無人島に降り立って数時間。各々のクラスがそれぞれの戦略の下、キャンプ地を決め、これからの方針を決めていた。Aクラスのキャンプ地は島の一番高い場所にある洞窟。Bクラスのキャンプ地は森の中にある井戸の周り。Cクラスは海で遊ぶには抜群の砂浜。Dクラスは綺麗な小川の近くにキャンプ地を構えていた。
そんな中、Dクラスは他クラスと違って、開始早々、水洗トイレを設置するか、シャワーを設置するかで危うく意見が大きく割れそうになったが、正臣が率先して設置する派に入り、メリットと感情論を唱えたことで、それは防がれたことになった。
色々必要な物を買って夕方になった頃。探索の途中で綾小路清隆と山内春樹、佐倉愛里がボロボロになった伊吹澪を見つけ、平田を筆頭した人間の意見により、Dクラスで保護することとなった。それから、皆が眠くなった頃、Dクラスのリーダーである正臣は自身のキャンプ地を離れ、Bクラスのキャンプ地の近くに向かった。また、美香も自分のテントから出ると、近くにある木々のへと向かう。そして、その二人の行動を見ていた者が二人がいた。
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「そろそろ来るかなーって思ってたよ、紀田君」
「俺も会いたかったぜ。マイ!エン!ジェル!!」
「紀田君、シィーだよ。寝てる子もいるんだから」
Bクラスのキャンプ地に来た正臣が会っていたのは一之瀬だった。今回の試験を予感していた二人ではあったものの、いきなり始まったことと、明らかなスパイが自身のクラスに送られてきたことで様々な意図がありつつ、このような時間に会っていた。
「帆波に早く会いたかったから、仕方ねぇーだろ?」
「だからって、いきなり、テントの入り口から声をかけたらびっくりしちゃうよ」
「それよりよ、帆波のクラスにも来たか?」
「うん。優しくて、龍園君の意見に逆らった子が来て、保護したよ」
「やっぱりかー。俺のとこにも来たんだよな。反抗心強そうな子猫ちゃんが」
平和島幽と伊吹澪。どれだけ、そこなしのお人好しだろうと、この二人をスパイだと疑わないのは無理がある。そんな懸念もあり、一之瀬は正臣と会って会議をすることに躊躇は無かった。
「他の人は呼ばなくて良かったのかな?神崎くんも堀北さんとかも参加したかったと思うんだけど……」
「俺が帆波ちゃんと二人きりで会いたかったもーん。なんて、冗談は置いといて、今回は情報戦がメインだろうからさ、色々知っておく人間は少ない方がいいと思ってよ」
辺りは深夜。既に目を凝らさなければ周りもしっかり見えぬ状況。そんな中で、二人だけで会話しているのならば、情報もほとんど漏れることは無い。よほどの隠密性能の高い生徒でも無い限りは。
「帆波は誰をリーダーにしちゃったりしたんだ?」
「……私なんだ。言っちゃってからだけど、リーダーはお互い当てないようにしたいんだけど、どうかな?」
「Dクラスはもちろん、俺!これでおあいこってことで良い!よね!!」
会ったからふざけ倒している正臣を一瞬、戦略かと疑ってしまった一之瀬だったが、これまでの正臣や普段の正臣が脳内によぎり、その考えを直ぐに捨てる。正臣がふざけ倒しているのは無人島1日目で少しテンションが上がっているからであり、深い戦略も何も無かった。
「ありがとう紀田君。明日からもよろしくね」
二人は別れると、正臣は自身のキャンプの方へと帰り、一之瀬は自分のテントの中へと帰っていく。その二人が会ってからの光景をずっと見ている人間が二人いた。
★ ★ ★
時間は数十分ほど戻って、Dクラスキャンプの付近。そこで、美香とBクラスにいる彼氏である神崎が密会をしていた。そして、夜中に聞こえた足音により、目が覚めた綾小路が正臣を付けるか、美香を付けるかを迷い。目的が読みにくい美香の方を付け、息を潜め、隠密性を高くしながら、聞き耳を立てていた。
「会いたかったです。隆二くん。寂しかったです」
