閻魔庁の医務室うさぎ   作:ゲガント

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暫くの間、聖☆おにいさんネタが続きそうです。




それでは、どうぞ。


聖人日記三頁目

「この兄さんらは聖の兄貴の知り合いですかい?」

「し、知り合いというか……。」

「あー……俺は形式上ではこいつの部下みたいなもんだ。」

 

引ったくり犯が警察に引っ張られていった後、荷物を取り戻した竜二の疑問に対しブッダが困惑していた所、空気を読んだ悟空が頭を掻きながら答えた。

 

「渋々やってるんだがな。ま、このご時世ヤンチャするだけじゃ生活できないもんで雇われてる訳だ。」

「あら、あなたも同業者なの?」

「静子、あの聖の兄貴にタメ口を聞けるような輩がただのチンピラな訳ないじゃろうが!」

 

会話に入って来た静子を嗜める竜二を他所に、ブッダは悟空に対して気になっていた事を尋ねていた。

 

「にしてもいきなりどうしたの?連絡もなく私の所に訪ねてくるなんて珍しいね。」

「あのゴミクズ(帝釈天)にバレないように来たからな。」

(相変わらず帝釈天さんに対する好感度が下方向に振り切ってるなぁ。)

「あ"?この先も許すつもりは一切ねぇけど?」

「心の声を他人通使って答えるのは心臓に悪いから止めよう?」

 

嫌な存在を思い出したと言わんばかりの表情でため息を吐く悟空であった。

 

「で、ここにいる理由だったか?護衛だ護衛、月見のな。」

「え?でも月見さんって君と同じ位強かった記憶があるんだけど……。」

「正しくは隠蔽だな。お前の近くに行くとあの糞野郎に察知される可能性が高いから俺が誤魔化しに来たんだよ。一応月天の奴に監視は頼んどいたが……保険は幾つあっても良いもんだろ?」

「あぁ、うん……成る程。」

 

思い当たる節がありすぎるブッダだったが、ふとイエスが近くに居ないことに気がついた。

 

「あれ、イエス?」

「あぁ、あのロン毛ならガキと一緒にあそこに居るぞ。」

 

そう言って悟空が指を指した先には

 

「はい、どうぞ。お口に合うと良いんですが……。」

「うわおいしっ!あまり和菓子とか食べたことなかったけどこれならいくらでも食べれそう!」

「おいし~!ねぇねぇ白いお兄ちゃん、もう一個頂戴!」

 

イエスが愛子と共に月見から渡された大福に舌鼓を打っていた。それの様子に気がついた静子は急いでそちらの方へと歩いて行き、愛子に向けて叱り始めた。

 

「こら愛子!おやつをそんなに食べたら夕御飯入らなくなっちゃうわよ!」

「え~やだ~!愛子もっとお餅食べるの!」

「我が儘言わないの!ごめんなさいね、家の子が迷惑かけちゃって。」

「いえいえ、大丈夫ですよ。あ、それとこれどうぞ。」スッ

「?何かしら。」

「先程この子に渡した大福です。もしよろしければご家族でどうぞ。」

「わーい!」

「本当に良いのかしら?結構お高そうな物だけど。」

「まぁ作ったのは僕ですし、お気になさらず。あ、それとも袋もいりますか?」

「流石にそこまでして貰わなくていいわよ……じゃあ有りがたく頂くわ。」

 

割と大き目の菓子折の箱を渡す月見の様子を見ていた竜二は感心したような表情で口を開いた。

 

「なんともまぁ礼儀正しい坊っちゃんですね。あの歳でしっかりとした敬語を使うとは……うちの若い衆にも見習わせたいもんでさぁ。」

「あ、はい、そうですね……。」

「もしや聖の兄貴の甥っ子か何かですかい?もしや、ゆくゆく幹部に据える為の教育がなされてるとか……?」

「い、いやあれは彼の素なので……。」

「くっ……くくっ………。」

 

