それでは、どうぞ。
「「知り合いのデザイナー?」」
「えぇ。」
地獄のテレビ局のメイク室にて、まきみきの二人に問われたカマーは頷く。どうやら番組の収録が終わった後のようでまきみきの二人はアイドルとしての格好ではなく、プライベートを過ごす為のシンプルな着物に着替えていた。
「昔は機織り……布地の製作専門だったんだけどね、今は色んな服のデザインから製作まで全部一人でやってるのよ~。」
「へ?一人でですか?」
「そうよ~。それでもって発注から納品までの期間が短いからそういった点でもかなり優秀な人なのよ~。」
呆気にとられるミキを気にせずカマーはスマホの画面を見せる。そこにはカジュアルなコートを身に纏う女性がポーズを取っている写真が映し出されていた。
「ほら、今言った人の新作。メンズもレディースも対応出来るから依頼が結構多いらしいのよね。」
「はぇ~、凄いお洒落~。」
「ん?このロゴ………。」
写真の服にマキが感嘆の声を漏らしていると、同じように見入っていたミキが何かに気がつく。
「どうかしたのミキちゃん?」
「ほら、ここ。」
そう言ったミキはコートの襟元辺りをズームする。そこには丸いロゴが入っており、中には何やら鳥らしき動物が描かれていた。
「あ、なんかロゴが入ってる………なんの鳥?」
「恐らくなんだけど、鶴じゃないかにゃ~。」
「鶴?何で?」
頭の上に疑問符を浮かべるマキ。その様子を見て、ミキは指を立てて話し始めた。
「ほら、昔話でもあるでしょ、「鶴の恩返し」。」
「あー!」
マキが納得したような声をあげる一方で、ミキはカマーに確認するように話しかける。
「で、あってます……よね?」
「あってるわよ~。よく分かったわね。」
「いやぁ、どこかで見たことがあるなぁって思ってたんですけど、よくよく思い出したらこないだウィンドウショッピングしてた時に似たような服あったなって。」
照れ臭そうに頬を掻くミキ。しかし、何か引っ掛かっているのか、カマーに質問し始めた。
「所で、なんで私達にこの話を?」
「あ、そういえばなんでだろ。」
「いやぁねぇ、今日そのデザイナーと会う予定があるんだけど、もし良かったら二人も行ってみない?もしかしたら、アイドルの衣装も作って貰えるかもしれないから。」
「「いいんですか!?」」
カマーか、軽い調子で告げられた言葉に二人は思わず叫ぶように返事をする。
「あの人、アイドルが大好きでね?よく衣装の製作に携わってたり、色んなライブに行ってたりしてるのよ。たしか最近は貴女達のライブにもよく行ってるって言ってたわね。かなりのファンらしいわよ。」
「そうなんですか?嬉しい限りですけど……。」
「だから、この間仕事手伝ってくれたお礼に貴女達にサプライズで会わせてあげたいのよ~。協力してくれる?」
「はい!」
「是非!」
翌日、美穂は地獄のショッピング街を歩いている。座敷童子達とその引率の鬼灯、月見もいる。
「ねぇねぇ、美穂さん。」
「デザイナーさんってどういう人?」
いつもの着物に着替えた座敷童子達は美穂の周りをうろちょろしながら美穂に問いかける。
「ん~、優しい人ですよ?美人ですし………まぁ欠点はありますけどね。」
「欠点?」
「まぁ、うん、重度のドルオタなんですよ。厄介では無いですけどね…………他人に押し付けることはしませんし、常識ある行動はするんですけど………。」
「けど?」
なんとも言えない微妙な表情を見せる美穂に座敷童子達は首をかしげる。言いにくそうにする美穂の代わりにずっと隣を歩いていた月見が話を続ける。
「興奮しすぎて毎回瀕死になってるんですよ。過呼吸になってその場にぶっ倒れたり、泣きすぎて水分不足になったり……悪い人ではないんですよ?」
「凄い特徴的。」
「うん、妖怪にもそんなのそうそう居ない。」
