それでは、どうぞ。
閻魔庁の中を歩く一行。本人達はあまり気にしていないが、端から見たら動物達が鬼灯を先頭にして闊歩しているようにしか見えない。しばらくするとそこに話しかけてくる人物がいた。
「あら、鬼灯様?」
「おや、お香さん。何か御用ですか?」
「ええ、美穂さんに少し相談があったのだけど色んな人に場所聞いても居ないのよ。だからこれからどうしようかと思ってたのだけど………。」
頬に手を当て、困り顔をするお香。しかし探している相手が狐の姿になっているとは露知らず、話を続ける。
「お香さんこんにちは!」
「あらシロちゃん、元気がいいわね。美穂さん何処にいるか知らないかしら?」
「最初っからここにいるよ!」
「?」
シロの言葉に首をかしげるお香。その言葉の通り周りを見ると、こちらから顔を反らして笑いをこらえる金色の狐とその狐を不思議そうに見上げる包帯まみれのうさぎがいた。
「…………もしかして美穂さん?」
「くふっ……やっと気がつきましたか。そうですよ、私が美穂さんですよ。」
「まぁ!」
笑いを漏らしながら馴染みのある声で話す狐に思わず驚いて目を丸くするお香。
「いつ気が付くかなと思って見てましたけど、案外ばれない物なんですね。」
「えぇ、てっきり新しい獄卒の子かと思ってたのだけど、月見さんのおかげでわかったわ。」
「?」
突然名前が上がった月見は首をかしげる。クツクツと笑う美穂はお香に尋ねた。
「おや、何故月見だと?」
「だって、
「包帯を巻いているうさぎ」なんて月見さん位しかいないでしょ?」
「月見さんの存在を知っている人ならよくよく考えれば分かることですよね。」
「「あぁ~……。」」
「確かにこんな分かりやすいヒント無いよね!」
お香と鬼灯の言葉に納得の声をあげる桃太郎ブラザーズ。美穂も「でしょうね」と言わんばかりの表情で頭を縦に振っている。疑問を持つのは月見本人だけだ。
「そこまで分かりやすいですかね?」
「貴方はもう少し自分が奇抜な格好をしていることに自覚を持ってください。四六時中包帯を巻いているうさぎなんて貴方以外居ませんよ。」
「?………まぁそれはそうと、お香さんの御用はなんですか?」
「あぁそうだったわね。美穂さんにお客様がお見えになってるの。」
「私にですか?」
未だに今一理解していなさそうな月見からの問いに用事を思い出すお香。
「えぇ、今は閻魔大王が対応してくださってるのだけど「あら、鬼灯様じゃない。」」
「……なるほど、貴女でしたかリリスさん。」
お香が説明をしようとした所で丁度リリス本人が廊下を歩いて来た。隣には荷物を持って申し訳なさそうな顔をしているスケープもいる。手をヒラヒラと振りながら笑顔で近づくリリスは話を続ける。
「久しぶりね。一緒にお食事でもいかが?」
「遠慮しておきますよ………それで、今回は何の用事で?」
「つれないわねぇ…ま、本題はそれじゃないんだけど。美穂はどこかしら?確かここで働いてるんだったわよね?」
「どこもなにもここに居ますよ。」
そう言って鬼灯は隣で月見と一緒に座っている美穂を指差す。差された本人は一度ニコッと笑う。
「どうも、ご無沙汰しておりますリリスさん。」
「まぁ、なんとも可愛らしい姿になったわね貴女。」
リリスはしゃがみこんで狐状態となった美穂と視線を合わせる。
「隣にいる包帯まみれの兎が貴女の旦那様?」
「えぇ……あ、そうだ、この間の試作品の化粧品良かったですよ!肌が弱い人にもオススメできますね。」
「貴女にそう言って貰えるのなら大丈夫そうね。新商品として早速売ってみるわ。」
リリスは美穂の状態に一切動揺することなく会話を弾ませている。その途中、ふと何かに気が付いた様子で鞄の中をまさぐり始めた。
「そうだったそうだった、そういえばこれも目的の一つだったわ。」
そう言ってリリスが取り出したのは数本の試験管である。コルクでしっかりと栓がしてあり、中には色とりどりの液体が入っていた。
「はいこれ。」
「?……よいしょっと。何ですかこれ?」ボフンッ
一息で狐から見慣れた人間状態になった美穂は不思議そうな顔をして受けとる。渡したリリスはクスクスと口元を押さえ、上品に笑うと、一枚の紙を差し出す。そこには、英語で書かれた薬品の説明が記されていた。
「私の知り合いの魔女が送ってくれた面白い薬でね?効果はその紙に書いてあるわ。」
「ふむ………『一時成長薬』に『一時逆行薬』?」
「そ、面白そうでしょ?」
ニコリと笑うリリスは話を続ける。
「前のクリスマスで送られてきた物なんだけど、余ってるしお裾分けしてあげようと思ったのよ。この間の化粧品開発の手伝いの礼ね。」
