それでは、どうぞ。
「さぁさぁお二人共、どんな物がよろしいですか?出来る限りの要望はお聞きしますよ。」
「ホント?」
「じゃあ現世で流行ってる洋服みたいなのがいい。」
「えぇ、承りました!……あ、他の服のモデルもしていただけたら嬉しいのですが……よろしいでしょうか?」
「「やりたい!」」
座敷童子達からよい返事を貰ったクレーンはウキウキと再びスケッチブックに鉛筆を走らせる。それを端から見る鬼灯は興味深そうな声色で呟く。
「それにしても意外ですね。鶴の恩返しの諸説には反物を送る物は数あれど、服を作る話はほとんど無い筈なんですが。」
「あぁ、単純に趣味が高じた結果だそうですよ?………はむっ。」
「趣味?」
出されたお茶をのんびりと飲みながら自分で持ってきたおはぎを食べ始めた月見の返答に鬼灯は首をかしげる。月見はムグムグと口を動かすと、口に含んだおはぎを飲み込んで話を続ける。
「クレーンさん、元々世界を旅をするのが趣味だったんですよね。昔っから色んな国行ってたらしいですし。」
「あぁ、そういえば鶴は渡り鳥の一種で、確かシベリア辺りと日本を毎年往復してましたね。」
「そう言うことです…………おはぎ食べます?」
「頂きます。」
そんな会話をしながら二人揃っておはぎを頬張る月見と鬼灯。一度飲み込んだ鬼灯は月見に話の続きを促す。
「それで、それと服作りに何の関係が?」
「詳しくは知らないんですが……確か旅先の出会いが云々とか……。」
「そこら辺は本人から聞いた方が早いですよー。」
月見が首を傾げながら話していると、近くの戸から美穂が入って来た。
「おや、美穂さん。何をされてたんですか?」
「鶴女ちゃんの部屋の掃除です。あの子すぐ散らかすんでちょくちょく注意してるんですけどねぇ………。」
やれやれと美穂が肩を竦めた所で丁度玄関の方から呼び鈴の音が響く。会話をしていた三人は勿論、夢中でデザインを考えていたクレーンと座敷童子達も音に反応して顔を上げた。
「おや、お客様ですか?」
「いえ、今日は皆さん以外に誰かが来るとかは無かった筈ですけど……。」
「ちょっと出てきますね~。」
不思議な顔をしているクレーンを他所に、美穂はそそくさと玄関に向かった。
ピンポーン
「あら、今日はアトリエにいるって言ってたんだけどねぇ?」
「あの~……良かったんですか?アポ無しで来て……。」
「また後日でもいいんですよ?」
「良いのよ~、そ・れ・に、貴女達の事は内緒にしておきたいし~。」
「「?」」
カマーの言葉をいまいち理解出来ていないまきみきの二人は揃って首をかしげる。すると、そこに玄関の中からこちらに近づく足音が聞こえて来た。
「はいはーい、どちら様ですか~……って、カマーさん?」
「あら、美穂ちゃんじゃな~い!こないだぶりね~。」
「「美穂さん!?」」
「おや、マキちゃんにミキちゃんまで………皆さんお揃いで何を?」
玄関が開くと、そこには美穂がいた。カマーは普通に挨拶しているが、マキとミキは目を見開いて驚いている。知り合いがいるとは思わなかったのだろう。そんな二人を他所にカマーは話を続ける。
「ちょっとクレーンさんに用事があっただけよ~。この子達はその付き添い兼クレーンさんへのサプライズよ。」
「あー……なるほど、それじゃあ上がって下さい。」
カマーの言葉に納得したような声を上げた美穂はそのまま三人を通す。堂々と入るカマーとは対照的にまきみきの二人はおずおずと遠慮気味に門をくぐる。
「どうされました?」
「あ、いやぁ……。」
「なんというか……私達が入っても良いのか分からない位品のあるお宅なので……。」
一瞬きょとんとした美穂はその後、クスクスと笑う。
「大丈夫ですよ、特に貴女達ならね。」
「へ?」
「私達なら?」
「さ、行きますよ~。」
二人の疑問の声は届く事なく、美穂はさっさと家に入って行ってしまった。