「なんとも個性的ですね。」
「たしか、鬼灯様は一度お会いしたことがあった筈ですよ?」
「ほう?」
なんともないかのように告げる月見。しかし鬼灯は心当たりが無いようで、思い出すかのように頭を捻るが今一ピンと来てないらしい。
「はて、デザイナーをしている知り合いはカマーさん位しか思い当たりませんが?」
「まぁ、おとぎ人の集会で会った程度ですからね。」
「おとぎ人………デザイナー……服?……あぁ、成る程あの方ですか。」
「鬼灯様?」
「知り合いなの?」
合点が行った様子の鬼灯に、いつの間にか腕にぶら下がっていた座敷童子が問いかける。
「知り合い……というぐらいに親しいわけではありませんが、彼女のおとぎ話はかなり有名ですからね。」
「「おとぎ話?」」
「お二人も知ってる話ですよ。」
「あ、ここですね。」
そんな話をしながら歩いていると、ふと美穂が立ち止まる。それに伴い全員が立ち止まり、近くの建物を見た。
「受付とかは無さそうですが、中々綺麗な場所ですね。」
「だってここはあくまでも彼女のアトリエですから。撮影とかは別のところですよ。」
そこは店が立ち並ぶショッピング通りより少し進んだ場所にあり、一見小さいものの現代風の要素もほどよく取り入れられた小さくお洒落な和風の家だった。よくよく見ると、玄関らしき扉の隣の壁にはインターホンが取り付けられている。美穂は躊躇いなくそのインターホンを押した。
ピンポーン
「………………。」
「「「………………。」」」
「出ませんね。」
「ん~?なんでだろ、この時間はここにいる筈なんだけどな。」
しかし一向に反応が無い。もう一度インターホンを鳴らすが何かが返って来ることもなく途方に暮れていると、どこからともなくギィ、という音が聞こえてきた。
「あ、開いてるよ美穂。」
「うぇ~……さてはまた徹夜したなあの人………。」
それは月見が玄関らしき扉を開けた音だった。扉には鍵がかかっておらず、軽く押しただけで開いたようだ。それを知った美穂はため息をつきながら遠慮なく扉の向こうへ入って行った。月見もそれに続いたため、鬼灯と座敷童子達もその後ろについていく。小さな庭のようなものの隣を通り、美穂は家の中に続く扉に手をかける。案の定鍵がかかっていないその扉をスパッと横にスライドさせると、小綺麗にしてある玄関が現れた。しかし美穂は少し顔をしかめ、月見もピクリとうさみみを震わせる。他の三人はその様子に疑問を持つが、不意に鼻に入ってきた臭いで理由を理解する。
「………少し酒臭いですね。」
「もうすぐ大きな仕事を終えるって言ってたっけ……月見も連れて来て正解だったなぁ。」
そう言って遠慮なくブーツを脱いで上がる美穂。それに続くように、他の四人も履き物を脱いで玄関から上がった。
「いいんですか勝手に入って。」
「構いませんよ、許可は貰ってますし。鬼灯様だってもう既に入ってるではありませんか。」
鬼灯からの質問に美穂は呆れた声色で返す。大部屋らしき部屋の前を通りすぎ、そのまま一番奥の襖をスパッと開け放つと、そこにはとんでもなくえげつない景色があった。床に転がる大量の酒瓶やつまみの袋、脱ぎ散らかされた服やそこら辺に舞う紙、床なんて3分の1位しか見えない、そんな汚部屋だった。
「「わぁ。」」
「中々ですね。茄子さんよりひどいとは………それに転がってるのも高級な酒ばっかりですね。」
「…………zzzzzzzzzz。」
初めて見る座敷童子達と鬼灯が各々言葉を漏らすと、どこからともなくいびき聞こえて来た。よくよく見ると、黒髪の女性が酒瓶が大量に置いてあるテーブルに突っ伏して寝ていた。美穂は慣れたように近づいて行く。
「さっさと起こしましょうか。」スッ
美穂は中指を親指で押さえて引き絞る。狙いをこめかみに定め、そのまま
「起きてくださーい。」
バチンッ!!
