漢がダンジョンにいるのは間違っているだろうか   作:ぱんてー男爵

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2話

俺は今1人でダンジョンに潜っている。

いつもならばベルとも一緒なのだが今日は寝坊をしてしまいベルが先にダンジョンへ行っていると手紙を置いていった。

まぁ、ベルも1人で深く潜らないはずだから焦らなくてもいいだろう。

すると、

 

「うぁぁぁぁぁ!」

 

奥の方から叫び声が聞こえる。

よく見るとその冒険者の後ろにはここにいるはずのないモンスターがいた

 

「ミノタウロス………」

 

少し呆然としてしまったが日々エイナさんからダンジョンについて教わっていたのでイレギュラーに対してすぐに体が動いた。

このままではあの冒険者は捕まってしまう。

俺はその冒険者に向かって走りながら叫ぶ。

 

「大丈夫か!?」

 

そう言って手を差し伸べるが…………

冒険者は恐怖でひたすらに走り、俺の横をそのまま通り過ぎて行った。

 

「え?」

 

予想にしなかった出来事により思考が止まる。

ゾクッ!

すぐ100m程先から怒り狂った顔のミノタウロスが走ってくる。

 

(やばい!)

 

急いでミノタウロスに背を向けて走り出す。

走る、走る、走る

切島はひたすら走る。すぐ後ろからはミノタウロスの足音と唸り声が聞こえるが振り返る余裕はない。

しばらく走るとついさっき自分を置いていった冒険者に追いつく。

よく見るとその冒険者の右足は血を流しており足を引きずっている様子だ。

恐怖にわざとではなかったとはいえ助けようとした自分にモンスターを擦り付けて逃げた冒険者を2度目は助けようとしないだろう。

しかし、切島には誰かを見捨てるという頭がなかった。

 

(あいつごと担いで逃げるか!?いや無理だ!今でさえギリギリなんだ、人を担いで走ろうとすれば2人揃って殺される!なら………)

 

「ここは俺が時間を稼ぐ!足が痛いだろうが、頑張って走ってくれ!」

 

返事を聞かずにミノタウロスの方へ振り返り歩き出す。

 

「かかってこいや!」

 

切島の頭はあの冒険者を逃がすことでいっぱいだった。

相手の目線を自分に集中させる!

切島はスキルの全身硬化を発動させると来るであろう衝撃に耐えるために腕を前に出し顔をガードするような構えをとる。

 

ズドンッ!

 

ものすごい音と共に切島は吹き飛ばされる。

本来ミノタウロスはLv2相当なのだ。いくらスキルを持っていようとLv1では到底太刀打ちできない。Lv1の差は思った以上に大きかった。

 

(や、やべぇ、俺の硬化が通用しない!このままじゃ殺される!)

 

さっきまでの威勢ははどこに行ったのか膝が言うことを聞かない。

足は震えるばかりで目の前の絶望に対して体が動かない。

 

(動かないと!動かないと!死んじまう!)

 

その瞬間走馬灯のようなものが流れる。

自分を快く送り出した父親が、母親が、憧れの存在であるクリムゾンライオットが、ヘスティアとベルが、

そこで思い出す。

 

(そういえばベルってこの先にまだいるんだよな?すぐに助けに行かないと!)

 

恐怖はもうなかった。いや、恐れはある。これはミノタウロスへの恐怖ではなくベルを失ってしまうことへの恐れだ。

気がつくと足の震えが止まっている。

目の前で拳を構えるミノタウロスに対して自分も気合いを入れる。

 

「うらぁぁぁぁぁああ!」

 

ミノタウロスの拳が振り下ろされるが、さっきとは違い切島は耐え続けていた。連続の拳をひたすらに耐える。

下がるどころかミノタウロスに向けて足を進める。

桁違いの威力の拳に意識が失いそうになるが歯を食いしばる。

 

(俺の拳が届く距離まで歩く!ミノタウロスだって体力が無限にあるわけじゃねぇ!どこかで好きができるはずだ!)