「ええっと……。」
「…………どうしよう。」
「私達も行きましょ?」
「「あっはい。」」
ガラガラッ
「鶴女ちゃーん、お客様ですよ。」
「あ、はい、どなたでした?」
「私よ~。こないだのお礼をしに来たのよ~……あら鬼灯ちゃんに月見ちゃんもいたのね~。」
「「どうも。」」
「カマーさん!?」
座敷童子達の相手をしていたクレーンはガバッと頭を上げ、驚きの声を出す。
「こ、この間の件、仲介していただいてありがとうございました!」
「気にしないで?私も楽しい仕事が出来たわけだし、最近色んな所から引っ張りだこなんでしょ?それならいいのよ~。」
「そう言っていただけるのなら幸いです!」
ペコペコと座ったまま頭を下げるクレーンに対して、カマーはやんわりと顔を上げるように促す。それによりおずおずと顔を上げてこちらをみたのを確認したカマーは廊下で待機させていたまきみきの二人を手招きで呼んだ。
「さっきも言った通り、お礼としてスペシャルゲストを呼んでるのよ~。さ、二人とも入って入って。」
「「こ、こんにちは~…。」」
「」ピシリッ
「「まきみきだー!」」
まきみきがひょっこりと顔を出した瞬間、クレーンは目を見開いたまま固まった。側にいた座敷童子もいつもよりもテンションを何倍にも上げてまきみきの元へ駆け出していった。
「わぁっ!?……って、あれ?座敷童子ちゃん達?」
「なんでここに………?」
「服関係の事で少しクレーンさんに用事があったんですよ。」
「鬼灯様!?」
「よくよく見たら月見さんもいる……。」
突然知り合いが集まっている場面に出くわして困惑している二人を他所にマイペースにお茶をすすっていた月見は、ふと先程から固まり続けているクレーンの方へ話しかける。
「鶴女さん、どうかされました?」
「……………………。」
「…………?」コテン
しかし一向に返事が返ってくる様子は無く、ただひたすらに部屋の入り口にいるまきみきを瞬きもなく見つめるだけである。それを不思議に思った月見が首をかしげていると、家主に挨拶をしようと近づいていたまきみきの二人が座敷童子達の相手をしながら話しかけた。
「あ、あのッ初めまして、アイドルをしてるマキです!」
「同じくアイドルをしてるミキです!」
「…………………………。」
「………………あ、あの~。」
「何か反応していただけると嬉しいんですが~………。」
困惑した様子の二人を前にしてもクレーンは全く動かない。流石に異常を感じ取ったのか美穂は月見に話しかける。
「月見~、おそらく発作が出てるから確認お願ーい。」
「うん……ちょっと失礼しますね。」
「「あ、はい。」」
素直に下がるまきみきと入れ替わるようにクレーンに近づいた月見はポーチから一つの薬瓶を取り出しながら診察し始めた。
「…………………うん、
完全に気絶してますね。」
「「なんでッ!?」」
「大好きなアイドル成分の過剰摂取……ですかね?」
月見の診察結果に思わず声を荒げる二人。しかし月見は何もなかったかのように薬瓶の蓋を開け、作業を始めた。
「ただ驚きで意識が飛んで行っちゃっただけなんですぐに戻りますよ。」
「えぇっと………。」
「はい、起きてください?」
「………………………………………はひッ!?」
月見が薬瓶の中身を顔付近に近づけて約十秒後、クレーンはビクッと体を震わせ、情けない声を出した。そして再びまきみきを視界の中に入れたクレーンはガタガタと震えながら口を開く。
「もももももも申し訳ごさいませんッ!!まさか天女のごときお二人がこんな場所にいらしてくださるとは思いもしませんでしたのでェっ!!あ、あ、握手して頂いてもよろしいでしょうか!?」
「え?あ、はい、良いですけど…………」ギュッ
突如早口になったクレーンに若干びびりながらもアイドル活動によって鍛え上げられた度胸が働いたのか、自分からクレーンの手を握る。すると、更にクレーンの震えが激しくなった。
