閻魔庁の医務室うさぎ   作:ゲガント

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話が中々進みませぬ……






それでは、どうぞ。


北欧日記三頁目

「わざわざありがとうございます美穂様。本当だったら私達の仕事だったんですけど………お手を煩わせる事になるとは。」

「気にしないで下さいよ。もう終わったことですし、中々入手出来ないワイバーン肉も4頭分確保できましたし。」

「………食べるんですか?」

「ハティさんが美味しいって言ってるんで大丈夫でしょう。魔力が豊富に含まれているだけで毒とかが無いのは確認済みですし、もしもの時は月見が即座に治療してくれますし。」

「食中毒は怖いので対応するための準備は欠かしてません。」

 

ワイバーンの群れの駆除を終えた一向は、復帰したゲルと合流したヒルドの案内の元、空を駆けていた。唯一飛ぶのが苦手な月見はハティの背中に跨がっているが、それでも相当なスピードである。そんな中、何かを思い出したかのようにゲルが唐突に口を開いた。

 

「そういえば、美穂様はともかく月見様もお肉食べるんっすね。」

「?……えぇ、それなりに。何故そのような質問を?」

「あぁ、いやぁ、狐はまぁ分かるんっすけど、兎が肉を食べるっていうのがあんましイメージが湧かなくって……なんというか生のニンジンとかキャベツをポリポリ齧ってる光景が頭に過るんっす。」

「あ、それ私も気になってた。普通兎って草食だもんね。」

 

純粋な疑問なのだろうか、二人は何でもないかのように尋ねる。しかし月見は不思議そうに首を傾げながら口を開いた。

 

「兎はお肉も食べますよ?」

「「………はい?」」

 

予想していなかった答えにゲルとヒルドは目を丸くする。

 

「人に飼われてる子達は大人しいですし、十分な餌がありますから基本的に草食なんですけど、寒い地方のノウサギは冬場とかは栄養分の補給の為に普通に野鳥の死骸の肉を羽ごと貪ってますよ。」

「え、死骸漁るんすか!?」

「何なら仲間の死骸も食べますよ。」

「うっそぉ……イメージと全く違う……。」

「イメージ?」

「なんというか、こう、ファンシーさの表現の代表格みたいなとこあるじゃないですか。シル○ニアファ○リーとか、「兎は一人ぼっちでいると寂しくて死んじゃう~」とか。」

「……?」コテン

 

心底不思議そうに首を傾げている月見。その隣を寄り添うように飛んでいる美穂は笑いを堪えながら口を開いた。

 

「ストレスに弱い動物ならまだしも、兎が孤独で早々に死ぬわけ無いじゃないですか。月見だって私と会う前は一人で暮らしてたわけですし。」

「親どころか同族もいませんでしたからね……今思うと不思議だなぁ、なんでだろう。」

「さぁ?ま、取り敢えず鬼灯様達が待ってるでしょうから、急ぎましょうか。」

「「はいっ!」」

「少しスピード上げるから掴まっててねー。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっぷ………!」

「すいません、少し飛ばしすぎましたね。」

「いえ、お気になさらず。」

「なんで鬼灯君が答えるのさ……。」

 

速さ重視の運転によってグロッキーな閻魔大王は相変わらず扱いが雑な鬼灯の手伝いを受けながら立ち上がると目の前の巨体な宮殿を見上げる。

 

「いやぁ、それにしても立派だねぇ。閻魔庁の何倍もあるよ。」

「当たり前でしょう、主神が余程のことが無い限りみすぼらしい所に住んでいては他の神話勢に示しがつきませんし、現世にここの名前を冠する山があるほど有名な場所ですから。一種の観光名所ですよ。」

「現世にも明確に記録が残ってるっていうのは、すごいことだよねぇ。」

「閻魔大王、鬼灯様、お先にご案内致しますので中にどうぞ。」

 