 

何秒だっただろうか。その僅かな時間さえも切島には数時間に感じられた。

するとミノタウロスの呼吸が上がり始め拳が乱れ始める。

そしてついにミノタウロスに隙ができる。

 

「らあぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

全力で拳を振り抜く。全身硬化によって上げられた力のステータスによる攻撃はミノタウロスの顔にクリーンヒットする。

なんとその一撃はミノタウロスを魔石へと変えてしまった。

切島は見事なジャイアントキリングを果たした。

しかしその大きな勝利に酔う暇もなくフラフラとした頼りない足取りで歩き始める。

 

「ベル…ベルを助け……」

 

「すごいね君!Lv1だよね!?」

 

「少し黙りなさい。頑張ったわね。そのベルって人は私たちが助けるから大丈夫よ。」

 

誰かが自分を支えてくれる感覚とともにそんな声が聞こえてくる。

顔を上げると姉妹なのか褐色肌の女性が二人たっていた。

どこか安心してしまい切島は意識を手放す。

 

 

 

 

 

 

「もぉ!モンスターなのになんで逃げるのさ!」

 

「うるさい!団長の命令なんだからさっさとやるのよ!それに、ミノタウロス相手ではLv1の子は太刀打ちできないわ。」

 

「わかってるよ!」

 

そんな会話をしながらもティオナヒリュテ(大切断)とティオネヒリュテ(怒蛇)はLv5の身体能力を最大限に使いミノタウロスの逃げた方へ走る。

自分たちの失態で誰かが死んでしまうことになれば大問題である。焦る内心から足は止まることがない。

しばらくすると

 

「いた!ミノタウロスだ!」

 

「誰かが戦ってるわ!助けに行かないと!」

 

よく見ると目の前の少年は足が震えていた。

なぜ逃げないのか、そう考えてふと少年の後ろを見ると足を引きずりながら逃げようとする冒険者の姿があった。

 

(あんなに怖い思いをしてるのにあの冒険者を逃がすために立ち向かってるの?見たところ同じファミリアって訳でもなさそうだし他人?)

 

ティオナは驚く。

そして見知らぬ他人のために体をはるその行為に"英雄"という言葉が思い浮かぶ。

赤髪の少年に目を戻すと足の震えは止まっていた。

 

「何ぼーっとしてんのバカティオナ!早く助けるよ!」

 

「待って!あの子戦おうとしてるよ。今あの子は冒険をしてるんだよ」

 

「何を「うらぁぁぁぁぁああ!」

 

ティオネの声をかき消す雄叫びをあげる少年。

少年はミノタウロスの連続の拳を耐え続けていた。

 

「な、何あの子見たところ駆け出しっぽいけど。なんかのスキル?」

 

その問いに答える余裕がティオナにはなかった。

顔が熱くなり鼓動が早くなる。

自分よりもレベルが低く弱いはずなのに。スピードもパワーも自分の方が上だと理解してるのに、強い雄を求めるアマゾネスの本能が愛おしいと訴えてくる。

そして、少年が少しずつ前に出ていることに気がつく。

ついに

 

「らあぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

そんな叫び声とともに少年は拳を振り抜く。

Lv1からは考えられないような攻撃がミノタウロスの顔を捉え、瞬く間に魔石へと変えてしまった。

そしてティオナは少年の元へ走り出す。

 

「ち、ちょっと!」

 

ティオネの静止も聞かずに駆け寄り倒れそうな体を支えると声をかける。

 

「すごいね君!Lv1だよね!?」

 

「少し黙りなさい。頑張ったわね。そのベルって人は私たちが助けるから大丈夫よ。」

 

興奮してしまって聞こえなかったがどうやら彼は傷だらけの体を引き摺って誰かの助けに向かおうとしてたらしい。収まらない興奮を必死に押さえ込んでティオネにベルという子の捜索を任せ、自分は赤髪の少年を抱いてフィンたちの元へ走り出す。

 

「はぁ、あの子ったらはしゃいじゃって。まぁでも、分からなくはないわ。あんな子初めて見たもの。」

 

ぽつりとティオネは言葉を漏らし、捜索へと当たる。

 

 

 

 

 

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