それでは、どうぞ。
「あれ、鬼灯様は?」
「閻魔大王も見当たらねぇなぁ。」
閻魔庁の裁判所にて、唐瓜と茄子が書類片手に辺りを見回していた。どうやら鬼灯を探しているようだが、その姿は何処にもない。
「どーする唐瓜?この提出書類一応まだ期限先だけど。」
「つってもなぁ……まだ亡者の記録の整理もあるし。」
「おーい!唐瓜さーん、茄子さーん!」
「お、不喜処の白ワンコ。」
頭をひねる二人の元に白が走って駆け寄ってくる。その口にはボールが咥えられており、遊ぶ気がフルに感じられる。後ろからはルリオと柿助が追いかけていた。
「桃太郎ブラザーズ揃い踏みだな。」
「閻魔庁になんか用か?」
「鬼灯様とボール遊びしようと思って!」
「ちょうど休みだったからな、散歩がてらここに来た。」
「そういえば鬼灯様は?」
「それがなぁ、俺らも鬼灯様探してんだけど見当たらないんだよ。仕事用のデスクにもいなかったし。」
「そっかぁ、じゃあ閻魔大王に遊んでもらお!」
「じゃあで出す人の名前じゃねぇよ……。」
「優先順位鬼灯様の方が先なんだよな。」ケラケラ
自分の仕事の社長、副社長的な立場の存在にボール遊びを迫ろうとするシロに呆れた視線を寄越す唐瓜と、愉快そうに笑う茄子。しかし根本的には何も解決していない為、合流した二人と3匹はそのまま談笑した後、人探しを再開しようとした。するとその時、
「む、どうしたんだお前ら?」
「「こんにちは麻殼さん。」」
「「こんにちは!」」
「あぁ、元気そうだな。」
「お久しぶりです。」
「久しぶりだな雉くん。変わり無いか?」
集まっていた2人と3匹の元にTHE・鬼といった顔つきの鬼……麻殼が近づいて来た。顔見知りである桃太郎ブラザーズ、閻魔庁務めの小鬼二人と挨拶を交わす。そして唐瓜は自分達の事情を話し始めた。
「所で麻殼さん、閻魔大王と鬼灯様が何処にいらっしゃるかご存じですか?書類を提出したいんですか……。」
「あぁ、それなら俺が預かって置こう。後から鬼灯の奴に見せる。」
「はーい。」
二人から書類を回収する麻殼。しかし、不意にシロから向けられる視線に気がつき、しゃがみながら問いかけた。
「ねぇねぇ麻殼さん、今二人ともいないの?」
「あぁ、だから第二補佐官の俺が一応指揮をとっている。他の庁の補佐官殿にも手伝っては貰って居るが……判決を下す権限は俺には無いからな、どうしても仕事は詰まる。」
「へぇ、大変なんだね。あ、それじゃあさ、どうして二人共居ないの?お出かけ?」
「外交だよ。確か医務室長達も着いていっていた筈だ。」
「じゃあその相手って?」
「あぁ、言ってなかったな。
北欧神話で有名なオーディンだ。」
幻想的な雰囲気を醸し出す広場。何処かの公園のような場所でここに癒しを求めて来た様子の人々の姿が見える。そして、新たに着物を着た四人組がやって来た。この周辺では珍しい格好をしているそのグループの中でも一際体が大きい男……閻魔大王は広場の中心を見ていた。
「すごいねぇ、日本地獄にも大きな木自体はあるけど、それでも規模が段違いだもんねぇ。」
その目線の先には、直径が把握出来ない程の太さと、真上を見上げても天辺が見えない程高さを持つ大樹……ユグドラシルの枝が広場の真ん中を突き抜けて堂々と立っている。これでもまだほんの一部であるという事に驚く閻魔大王であったが、隣に立つ鬼灯はしげしげと観察した後ぼそりと呟く。
「……成る程、その手がありましたか。」
「どうしたの鬼灯くん。」
「いえ、最近出た新種の金魚草について考えてまして。」
「あぁ、なんか草の部分が木みたいになってた奴だったっけ。テレビでも話題になってたねぇ。でもなんで今その事が頭に浮かんだの?」
「品種改良を施して大樹の上に巨大な金魚が生えるようにしてみたいなと思いまして。ほら、日立のCMの「この~木なんの木」みたいな奴ですよ。規模は若干小さくはなりますけど再現はしてみたいですね……………今度空いてる土地でやってみましょうか。」
「ねぇそれ大丈夫な奴!?」
部下が何やら不穏なことを呟いている為思わず突っ込みを入れる閻魔大王。しかし鬼灯はなんでもないかのように話を続ける。
「大丈夫ですよ、月見さんに協力してもらうので。」
「遺伝子調整と肥料の調節位で良いですか?あと成功したら一部を試料として下さい。薬に転用するので。」
「えぇ、勿論ですよ。ついでに濃縮エキスもお願い出来ますか?閻魔大王に飲ませるので。」
「この前の奴と同じ物なら多分直ぐに用意出来ますよ。」
「あれ作ってたの月見くんだったの!?」
「言ってませんでしたか?僕食品開発とか薬品開発の特別顧問とかしてますよ?金魚草サプリメントとかも鬼灯様と一緒に開発に携わりましたし、なんでしたら色々と独自開発して医務室で使ってますから。」
(わしの知らない間にすごい肩書き持ってる………!?)
