それでは、どうぞ。
「中々の絶景ですね。」
「ほ、鬼灯くん……よくこんなスピードの中でも景色を見る余裕があるね……。」
「火車さんはもっと運転が激しいですよ。マーニさんはスピードはあれど安全運転なので、心配する必要もないですし。」
「日本地獄にも私のような方が?」
空を駆けるチャリオットを操るマーニは、後ろで交わされる会話に入って行く。
「運び屋という意味では同僚かもしれませんね。まぁ彼女はバイク使ってますけど。」
「現世の車両ですか、興味が無いわけではないのですけど……私にとってはこれが一番慣れてますから。」
「そこは人それぞれでしょう。」
「最近の動物はバイクの操縦とかできるんっすね。」
少し前を飛んでいたゲルがチャリオットと並ぶように下がりながら会話に入ってくる。どうやら先ほどから聞いていたようで、興味津々であった。
「ええ、何なら私の知り合いに雑誌の記者をしている猫の方もいらっしゃいますよ。日本地獄には動物の獄卒も数多く居ますし。」
「へぇ~!一回行ってみたいっすね~。」
「それに関しては、案外直ぐに実現するかもしれませんよ。」
「え?どういう事っすか?」
「それはまた後程……強いて言うのであれば、今回来た理由にも関係のある話ですよ。」
「?……わかりましたっす!取り敢えず「おーい、何か来たっぽいよ~。」うぇっ!?」
あまり明確ではない返答に不思議そうな顔を見せるゲル。しかし今が仕事中であることを思い出し、再び先頭に戻ろうとしたところで並走していたハティから声が飛んできた。その上に乗る月見はうさみみをピンと立たせある方向を見つめている。鬼灯達もその方向を見ると何やら鳥の群れような影が見えた。
バサッ バサッ
しかし、その影がこちらに近づいてくるにつれ、その姿が鳥とはかけ離れていることがわかる。羽は無く蝙蝠のような翼、全身に生える鱗、唸る口から見える尖った牙、足に生える鋭い爪。それを見たマーニは一つ溜め息をついた後、口を開いた。
「すいません、
会話の途中ですがどうやらワイバーンの群れです。」
「「「「「「
「ワ、ワイバーン!?」
「………すいませんマーニさん、質問よろしいでしょうか。」
「なんでしょうか。」
突然の事態に慌てふためく閻魔大王を他所に、冷静にワイバーンを観察していた鬼灯は
「私の記憶が正しければ、北欧神話にワイバーンはいなかった筈ですが?竜という観点であれば「ニーベルンゲンの歌」に出てきたファヴニールが当てはまりますが、あれは元々人間だったという話ですし。」
「あぁ、その事ですか。最近になってから増え始めましてね。元々はロキ様が面白がってEUから連れてきたらしいんですが………それが放置された結果があれですね。所謂外来種ですよ。」
「私達ワルキューレもあいつらの駆除に追われてるんすよ!昨日だってオルトリンデお姉様と一緒に何羽もぶっとばしましたけど一向に数が減らないんっす!」
「そんな害鳥みたいな扱いでいいの?」
中々にワイバーンの扱いが酷い北欧の面々に思わず突っ込む閻魔大王。しかしそんなことお構い無しと言わんばかりにワイバーン達は真っ直ぐこちらへ向かってきていた。目視できる限りだと少なくとも5羽はいる。
「もうすぐヴァルハラですから、取り敢えずこのまま飛ばしますよ。何処かに捕まっておいて下さい。月見さん、美穂さん、もしもの時は迎撃をお願いします。ハティもそれでいいですね。」
「おやつにする~。」
「私はどうするっすか?」
「近づかせないように魔力で作った槍で牽制しながら着いてきてください。それと他のワルキューレ達に連絡を。」
「了解したっす!」
「では行きましょう。アールヴァク、アルスヴィズ、走れッ!」
「「ッ!!」」ダッ!
「え、あ、ちょ、ぎゃあ!?」
「落ちないで下さいよ。」
「ぐぇっ!?」
急激にスピードを上げるチャリオット。閻魔大王は慣性の法則に従って落ちそうになるが、鬼灯が腹の辺りを掴んでおさえたことで墜落からは逃れる。代わりに思いっきり腕がめり込んだ為、現在進行形で苦しんではいるが、自由落下よりかはマシと言うことでそのままスピードは落とさずチャリオットは引き続き走り続けた。それに着いていくゲルは左手に金色の円型の盾を出現させて装備すると、ケープの内側から小さな水晶玉を取り出すと魔力を通し光らせる。その水晶を自分の顔の浮かせるとそれに向かって話しかけた。
「もしもーし!誰か応答願いますっす!」
ガチャッ『どーしたのゲル?また何かやらかしたの?』
「ひどいっすよヒルドお姉様!っと、そうじゃなくて、今日いらしたお客様をワイバーンが狙ってるんっす!今は私にヘイト向けてますけど、数が結構居るんで手伝ってくれたら嬉しいっす!」
『ホント!?ちょっと待ってて直ぐ行くから!』
「わかったっす!っとあ!?」
ボウッ!!
