それでは、どうぞ
ビュンッ! ズァッ! ズドンッ!
「…………………。」
「…………………。」
「…………………。」
「…………………。」
「「「………………。」」」
呆然と目の前の光景を見やる斬島達獄卒とシロ。言葉を失った彼らの目線の先には
「手合わせは久方ぶりですが、衰えて無いようで何よりですよ。」ドシュッ!
「鬼灯様こそ、いつの間にそんな技術を?今の、確か中国拳法の一つでしたよ……ねッ!」シュッ!
先程の手合わせとは比べ物にならない程の速さで繰り出され風圧を伴った拳。それをいなし、空間をかっ斬るような錯覚を受ける程の蹴り。受け止める音、床を蹴る音、その全てが大気を揺らしその激しさを示す。当の本人達は会話を交わしているが、その光景は地獄の中でも屈指の戦闘能力を持つ特務室の獄卒達でも少しばかり異常に映っているのだろうか、斬島はぼそりと呟いた。
「本当に……すごいな。」
「いや、これ僕らも巻き込まれないかな………。」
~10分前~
「鬼灯様と月見さんってどっちの方が強いの?」
「……さぁ?あまりそういうのは気にしたこと無いですね。そもそも月見さん自身戦いを好む訳でも無いですし、お互い忙しかったので。」
「僕は元々弱かったので一時期鬼灯様に鍛えて貰っていましたが、最近ではそう言うのも無かったですもんね。」
「あ、どうせなら久しぶりにやりますか?」
「良いですね、運動がてらに。」
「では今までと同様に先に2発攻撃を入れた方の勝ちで………罰ゲームどうします?」
「何人か誘って呑みに行きましょう。そこの代金の支払いということでいかがですか?」
「構いませんよ。」
「スッゴい軽い感じで始まったけど、あそこだけ世紀末になってるね。残像とか初めて見るもん。」
ある意味元凶であるシロは二人の手合わせを見て目が点になっている。暫くその状態が続き、少し離れている筈の自分達まで拳がぶつかり合って発生する風圧が届くようになった所でふと谷裂は後ろから何かスナック菓子を食べるような音がしているのに気が付く。眉をひそめながら振り返る谷裂であったが、予想以上に集まっていた獄卒に固まった。その最前列にいた平腹はその様子に気がついたようで、先程の音の発生源であろうポップコーンを抱えながら首を傾げていた。
「平腹、貴様いつの間に……。」
「んぉ?お前も食う?」
「要らん!」
「んだよ~、連れねぇなぁ~。」バリムシャァ
「食いながら喋るな!」
「あはは……ん?」
豪快に口にポップコーンを放り込んで咀嚼する平腹とそれに目くじらを立てる谷裂のやり取りを横目で見て苦笑いする佐疫はいつの間にか更に集まっていた獄卒の一人が誰かを担いでこちらに近づいていることに気が付く。
「やぁ佐疫。」
「木舌も来たんだ……何で田噛担がれてるの?」
「俺が聞きてぇ。」
脱力し、抵抗の意思を一切見せない橙色の瞳を持つ青年……田噛は気だるそうな声でそう答える。担いで来た緑色の瞳を持つ青年……木舌は朗らかに笑いながら口を開いた。
「皆ここに集まってたけど、田噛だけずっと娯楽室のソファで寝てたからね。一人だと状況が分かんないだろうから連れてきた。」
「余計なことすんじゃねぇよ…………で、いま何やってんだ。」
逆さまのまま会話をし始める田噛。彼の面倒臭がりは今に始まった事では無いため、抵抗を諦めた事に対するツッコミはせずそのまま佐疫は口を開いた。
「鬼灯様と月見様が飲み代を賭けて勝負中。」
「……あー?」
簡単にまとめられた一言に一瞬だけ虚無顔になる田噛であったが、直ぐに復帰し気の抜けた声を漏らす。
「んなもんここでやる必要ねぇだろ。」
「本人達にとっては遊びの範疇なんじゃないかな。」
「遊びだぁ?」
ドゴッ!!