「会いに行かなくてすまなかったな。その代わりと言ってはなんだが、今、ゆっくり話そう」
「はい!」
美香の前に現れたのが神崎だということは美香と親しい者、神崎と親しい者ならばサービス問題のようなものだったが、恋人や恋愛ということに疎い綾小路もその可能性は予想したものの、他の人間よりも圧倒的に低い確率で予想していた。
二人は座り出し、神崎が自分の上着を美香にかけるなどして、イチャイチャするのを見ていた綾小路は退却しようとか少し考えたものの、何か自分の知らない情報を得られるかもしれないということで、まだ残ることを渋々決断する。
「今回の試験は美香はどう行動するつもりなんだ?」
「えーいきなり試験の話ですか?まぁ……別に良いですけどね」
「この試験のリーダーは紀田君が『俺とリーダーに任命した奴だけしか知らないようにするけどいいか?』とか言ってたんで、私は知らないのです。その辺では、隆二くんの手助けは出来そうにないです」
「いや、大丈夫だ。一之瀬も珍しく同じようなことを言っていたから、俺もリーダー周りはあまり話せそうに無い」
綾小路は残る選択をした自分自身を少し褒めた。綾小路は張間美香が神崎の為ならば、容易にDクラスを裏切る人間だということ、クラスのことを一番に思うあの一之瀬が一人でリーダーを決めたという二つの情報を得れたのだから。
「何か私がやることありますか?」
「他クラスのリーダーの情報と動向ぐらいしかこの試験では役に立たないからな。それは俺の方でやっておくから、美香は何もしなくていいさ」
「そう……ですか。分かりましたけど、そろそろ、試験の話は止めません?」
「そうだな。こんな話ばかりして、すまない」
二人の距離が段々近づいていくのを見届けた綾小路は振り返ることはせずに、ゆっくりその場を離れて行く。この空気に自分はまだ慣れないと悟りつつ。
★ ★ ★
「杏里。これからどうする?」
「契約を防げれば良かったんですけど……」
二日目の朝、Aクラスの拠点から少し離れた場所で、神室と杏里が二人だけで会議をしていた。二人は坂柳からの密命により、葛城に手柄を挙げさせないように行動する予定だったのだが、思ったよりも葛城及び龍園の行動が早く、中立派や神室や杏里が抵抗したものの、二人の契約を防ぐことは出来なかった。龍園と葛城の契約内容は今回の試験でCクラスから荷物を譲渡される代わりに月々2万ポイントをAクラス全員がCクラスに渡すことになっていた。
「おーい。俺はのけ者かよ。俺も混ぜてくれよ」
「私と杏里は大事な話し合いをしているの。どっか行って欲しいんだけど」
二人がこれからの対策を練っている場所に来たのは同じ坂柳派で神室と杏里の次に坂柳から命令を受けている橋本だった。そんな、橋本に神室がここまで拒否反応を抱いているのは、会うたびに杏里と神室自身をナンパのようなことをしてくるからであり、仕方の無いことだった。
「今回は真面目な話だぜ?葛城がひた隠しにしているリーダー。知りたいだろ?」
葛城が仕切っている現在のAクラスにおけるリーダー情報は妨害を使命とする二人にとっては、最低限の苦労で最高の成果が得られるものであった。
「本当にそれを入手出来たんですか?」
「おう。ちょっと戸塚のやつに探りを入れたら直ぐに分かりやすい反応をしてくれたからな」
そんな橋本の言葉と様子から情報を得たことは嘘では無いということは理解出来ても、橋本がその情報を自分達に無償で渡してくれるだろうかという疑念があった。端的に言うならば、橋本はこの二人から信用が無かった。
「それでいくらでそれを売ってくれるの?」
「まさか。ただでやるに決まってるだろ?Aクラスのリーダーは戸塚だ。どう使うのも自由だけどよ、坂柳には伝えておいてくれよ」
橋本にとって重要なのは今、このクラスで一番優秀であると思われる坂柳に自分を売り込むことだった。そのために、自分の手柄を示すやり方として、あえて神室と杏里を経由させていた。
