それでは、どうぞ。
「月の兎に狐の祖ねぇ……噂でちぃとばかし聞いたことはあった気もするが、珍しい組み合わせの夫婦が居たもんだな。世界は広いってやつか。」
「普通の動物だった頃からの幼馴染みなんです。あともう一人兄みたいな人に猿の王がいます。」
歩きながら月見の話を聞くクー・フーリンは転換した話題に興味を示す。
「強いのか?そいつ。」
「えぇ、天部の中でも戦闘能力はトップクラスですね。やろうと思えばなんでも出来るタイプでしょうし………基本は杖術ですけどクー・フーリンさんの逸話みたいに様々な武具を使って相手を打倒するような事もしてましたね。」
「成る程ねぇ……いっぺん戦ってみてぇな。」
「でしたら、僕が仲介しましょうか?」
「お、いいのか?」
「美猴兄さん最近仕事詰めらしくて、この間連絡したら「久々に暴れたい」と言ってたので手合わせなら喜んでしてくれると思いますよ。」
「へぇ、そいつはいい、楽しみにしとくぜ。」
思いがけない提案にケルトの血が騒いだのか、好戦的な笑みを浮かべるクー・フーリン
「おや、戻ってきましたか……そちらの方は?」
「クー・フーリンさんです。ここの隣の冥界からいらしたそうです。」
「興味本意で着いてきただけだ、俺の事は気にせず話を進めてくれや。」
「そうですか。初めまして、日本地獄で閻魔大王の第一補佐官を務めている鬼灯と申します。以後お見知り置きを。」
「………んで、さっきからそこで泡吹いてぶっ倒れてるでっけぇおっさんお前さんの上司じゃなかったのか?」
「鬼灯様、もしかして原液のまま使いました?」
「えぇ、どうせならそうした方がデータが取れるでしょう?」
「最悪死にますので……そういうのは刑場にいる亡者にしましょうよ。」
「閻魔大王も亡者の一人でしょう。それに加えこのヒゲは無駄に頑丈ですし、折檻の代わりですよ。」
((ヒゲ呼ばわり………!?))
(上下関係どうなってんだ。)
閻魔大王への相変わらずな雑な扱いに各々引いている。ワルキューレ二人は言わずもがな、クー・フーリンも流石に自分の組織のトップを日常的な感じで足蹴にするような性格はしていないため、普通に顔をしかめていた。
「それはそれとして月見さん、閻魔大王も起こしてもらえます?いくら叩いても反応しないんですよ。」
「多分酒気払いの力が強すぎて意識の覚醒の限界を超えてるからですね。口内に残った薬のせいで絶え間なく刺激が襲って来てる筈なのでさっさと消し飛ばしましょう。えい。」
ボウッ!!
軽く腕を振るい月炎で閻魔大王を包んだ後、気絶したままの閻魔大王の顔に気付け薬の瓶を近づける月見。数秒後、閻魔大王はビクッと体を跳ねさせ、勢いよく体を起こした。
「はっ!?……ワ、ワシはいったい……!?」
「お目覚めですか閻魔大王。」
状況が把握出来ておらず辺りを見回す閻魔大王に、鬼灯は平常的な声色で話しかける。もっとも、そのバリトンボイスは聞くものによっては恐怖を感じるだろう。
「全く……外交の場で酒を飲み過ぎて前後不覚になり転んで頭を打つなど、しっかりと自制心を持って行動なさい。」
「いや君が殴り倒したんだよね!?何事実の改竄なんかしようとしてるのさ!?」
「そもそもあんたがバカみたいに酒飲んでたのが悪い。」
事実をねじ曲げようとした事に対し殺気のせいで既に酔いが醒めていた閻魔大王は言葉を荒げるが、鬼灯はとりつく島もない態度のまま
「まだ本題が終わって無いでしょう。酒気、眠気覚ましのお茶は淹れたので、さっさと飲んでください。」
「あぁ、うん………元々そう言う話だったね……。」
「………なんだかんだ言って、鬼灯様って割と気が利くことするんすね。」
「もう少し言い方を考える。」ビシッ
「あいたっ!?」
思った事をそのまま口に出したゲルを嗜めるオルトリンデを他所に、鬼灯は盆に乗った物を差し出す。
ゴポゴポゴポゴポゴポゴポゴポゴポゴポゴポッ!
