あと今回月見さんが出ません。
それでは、どうぞ
「う~らの畑でポチが鳴く~♪正直じいさん掘ったれば~♪」
とある昼下がり、シロは地獄の繁華街にて日課兼趣味の散歩をしていた。ノリノリで歌うシロは体をリズムに合わせて揺らしている。
「大判小判がざっくざっくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざく……」
次第に目からハイライトが消え去り、ただひたすら狂気的に大判小判を掘る所だけを繰り返し始める。声のトーンを一切変えず、歌い続けるシロだったが、それに夢中になってしまった為に何かに当たってしまう。
「ざくざくざくざく………わぷっ!?」モフッ
「ん?あぁ、すまない。少し立ち止まってしまっていたな。」
シロがぶつかったのは一人の青年の足だった。柔らかかったかつふわふわの毛があった為被害は無かったものの、青年は少しばかり驚いているようだった。それを感じ取ったシロは少しばかりしゅんと落ち込みながら謝った。
「ごめんなさい……あまり前見てなかったから……。」
「いや、気にしなくて良い。確かにお前は何か理由があって不注意で俺の足にぶつかったのだろうが、俺もこんな所で突っ立っていたんだ。お互い様、ということで良いだろうか?」
青年はそう言いながらしゃがむと、顔を伏せているシロの頭をワシャワシャと撫でる。くすぐったそうに笑い始めたシロはようやっと青年の顔を見た。シミ一つない白い肌と清潔に切られた黒髪を伴った端正な顔立ちに、服装はどこか明治を思わせるような着物だった。そして、何よりも一番特徴的なのは綺麗な青色の瞳であった。
「うん、分かったよお兄さん!」
「そうか、なら良い。」
シロが元気良く返事をした結果、青年は頷きながら立ち上がる。シロはいつものように人懐っこい雰囲気を出しながら青年へと尋ねた。
「ねぇ!お兄さん名前はなんて言うの?俺はね、シロ!」
「そうか、俺は斬島と言う者だ。」
シロと青年……斬島が互いに名乗った所でどちら共の腹から音が鳴る。
「…………昼時だしこれも何かの縁だろう、何処かで食事でも取るか?」
「え!?良いの!?行こ!」
尻尾を振ってルンルン気分を表すシロはほんの少しだけ微笑んで歩き出した斬島の隣を着いていく。
「ねぇどこ行く?やっぱりお肉?」
「そうだな、最近は魚が続いたからな。」
「それなら良いお店しってる!とっても大きいステーキ出してくれるとこ!」
「そうなのか?……じゃあ案内を頼めるか?」
「うん!」
胸を張って答えるシロは、意気揚々と歩き出した。
「ここ!」
十数分後、一件の店の前で立ち止まったシロはついてきている斬島の方に振り向くと、器用に前足で店を指し示した。『ステーキハウス』という看板がかけられた店の中からは良い香りが漂って来ており、聞こえてくる楽しそうな声を聞く限り、評判はかなり良いようだ。
「それじゃあ早速入るか。」
「うん!」
ガラッ
斬島が引き戸を開け、揃って入店すると近くにいた人物が目を向けて来た。
「鬼灯様!」
「おや、シロさんじゃないですか。」
カウンター席で軽く一キロは越えてそうな大きさのステーキを切り分けていた鬼灯は駆け寄って来たシロを受け止めた後、後ろにいた斬島の方に話しかけた。
「それに斬島さんも。プライベートですか?」
「お久しぶりです、鬼灯様………えぇ、まぁ。肋角さんや災藤さんに「少し位は休め」と言われて
「真面目に仕事をこなされているようでなによりですよ。」
「ありがとうございます。」
「アレ?鬼灯様と斬島さんって知り合いなの?」
そう言ってペコリと頭を下げる斬島とその相手である鬼灯をシロは不思議な顔をしながら見つめている。事情を知らないシロに対し、鬼灯は口を開いた。
「えぇ、斬島さんはシロさんと違い、拷問が主な仕事というわけでは無いですが、歴とした獄卒の一人です。」
「え!?そうだったの!?」
「む、言ってなかったか?」
驚く声を出すシロを前にした斬島は一度背筋を伸ばすと口を開いた。
「特務室所属の獄卒の斬島だ。改めてよろしく頼む。」
「特務室?」
「説明しますから、取り敢えずお二方共注文しては?」
聞いたことの無い言葉に首をかしげるシロ。その様子を見た鬼灯は一先ず入り口で屯している二人を退かす事からはじめるのであった。
「簡単に言いますと、『特務室』というのは現世でしぶとく留まっている悪霊や幽霊の回収、危険な亡者の刑場の輸送の管理など、様々な事を行う謂わば『地獄の何でも屋』ですね。斬島さんはそこに所属する獄卒の一人です。」
「へぇ~、迷子の子猫のお家探しとかも?」
「シロさんの思い描いているそれは烏天狗警察の役割ですよ。それにその設定でしたらお巡りさん役貴方では?」