揃ってまじまじと見上げる閻魔大王と鬼灯に対し呼び掛けたマーニは宮殿の入り口へと歩き始めた。それに着いていこうとした閻魔大王だったが物音がしたため振り返る。先程まで乗っていたチャリオットを引いていた2頭の馬が何処かへと消えていた。

 

「あれ?ねぇマーニくん、さっきまでそこにいた子達はどこいったの?」

「あぁ、それならあそこです。」

 

マーニが指差した先には大きく立派な建物があり、丁度マーニの愛馬達が入って行くのが見えた。

 

「動物を移動手段にしたりする方が多いので、ああして厩舎を用意してるんです。元々はオーディン様の愛馬のスレイプニル専用の住居だったのですが、本馬からの要望でああして誰にでも使えるようになってます。」

「本馬からの要望、ということは元々オーディンさんはスレイプニルさんの為だけにあの規模の厩舎を?」

「オーディン様は最後まで渋ってたみたいですけどね。あの方、スレイプニルの事を溺愛してますし。」

「溺愛?」

「えぇ……。」

 

閻魔大王の問いに対し、マーニはその整った顔に少しばかりの疲労の表情を浮かべる。

 

「オーディン様はスレイプニル以外にもフギンとムニンという二羽のワタリガラスと」

「その話聞いてるだけなら、ただの動物好きのおじいさんって感じだけどねぇ。」

「それだけなら良かったんですが………お二方、スレイプニルの親は知っていますか?」

「ロキさんでしたよね。確か雌馬に化けてスレイプニルさんを産んだとかいうぶっ飛んだ逸話が残ってた筈ですが……それがどうかしましたか?」

「ロキ様には多くの子どもがいらっしゃいますが、その中でも直接産んだスレイプニルは『母性が湧いた』と特別愛着があるらしく、それがまためんど…………面倒でして。」

「マーニくん今言い換え………てない!?」

「私と姉のソールはラグナロクが終わり明確に人間界とあの世が隔てられた後、従者や愛馬達と共に様々な送迎の仕事をしているのですが………。」

「それが辛いと?」

「いえ、そんなことはありません!ハティに食べられた際、私の命は終わったと思っていたのです。こうして元気に動いて働けるだけ幸せですよ。まぁ、ただ………」

 

鬼灯の指摘を慌てて否定するマーニであったが、段々とその声に覇気が無くなっていく。

 

「送る方々が愚痴を話したりするのでそういった情報が絶え間なく入ってきて………時折、その情報を買いたいとか言い出す方も居ますし………私は情報屋なんてやっていないのに………と、そうじゃなくて。」

 

頭を振ってネガティブになりかけていた思考を戻し、マーニは話を続ける。

 

「仕事の関係上そうなるのは仕方がないんですが、時々ロキ様も私達のチャリオットを利用なさるんです。まぁ、口を開くとアールヴァクとアルスウィズと関連付けてスレイプニルの事を話し出して止まらなくて…………。」

「所謂子ども自慢のような物でしょう。タクシーで絡んでくる酔っぱらいだと思って置けばよいでしょうに。」

「一応ロキ様素面なので、ちゃんと返事しないと凄まれるんです。」

「面倒なら振り落としてはいかがです?私が仕事もせず絡んできた閻魔大王をぶん投げるように。」

「君当然のように言ってるけど、ワシ一応上司だよ?」

 

いつも通り

 

「ははは………まぁ、それは考えておきます。それよりもここからが本題でして。」

「あぁ、そういえばオーディンさんが云々という話でしたね。」

「えぇ、この前ロキ様が

 

『オーディンも結構分かっているよな、僕の美しいスレイプニルはどんなものよりも価値がある!』

 

と仰いまして、その時は軽く流したんですが後々気になってそれとなくオーディン様に尋ねてみたんです。」

「オーディンさんは何と?」

「…………………オーディン様は

 

『グングニルを返してでもスレたんのファーストシューズが欲しいッ!!』

 