「あれがか?」
「うん、まぁ、そこについては鬼灯様と月見様だからってことで。」
「お、田噛も来たのか!お前もポップコーン食うか?」
「うるせぇ奴が来た……………。」
いつの間にかいつも集まる面子になってきた所で、一際大きい打撃音が響き渡る。反射的に視線を戻すと、月見のかかと落としが鬼灯の交差させた腕で受け止められていた。どうやらまだまだ終わる気配は無いようだ。
有効打にならなかった事を瞬時に察し、直ぐ様月見は反動を利用して跳び上がる。直後、鬼灯の振るった腕が月見のいた空間を通り過ぎた。
シュタッ
「貴方相手だと決定打に欠けますね。」
「こちらの言葉ですよ。その速さと蹴りは私には無いなので羨ましい限りです。」
「一応ウサギですから。脚力では負けてあげられません……よッと。」ダッ!
床を蹴り、再び鬼灯へと迫る月見。それを真っ正面から迎え撃とうと構える鬼灯であったが、月見の右足が床に着いた瞬間その姿が掻き消える。それを認識したと同時に、鬼灯は左腕を横に突き出した。
バシッ!
「っ!」
「捕まえましたよ。」
開いた左手で、丁度空中で鬼灯を蹴ろうとしていた月見の足を捉え、そのまましっかりと握り締める。月見は抜け出そうとするも強制的に作られた隙によって行動権を潰されており、次の行動に間に合わない。
「シッ!」ブオンッ!
「まずっ。」
月見の足を持った直後、鬼灯は姿勢を変え月見を金棒を扱うように振り下ろした。抵抗しようにも不安定な空中な為か中々行動出来ず、その背中に床が迫る。
バゴォッ!!
「カハッ………。」
「まず一発。」
遠慮の欠片も無い衝撃が響く。叩きつけられた月見は一瞬だけ苦しそうな声を出すも、気配で鬼灯が追撃を加えようとするのを察し、直ぐ様身を捻り体を丸める。そうして鬼灯の攻撃を避けると共に腕で床を押し、縮めていた体を伸ばす事で両足で蹴りを放つ。
「せいッ!」
「ッ!」
その鋭い一撃は拳を振り切って空いていた腹辺りに直撃し、鬼灯は大きく後ろへと吹っ飛ばされた。着地してもなお踏ん張らなくては後ろへと進み続ける様子から、相当な力が加わっていたのが分かる。数mほど床に跡を残して止まった鬼灯はいつもより更に目を鋭くさせ、息を吐く。
「………これで一対一、あと一撃ですね。」
そう呟く鬼灯は右手で蹴られた部分を擦っており、相対する月見も関節をほぐすように動いている。どうやら互いに先程食らった一撃が少し響いたらしい。しかし彼らが止まる気配は無く、二人は再び構えを取り始めた。月見は片足を引き力を込めて今にも飛び出さんとするように。鬼灯は腰を落とし、拳に力を最大限に込められるように。その気迫に観戦していた獄卒達は静まり返り、その場に一瞬だけ静寂が訪れた。
「行きます。」ダッ!
今度は鬼灯から動き出す。縮地によって一気に駆け抜け互いの射程距離に入った瞬間、鬼灯は体を捻り全力で拳を振るおうと構え、即座に放たれる。その速さと気迫は近代兵器にも劣らないレベルである。月見も拳を握り鬼灯に合わせるように迎え撃った。
ズドンッ!
拳はぶつかり合い、生まれた風圧は辺りに広がり霧散する。決定打になり得なかった拳に更に重ねるように二発、三発と拳を振るうが全て相殺し合っている。次第にその速度は上がって行き、
ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!!!!!!
