ずっとやってみたかった話なので、安定しないかもしれないですが
よろしくお願いします。
誰よりも速く。
それが、僕の夢だった。
僕は、南方 駿(みなかた しゅん)。
十六歳の陸上部・・・だった。
もともと走ることが好きで、高校も陸上が強い高校に入り、そこの陸上部でも
一年生にしてレギュラーを勝ち取った。
県大会でも好成績を残し、あと少しで全国に手が届きそうだった。
そんな時だった。
悲劇・・・いや、喜劇とでも言うべきか。
無理な練習のせいで、膝が壊れ、僕は再起不能になった。
医師に告げられたときは、確かにショックだった。
小学生のから、いや、それ以前からずっと夢見ていた「誰よりも速く」は、儚く消え去ったのだから。
でも、
今はどうなのか、自分でも正直なところわからない。
陸上をやめて、いろんなことに手を出した。元々、勉強は割とできる方だったので、
勉強に打ち込んでみたりもした。
お金のかかることは手を出さなかったが。
色んなことがわかった。
自分がどこまで視野の狭い空間で生きていたのか。
夢が遠ざかってようやく夢の意味を知った。
そしてある程度、自分の中で割り切ることができるようになった。
そして同時に知った。
大人になることがこんなにも悲しいことなんだと。
そんなことをしているうちに、いつの間にか月日は流れ、冬。
僕は、マフラーを巻き、チラチラと舞い降り、頭の上に積もる雪を鬱陶しく振り払いながら、帰りの道を急いでいた。
今日は、妹の誕生日なのだ。
プレゼントは、もうすでに家に用意してある。
正直、家族には感謝はしてもしきれないくらいに支えてもらっている。
陸上をやめて、自分のことだけではなく少しは家族のことを考えるようになったのだ。
妹は、南方紗依(みなかたさより)。今年で十四歳になる。
少し小生意気なところもあるが、優しく可愛い妹だ。
僕は、密かに用意したサプライズで妹が驚く姿を想像し、思わず笑みが溢れる。
しかし
この日
最悪の家族不孝をしでかしてしまうとは
自分でも思わなかった。
僕が交差点に差し掛かったところ。
それは、突然だった。
金属が擦れ、思わず耳を塞いでしまうような音が鳴り響くと同時に、女性・・・いや、同い年くらいの女の子悲鳴が聞こえたのだ。
反射的に、走り出していた。
状況を認識したのは、それよりも少し遅れた。
見ると、暴走したトラックがガードレールを突き破り、女の子の方向へ突っ込もうとしていた。
女の子は、恐怖で動けないようだ。
しかし、妙だ。
世界がスローに見える。
音だけなら確実に暴走しているだろうトラックですら遅く見える。
そして、僕の体が異常なほどに軽かった。
膝は激痛が走り、警告を鳴らしているのに
僕の足は止まろうとしない。
僕の思考はいつの間にか、ひとつのことだけを考えていた。
もっと
もっと
もっと速く
もっともっと速く・・・・!!!!
一瞬、思考が弾け飛んだ。気がついたときには、僕は女の子を突き飛ばし、
トラックと向かい合わせていた。
足は、もう、動かない。
膝の激痛がピークに達し、僕は崩れ落ちる。
そんなことをしているうちに、トラックはもうすぐそこまで肉薄していた。
死ぬ、とか、そんなことは考えていなかった。
僕は・・・速かった。きっと、誰よりも。
ごめんなさい・・・母さん、父さん、紗依。
夢・・・叶ったよ。
その後、僕の意識が途絶えるのが遅くなかったことは、言うまでもない。