そんな橋本の思惑を匂わされた二人からしてみれば、坂柳のような人物に好かれる為にそこまでしようとすることが理解出来なかったが、それくらいの交換材料ならと了承の意を示す。
悪魔の化身とも言えるような龍園と組んでまで勝利して、自身のリーダーとしての立場を揺るぎないものとしようとしている葛城。そんな葛城派を妨害し、この試験で負けさせようと暗躍している坂柳派の者達。その二つの派閥を友好的に交わらせ、Aクラスを良きクラスにしようとしている中立派。その三つの派閥がにらみあっているのが、無人島でのAクラスの内情となっていた。
★ ★ ★
場所は変わって、高度育成高等学校。ある教室の一角に偉そうに一人で椅子に座っている男がいる。その男は一人にも関わらず、ニヤニヤしながら将棋盤の上に置かれた将棋の王、チェスのキング、トランプのクイーン、将棋の金が二つを並べ観察していた。
「お前は何をしているんだ?」
「ああ、ごめんごめん。気づかなかったよ。お得意様」
そんな奇妙な雰囲気漂う教室へと来たのは現2年全体のリーダーとも言われていて、生徒会にも所属している南雲雅だった。南雲は自らこの場所に来たにも関わらず、顔を顰め、あまり来たくなさそうな様子が見られる。
「これは無人島の一年の勢力図だよ。ここから誰が勝利して、誰が負ける。その中に感情がぐちゃぐちゃになるようなドラマがあると思ったら、ワクワクすると思わない?今年の一年は大粒が多いからね。俺たちの時よりもよっぽど面白くなるよ。南雲くんは何処が勝つと予想するんだい?」
捲し立てるようなテンションの高い臨也にほぼ毎月利用している南雲は慣れたのか、何処か冷やかながらも、自身も興味があるのか話を続ける気があるような目線や素振りを見せる。
「どの学年だろうがAクラスが勝つのが妥当だろうな。だが、俺たちの学年の例もあって、Bクラスへの期待ももちろん持ってるんだぜ?」
「それは南雲くんが引き入れた子が居るからかい?ああ、いや、俺じゃないからね?広めたのは。勝手に広まっていくものさ、その程度の情報はさ」
手元で将棋盤の上の物をいじりながらも、臨也はのらりくらりと会話を続けていく。
「案外番狂わせもあるんじゃないかなーと思ってるんだよね。ほら、優秀な奴が多いからさ」
「本当にそれだけが理由なのか疑問だが、今は気にしないでおいてやるよ。それよりも、いつもの情報はそろっているんだろうな」
「もちろんだよ、お得意様。報酬はいつものやつでね」
南雲は臨也からメモリーカードを受け取ると、中身は分かっているというように確かめることは無く、そのままポケットに入れると、ドアの方へと向かう。
「折原。お前はそのポジションだから、見逃してやってること忘れるなよ」
「もちろんだよ南雲くん。お達者でね」
互いに食えない男だと悟りながら、南雲は教室を出て行く。南雲にとっては臨也は油断ならない男だとしても、臨也からしてみれば、南雲は面白くつまらない対象にすぎなかった。
臨也とかは久しぶりの出番でした。
無人島編のテーマは暗躍です。誰が、どうやって、どのくらい暗躍するのか楽しみにしていて下さい。
カップル同士などの描写の深さについて
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仄めかしもやめてほしい
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仄めかす程度ならば問題なし
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軽い描写なら良し
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多少深くてもok
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ギリギリまで攻めてよし
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どれでも気にしない