「そうだったんですか……けどなぁ。」
「あら、何か問題でもあった?」
そうリリスに問われた美穂は頬を掻きながら答える。
「私、狐なので。」
「……あぁ、そう言うこと。」
「?どう言うこと?」
美穂の言葉に納得したように頷くリリス。しかし、その会話を眺めていたシロは意味を理解出来ていないようだ。そのシロの隣で首をひねっていた柿助はポツリポツリと考察を落としていく。
「んー、恐らく、必要無いんじゃないか?」
「あぁ、狐の得意技を使えばわざわざ薬を使う必要もないか。」
「あ、そっか!化けれるもんね!」
納得したシロはそのまま明るく美穂に尋ねた。
「でも使い道あるんじゃないの?」
「どういう事ですかシロくん?」
「ほら、こうすれば………」ゴニョゴニョ
美穂に近づき、耳元で何かを話すシロ。次第に美穂の顔がとても良い笑顔になっていき、最終的にはあからさまに機嫌が良くなっていた。
「そうですね、ありがとうございます。あ、お礼です。」
そう言ってどこからともなく肉厚なビーフジャーキーを取り出した美穂はそのままシロに渡す。受けとったシロはジャーキーを咥えながら目を輝かせた。
「
「えぇ!良いアイデアをくれたお礼ですもの。ゆっくり味わって食べて下さいね。」
「
「あ、おい待てシロ!」
「俺たちを置いてくなよ~!」
テンションが極まったシロはジャーキーを咥えたまま走り去って行く。やり取りを見守っていた柿助とルリオもシロを追いかけて行ってしまった。それを手を振って見送った美穂は流れるように兎状態の月見を抱える。突然宙ぶらりんになった月見は自分を片手で抱える美穂を見上げる。
「どうしたの美穂?」
呼び掛けようと口を開いた次の瞬間、美穂が持っていた試験管の一本の中身を
「そぉい!」
「ふぎゅっ!?」
思いっきり月見にぶちまけた。
「美穂さん!?」
「あら。」
「おお。」
突如奇行に走った美穂に目を丸くするお香と興味深そうに眺めるリリスと鬼灯。しかし当の本人はそれを意識の外に追い出し、悪どい笑みを浮かべながら月見を見つめている。
「さぁ……シロくんの予想が正しければ……。」
美穂がそう言った次の瞬間、
「うわっ!?」ピカー
月見の体が発光し始めた。しばらくの間、その状態が続いたかと思うと、少しずつ月見の体が大きくなる。元の大きさの1.5倍程になった後、次第に光は弱くなっていき、最終的にはその姿を認識出来るようになる。
「…………はい?」
「シャオラッ!成功ッ!」
そこには目をぱちくりと瞬かせる大きな兎(月見)がいた。包帯やポーチこそ変わって無いものの、体長が大きくなり、全身の毛も少しばかり伸びている。今一状況が読み取れず首をかしげる月見をよそに、美穂は全力でガッツポーズを取った。すぐさま美穂は月見をゆっくりと床に降ろすと、満面の笑みを浮かべながら話を始める。
「ね、月見?ちょっと一回人間状態になって欲しいなぁ?」
「……別に良いけど。」
少し怪訝そうな声を出しながら今度は青い炎に包まれる月見。中庭での変化の逆再生のように月見の体はその体積を増やしていく。しかし、明確な異変が一つ起こった。
(…………止まらない?)
いつもの姿位の高さまで体が大きくなっても依然炎は燃え続け、月見の体は次第に大きくなっていく。そうして背の高さが鬼灯程になった所で、月見を覆っていた青い炎が消えた。
「……何か、服が変わってる?」
そこには、呆然としている月見がいた。しかし明らかに普段よりも成長しており、とてつもない美青年となっていた。服は白と黒を基調とした着物と緑色の羽織で、さっきまでの物よりゆったりとしている。包帯やポーチもしっかりとサイズが調節されており、本当に月見を「そのまま成長させた」ような風貌になっている。不思議そうに自分の体をペタペタと触り確認する月見に美穂はゆっくりと近づいて行った。
「やっぱり魔女の薬の効果はすごいのね。一回振りかけただけでこんな変化があるんだから。」
そう笑って言う美穂は戸惑いながら
「ありがとうございます!こんな良いものを頂けるとは……今度お礼に新作の化粧水送りますね!」
「そう?満足頂けたようでなによりよ。」
\ 月見(大人Ver.)が現れた! /
正直、これがやりたかっただけです。この月見さんは「何千年か後」、「もし神獣になるタイミングがあと数年遅かったら」といった感じの風貌です。
元々中性的な姿がそのまま成長しており、そこに腰まで伸びた白髪と大きなうさみみ、薄く開かれた目と無表情が噛み合って、とんでもなくアンニュイな雰囲気を纏った美青年に仕上がってます。
そのうち活動報告で絵描きますね。