見当違いの事を真面目に話す竜二にしどろもどろになりながら答えるブッダだったが、突然悟空が笑いを堪え始め、やがて耐えきれなくなったのか愉快そうに笑い声を上げた

 

「はっははは!いやぁ、何ともまぁおかしな事言うんだなあんた。お前もさっさと訂正しろよ釈迦公よぉ。」

「あの容姿だし、言っても信じて貰えないと思うから……。」

「どうされましたか聖の兄貴、ワシ何か変なこと言いましたかぃ?」

 

二人の会話に何かを感じたのか、不思議そうに尋ねる竜二。暫く言うのを躊躇っていたブッダだったが、面倒になった悟空が口を挟もうとした。

 

「どうもこうも、月見は「あ、あぁ!そういえばこの後用事あるんでした!早く買い物済ませないといけないのでそろそろ失礼します!」うぉっ。」

 

これ以上詳細を話すと混乱すると考えたブッダは大声で悟空の言葉を遮ると、直ぐ様自分のバッグから何かを取り出して渡した。

 

「あ、悟空くんは月見さんと一緒に先に私達の住んでる所行っといて!これ鍵ね、さっさと買い物終わらせて帰るから!イエス、早くしないと特売の時間逃しちゃうから急いで!」

「え?あ、うん。じゃあまた後でね。」

 

戸惑うイエスを連れて商店街を競歩で歩いて行ったブッダであった。

 

「どうしたんでぇ聖の兄貴は……まさか、二代目の命を狙う輩がこの付近にっ!?」

「?」コテン

「あー………あとはこっちで何とかしとくからあんたはさっさと家族連れてどっか行っとけ。巻き込まれると危ねぇし面倒だからな。」

「すまねぇ恩に切るぜ舎弟の兄ちゃん!」

 

事態を理解出来ずに首をかしげる月見を他所に、悟空は頭を掻きながら周囲を警戒する竜二に対して忠告らしき事を話し出した。その言葉を信じた竜二はその場から家族を連れて立ち去ったのだった。残された悟空はため息を吐きながら未だに首をかしげている月見の方へ向き直った。

 

「さっさと行くぞ月見。」

「……?誰かこっち狙ってる気配なんて無いけど?」

「嘘に決まってんだろ。誰も傷付かない物だったら罪判定も無いだろ?」

「ふぅん?……あ、それよりもくじ引きしてきていい?さっき惣菜店で買った時に丁度一回分溜まったみたいだから。」

「あぁ?……まぁいいか、早く行ってこい。」

「はーい。」

 

甘えられる兄的な存在がいるためか、見た目の年齢そのままのような精神状態になっている月見に何とも言えぬ微笑ましさを感じて見守る悟空であった。

 

ガランガランガランガラン!!

 

オメデトウゴサイマース!

 

「………………あ?」

 

 

 

 

「ねぇブッダ、いきなりどうしたの?」

「いや、ちょっとあれ以上会話してたら更なる勘違いが起きそうだったから…。」

「え、そうなの?」

「まぁセールの時間が迫ってるのも事実何だけどね。あと5分ぐらいで始まっちゃうからもう待機しとかないと……!」

 

競歩のごときスピードで歩きながら話すブッダとそれに小走りで着いていくイエス。ブッダの移動する速さが一定の速度を超えると周りの空気が変わり、それに気がついたイエスは焦った様子で話しかけた。

 

「ブッダ!もう少しスピード緩めて!」

「イエス、これでも速くなりすぎないように我慢しているんですよ……!」

「でも君が急ごうとしている事が見て取れるようになったら………あぁほら!」

 

冷や汗を流すイエスが指を差した先には

 

「あら~めんこい鹿だっぺな。どっからきたんやろが?」

「お~うどうどうどうどう。」

「………。」コツコツ

 

蹄を鳴らす鹿がどこからともなく現れていた。周囲にいた老人に可愛がられているように見えるが本鹿達は意にも介していないようだ。

 

「君を背中に乗せようとする鹿達が集まってここら一帯が奈良の鹿公園よりすごいことになっちゃうよ!?」

「くっ……!下手な歓楽街の客引きよりも強い圧を感じるッ!」

 