終いには残像によって手が複数本増えているように見えるレベルのラッシュとなっていた。いつも通りの無表情な二人であったが、体格と単純な筋力の差もあってか段々と月見が押され始める。
「……………ッ!」
ピクリとほんの少しだけ顔を歪ませた月見はその後何発かの拳を殴り返し、身を捻って鬼灯の攻撃を避けながら後退した。その際いなした拳が服をかすっていたが、どうやら体には当たらなかったようだ。しかしそれを鬼灯が許す筈もなく、追撃の為月見を追いかけて距離を詰める。再び手を伸ばせば届く範囲に月見が入った。
「チッ。」グッ
だが鬼灯の行動は頭の防御であった。それと同時に頭の横に構えられた腕へ月見の鋭い蹴りが突き刺さる。ただ先程と違い、しっかりと踏みとどまった鬼灯は片手を防御に使いながら反対の手を伸ばす。しかし、月見が体勢をわざと崩した事でその手は惜しくも空を切った。床に着地した月見は姿勢を低くしたまま一度下がるもすぐに立て直し鬼灯へ向かって行く。床を蹴り、飛び上がった月見はそのまま踏みつけるように鬼灯へ向けて両足を振り下ろした。
「せいっ。」ズドンッ!
腕を交差させ、真っ正面から受ける鬼灯を踏み台に月見はもう一度跳躍した。体を限界まで反らし、力を溜めるように。
ギギギギギギギギギ
それに呼応するかのように鬼灯も右手を引き、力を溜める。そして一瞬の空白が生まれた後、
バチンッ
二人が溜めていた力の枷が外れる音がした。
チュドンッッッ!!!!!
ドゴォッッッ!!!!
鬼灯の拳は月見の腹に突き刺さり、月見の蹴りは鬼灯の頭を捉えた。月見は体をくの字に折り、何回も床をバウンドして転がり、鬼灯もたたらを踏んで片膝を付いた。呆然とその光景を見つめていた観戦者達であったが、シロがいち早く正気を取り戻し、顔を上げ首をゴキリと鳴らす鬼灯の元へと駆け寄った。
「ね、ねぇ鬼灯様………大丈夫?」
「大丈夫ですよシロさん、少々首がイカれた気がしますが………まぁ骨まで逝って無いので1日位で治るでしょう。全く……相変わらず狙う場所に容赦が無いですねあの方は。」
「オレ、あの速さの蹴りモロに食らってそれで済む鬼灯様も大概だと思う!」
「当たり前でしょう、互いに本気でやってないんですから。」
「………ん?」
案外平気そうな鬼灯の言葉に首を傾げるシロ。それを他所に鬼灯は床に転がったまま動かない月見に向けて声をかけた。
「そうでしょう?月見さん。」
「はい、たかが手合わせ程度でリミッター外す事も無いですし。」ヒョイッ
「フツーに起き上がった!?」
しかし転がっていた月見は何も無かったかのような顔をして寝返りをうつと、そのまま体を跳ねさせて床に立った。殴られた部分を擦っている辺り、ダメージはあったようだが先程まで激しい戦闘があったとは思えないほどしっかりと歩いている。しかし、いつもピンと立っているうさみみは萎れていた。
「はぁ、僅差で負けてしまいました………。」
「殺られる前に殺った方が楽ですからね。」
「だからといってクロスカウンター仕掛けてこないでください。あの姿勢で衝撃受け流すの難しいんですから。」
「それこそ貴方に言われたく無いですね。本気では無く私だったから良かったですが、普通の獄卒であれば呆気なく頭がぶっつぶれてましたよ。」
「鬼灯様の頑丈さに対する信頼ですよ。」
「貴方の財布を最大限軽量化して差し上げましょうか?」
「それはご勘弁を、まだ葛さんの所から餅米取り寄せる前なので………どこにします?」
「そうですね………まぁ近場にある大衆居酒屋でいいんじゃないですかね。まだ仕事ありますし、8時集合で。」
「了解です。」
先程まで一般的には殺し合いと呼ばれそうな殴り合いをしていた二人であったが、早速この後呑みに行く店の相談をし始めた。その際、最初から最後まで置いてけぼりだった獄卒達に気がついた鬼灯は最前列でキラキラとした目を向ける斬島に向けて声をかけた。
「あぁ、すいません。そろそろ私達はお暇させていただきます。」
