天動説における黙示録-ウマ娘による七つの愛   作:春華ゆが

4 / 7
木/スペシャルウィーク

 木。Jupiter.あなたの一番大きな星。

 

 この宇宙には大きな星が幾つもあって、私スペシャルウィークはそれを見るのが好きです。

 太陽系で一番大きい星。それは木星だと、お母ちゃんから聞きました。大きな星は地球の何倍もあるって聞いて、私なんかは目が眩みそうな話です。

 でも星空は私の視界に収まってしまうので、なんだかとっても不思議な気分……。あれの一つ一つが、私の何千倍もあるんですよねえ……。

 と。こんなことを考えていますが、私は今晩御飯の買い出しに出ているのでした。いけないいけない。トレーナーさんに怒られてしまう。

 あっ、トレーナーさんとそーいう関係ってわけじゃないんですよ! いや、そりゃそうならちょっと嬉しいかもしれませんが、でも私なんか……どさんこで、どじっこで、すっとこどっこいで……。

 今日はただ、風邪をひいてしまったトレーナーさんのために。ちょっと頑張っちゃってるんです。そう、それだけ! やましくないです!

 ……ああ、もう一本くらいにんじんを買って帰ろうかな……?

 トレーナーさんはいつも優しい人です。私から見たらそれはとってもすごいことなんですけど、トレーナーさんはいつも私ばかり褒めてくれて……。

 だから、今日は私があなたを褒める番。頑張ってるね、いつもありがとうって。言ってあげる番。

 あの土星のように、大きな愛を持てるなら。私は全部、あなたに捧げたい。

 ……ああ、そういえば。ジュピター、という歌があったなぁ。ライブの練習がてら、歌って帰ろうかな。口ずさもうとして、止まってしまいます。どうしよう、サビしか出てこない……。

 えーと。えーと。

 

「夢を失うよりも、悲しいことは」

「自分を信じて、あげられないこと」

 

 肝心要のメロディが浮かばず、言葉を口にするだけに。でも、いい歌詞だと思いました。

 夢。それは私たちウマ娘にとって重要な言葉です。いつでも私たちは夢のために走るし、いつでも私たちは夢のために歌います。

 それを失ってしまうなら、それは想像を絶するより悲しいことなのでしょう。

 でも、それ以上に悲しいことが。自分を信じられないことだと、この歌は歌っています。

 私は、私を信じてあげられているでしょうか。ダービーの夢を取った時、私は確かに私を信じられていたと思います。でもそれからは勝てるばかりじゃなくて、少し揺らいでいるのかもしれません。

 ……少し、立ち止まってしまいました。本当にずっと頑張っていたのは、トレーナーさん。だから、私はトレーナーさんのことが。ずっとずっと支えてくれる、あなたのことが。

 トレーナーさんが私を信じてくれている。だから私は私を信じる理由を持てる。それは少し大袈裟かもしれませんが、心の比重は既にそれくらいに寄ってしまっています。

 でも、トレーナーさんはどうでしょうか。私がいるから、と思ってくれるでしょうか。そこまで考えると、少し暗い不安がよぎります。

 

「お邪魔します、トレーナーさん。……返事はしなくていいですよ、まだ風邪引いてるんですから」

「……おお、よく……ごほっ」

 

 返事しなくていいって言ったのに。その優しさだけで、心は蕩けそうです。

 

「今から私がにんじんおかゆを作りますから! 待っててくださいね!」

 

 と、心にはちまきを締めて。私の中ではこれは将来の練習なので、とっても力が入ります。

 にんじんを細かく刻んで、とんとん。炊いたご飯に混ぜ込んで、お湯で煮込んでことこと。……多分こんな作り方。

 じゃん! スペシャルウィーク印の、にんじんおかゆです! 美味し……そう?

 

「忘れてた、塩をかけますね!」

「あっスペ、それは」

 

 初めて入ったトレーナーさんの家。

 当然のように私は、塩と砂糖を間違えました。

 

「すみませーん……! こんな、こんなつもりじゃ……料理できるんですよ私! がっかりしないでください!」

 

 ちょっと、ちょっと緊張しちゃっただけなのに。

 

「……うん、美味しい。気持ちがこもってるから、美味しいよ」

「トレーナーさぁ〜ん……」

 

 まるで神様のような優しさ。本当に泣いてしまいました。ちょっとだけ。

 

「トレーナーさん……毎日これでも食べてくれますか……?」

 

 しまった。なんで私はそんなことを聞いてるんですか!

 

「毎日上達するのが楽しみだな、それは」

「えっ、いいんですか……?」

 

 私、本当に毎日行っちゃいますよ?

 

「ああでも、風邪が移らないようにな」

 

 本当に、この人は優しいな。

 少しだけ、思う時があります。大きな優しさを持っている人は、誰にでも優しくあるんじゃないか。私じゃなくてもトレーナーさんは優しくできて、私ばかりが生き急いでいるんじゃないか。

 遥か大きな木星は、数多の衛星を持つものですから。

 月明かりが少しずつ白く。空は対照的に黒く。

 

「ねえ、トレーナーさん。トレーナーさんが弱ってる時にこんなこと聞くのは、ずるいかもしれません」

「でも、いいですか?」

「……もちろんさ」

「私がもし、トレーナーさんとずっと一緒にいたいとしたら。もちろんもしも、です。トレーナーさんは、優しいから。ずっと一緒にいてくれますか? それとも、私だから。一緒ですか?」

 

 雰囲気も何もあったものじゃないのに、私は致命的な質問をしてしまう。こんなのは本当にずるい。よくなかった、それを訂正しようとした時だった。

 

「スペが優しいから、一緒にいるよ」

 

 ああ、そうなんだ。あなたは私を信じてくれているんだ。

 ならば、私も。私の優しさを、自分を。信じてあげよう。

 

 私たちは、1人じゃない。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。