「さて、待ち合わせ場所はここで合ってる筈ですけど……月見、誰が来るんだっけ?」
「確か…………あっ。」
驚く閻魔大王を他所に、月見と美穂は辺りをキョロキョロと見回し始めたその直後、うさみみと狐耳をピンと立たせバッととある方向へ顔を向ける。やがて鬼灯や閻魔大王も車輪が回る音に気が付き、そちらの方を向いた。
「月見~久しぶり~。」
宙を駆けるチャリオットを操る青年……マーニとそれに並走する巨体ハティは四人の前にそれぞれ着地する。
「お待たせしました。我が主神の命に従い皆様をお迎えに上がりました、マーニと申します。こちらはわたしの」
「手伝いのハティです!」
「そしてこちらが………おや?」
チャリオットから降りて礼儀正しく挨拶したマーニとその隣できちっとこれまた行儀良く座るハティ。しかし、マーニは怪訝な表情でチャリオットの方へ振り向いた。
「ゲル、大丈夫ですか?。」
「うっぷ……すいません、めっちゃ気持ち悪いっす………。」
チャリオットの手すりからひょこりと薄紫色の髪の少女が顔を覗かせる。口元を押さえ、顔を青くさせており、明らかに元気は無かった。
「あぁ、つい現役時代の癖で飛ばしてしまいましたね。運転中貴女の事忘れてました、すいません。」
「ひどいっすよマーニ様ぁ…………こうなるんだったら自分で飛べば良かったっす……うっぷ。」
「大丈夫ですか?はい、お水飲んで下さい。」
「ありがとうございますぅ………。」
涙目になる少女……ゲルに美穂は何処からか取り出した水入りのペットボトルを差し出すのであった。
「お見苦しい所をお見せしました!ボクはワルキューレ姉妹の末妹、ゲルっす!この度はマーニ様とハティさんと一緒に案内係を任されました!まだまだ未熟者ですが、閻魔大王様、鬼灯様、よろしくお願いしますっす!」
「うん、よろしくね。」
「はいっす!」
暫く休憩した後、調子を取り戻したゲルはピシッと敬礼しながら元気よく告げた。その様子に孫を思い出したのか微笑ましげに返答する閻魔大王
「お久しぶりっす美穂様、月見様!」
「えぇ、他の皆さんもお変わり無いですか?」
「はい!ブリュンヒルデお姉様もお二人に会えるのを楽しみにしてましたっすよ!」
「おや、知り合いでしたか?」
美穂に懐く様子を見せるゲルに鬼灯は疑問符を浮かべながら問いかけた。
「あぁ、結構昔……何百年か前ブリュンヒルデさんとコミュニティで知り合いまして。そっから交流していくうちにワルキューレの皆とも仲良くさせてもらってるんです。」
「美穂様、ブリュンヒルデお姉様とスッゴい仲良しなんですよ!」
「へぇ、そうなんですか、初めて知りました。」
「僕らあんましワルキューレ達と関わることが無いしね。月見とは月神集会で時々会うけど。」
何故か自慢気に胸を張るゲルの頭を撫でながら美穂は鬼灯の質問に答える。なんでもないかのように告げられたその事実に月見としか交流がない一柱と一匹は少し驚いた様子であったが質問した鬼灯は一人で納得していた。
「そうでしたか………まぁ雑談もそこそこにして行きましょう。マーニさん、私達はチャリオットに乗ればよろしいですか?」
「はい、多人数乗せれるように大きめの物を用意したのですが……。」
少し言葉が小さくなるマーニの視線はチャリオットと閻魔大王を行き来している。言葉の通り、乗ってきたチャリオットは複数人が余裕で乗れる位には大きいが、恰幅がよく背も普通の人間と比べかなり高い閻魔大王が乗ることを考えると操縦するマーニを外すとチャリオットに乗れるのは閻魔大王ともう一人程だろう。
「………よし。」ガシッ
それを察した鬼灯は右手に持っていた金棒を握り直すと閻魔大王の方に向き直る。
「閻魔大王。」
「どうしたの鬼灯くん、嫌な予感がするんだけど。」
「向こう側に迷惑を掛けるわけにもいかないんで取り敢えずは腹の脂肪を減らしましょうか。そうすれば多少なりともスペース出来るでしょう?」
「え、そんな事出来るんっすか!?凄いっすね!」
ゲルは文脈から体型を自由に変化させられると考えているようだが、無論閻魔大王にそんな能力は無い。
「月見さん、メス貸してください。」
「ちょっとまってよ鬼灯くん!そんな物理的に減らそうとしないでよ!」
「最近また恰幅が良くなったでしょう。体重を減らしておくチャンスでは無いですか。」
「嫌だよ!?」
「鬼灯様鬼灯様、ここで流血沙汰起こしたら色々と迷惑がかかるので他の手はありませんかね?」
「ふむ………でしたら
「ワシに被害がない奴にしてよ!」
「チッ……全く、日本地獄の代表である閻魔大王がこの体たらくでは示しがつきませんよ?」
「絶対違う!絶対関係無いよね!?」
無表情のまま金棒を構える鬼灯から離れるように少しずつ後退する閻魔大王。組織のトップとその側近とは思えないやり取りにポカンとするゲルとマーニを他所に、月見は地面に伏せているハティに話しかけた。
「ハティさん、美穂と一緒に背中に乗せてもらっても良いですか?」
「良いよ~、二人共軽いし余裕余裕。少し大きくなるから待ってて~。マーニは閻魔大王様と鬼灯さんをお願い~………マーニ?」
「……はっ、そ、そうですね……それなら問題ないかと。」
「そういうことだから、ゲルは飛んで着いてきてね~。」
「………………。」
「よいしょっと。」ボフッ!