ゲルが水晶越しに姉のヒルドと会話している最中、自分の方向へワイバーンの火球が飛んでくる。寸前の所で盾でいなしたゲルは冷や汗を拭いながら息を吐いた。
「あっぶなぁ~………やべっ、また増えてないっすか?」
「グガァッ!」
「おっと!あんましなめないで欲しいっす!」
群れの内の一匹がゲルに肉薄し爪で捉えようとするが、相対するゲルは危なげなくヒラリと避ける。後退しながら手に光で構成された槍を掴むと攻撃してきたワイバーンに対しぶん投げた。
グサッ!
「っし、命中!」
「グルァッ!」
「え、ちょ、仲間がやられたならもう少し怯んでも良いんじゃないっすか~!?」
槍は先頭のワイバーンに突き刺さるも、後から着いてきた群れは構わずゲルを狙い始める。流石にワイバーン10匹同時に相手するのはキツいと感じたのか、ゲルは体を反転させて逃げ始めた。それに釣られるようにワイバーンの群れも翼をはためかせ空を駆ける。チェイスの始まりであった。
(なんでよりにもよって私一人の時にこんな多く来るんすか~!こんなんになるんだったらスルーズ姉様にも声を掛けとけば良かったのに~!)
「「「グルガァァッ!!」」」ブォンッ!
「おあっ!?」
心のなかで愚痴りながら変則的に飛んでいたゲルの真横をワイバーンの鋭い爪による引っ掻きが通りすぎた。幸い命中することはなく、衣服も頑丈なため柔な攻撃は通用しない為かすった程度でも問題無いが、それでも凶刃が絶え間なく飛んでくる状態で余裕が段々と失われていく。すると
ビュンッ
ドシュッ!!
「「ガァッ!?」」
「うぇ?い、一体何が……ムギュ!?」
何処からともなく槍とも言えそうな程の太さの矢が飛んできて、ゲルに攻撃を仕掛けようとしていたワイバーンを後ろにいた他の数匹も含めて纏めて貫き吹き飛ばした。突然の出来事にゲルが気の抜けた声を出したと同時に、目の前にいた人物に真っ正面からぶつかる。相当なスピードで突っ込んだが、受け止めた当人はなんでもないかのように声をかけた。
「こらこら、空を飛ぶならちゃんと前を見なきゃ危ないですよ?」
「み、美穂様!?す、すいませんっす!」
「いえいえ、こちらこそ囮を任せてしまって申し訳ありません。元々私達を狙っての事ですので、後始末はこちらでしますよ。丁度良いので。」
「そ、そんな、それじゃあこちらの申し訳が立たないって言うか「あ、そうだ、一つ聞きたい事があるんですけど。」ふえ?な、なんすか?」
美穂は困惑するゲルに対しなんでもないかのように尋ねた。
「ワイバーンのお肉って美味しいって聞いたことがあるんですけど、本当ですか?」
「…………へ?」
突拍子もない質問にゲルは固まるが、美穂は引き続き話を進める。
「いやぁ、最近の本ではドラゴンとかそれに準ずる生物の肉は美味しいって書かれてますからずっと気になってたんですよね。日本地獄には恐竜がいますけど、彼らは従業員ですから。久々に幻想種の肉が食べたかったので丁度良かったです。」
「へ、へぇ………ちょっと待って欲しいっす美穂様、幻想種食べたことあるんですか!?」
「えぇまぁ。まだ天部連中に喧嘩売る前に力を付けるため龍と不死鳥を何回か。けどあまり美味しくなかったんですよね。味も淡白でしたし。」
「いいんすかそんなことしちゃって……。」
「良いもなにも、私より下位の存在でしたし。そもそも一応私神獣ですよ?気にしない方が楽です。それよりも、あれ、狩っちゃって良いんですね?」
「あ、はい。」
「では遠慮なく。」
そう言いながら仲間を軽く仕留めた美穂の存在を警戒して少し離れた所で唸りながら観察していたワイバーンに向けて矢を番えた木製の弓を向ける。その弓は美穂の身長二倍近くあり、巨人でもなければ引くことが出来ない代物であった。しかし、美穂の術式によって作られ、動かされているその弓は軋む音と共にしなり始め最終的には限界まで引き絞られる。
「自律木式 大歪ノ穿弓、自律木式 貫猟槍」
弓を引くような動作を行い、そのまま解き放つ。
「穿て。」
ブォンッ!
