インフィニット・ストラトス 最強と天才の幼馴染 番外編 作:灰崎 快人
これは黒神千春が知らない二人の物語である。この会話も勿論二人を除いて聞いているものは居ない、盗聴器も一切つけられていない空間での会話である。
「やっぽーちーちゃん」
「やっときたか束、少し遅れてるぞ」
「ごめんごめん、じゃあ観賞しようか」
「そうしよう」
そうして彼女たちが取り出したのはUSBメモリー、一体どんなデータが入っているのだろうか?ISに有名な二人のことだ、最新型のデータが入っているのか?それとも今現役で動いているISの戦闘記録だろうか?どちらにしても恐ろしい状況に変わりないだろう。
「じゃあ昨日のくろちーの様子だよ」
「どれどれ?」
大画面のモニターに映ったのは一人の男性だった。彼の名前は黒神千春、二人の幼馴染であり二人目の男性操縦者である。部屋はIS学園の寮のようだ、ベットはひとつだけ確認できるため彼だけの部屋だ。
どうやらこの二人黒神のプライベートを録画監視していた、本人からしてみたらたまったものではないだろう。しかし彼はまったく気がついていないようで、のんびりと身体を休めていた。その様子を見ながら女二人は酒をつまんでいた。どう考えてもおかしい。一般的な生活を見ているだけで酒が飲めるとは思えない、この二人は異常だ。異常と言う言葉しか似合わない。
「相変わらずばれてないね~」
「そうだな、一人部屋で安心しきっているのだろう」
「あっシャワー浴びに行くみたいだね」
「こっちの画面に映るな」
大画面に映し出されている映像は9つに分割されており、全て同じ時間に撮影されている。束はすぐさま黒神が移動した更衣室へ映像を切り替えた、そこではリラックス状態の彼が服を脱ぎ始めていたところだった。
二人の口から「おぉ~!」と声が出る、その様子は盗撮犯そのものだった。この場に他の人が居たら無言で通報されてもおかしくはないだろう、しかしここには彼女たちしか居ない。他には誰も居ないのだ。盗撮映像を見ているのを発見することも、彼に盗撮されていることを話す人も居ない。なぜなら彼女たちしか知らないから。
「少し怪我してる?」
「いや?そんな様子はないぞ」
「でも首元とか胸の辺りに赤い後がついてるよ?」
「知らんな……もしかしたら部屋の外で何かしていたかもしれないな」
盗撮対象はあくまでも彼の部屋だけでありそれ以外は対象外になる、だから外部で何かしらをしていても彼女たちにはわからないのだ。さて彼の身体には赤い点が何箇所かある、それはまるで蚊に刺されたかのように赤かった。しかしこの季節に蚊は出ない。
「くろちー何したんだろう?」
「わからん」
ゆっくり着替え終わった彼はシャワー室へと移動して行く、それについて行くように束は画面を切り替えた。シャワー室からの盗撮視点では彼の生まれたばかりの素肌全体がしっかりと見えるようになっていた、彼のつま先から彼の頭皮までしっかりと見える。そして解像度は部屋よりも高く、肉眼で見ているよりも鮮明だった。ここまでの技術を盗撮だけのために使っているあたり流石天災である、無駄のない無駄な技術とはまさにこのことだろう。
「相変わらず立派」
「最近は直接見ることはなかったからな、新鮮味を感じる」
さらっと凄いことを言っているが気にしないことにしよう。現在彼はのんびりとシャワーを浴びながら自身の匂いを確認していた、なにかやましいことでもあるのかそれとも純粋に匂ってしまっているだけなのか?それは本人にしかわからない。
「くろちー身体気にしてるね、どうかしたのかな?」
「あれか?」
「あれ?」
「実は最近千春から別の女の匂いがしてな、それを本人に話したから気にしているのかもしれない」
どうやら彼から二人とは違う匂いがするらしい、だが最近の彼は生徒会や教室で代表候補生と話していることが多い。もしかしたらその内の誰かの匂いが身体に移ってしまっているのかもしれないな
「どんな匂い?」
「なんというか少し落ち着く匂いだ、若干オイルの匂いがする時があるな」
「オイルね~もしかして整備してるときに誰かと会話してたり協力してたりするんじゃないかな?」
「そう思ったのだが、整備室に居るときのあいつは常に一人だ。誰かと密接している状況は一切見ていない」
「不思議なこともあるものだね~」
実に不思議な話だ。オイルの匂いがしながらも落ち着く匂いがするなんて、しかも彼には自覚症状が一切ない。犯人は一体誰なのか?勘の良い皆さんならば彼女たちなのが容易に思い浮かぶだろう、だが彼女たちは架空の人物でありほとんど信じられていない。
「それにしても最近白式と紅椿のデータが少しおかしいんだよね、まるで会話しているかのように波長が一致するときがあるんだよ。しかもオルコット?とかいう子のコアも波長が一緒のときがあるんだよね。たぶん他にも居ると思うけど」
「コア同士が情報を共有しているんじゃないのか?」
「その可能性もあるんだけど、見たことないグラフだったからちょっとね……黒式も同じだし」