その目線は総じて早歩きをするブッダへと注がれており、自分の出番を今か今かと待ちわびているようである。その鹿達をスルーしつつ進む二人は、それはそれはとてつもない圧をその身に浴びながら目的地へとむかうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

暫くして、騒動が起きる前に鹿達を帰し、無事セールに間に合った二人は大量の商品の入った買い物袋を手に持って帰路に着いていた。

 

「いやぁ、間に合って良かったけど……まさかもう米が売り切れてるなんてなぁ。」

「仕方ないってブッダ、沢山お客さんが来てたみたいだし。」

 

少しばかり沈んだ様子で思考を巡らせるブッダだったが、やがて何か思い出した様子よイエスから振られた話題に意識を向けた。

 

「あ、そういえばまだ聞いてなかったんだけど、結局月見さんってどんな人なの?今のところ礼儀正しい位しか分からなかったんだけど。あとあの餅菓子美味しかったねぇ。」

「簡単に言えば私の前世だよ。」

「へぇ………へぇ?」

 

一瞬で理解できなかった事柄に対して頭に疑問符を浮かべるイエスに対してブッダは捕捉し始めた。

 

「正しくは前世とされている人かな?言ってしまえば先輩みたいな感じだね。」

「でも前世って言うのなら今存在してるのはおかしくないかい?確か君達の所の輪廻転生って前世と今世は同じ魂だから一緒に居られない筈だけど。」

「後世で私の前世として語られるようになっただけだからね。他のエピソードは自分でも感覚があるんだけど、月見さんとは完全に別人なんだよね。」

 

笑いながらそう言ったブッダは、付け足すように口を開いた。

 

「下手したら日本では私や君レベルで有名かも知れないからなぁ。」

「え!そこまでなのかい?」

「うん、彼が元ネタの歌が有名な童謡になってるぐらいだし。」

 

驚くイエスの表情には少しばかり驚きが見えるが感心したような口調で話の続きを促した。

 

「へぇ~人気なんだね、あの子。」

「取り敢えず、先に鍵渡して部屋入って貰ってるから、僕らも急いで帰ろうか。」

「あ、ブッダ!『急いで』なんて言ったら……!」

「?どうしたのイエス。」

 

パカラッパカラッ

 

焦る様子のイエスにその理由を尋ねようとしたブッダは先程の鹿よりも重い聞き覚えのある蹄の音が耳に入った事でピシリと固まる。その音源をチラリとみてみると、電柱の影から此方をじっと見つめる一匹の白い馬がいた。電柱程度ではその体躯を隠すことは出来てないが、どうやら影から見守っているようである。

 

「か、カンタカ!?」

「……。」ブルル

 

自分が居ることがバレた事を理解した白い馬……カンタカがおずおずと電柱の影から出てくると、そのままブッダの服を噛み、何かを訴えかけ始める。

 

「……。」グイッ

「え、いや、こんな町中で君に乗るわけにはいかないから!ちょ、大丈夫だから引っ張らないで!」

 

そんなやり取りをしながら歩いていると、いつの間にか自分達の今の住まいである松田ハイツの前まで来ていた。

 

「ほら、もう着いたから!大丈夫だから!」

 

少し残念そうな雰囲気を漂わせながら帰っていくカンタカをブッダが見送っていると、隣にいたイエスがのほほんと話しかけた。

 

「相変わらず君は動物に愛されてるねぇ。」

「他人事みたいに言っちゃって……皆過保護過ぎるんだよねぇ。」

「まぁ自分から食べられに来ようとするのは正直言ってどうかと思うけど………。」

「それに関しては私前世でやらかしてるから何とも……。」

「そういえば君、話のなかでさも当然のように自分の肉を食べさせてたもんね。」

「あ、帰って来たねあんたら。」

 

苦笑いしながらアパートの階段へと向かう二人であったが、途中アパートの前を掃除していた松田に声をかけられ、立ち止まる事になった。

 

