閻魔庁の医務室うさぎ   作:ゲガント

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「特務日記」と言っておきながら特務は既に終わった後の模様。




それでは、どうぞ。


特務日記三頁目

「ねぇねぇ、そういえばその肋骨さん?ってどんな人なの?」

「肋骨ではなく肋角さんですよ。」

 

廊下にて、すっかり調子が戻ったシロが口を開く。鬼灯は間違いを指摘しながらそのまま話題を広げ始めた。

 

「肋角さんは特務室の設立時から室長として勤めて貰っている方です。基本的に特務室の獄卒は彼にスカウトされて入った方が殆どなんですよ。」

「へぇ~、斬島さんもそうなの?」

「あぁ……と言っても、あの世に来てから拾って貰ったんだがな。」

拾って貰った(・・・・・・)?」

 

言い回しに引っ掛かった所を繰り返したシロに対し、斬島はその表情を少し物憂げにしながら返答した。

 

「俺は元々人間だ。まだ子供だった頃に現世で死んで賽の川に送られている。鬼灯様もおっしゃっただろう?獄卒は皆地獄に来てからスカウト……拾われた者が殆どだからな。」

「あ、だから腕がもがれても元に戻るんだね。」

「怪我をしていい理由にはなりませんけどね。」

 

話を聞いていた月見の一言に少しだけ目線を反らす斬島。

 

「……まぁ、そういうことだ。俺ら特務室所属の獄卒は皆肋角さんに育てられた。だから俺らはここにいる。」

「その肋角さんを尊敬してるんだね。」

「勿論だ……そろそろ着くぞ。」

 

その言葉の後、斬島は一際立派な造りの扉の前で立ち止まると、そのままノックをした。

 

「肋角さん、斬島です。鬼灯様方をお連れしました。」

『あぁ、入ってくれ。』

「失礼します。」

 

断りを入れて扉を開ける。扉の先はきっちりと掃除が行き届いた執務室であった。部屋の中心にあるデスクには様々な書類やペン一式などの仕事道具が整理されて置かれていた。その部屋の主らしき軍服を身に纏い煙管に口をつけていた男はそのデスクの横に立っており、三人と一匹が入って来たことを視認すると、煙管を処理し口を開いた。

 

「鬼灯殿、月見殿、お待ちしていました。」

「お久しぶりですね肋角さん……おや、災藤さんはいらっしゃらないのですか?」

「あぁ、災藤なら今医務室で抹本の書類確認をしている筈です。他に新しく入る職員もいるので、今日はそちらを任せていましてね。」

 

鬼灯を超える身長と黒い肌を持ち、黒い髪をオールバックにした男……肋角は、鬼灯と軽く会話を交わした後、デスクの上に置かれていた書類の一つを手に取った。

 

「今年度の予算です、ご確認を。」

「…………はい、問題無さそうですね。前年度から繰り越された資金はどうしますか?」

「そうですね……あぁ、斬島、確か最近訓練所の設備が古くなっていると言っていたな?」

「はい、あと訓練用の木刀の補充もしてほしいのですが……。」

「分かった、注文しておこう。構いませんか、鬼灯殿?」

「ええ、予算の中に収めるのであれば問題ありません。」

「絆創膏の補充もしておきますね。」

「月見殿、後で佐疫に渡す分を別に分けておいてもらえますか?」

「分かりました。」

「感謝します……して、一つ気になっていたのだが。」

 

しばらく業務的な会話をしていた三人であったが、肋角は不意に視線をずらす。その先には不思議そうな顔をして首をかしげるシロがいた。

 

「そこにいる白い犬は?」

「シロです!はじめまして!」

「ふむ、良い挨拶だな。獄卒か?」

「うん!今日斬島さんと友達になったから着いてきた!」

「そうか、今後とも斬島と仲良くしてやってくれ。」

「ワンッ!」

 

先程までの引き締まった上司としての顔ではなく、父親らしい笑みを浮かべながら屈み、シロを撫でる肋角。それを受け入れて楽しそうに鳴くシロを、隣に立つ斬島はちょっとした恥ずかしさを感じながら見守るのであった。暫くして満足したのか、肋角は再び背筋を伸ばして立ち上がる。

 

「さて、斬島。お前は部屋に戻るか?確か佐疫ももうじき帰って来ると思うぞ。」

「あ、その事について少しお話が……。」

「どうした?」

「この後、鬼灯様に訓練をつけて貰おうかと……。」

 