少なくとも四つ以上のコアが同調している、そんな状況は今まで聞いたこともない。ISは未だに進化し続けていると言うことだろう。
「あっくろちーのシャワータイム終わっちゃった」
「また見返せば良い」
彼が着替え終わってベットへ戻ったとき、来客が来たようだ。千春が招き入れると銀色の髪が映った、二人ともすぐに誰かを理解した。ラウラ、ラウラ・ボーデヴィッヒだ、彼女は副教官である黒神千春に憧れを持っている。彼に少しでも近づき努力しようとしているのはわかるのだが、どうにも空回りしているのが現状だ。たまに彼から「ラウラがたまにベットに入ってくる」と言われてしまった、勿論千冬がそれを見逃すはずもなく彼女は部屋に忍び込まないようにコピーキーを没収され厳重注意をされた。
コピーキーを持っていないだけであり、千春が許す範囲であれば入室することも可能である。
「今日はどうしたラウラ?」
彼は緑茶を啜りながら彼女をまっすぐ見ていた。彼の目は真剣そのものであり、現軍人のような鋭い目つきであった。少し厳しい態度をしたほうが彼女のためになるかもしれないとでも思ったのだろう、そうして作った表情は次の言葉は破壊されることとなった。
「教官から女の匂いがしたので……」
その瞬間彼の口に含まれたお茶が飛び出てしまった、机はビチャビチャで物を載せれる情況ではなくなってしまった。
「ど、どういう意味だ?」
「そのままです。教官から今までに感じたことのない女の匂いがするんです、しかも複数」
「複数!?」
どうやら彼自身は何も感じ取れて居ないようだが、周囲の女性には感じ取れるようだ。千冬がそうであるように教え子のラウラも感じ取っている。
「それはシャルロットやセシリアも言っていたのか?」
「はい、それどころかクラスに居るみんなが言っています」
「っ!?」
クラス一組全員が確認できるほどとは思わなかったのだろう、彼の表情は歪んでしまった
「今はどうだ?」
「……少しだけ感じます」
「嘘だろ!?ついさっき身体洗ったばかりだぞ!?」
しっかり洗ったにもかかわらず彼の身体からはずっと匂うようだ、恐怖しかない。お払いにいったほうが絶対いいだろう。
「なので私の匂いで上書きすることにしました」
「は?」
「教官服を脱いでください」
「お前はなにを言っているんだ?」
ラウラを冷静にさせようとするも、彼女が冷静さを取り戻すことは無くしっかりと彼に抱きついた。必死に引き剥がそうとするが、小柄な身体に秘められた真の力には勝てないようだった。数分後、彼はおとなしくなりあきらめてしまった。
そんな状況を目の当たりにした幼馴染二人はと言うと……
「あのガキ!」
「生意気だね!それに千春もあきらめないでよ!」
普段なら彼のことを「くろちー」と呼んでいる束も、今回ばかりは我慢が出来なかったようで呼び捨てになってしまっている。
二人の眉間にはうっすらと血筋が浮かび上がっているようにも見える、女の嫉妬ほど恐ろしいものは無いだろう。しかし事態の悪化は加速する。
コンコンと彼の扉がノックされた。誰が来たのか確認をしようとするも、抱きついているラウラが行かせまいと抵抗をし始めた。そんな彼女を見た千春はため息をつきながらあきらめようとしたその時あることを思い出した。
(あれ?鍵閉めたっけ?)
そう部屋の鍵を閉めていないのである、つまり部屋に侵入を許すのは簡単な状況であった。
「千春さん~ラウラ見なかっ……」
部屋に入ってきたのはデュノアだった、彼女の口ぶりからして抱きついているラウラを探しに来たのだろう。しかし現状を見たデュノアは無言で部屋に入って来た、しっかり鍵を閉めて。
「デュノア?」
「ちょっと失礼~」
そういうと彼女は身体に引っ付いているラウラを引き剥がし、今度は自分が抱きついてきた。彼女はラウラを探しにこの場にやっていたのでなかったのだろうか?本来の目的を忘れてしまっているように見えるのは彼だけではないはずだ。
「シャルロット?」
「ラウラよりも僕のほうが落ち着く匂いします、だから僕で我慢してください」
「いやそういう問題じゃないのだが?」
「なにをするシャルロット!せっかく私が堪能していたのに!」
「一人いじめはずるいよ!」
あーつまり匂い移すついでに抱き心地を感じていたのか、なるほど納得……出来ないよね?
シャワー浴びた後だから凄い熱いから離してほしいんだけど。
「ならば二人で堪能できるようにすれば良い!」
「どうやって?」
「このベットを使う」
よし大体言いたいことはわかった、ひとつのベットに対して三人並んで寝ようって事だな?いや熱いわ!
「「ぐぬぬぬっ!」」
画面の前には嫉妬心が爆発しそうな成人女性が二人、鬼の形相であった。
「もういい!これ以上見たくない!」
「同感だ!」
そうしてUSBメモリーを抜きとり地面に叩きつけた、完全にデータは破壊されてしまっただろう。
「千春に部屋の鍵はしっかり閉めるように言っておいて!」
「当たり前だ!」
二人は後味が悪い中、その部屋を後にし元の持ち場へと戻っていった。
後日、千春とラウラそしてデュノアが叱られたのは言うまでもなく、三人は反省文10枚を書かされることとなった。