「………………あー、補佐官さんよ、そいつは一体?」
「緑茶ですよ、500℃位の。」
「明らかにヤベェ代物じゃねぇかおい!」
そこにあったのは明らかにハチャメチャな速度で沸騰し、熱と蒸気を撒き散らす緑茶が入った湯呑みであった。しかし、周りは困惑するばかりであるが月見の月炎によって追い焚きされたそれを閻魔大王はなんの問題も無いように掴む。
「君ねぇ、別に普通のお茶でも良かったんじゃないの?」ズズッ
「今日の分の煮え湯飲みも兼ねてますから。俗に言う一石二鳥というやつですよ。」
「鬼灯くんの場合、一つの石で十羽ぐらい仕留めそうだけど。」
「やりませんよ面倒な。」
そう言いながら鬼灯は手に持った盆を少し引いた様子のオーディンへと差し出す。
「オーディンさんもいりますか?」
「いや、遠慮しておく………しかし凄まじいな閻魔殿、流石にその熱さをなんの対策も無しに耐えられる人間は早々居ないぞ?」
「あー……すいませんねぇ、これ、ワシの日課でして。」
「あ?日課だぁ?自分からんな危険物ぐびぐびと………あ、もしやおっさんそう言うタイプか?」
「いや違うよ?」
訝しげな目線を向けてくるクー・フーリンの疑いをやんわりと否定した閻魔大王は一度熱々のお茶を啜る。
「ワシは人を裁く立場だけどあくまでも人間だからね。」
「日本地獄では、人が人に裁きを与える、罰を与えるという行為には罪が伴います。なので閻魔大王は1日に三回ほどこうして煮え湯を飲む拷問を課せられているんですよ。」
「ほー、わざわざ律儀なこったな………だが罰にしては慣れてねぇか?」
「そりゃあねぇ、二千年ぐらいやってたら普通に飲めるようにもなるよ。」
「この前の忘年会の一発芸で煮え湯の一気飲みやりましたしね。」
「そういえば月見さんが用意してましたね。本当に応用利きますよね
「月見は私のですからあげませんよ?」
「何がどうなってその話に行き着いた?」
月見に抱き着きながら鬼灯に対して威嚇する美穂。しかしその程度の殺気で鬼灯が動揺する筈もなく呆れた声色で言葉を返した。
「質問なんすけど、それって罰になってるんすか?」
「日本は古来から形を重要視する部分がありますからね、所謂正当性の提示という奴ですよ。国民性とでも言いましょうか、納得できる事実があれば多少の理不尽も割とすんなりと受け入れられますし。」
「ですが地獄に堕ちる者の一部は不満を漏らしたりすると思います。」
「そこら辺は自分のやってることが間違ってると一欠片も思っていない連中ばっかりですよ。罪の意識がない奴だったり、ありがた迷惑みたいな奴ですね。」
「時々、「生き返らせろー」なんて言ってくる人もいるね。まぁ何かの弾みで来ただけならちゃんと現世に帰してあげるよ。」
ワルキューレ達の質問に丁寧に答えてゆく。それに感化されたのか、オーディンもその話の中に混ざって行く。
「それでは不満が出そうなものだが?」
「
「本当に例外だね。篁くんは生身で地獄に来て何故かそのまま働いてから現世に帰ったけど。」
「言葉の通りの黄泉帰りを果たした数少ない事例ですね。何なら正式に死んでからスカウトして今も働いてますし。」
「へぇ~。」
「なんだか難しい話をしているな。」
「シグルドさん、ブリュンヒルデさん、殺し愛はもう十分ですか?」
「申し訳ありません月見さん、話の途中でしたのに……。」
「発作のようなものですから気にしなくても良いですよ。」
「ありがとうございます。それに、美穂さんもこの間の集まり以来ですね。ご挨拶が遅れてしまって申し訳ありません。」
「えぇ、お久しぶりですねヒルデさん。相変わらずなようで何よりですよ。」
そう和やかに言葉を交わす二組の夫婦。全員が美形な為絵画にでもなっていそうな絵面だが、半分ほどは血みどろであり常人には恐怖をも感じさせるだろう。しかし辺りにはその光景に慣れている者しか居ないため気にすること無く会話を続ける。
「近頃は忙しくて昔ほど集まれなくなりましたね。シータさんやグンヒルドさんとも中々会ってませんし………。」
「昔と言っても精々五十年程でしょう?また今度連絡取り合ってお茶でもしましょうよ。」
「そうですね……あぁ、でしたらクリームヒルトさんもお呼びしてもよろしいですか?何でも旦那であるジークフリートさんについて何やら溜め込んでいるようでして。」
「なんならお二人とも一度日本に来られますか?案内なら僕と美穂がしますよ。」
「その誘いはとても喜ばしいものだな。」
「美穂さんと月見さんの都合がよろしいのであれば是非とも、前々から日本に興味があったんです。」
「なら丁度良かったですね。」