斬島の言葉に少しだけ眉間に皺を寄せるが、数秒思考した後口を開いた。

 

「………分かった、一時間だけなら許可する。ただし、先日の負傷が治ったばかりだと言うことを忘れないように。」

「ありがとうございます!」

「よろしくお願いします、鬼灯殿。」

「構いませんよ。では、失礼します。」

 

その言葉の後、鬼灯は執務室を出る。それにペコリと頭を下げた月見が続き、その後を斬島とシロが追いかけた。そうして扉が閉められた後、肋角は机の上に置いていた煙管に常備している煙草を詰めた後火を着け、静かに吸い始めた。

 

「………。」フーッ

 

吐き出した後、空中を漂う煙を見ながら頭の整理をしていた肋角であったが、ふと先程鬼灯から預かった書類に視線を移した。その中に、一つだけ飛び出した紙がある。その紙を手に取り内容に目を通した肋角は少しばかり目を見張った後、口元に笑みを浮かべた。

 

「…………成る程、鬼灯殿も粋な事をしてくれる。」

 

 

 

「肋角さーん、いますか?」

「あぁ、帰っていたか木舌。」

「今日の分の亡者の他地獄への輸送が終わったんで。あと途中抹本に会ったんですけど、こっちの医務室勤務になるんですね。」

「そうだな……祝いも含めて今度全員で飯でも食いに行くか?」

「お酒は?」

「良いぞ、飲み過ぎなければな。」

「ぃヨシッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「訓練所ってどんな場所?閻魔庁にあるやつみたいな所?」

「あっちはジムですね。」

「でも鬼灯様、この間芥子ちゃんと一緒にスパーリングしてなかったっけ?めっちゃ激しかったよ。」

「あれもトレーニングの一環ですよ。」

 

肋角の元から訓練所へと向かう途中、外向けの服から着替えるために自分の部屋へ行った斬島と別れ廊下を歩く二人と一匹は他愛もない会話をしながら進んでいく。暫くして鬼灯は一つの入り口に入り、シロと月見はその後ろを歩く。

 

「わぁすごい、本格的。」

 

周りをキョロキョロと見回すシロは感心したように呟く。その言葉の通り、訓練所の中は広く、トレーニング用の設備が整っていた。昼食時直後であるためか利用者は少ないようではあるが、それでも鍛練に勤しむ者は何人かいた。その内、ダンベル置き場の傍らで汗を拭いて休憩していた青年が鬼灯達に気付くと

 

「鬼灯様!月見様!お久しぶりですッ!」

「こんにちは谷裂くん。お変わり無いようでなによりです。」

 

威勢良く挨拶した丸刈りの青年……谷裂は月見に返答された後、頭を上げると話し始める。

 

「今日は何の用事でここへ?」

「いえ、用事は既に終わりました。ここに来たのは寄り道です。そう言う貴方はいつからここに?」

「つい先刻です。走って軽く汗を流したのでこれからトレーニングを始めようかと。」

「すいません、お待たせしました。」

 

そこに動きやすそうな格好に着替えた斬島が入って来た。谷裂は少し驚いたような顔をした後、直ぐに怪訝な表情で口を開いた。

 

「む、斬島、貴様肋角さんからトレーニングを控えるよう言われていた筈だぞ。」

「それついては許可を貰ってきたから問題無い。鬼灯様に稽古を着けて貰えるように頼んだからな。」

「何ッ!?」

 

しかし斬島の言葉を聞いた途端、動揺するような声を上げバッと鬼灯の方へ顔を向ける。

 

「本当にですか!?」

「えぇ、何ならこちらから提案したことですし……谷裂さんも手合わせしますか?私は斬島さんとやるので……月見さん、頼めますか。」

「僕は構いませんよ。」

「よろしくお願いします!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ワーワー   ザワザワ  ドンッ!

 

「……?」

 

一人の青年が訓練所の前を通りかかると、いつも以上に賑わっているのか、騒ぎ声が聞こえてきた。思い当たる理由もないため首を傾げた青年は原因を探る為に部屋に入る。すると、訓練所の一部に獄卒達が集まっていた。それに混じるように入って行った青年な全員が注目する場所へ目を向ける

 

「あれ、斬島?」

 

休みを言い渡されていた筈の自分の親友が立っていることに驚いていると、周りの同僚が青年の存在に気がついたのか話しかけてきた。

 

「あ、佐疫くんも来た。」

「おう佐疫、帰ってたんだな。」

「うんまぁついさっき……で、これ今どんな状況?」

 

困惑する青空のような瞳の青年……佐疫の目線の先には

 

 

「シッ!!」ブォン!