「どうしましたか松田さん?」

「さっきあんたらの部屋に見覚えの無いイケメンと子供が入って行ったけど、知り合いか何かかい?」

「あ、そうなんですか。彼は私の親戚と部下みたいなものでして、先に家に行くように合鍵渡してましたから、ご心配無く。」

「おやそうなのかい。だったらあの子に「菓子美味かった」って伝えといておくれ。なんか怪我してたみたいだけど、遊びに来てた孫の相手もしてくれたし、優しい子だったねぇ。」

 

にこやかな大家と暫く言葉を交わして別れた後、今度こそ階段を登っていく二人。

 

「あの世関係の人を松田さんが気に入るって中々無いよね。ウチの四大天使は騒ぎ過ぎて追い出されたり、スーツのポケットに沢山駄菓子とか詰め込まれたりでかなり苦手意識持ってたし。」

「それは君達の所(聖書側の天界)のノリが合ってないだけじゃ無いかなぁ。私の所のピンポン五体投地もどうかと思うけど……。」

「凡天さんは?確か普通に松田さんちに上がり込んでた筈だし。」

「あの眉毛は押しが強すぎるだけだから………。」

 

そんな会話を交わしながら自分の部屋の玄関の扉に手を掛けたブッダは鍵が空いているドアノブをそのまま回す。

 

「ただいま~。」

「あ、お帰りなさいイエス様、シッダールタくん。」

 

扉を開けて一番最初に目に入ったのは台所に立つ月見だった。着ていたダッフルコートは脱いでTシャツ姿となっており、エプロンを着て何やら調理している。

 

「あれ、月見さんなにやってるの?」

「これですか?おやつ時なので簡単な菓子でも作ろうかと思いまして……あ、持参した物だけ使ってるのでご安心を。」

 

そう言って目の前の鍋に視線を向けている月見。鍋の中からはパチパチと何かが弾けるような音が聞こえてきた。そちらに気を取られて横から覗こうとイエスは靴を脱いで床に上がり歩きだしたが、そこで何かに足を引っ掛けた。

 

「へ?」

 

油断していたからか固まったまま腑抜けた声を出して倒れ込みそうになるイエス。隣にいたブッダも、調理に集中していた月見も助けるには動けない。迫ってくるフローリングの床に反射的に目を瞑ったイエスであったが、

 

グイッ

 

床にぶつかる直前で服を上向きに引っ張られその体は止まる。何時までも想定していた痛みが来ないことを不思議に思ったイエスが目を開けると、床が目の前まで迫っていたがそこから動くことは無かった。

 

「何やってんだ。」

「いやぁ、誰かは分からないけど助かったよ。」

 

そこにどこからか呆れたような声がかかる。直後、来ていたTシャツを更に引っ張り上げられ立たされたイエスが例を言おうとして顔を上げる。

 

「……………。」

 

視界全てが逆さまの猿の面で埋まっていた。

 

「うわぁっ!?」

「……………。」ボフッ

 

イエスが驚いて仰け反ると、その猿面を被っていた人物に気がつく。それは天井に立っており、そこからイエスを引っ張り上げたと言うことが簡単に考察出来る。猿面は特に喋る事なく音を立てて煙のように消えていった。

 

「い、今のは……。」

「世界的に信仰されてる宗教の教祖でも運動神経とか無いんだな………ま、布教に身体能力なんぞ関係ねぇか。」

 

声が聞こえて来た方を見ると、部屋の奥の畳の上でゴロ寝している悟空が特に何の興味も無さそうな眠そうな目を向けていた。他人の家でここまで寛げる者は早々居ないだろう。

 

「で、いつまでそこに突っ立ってんだあんたら。」

「丁度あられも出来たので座りましょうか。」

「あ、うん。」

 

違和感を抱く前に移動を促された二人は大量のあられが盛られた皿を持った月見の後に続いて居間の机の周りに腰をおろしたのであった。




悟空の兄さんは割とめんどくさがりです。仕事はきっちりしますが、余計な事は面白くなければしません。
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