゆっくり歩いてくる人影が見えた。
「鬼灯様、お待たせしました。」
「ちょっと月見にかけた術が甘くて解けちゃったんでかけ直してました。」
「いえ、大丈夫ですよお二人共。まだ出発まで30分はあるので。」
近づいてきたのは現代風な服装に身を包んでいて、手を繋いだ月見と美穂だった。月見はオーバーサイズのパーカーにカーゴパンツ、肩掛けの鞄とわりとシンプルな装いだが、いつも人の目を引くうさみみが生えておらず、代わりに人間の耳が見える。美穂もカジュアルなワンピースに少し小さめなベレー帽を被っているが、いつもの尻尾と獣耳が見当たらない。
「おや、お二方共もう擬態薬を?」
「あぁ、説明してませんでしたね。」
そう言うと月見は首にかけられたネックレスを掲げる。その先には白い勾玉が通されていた。
「美穂に強めの人化の術をこれを通してかけてもらってるんです。」
「これさえあればいつでも月見と連絡も取れますし旅行とか外国への出張とかはいつも持ってます。使うには少し調整が必要ですけど。」
よく見ると美穂の首にも黒い勾玉のついたネックレスがかかっている。
「そういえば月見くん完全な人化ができないんでしたね。」
「月見さんと美穂さんは大体ペアで現世に向かわれるのでちょうどいいんですよ。ハロウィンの渋谷では必要無さそうですけど。」
「?それはどういう?」
鬼灯の言葉に首をかしげるアヌビス。月見と美穂は納得したような声をあげていた。
「違和感を持たれないんですよ。実際我々が変装せず歩いてもクオリティが高いだけのコスプレだと思われるだけですので。おそらくアヌビスさんも素の状態でいけますね。」
「ハロウィンってお化けの仮装をするものじゃありませんでしたっけ?」
「メイドやプリンセスもいるんで大丈夫です。」
首をひねるアヌビスをよそに鬼灯は自分の腕時計を見る。
「そろそろ出発ですね。さっさと手続きを済ませましょう。」
「んー新しい驚かし方ね~。」
明らかに呪われてそうなアメリカの館のエントランスにてその館の主であるスカーレットが宙に浮く椅子に座りながら本を読んでいた。
(あの東洋エイリアンも全くびびってなかったし、何か斬新な驚かし方を…………。)
ガチャ
「ここですね。」
「うわぁ~。」
「ギャ~~~ッ!?」
スカーレットが悩んでいる最中、玄関の扉が開き鬼灯とアヌビスが入って来た。突然の訪問にスカーレットは叫ぶほど驚いている。
「件の東洋エイリアンッ!」
「東洋エイリアンってなんですか。」
「つーか、誰だそっちの怪しげな人間…人間?は!」
「あ、人間に見えますー?良かったー。」
慌ただしいスカーレットとは対照的に鬼灯とアヌビスはいつもの調子で言葉を交わしている。鬼灯は手でアヌビスを示して話を続ける。
「こちら、どうにかここまでこぎ着けたアヌビスさんです。」
「何をどうこぎ着けたんだよ。」
スカーレットが若干呆れたような目になった時、また入り口の扉が開いた。その隙間からフードを被った月見がひょっこり顔を覗かせる。
「鬼灯様、僕らも入ってよろしいですか?」
「ええ、外も雨でしょうし。」
「勝手に許可するんじゃねぇよ!」
「失礼しますね。」
「お邪魔しまーす。」
「お前らも遠慮無く入ってくんな!」
素知らぬ顔で入ってきた月見と美穂だった。
「あぁ、ご安心を。別にこの家を荒らしに来たわけでは無いですよ。ここをアヌビスさんに話した所是非見たいと。」
「大丈夫です。西洋のあの世に通報したりしません。純粋な興味本位です。」
(一番傍迷惑な奴じゃねえか。)
「日本の死神とエジプトの死神が後学のために訪れたと思ってください。」
「…………茶化しに来たんなら…」
スカーレットは体をワナワナと震わせると周囲に大量の刃物を浮かべ始めた。その切っ先は鬼灯達の方へ向いている。
「帰れーーッッ!!」
「わぁ、これが西洋のポルターガイストかぁ。」
「月見さん、半分お願いします。」
射出された刃物に対して呑気な感想を述べるアヌビスをよそに、鬼灯が傘をバットのように構えて打ち返し始めた。月見は突然の指名に驚いた様子もなく鞄の中から出した医療用のメス8本を両手に構える。
「ていてい。」シュシュン
ガキンッ
月見が医療用メスを一気に投げると、向かって来た刃物と相殺してそのまま地面に打ち落とした。一息ついた月見が鬼灯の方を見ると、打ち返した刃物でニコちゃんマークを作っていた。
「外は凄い雨なので雨宿りも兼ねてよろしくお願いします。」
「僕必要でしたか?」
「一応護衛という名目で来てるのでしっかりと仕事したという事実が作れたじゃないですか。」
「………何なのこいつら……。」
首をこてんと倒して尋ねる月見にいけしゃあしゃあと答える鬼灯を見てやる気が削がれたのか、スカーレットから先程までの殺意が無くなった。
「あのさ…いっそ倒しに来たとかなら応戦するんだけど、特に怖がらない奴がただ見に来るって困るわよ……。」
「アメリカの方ってお宅自慢しません?そのノリで構わないんですが。」
「しねぇよ。こちとら霊なんだよ、自慢のシステムキッチンとかねーんだよ。」
「え、普通にここのキッチン気になるんだけど。」
「そんなん言われても困るっつってんだろ!」
月見さんの人化は普段の姿が限界なので美穂さんが代わりに人化の術をかけています。二人が首にかけている勾玉のネックレスはその術式を送る為のアンテナみたいな物です。美穂さん作の道具で2つをくっつけると陰陽玉になります。一応電話やGPSとして使えるため二人で現世に赴く際には必ず着けています。しかし術式の許容量があり、使いすぎると壊れてしまい、また一から作り直す事になる上、その相手専用に調整しなければならないのでかなり時間がかかるらしいです。
次回予告
「失礼ですね」