「自分の身体は大事にしてくださいね。」
「はい、ありがとうございました!」ビシッ
「じゃあね、斬島さん!」
その言葉の後、月見と鬼灯とシロは訓練所を後にするのであった。
「………やはり凄いな、あのお二人は。」
「その通りだけど、取り敢えず斬島は休もうか。月見様からも「お大事に」って言われたでしょ?」
「ねぇねぇ、オレも行っていい?」
「僕は構いませんよ。医務室勤務の給料以外にも色々収入源ありますから。なんなら、柿助くんとルリオくんも呼んでも良いですよ?」
「ホント!?分かった!」ダッダッダッダッ
「元気ですね。鬼灯様も何人か誘われては?」
「取り敢えず、閻魔大王は除外しておきますね。」
「それまた何故?」
「あのじじい、最近サボり気味で仕事が溜まってるんですよ。なので今日は椅子に縛り付けてでもやらせます。」
「成る程……まぁ程々にしてあげてくださいね。」
はい、前々から書きたかった鬼灯様VS月見さんです。まぁこの話の中では二人共本気は出してなかったんですがね。
前にも話したかも知れませんが、鬼灯様は原作で閻魔大王の裁きの雷を片手で弾いてるんですよね。型月的な言葉で言うと、その場所の知名度補正等を受けまくった英霊の宝具を素手で軽く弾いてるということになります。それを基準に考えると、型月世界の中でもトップクラスに君臨出来るんじゃ無いかと思っております。一応鬼灯様も鬼「神」ですし、神代を生きた人間でもあり、未だ供養されない強大な怨霊でもありますから。傘一振りで投げられた数十本相当の刃物を弾き返してニコちゃんマーク作るなど、馬鹿げた器用さも持ち合わせてますし……そう考えると、中々にヤバい存在ですよね鬼灯様。
ちなみに鬼灯様のfateでのスキルを妄想で書いてみました。
地獄のカリスマ B++
数多の人材を引き抜き、膨大な数の獄卒を束ねているが故のスキル。(一部例外もいるが)殆どの獄卒は彼を上に立つ者として認めており、畏怖の念を持っている。特に日本の英霊であれば彼の実力、そしてその容赦の無さを知らない者は居ないだろう。本来であればA+相当の物なのだが本人曰く「いや、別に頂点なんて目指してませんし」ということで、このレベルに収まっている。しかし、それでもその影響力は相当な物である。
味方全体の攻撃力をアップ(3ターン)+味方全体のクリティカル威力をアップ(3ターン)+自身の攻撃力を大アップ(1ターン)
拷問技術(地獄) EX
日本地獄で行われるありとあらゆる拷問の知識と技術を扱うどころか、外国の拷問技術も取り込み、それを生かして更に過激な拷問を日々開発するため付いたスキル。時折、上司である筈の閻魔大王に使われる。
敵全体の防御力をダウン(3ターン)+[人]特性を持つ敵全体の防御力をダウン(3ターン)+味方全体に無敵貫通を付与(3ターン)
閻魔の第一補佐官 -
日本地獄の最高位に位置する閻魔大王。それを日々支え激務をこなす彼が持つ称号である。元々その位置にいたイザナミからも認められ、唯一無二の称号となった。なお、閻魔大王から「君が閻魔でいいんじゃないの」と問われた際、「何を言っているんですか、地獄一頑丈でヘコまない貴方を叩きながら地獄の黒幕を務めるのが美味しいんじゃないですか。」と返した。これが彼のスタンスである。スキルとしては「日本地獄の獄卒の一員として認める」という意味合いが強い。
スターを獲得+味方全体のNPを増やす+味方全体に[獄卒]状態([悪]特攻状態、防御無視、無敵貫通)を付与(3ターン)+味方全体のHPを減らす【デメリット】
そして人は鬼となる ー
彼は元々人間である。人間としての彼の産みの親は誰も知らないし、本人も存在を知らない。孤児だからと言う理由で生け贄に捧げられた幼子は、鬼火と混じり鬼となった。「丁」という名前が人間として死んだ物であるのなら、「鬼灯」という名前は鬼として生まれた物であるのだろう。そして名前を与えた者を親とするのであれば、彼の今の地位にも納得できる筈である。