お目当ての肉が運ばれて来たシロは鬼灯に突っ込まれながら切り分けられたステーキを頬張る。隣では、鬼灯と同じようなステーキをカトラリーを使って切り分けて幸せそうな雰囲気を出しながら頬張る斬島もいる。シロの解釈に呆れたような声色になる鬼灯は引き続き話を続ける。
「何でも屋といってもその仕事は普通の獄卒ではこなせない物ばかりなんです。なので特務室に所属する獄卒は基本的にエリートだったり、特殊な能力を持つ方が殆どです。」
「それじゃあ斬島さんもエリートなの?」
シロの質問に対し、鬼灯はその口で咀嚼している肉を飲み込むと、いつも通りの声で返答した。
「正直に言うと、私は特務室の獄卒の採用にはあまり関わっていません。皆さん癖が強いですし、サボり癖がある方もいますが概ね優秀ですよ。斬島さんに関しても例外ではありません。」
「へぇ~!スッゴい!」
「……………ん?どうかしたか?」
肉に夢中だったのか、シロから向けられるキラキラとした目線に心当たりがなく首をかしげる斬島だったが、シロはそれを知ってか知らずか話を続けた。
「ねぇねぇ斬島さん、普段はどんなお仕事してるの?」
「ふむ……鬼灯様、言っても良い事ですか?」
「ええ、別段機密事項というわけでもないですし、シロさんも獄卒ですから。」
「分かりました………まぁ、それよりも肉を食べてしまわなくては。早くしないと冷えて固まってしまうんじゃないか?」
「あ、そうだった!」
斬島の指摘にはっとした様子で目の前の肉に向き直ったシロはそのまま食らいつき始めた。それを他所にいつの間にかステーキを食べ終えていた鬼灯は斬島に話しかけた。
「そうだ、斬島さん。この後、肋角さんの元に向かう予定なのですが、その後で良ければ軽い運動位は付き合いますよ。」
「!本当ですか!」
「えぇ、貴方達の調子がどんなものか見定めるのも仕事の一貫ですよ。」
鬼灯の言葉に斬島は目を輝かせる。しばらくして二人と一匹は代金を支払い、店を後にするのであった。
「ねぇねぇ鬼灯様。今更だけどさ、俺もついてきて良かったの?」
「別に機密事項というわけでも無いですし、見聞を広める為だと考えれば咎める理由なんて一切ありませんよ。それに、興味があるのでしょう?」
「うん!………でも、なんか変な感じがするね。」
「ほう、例えば?」
斬島を先頭に街を歩く二人と一匹であったが、シロは何処か不思議そうな顔をして辺りを見回していた。
「俺が普段出掛けてるショッピング街とかと比べて少し落ち着いててお洒落な気がする!こういうのってなんて言えばいいのかな。くらしっく?」
「クラシックは中世や近世のヨーロッパの宮廷等の造りを示す言葉ですよ。ここの事を敢えて言い表すのであればモダンです。」
「そうそれ!」
つっかえていた物が取れたかのように晴れた雰囲気を纏うシロに対し、鬼灯は補足するように口を開いた。
「ここら一帯は昔から当時の亡者の手によって開拓、建設された街です。なので他と比べ、時代特有の要素が色濃く残るんですよ。この辺りは海外から日本へと様々な技術が入ってきた明治や大正辺りに作られた街なので、必然的に当時の造りに近い物となってますし10分程歩いたら、また違った時代の物が見れます。」
「へぇ~、知らなかった!」
「地獄も広いですし、こういった場所は各地にありますよ。」
「鬼灯様、到着しました。」
「おや、そうですか。」
歩きながら会話をしていたシロと鬼灯に先導していた斬島が立ち止まりながら話しかける。その言葉に反応したシロが目的地を見るために横へ顔を向ける。
「うわぁ~!立派!森の洋館みたい!」
「シロさん、それは誉め言葉なんですか?」
そこにあったのは、大正風の立派な洋館であった。ざっと見ただけでもかなり広いのが分かる。シロはテンションが上がったのか、目を輝かせながら駆け出そうとしている。
「ね、ね、鬼灯様!早く行こう!」
「そうですね、何時までもここに留まる訳には行きませんし。斬島さん、案内をお願い出来ますか。」
「分かりました、どうぞこちらへ。」
ドアノブに手を掛け、扉を開いた斬島は鬼灯とシロを館の中へと招き入れるのであった。
はい、というわけで地獄関連ということで獄都事変も追加です。今回出たのは斬島だけですが、次回以降もキャラは追加していきます。
原作の獄都事変では斬島達の暮らす館はあの世の中心地である「獄都」にあります。獄都は区域ごとに現代や江戸、近未来など時代が分かれており、特務室があるのはその中の明治大正から昭和初期辺りの区域です。ですが、本作では鬼灯の冷徹を基準としているため、日本地獄の中の一角にあります。これといった場所はありませんが、地獄の中で真ん中辺りに位置しています。周囲の街は元人間現獄卒、地獄の住人といった感じの人々が住んでおり、作中でも鬼灯様が言った通り「当時の人間が作った」というのがよく分かる造りになってます。
斬島の台詞は「真面目+天然+優しさ」といったイメージで書いてます。コミュ力はかなり高いですし。