そんな話をしていると、鬼灯が話に割り込んで来た。その後ろを見ると何やら閻魔大王がオーディンとワルキューレ二人にチラシのような物を渡していた。
「鬼灯様、質疑応答はもうよろしいんですか?」
「さっさと本題に入るべきだと思ったので……と、取り敢えずお二人にこれを。ワルキューレの皆さんにもお配りする予定ですし、他にもお渡ししたい方が居るのであればご自由にどうぞ。ジャグリングしてるクー・フーリンさんも良ければ。」
「ん?俺一応部外者みたいなもんだが良いのか?」
「構いませんよ。」
暇そうな表情で手慰みにルーン魔術のアンサズで作った火の玉でジャグリングをしていたクー・フーリンは完全に自分は含まれていないと考えていたのか、多少驚いた表情を見せながら差し出された物を受けとる。それを見ると、日本人にとっては馴染みの無い文字で様々な事が書かれていた。
「「獄卒体験」?」
「えぇ、観光の一環として企画されているものです。日本地獄でもグローバル化が進んでますし、少しでも外国の方にも我々の仕事を理解してもらう機会だということで企業と共同で話を進めてます。」
鬼灯がそう解説する途中、黙々とチラシを読んでいたシグルドは興味深そうに呟いた。
「話に聞く責め苦と言うやつか。北欧や欧米にはない独特な物があると知識にはあるな。」
「あわよくば興味を持って下さってそのまま就職を促すという目的もありますがね。」
「隙有らば人材収集かよ。」
「鬼灯様の異名は人材ブラックホールですから。」
「………もしかして私の妹達のスカウトも目的だったりしませんか?」
「確かに彼女達の能力はお迎え課に欲しいですね。まぁこちらの仕事が忙しそうなので無理には勧めませんよ。」
「……まぁ、それなら。」
妹達に無理に転職を迫る気配はないと感じたのか、ブリュンヒルデ少し眉をひそめながらも納得したような様子で頷く。
「詳しい話は今からオーディンさんの所で行います。他に誘いたい方がおられるのであればまた詳しい要項をお送りしますよ。」
「ふむ、では当方もお聞かせ願おう。我が愛はどうする?」
「……一応、聞いておきましょう。知見を広めるためと考えれば悪い話でもないでしょうし、何よりこの現世より隔離されたユグドラシル以外の場所を訪れる事は妹達にも良い刺激になるでしょう。」
「えぇ、我々日本地獄は歓迎しますよ。」
そう締め括った日本地獄のNo.2は説明を続ける上司をチラリと見やると踵を返す。
「さて、先ずは向こうと合流しましょう。クー・フーリンさんはどうしますか?」
「ま、聞くだけ聞くわ、別に何かやることがある訳じゃねぇしな……んお?」
ゆっくりと着いていこうとするクー・フーリンであったが、ふと鬼灯がずっとお茶を乗せた盆を持っている事に気がついた。
「そういやその茶いつまで持ってんだ。いい加減冷めてんだったら貰って良いか?」
「……ええ、別に構いませんよ。」
数瞬の思考の後、鬼灯は肯定の意を示す。それに「わりぃな」と断りをいれながらクー・フーリンは湯呑みを手に取った。上から覗き見ると湯気は出てはいるが先程のように沸き立っておらずその様子から冷めていると判断する。
「緑茶って奴か?まぁ薬草よか旨いだろ。」
「?……あ、クー・フーリンさんちょっと待って……。」
「あん?別に多少熱い位なら魔術で冷ましちまえば問題ねぇだろ。まぁ最悪体内を保護すればどうにかなる。」ゴキュッ
「いやそうではなくて……
そのお茶まだ調節してない僕の炎宿ってるので魔力関係は問答無用で無効化する…………
「ゴバッ!?ゴフッゴフッ……ガハッ。」バタンッ
「「「「「あっ。」」」」」
月見の静止も既に遅く、内包した温度が異常に上がっていた緑茶を飲んだクー・フーリンは思いっきり噎せ、熱さに苦しみながらその近くにいた5人に見守られながら静かに地面へと倒れ付したのだった。
「………………クー・フーリンが死んだ!」
「この人でなしッ!」
「いきなりどうしたの月見、それに鬼灯様まで。」
「「何か言わなきゃいけない気がした。」」
はい、北欧編でまさかのランサーオチです。正直兄貴出した時点でどうにかしてこの終わり方がしたかったです。
最後のは鬼灯様がギャグ時空からの電波を受信した結果です。数瞬思考してるのがその部分ですね。自分で渡しておきながら「クー・フーリンが死んだ!」と言ってます。
今書きたい題材としては
・ぐだぐだ鯖達の現在
・中華鯖とのアレコレ
・二人の子供について
・探索者ぐだーず+αのキノコ狩り
・ぐだーずと神話生物
・愛妻家の会/愛夫家の会
等があります。もう少しお待ちくださいませ。