「踏み込みが甘いですね、もう少し抉るように斬り上げなさい。」ガキンッ!

 

「そこ。」シュッ

「ぐぅ!?」ドコンッ!!

「金棒という重い武器を自由に振り回せる力は素晴らしいですが、一撃に重きを置きすぎです。反応出来ていても危ないですよ。」

 

 

斬島の刀を金棒で巧みに止める鬼灯と谷裂が攻撃した後の隙を狙って蹴りを入れる月見の姿があった。獄卒二人は大量の汗を流しながら向かっているのに対し、鬼灯と月見は息一つ乱さず相手をしている。

 

「たまたま鬼灯様と月見様が斬島と会って、稽古を頼んだらしい。ほら、あのお二人が戦う姿って殆ど見ないだろ?」

「最初はこの訓練所にいる人だけだったんだけど、段々と観客が増えてこうなったの。」

「成る程、そんな事が……あっ。」

 

近くの同僚に話を聞いていた佐疫だったが、再び目線を四人に戻すと目を見開く。

 

ガキンッ!

 

「ッ!」

「終わりです。」

「……………ハァッ……ハァッ。」

「この辺りが頃合いでしょう。」

「ありがとうッ、ございました………。」

 

刀を弾かれ、眼前に金棒を突き付けられた斬島は肩で息をしながらその場に膝を付き、

 

 

「フンッ!!」ブォン!

「せいッ。」ガキッ!

「!しまっ「甘いです。」うぉッ!?」グラッ

「てい。」グイッ

 

ドシン!

 

「かはッ!?」

「あ、強すぎた。」

 

渾身の一撃を蹴りで止められ動揺した谷裂は体勢を崩され、月見によって思いっきり床に叩き付けられた。叩き付けた本人は申し訳なさそうな雰囲気でしゃがみこみ、話しかける。

 

「すいません、力加減を誤ってしまって……大丈夫ですか?」

「だい……ゼェ……じょうぶ……ゼェ……です………。」

 

息も絶え絶えな様子だが、一応大きな怪我は無く無事なようである。月見の手助けを貰いながら起き上がった谷裂は傍らに転がる金棒を持って再び立とうとする。

 

「谷裂、流石にこれ以上は明日に響くよ。」

「貴重な機会なんだ!ここで倒れてしまってはもったいない!」

 

安静にするように言うため出て来た佐疫であったが、谷裂が止まる気配はない。

 

「麻酔打って抹本に実験台として引き渡そうか?」ボソッ

「…………………………………。」ピタッ

「流石にこれ以上の指導は体力的に危ないですからね。ここまでにしておきましょう。」

「…………分かりました。ご指導、ありがとうございます。」

 

しかし次に出された脅しで完全にその動きを止めた。佐疫は谷裂が月見から差し出された水と塩分タブレットを受け取り、口にした所を確認した後、汗だくで座り込む親友の元へと駆け寄った。

 

「何やってるの斬島、この間の任務の怪我治ったばかりなのに……もっと自分の体は大切にしなよ?」

「分かってはいるんだが……何時までも体を動かさないままだと鈍ってしまう。早く勘を取り戻さなくては。」

「仕事熱心なのは大変結構ですが、それで体調を崩されては元も子もないのである程度は自重してください。」

「はい……。」

 

汗を拭いながら話す斬島であったが、鬼灯から釘を刺されたこともあり、暫くは大人しくなりそうである。そんな中、トコトコと歩いてきたシロは口を開いた。

 

「ねぇねぇ鬼灯様、さっきの見て一つ気になった事があるんだけどさ。」

「どうかしましたか?」

 

 

鬼灯に聞き返されたシロは首を傾げながら問いかける。

 

 

 

 

 

「鬼灯様と月見さんってどっちの方が強いの?」




作品内で語られてはいませんでしたが、斬島は与えられた任務で現世に行っており、そこで両腕が千切れかけてます。その治療が終わり、早速仕事に戻ろうとして同僚や上司に止められて強制的に休暇にされ、鍛練なども禁止されたのが特務日記一頁目の斬島です。肋角さんも鬼灯様が見てくれるという理由で鍛練に許可を出してます。

その任務についてですが、詳しくは別のお話で書かせていただきます。





まぁクトゥルフ案件なんですが。
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