と…………堂々と仰いまして……。」

「馬鹿なんですか?」

 

言い淀みながら事実を告げたマーニに対し、鬼灯は一切飾ること無く思った事を口にだした。

 

「ちょ、鬼灯君!本人が居ないとはいえ、そんなドストレートに罵倒しなくても………。」

「では閻魔大王、グングニルがどんなものかご存じですか?」

「え?えーと……詳しくは知らないけど、やたらと強い槍だよねぇ。ほら、ゲームとかでもよく名前が出てくるし。」

「えぇ、投げたら必ず目標の心臓を貫いて帰って来る絶対に壊せない槍です。オーディンさんの主武装の一つであり、象徴とも言えますね。」

「ちなみにグングニルを掲げた軍は必ず勝つみたいな加護もかけられてます。」

「……もしかしなくてもヤバイやつ?」

「下手な神さえをも軽く仕留めることができる神造兵器ですよ。多分私も完全には対処出来ませんね。」

 

漸くオーディンのやろうとしている事の重大さを察して絞り出した閻魔大王の声に答えたのは、いつの間にか三人の後ろまで飛んできていた美穂だった。それと同時に

 

「ただいま戻りましたっす!」

「ありがとうございます、ゲル。早かったですね。」

「ま、まぁ美穂様が殆ど蹴散らしてくれましたし……。」

「半分位おやつにしたけど良かった?」

「別に構いませんよ、増え続けても困るだけなので。味はいかがでしたか?」

「おいしかった~。」

 

目を反らすゲルを他所に呑気に報告するハティは満足そうに息を吐く。どうやら空いていた小腹は埋まったようだ。

 

「ところで~、さっさと行かなくて良いの~?」

「それもそうですね。ゲル、ヒルド、貴女達も来ますか?ブリュンヒルデ様もいらしてると思いますし。」

「「行きまーす!」」

「分かりました。それではハティ、縮んでください。」

「はーい、月見~降りて~。」

「えぇ、ありがとうございましたハティさん。」

 

背中に乗っていた月見を降ろしたハティは数メートル級の大狼から大型犬程の大きさへと変化する。それを確認したマーニは宮殿の入り口の扉を開き、中へ入るように促す。

 

「皆様、どうぞこちらへ。」




本編とは関係無いですが、本来アールヴァクとアルスウィズはソールと共に太陽を引く馬なのですが、この作品ではアールヴァクがソール、アルスウィズがマーニと共に太陽と月を牽引していた、とさせていただきます。2頭の性別はそれぞれの主人と同じです。



~厩舎での会話~

『ふい~疲れた~。』
『あ、お疲れ様です、アールヴァクさん、アルスウィズさん。』
『何日かぶりね、スレイプニル。そういえば最近どう?確か神馬会があったって聞いたけど。』
『皆さん元気そうでしたよ、ちょっと後半馬具の話になってから不穏になってましたけど……。』
『またマウントの取り合い合戦してたの?』
『まぁ、有り体に言えばそうですね。私がオーディン様の話切り出したら何故か少し静まってましたが。』
『相変わらず、自己顕示欲が強い連中ね。どうせペガサス辺りが「主人からどれぐらい愛されてるか」とか言い出したんでしょ?』
『そんな感じです……あ、そういえばお二方は神馬会参加されないんですか?皆さんも』
『『主達と一緒に居た方が有意義。』』
『わぁ息ピッタリ。』
『マーニと一緒に居た方が楽しいし、双子達とお喋りしてたほうが何倍も良いよ。』
『私もそうよ、仕事もあるし。貴方も無理して出なくていいんじゃないの?』
『別に神馬会の皆様が嫌な訳では無いんですよ。それに………。』
『それに?』
『……私がここに居ると、オーディン様が時々公務を抜け出して私に会いに来てダサ………あまりデザインが好みでない馬具を着けるようねだって来るので………。』
『……………貴方も大変ね。』
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