「うっひゃあ!?」
「おっと、大丈夫ですか?」シュルッ
周囲の空気を巻き込みながら槍矢が射出された。近くにいたゲルはその風圧によってバランスを崩し吹き飛ばされそうになるが、そこは美穂の着物の袖から伸びた紙の蔓によって受け止められた。
「グガッ!?」ドシュッ!!
一方、射出された矢はワイバーン数匹の体を捉え、貫いた。その上、貫通して通りすぎた後、あり得ない曲がり方をして再びワイバーンの群れを襲った。
「ガッ!」
「グルァッ!?」
まるで蜂のように飛び回る矢に翻弄されるワイバーン達。その上、途中で矢が分裂し始め更にダメージが加速する。
ズガガガガガガガガガガガッ!!
「「「「「ギャオォォォッ!?」」」」」
最早残像しか捉えられないレベルとなった矢によって前身穴だらけになったワイバーンはとどめと言わんばかりに複数本の矢が脳天や逆鱗、心臓を貫かれて叫び声を上げながら絶命した。空中に磔にされた同胞の姿を見て、飛び回った矢から逃れていた個体は恐れをなして逃げるため旋回しようとした。
バクンッ!
次の瞬間、逃げようとしていたワイバーン達は何かが閉じるような音と共に消え去る。
バキャッ!ゴギャッ!バキボキッ!グチャッ!
ゴクンッ
「うーん、美味しい。魚も良いけど、ワイバーンの踊り食いも悪くないね。」
「あぁ、フェンリルさんとスコルさんと一緒に現世でBBQやった時に川魚直接食べてましたね。」
「鮮度って大切だと思ったよ。お肉も美味しかったけど。」
「だからといって、山にいた動物を狩ってこないで下さい。生態系が崩れますから。」
「ごめんごめん……そういえばあの熊なんだったの?スケールダウンしてたとはいえ僕と普通に渡り合えてたし。」
「日本って不思議ですよね。」
「数千年前から日本に住んでる君が言うの?」
そこには先程よりも更に巨大化したハティと、その頭付近に乗る月見がいた。ワイバーンを纏めて食らって咀嚼、飲み込んだハティは満足げに息を吐いており、頭に乗せた月見と言葉を交わす。そこへ特に戸惑うこともなく美穂は声をかけた。
「わざわざありがとうございます。追撃方法どうしようかと思ってたので。」
「良いよ~、丁度お腹空いてたし。」
「そうですか。じゃあ私達もヴァルハラへ行きましょうか。ゲルちゃん………ゲルちゃん?」
「……………………。」
美穂はゲルに声を掛けるが返事が無い。不思議に思って振り返ってみると、巨大化したハティの方を目を見開いて口をポカンと開けたまま見つめて固まっていた。頭から煙が見えるような気がする程に混乱しているようだ。
「ゲ~ル~ちゃん。」パンッ!
「ひゃいッ!?な、なんすか美穂様?」
「良かった良かった、戻って来ましたね………あ、月見~そっち大丈夫~?」
「うん、血抜きついでに5リットル位採血出来た。アスクレピオス様にも送ること考えると少し心許ないけど、取り敢えずはなんとかなりそう。」
「お肉うまうま。」
「なら良かった………っと?」
「誰だろう?」
ショッキングな光景に固まっていたゲルを現実に引き戻す美穂の横でハティに乗ったまま器用に串刺しのワイバーンの血抜きをする月見。既にハティの大きさは月見一人が乗れるぐらいにまで小さくなっているが、時折月見から差し出されるワイバーン肉の破片を貪り食らう食欲は全く衰えていないように見える。そんな中々にカオスな状況の中、まだ混乱しているゲルを落ち着かせていた美穂は何処からともなく聞こえてきた風切り音を察知する。月見とほぼ同時にそちらの方向を見やると、先程のゲルと同じくらいのスピードで突っ込んでくる人影が見える。
「おーい、ゲル~!」
先程ゲルと水晶越しに会話していた声の主……ヒルドは空中でブレーキを掛けながら丁度ゲル達と同じ高さ辺りまで降りてきた。
「お待たせ~……って、美穂様!?」
「久しぶりですねヒルドちゃん、お元気でしたか?」
妹の救助要請に応えて来たヒルドであったが、そこに既に生きているワイバーンの姿はなく、自分のよく知る人物が立っている事に驚きを隠せない様子であった。
こちらのヒルドはFate仕様です。ただ原作のように感情の無いシステムのような面よりも人間味が溢れている様な感じです。カルデアのノリですね。姉妹で日本から取り寄せた恋愛ゲーしたりしますよ。