天動説における黙示録-ウマ娘による七つの愛   作:春華ゆが

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土/セイウンスカイ

 土。Saturn.あなたの一番目を引く星。

 

 弾幕の如きアステロイドベルト。巨大なリングはその星を一際際立たせる。ああ、でも。その輪が守る限り、私とあなたは触れ合うことすら叶わないのだ。

 

 ファン感謝祭。私セイウンスカイはおかげさまでそれなりの人気者であり、愛すべきファンの皆様に囲まれて今後ともご贔屓に……といった感じである。

 さながら土星の輪の如く、人々に守られている。そう、守られている。

 これがファン商売である限り私はファンを愛するべきであり、それ以上の愛を捧ぐべきではない。それを証明するのがこの護り。

 

「おー、スカイ。頑張ってるな」

「あっ、トレーナーさん……ああ」

 

 あなたと一緒に過ごせない。私があなたに告白してから数日、結局何も変わっていない。もしかしたらあれは夢だったのかもなんて思ってしまう。触れれば傷つく私の護りは、愛する人と共に過ごすことすら許してくれない。少し歯痒い。

 それに対して私は痛いほど心臓が締め付けられているのだけど、あなたの方はどうなのだろうか。なんてことを考えてしまう。カップル成立から間も無くして、互いの愛を認識できない。けれどそこに表面上は飄々としていなければいけないのがセイウンスカイというウマ娘であり、この性質は我ながら厄介なやつだと思う。

 

「……えっと、セイウンスカイさん。次はこの企画に……」

 

 うーん。

 

「こっちきてください! こっちみてくださーい!」

 

 うーんうーん。

 

「セイウンスカイさん! ヒマなら早くこっちの企画にも」

 

 うーんうーんうーん。

 

「やめた」

 

 セイちゃん、愛の逃避行を決行します。

 ばっ、と人混みを抜けてゆく。振り返る顔も声も気にしない。私は逃げウマなんだから。好きなようにやらせてもらおう。

 

「……さあ「若ウマ娘の主張」次の登壇者は……」

「はーい、はーい! セイウンスカイ、登場しまーす♪」

「おおっと、予定には……」

「気にしない気にしなーい」

 

 マイクを取る。あなたはどこにいるだろうか。まあいいか。

 全力で、聞かせてやろう。

 

「トレーナーさ────ん!!!」

 

「あいしてま─────────す!!!!!!」

 

 きーん、とハウリング。私史上最高に声を出したかもしれない。周りは対照的に唖然としている。でも、悪くない。

 幸せ雲はこれから浮かぶ。その宣言に過ぎないのだから。

 

「……いたいたー」

 

 ぎゅっ、と腕を掴む。すでに周りの目線は先ほどから暴れ回っている私に釘付け。だから当然、私の愛するトレーナーさんにも釘付けだ。

 そして私のトレーナーさんの目は、もちろん私に。

 

「スカイ……どうしたんだ? これは何があった?」

「なにって、トレーナーさんがいけないんでしょー?」

 

 あなたの声をそばで聞く。それは天にも昇るような。

 

「ずっと我慢してたんですよ? それこそ告っちゃう前からずーっと。それなのにお預けがひどすぎると思いません?」

 

 一度割れた愛の卵は、ハートを止めどなく溢れ出させる。

 

「だーかーら」

「今日は一日、トレーナーさんと一緒です。私の一番のファンのあなたと、ね?」

 

 ファン感謝祭なのだから、一番のファンを一番大事にしてやらねばならない。うん、何の問題もない理屈だ。

 

「……その物言いは卑怯だな」

「おっと、愛する女性に物申すんですか? トレーナーさんならいいですよ」

「俺だってずっと我慢してたさ。なぜってスカイはかわいいからな」

「……もう」

 

 指を一つ一つ絡ませる。恋人らしいことは、今日のうちに全部やってしまうくらいの気持ち。それくらい、やる気と惚気に満ちている。

 

「じゃあまずは見せびらかさないと、ですね」

「……誰にだ?」

「みーんなに! にゃはは、あなたがいかにセイちゃんに釘付けか、いかに夢中か。余す所なくぜーんぶ教えちゃいましょ?」

 

 その逆も然り。私もあなたの虜なのだけど。

 さて、紹介の結果についてだが。

 同期のみんなはあまり驚かなかった。でもやっとか、みたいな反応は流石にどうなのだろうか。ふんだ。みんなだって早く幸せになっちゃえばいいのにね。

 ファン感謝祭はすっぽかし気味になってしまったけど、それ自体はいつものことだしね。やることはやりましたよーちゃんと。

 で、今。

 片付けの始まった学園内で、人気のないところを探し当て。

 私とあなたは、二人恋路の袋小路。これ以上のゴールはないかもしれないくらいの気持ちだ。

 

「……つかれましたね、トレーナーさん」

「そうだな、スカイを見てないと頑張れないよ」

「……二人きりの時だけですよ、そんなバカなこと言っていいのは」

 

 もっとも私も大変な幸せバカだ。ずっとずっとだらしなくニヤニヤ。よだれさえ垂れてしまいそう。

 

「……じゃあ、今日の締めくくりとして。ちゅー、したいなー……?」

「いつからそんなに甘えん坊になったんだ」

「トレーナーさんの恋人デビューしてからでーす♪」

 

 そうして、あなたと唇を重ねる。首に抱きついて、見上げるように求める。あなたも求めてくれている。

 私たちは今、宇宙で一番幸せだ。

 土星を回るアステロイドベルト。それは大きな一つの輪っかに見えて、私の周りを回るのはその一つだけ。

 あなた、ひとつだけ。

 ずーっと、あなただけ。

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