困惑がまだ残っているが準備に取りかかるマーニと未だ口をポカンと開けたまま放心するゲルを他所に、マイペースなハティは伏せたまま自分の体を音をたてて変化させる。先程よりも一回り大きくなり、人にじゃれつけばもふっとした毛で埋もれてしまうだろう。事実、隣にいた月見は体の半分位が毛に埋もれていた。
「それじゃあ乗って~。」
「ありがとうございます。」
「…………はっ!?いや、あの、ちょっと、お二方!?」
月見が伏せたハティに乗ろうとしたところで漸く思考が再起動したゲルは、鬼灯と閻魔大王をスルーしている月見と美穂に詰めよった。
「どうかしましたか?」
「どうしたもこうしたも、いいんすかあれ!明らかにトップの人に対する仕打ちじゃないっすよ!?と、止めないでいいんすか!?」
「何がです?」
「へ?い、いや、普通自分の上司を武器片手に脅すとかあり得ないと思うんすけど………。」
「普通はそうですけど鬼灯様はあれが通常運転ですよ。」
「あれがっすか!?」
美穂の告げた言葉に信じられないと言わんばかりに目を見開くゲルは、地面を這いつくばってでも逃げようとする閻魔大王を金棒を担ぎながら歩いて追い詰める鬼灯と揃って不思議そうに首をかしげる夫婦に視線を行き来させながら恐る恐る問いかけた。
「あの、こう言っちゃあれなんすけど……不敬じゃないんですか………?」
「閻魔大王の扱いが雑なのは今に始まった事では無いですよ?ねぇ鬼灯様。」
「そうですね、まぁ閻魔大王の贅肉を削ぐのはまた今度ということで。」
「どぅえあっ!?」
いつの間にか背後に回っていた鬼灯に驚くゲルは後ろにキュウリを置かれた猫のように飛び上がった。
「閻魔大王、早く乗り込みますよ。」
「さんざん追いかけ回したの君でしょ~?もう少し労るとかさぁ…………。」
「おや、あと一時間コースがお望みですか。」
「乗ります!」
ドスの効いた鬼灯の声にビクッと反応した閻魔大王は疲れた体に鞭を打ってチャリオットに乗り込む。それに続くように鬼灯も乗り込み、マーニはチャリオットを引っ張っている二頭の馬の頭を撫でた。
「もう一走り頼むぞ、アールヴァク、アルスヴィズ。」
主人の言葉に対し、二頭の馬は嘶きを持って返事をし、蹄を鳴らす。どうやら準備は万端のようだ。既に大きくなったハティの背中には月見と美穂が乗っていた。
「先導をお願いしますね、ゲル。」
「は、はい!わかりましたっす!こっちですね。」ダッ!
「じゃあ出発~。」タッ!
光で構成された翼を展開したゲルはそのまま飛び上がった。自らを未熟者と称していたが、宙を舞うその姿は
ゲルの容姿は終末のワルキューレで、それにFateのワルキューレ達の衣装を着せた感じですね。スルーズみたいにケープに付いたフードは被って無い状態が分かりやすいかと。
マーニとハティはラグナロクの最後、スルトが全てを焼き尽くした際にまとめて焼かれてフェンリルに食われたオーディン等、その戦いで死んだその他大勢と共にユグドラシルごと現世から切り離されました。ラグナロク後、最初こそマーニはハティを警戒していましたが、楽しみだった月の味が肉より不味かった事にショックを受けたハティは無気力状態でした。それを不憫に思ったマーニは近場の獣を狩って渡したことで友好関係が始まりました。今現在、ラグナロクで月を運ぶ(追いかける)必要がなくなったマーニとハティは運び屋みたいな事をしています。
なお、独自設定なのでそこをご了承下さい。