「アビャッ!?」
デコピンを食らわせた。その音からしてかなりのダメージがあったのだろう、食らった女性は変な悲鳴をあげながら座っていた椅子から転げ落ちる。そのまま目を回す女性の隣にしゃがみこんだ月見は女性の様子を伺うと、少々ジト目になりながら美穂を見る。
「…………美穂、もう少し調整して。」
「あれま、あんまし力入れてなかったんだけど。」
「疲労が溜まってたんだと思う……それを酒で誤魔化してたっぽいね。」ボウッ
女性がしてはいけない顔で気絶している女性に月見は月炎を移す。すると、青い炎はぼうぼうと勢い良く燃え始めた。
「ついでにアルコール飛ばしてるから、あと一時間位で正常な状態で起きると思うよ。」
「ありがとね月見……茶の間まで運ぶか。」
美穂が何かを呟くと袖から十枚程の紙が飛び出して、そのまま女性の下に入り込んで持ち上げた。
「ホントすいません、お見苦しい所を………。」
月見の言葉通り、綺麗な茶の間の座布団の上で一時間後に目覚めた女性は美穂から事情を聞いた瞬間土下座をかました。
「今日の朝やっと納品しまして………大仕事が終わった事に舞い上がっちゃって………話も忘れて酒を入れてしまったんです……。」
「結構な大酒飲みなんですね。見たところ十本位は開いてましたけど。」
「高級なお酒を呑むのが大好きでして………仕事が終わったら毎回呑むようにしてるんです。」
「その結果があれですか?」
「申し訳ございませんッ!」
プルプル震えながらか細い声で土下座を続行する女性だった。美穂は頭を振って口を開く。
「まぁ取り敢えず顔あげて下さい。この子達とは初対面なんですから、いつまでもそんなみっともない姿見せないでくださいな。」
「はい………。」
そう言ってゆっくりと顔を上げた女性は服を整えて改めて鬼灯と座敷童子達に向き直る。
「改めまして、鶴女と申します。普段は「ミス・クレーン」という名前でデザイナーなどをやっております。鬼灯様とはお久しぶりですね。」
「あぁ、おとぎ人の集合にいらしてましたね。」
「えぇ……それで、そちらの可愛らしい女の子達は?鬼灯様の娘さんですか?」
「違います、閻魔庁に住んでる座敷童子さん達です。」
即座に否定した鬼灯の隣に座る座敷童子達はクレーンに向かって口を開く。
「座敷童子の一子。」
「同じく二子。」
「「どうぞお見知りおきを。」」ペコリ
「というわけで、電話でお話した通りこの子達をモデルとして推薦したいんですけど、いかがですか?クレーンさん。」
「ふむ………少々失礼。」
美穂に問いかけられたクレーンはまじまじと座敷童子達達を見つめ始めた。しばらく見つめ合う三人だったが、不意にクレーンが目を見開いた。
「………ッ!!」
そしてどこからか取り出したスケッチブックに鉛筆を使って何かを書き始めた。突如鬼気迫る形相で動き始めたクレーンに座敷童子達は「おー。」と棒読みの歓声を上げる。
「凄い集中力。」
「昔見た現世のデザイナーも似た感じになってた。」
「いいですいいです!脳が刺激されて
段々と興奮してきたのか頬を紅潮させ、笑みを深めるクレーン。描き散らかされて飛んできた紙の一枚を空中で掴み取って見た鬼灯は感心したような声を出す。
「ほぉ、この場で描かれたとは思えない程のクオリティですね。」
「鬼灯様。」
「見せて見せて。」
その言葉に鬼灯は座敷童子達にデザイン画を渡す。受け取っていそいそとデザイン画を見た二人は途端に目を輝かせた。
「「ふぉぉぉぉ……!」」
「ふぅ……子供服は初めてですけど、これはまた楽しそうな仕事になりそうですね!」
ようやく鉛筆を止めたクレーンはそう言いながらはにかんだ。その顔にはウキウキとした感情が隠せないでいた。
はい、ということでミス・クレーンです。fgoでは、恩返しする動物の意思の集合体みたいな存在ですが、ここでは鶴の恩返しに出てくるお鶴さんだけです。鬼灯の冷徹にもお鶴さんは出てきますが、この作品ではミス・クレーンのみとさせていただきます。
ミス・クレーンの汚部屋と酒好きは公式設定です。