「こ、ここにいりゅぅ………ここにまきみき様が実在してふぁんさしてくれてりゅぅ………むりぃ………推せるぅ……。」ダバーッ
「ちょ、大丈夫ですか!?」
「大丈夫でしゅぅぅぅ…………!」ギュッー
突如滝のような涙を流し始めたクレーンに戸惑うマキ。優しくかつ固く握り返された手に困惑しているマキはどうしようかといった問いかけの目線を側にいるミキに向ける。
「え、えぇっと………がんばれマキちゃん!」
「待って!?この人落ち着けるの手伝って!?」
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"~~!!」
しかしミキにも具体的な解決策があるわけでもなく、さらに状況は悪化していった。
「見てて面白いですね。」
「鬼灯様!そんなこと呟いてないでこの状況どうすればいいか考えてください!」
「あ、そろそろ時間なので今日はお暇しましょうか。」
「「はーい。」」
「あぁ、そういえば今日の分の仕事まだ終わってませんでした。帰ったらさっさと終わらせないと。」
「そう言うことなので、あとはお任せしますねカマーさん。」
「任されたわ~。あ、そうだ美穂ちゃん、今度月見ちゃんと一緒にモデルやってみない?」
「是非とも。明日時間開けときますので、その時にお話しましょうか。」
「…………………無視ッ!?」
「とりあえず、この人が落ち着くまで待とうかニャ………。」
「「わー。」」タッタッタッタッタッタッ
「あら、お洒落な服ね。どこかのブランド?」
「クレーンさんの所。」
「「モデルをしてくれたお礼」って沢山くれたの。」
後日、座敷童子達はいつもとは違う華やかな洋服を身に纏って閻魔庁の裁判場を駆け回っていた。途中、お香の問いかけに対して、無表情ながらも嬉しそうな声を返す。近くで微笑ましげに見ていた閻魔大王はしみじみと呟く。
「いやぁ、服装だけでガラッとイメージが変わるもんだねぇ。」
「服装というのはその人物の印象と深く結び付く物ですからね。閻魔大王、貴方も似たような物でしょう。」
「あぁ、そう言われたらそうだねぇ。随分と昔からこの服だからなのか、現世で作られる儂の像もこういった服装が多いねぇ。」
「まぁ裁判官の皆さんは全員似たような格好をされてるので、亡者達からはよく秦広王と閻魔大王を間違われるんですけどね。」
「うぐっ………あれはまぁ、伝えられたのがそういった姿だからとしか言えないんだけどさぁ……。」
少し微妙な顔をしている閻魔大王を無視して手元の資料に目を通していた鬼灯はふと近づいて来る足音を捉える。そちらを見ると、いつも通りの月見と美穂が並んで歩いて来た。
「どうも、鬼灯様。」
「おや、月見さん、それに美穂さんも。どうされました?」
「もうじき昼休憩なので早めに食堂に行こうかと。」
「そうでしたか。」
「あ、そうそう。」
美穂はそう言って携帯端末を弄るととある画面にして鬼灯の方へ見せる。
「鶴女ちゃん、今度はまきみきのライブ衣装作ったみたいですよ。ほらこれ。」
「おや、そうなんですか。あの後色々あったんですかね。」
prrrrrrr
「?ちょっとすいません……………まーたですか。はい、はい、分かりました。」ピッ
「美穂、どうかしたの?」
「鶴女ちゃん、四徹のデスマーチでまきみきの衣装作ってぶっ倒れたって。」
重度のドルオタ特有の早口は再現できませんでしたが、まぁまぁそれっぽく書けたと思うのでお許しくださいませ。
美穂さんはミス・クレーンがまだ現世にいた頃に出会っています。具体的に言えば、自分が鶴だということがバレて飛び去って行ったクレーンを保護し、地獄への移住をすすめたのが美穂さんです。そのため、ミス・クレーンは美穂さんに頭が上がりません。
それと全く関係ない話になるんですが、月見さんはバーソロミューのメカクレ判定はどうなるんでしょうか?