ようこそ非日常の溢れる教室へ   作:地支 辰巳

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色々交差します


言葉で言わなくては伝わらない

 

 静まり返った森、その中で堀北鈴音はしっかりとした足取りで歩いていた。今回の特別試験、堀北は体調が優れなく、歩幅も小さくなっており、正臣や綾小路に内々に心配されるほどだったのだが、今の堀北は唯一の友達である彼女に会いに行く為に体調も気にしないほど足取りが軽くなっていた。

 

「待たせてしまったかしら?」

 

「ううん。今来たところだから、大丈夫だよ」

 

「そう、なら良いのだけど」

 

 堀北はこれまでの人生で友達という関係性を作ったことが無い。本当に幼い頃にはあるのだが、それは友達という関係性を作ったり、過ごす上での経験値になっておらず、今の堀北は何の経験も持っていなかった。だからだろう、堀北は彼女との距離が些か近かった。

 

「これ、Cクラスだったらいらないかもだけど、夜ご飯」

 

「私は大丈夫。堀北さんが食べて。体調も悪いんだよね?」

 

 半分だけ残してきた栄養バーと果物を手に、堀北は彼女の言葉に感動を覚える。それは誰にも言っていなかった体調の不調を彼女が察してくれた上に、心配してくれたからであった。唯一尊敬する兄からも褒められず、両親からも対して褒められることも無く、周りの人間からは友好的な目で見られたことの無い堀北にとっては深く沁みたことだった。

 

「少しだけ。そう言ってくれるなら、頂くわ」

 

「うん。そうしてね」

 

「そ、そう言えば、貴方の言ってくれた通り、龍園くんはCクラスを纏めてリタイアさせるつもりみたいね」

 

 話題を変える意味でも、ここに集合した目的でも堀北は前日に彼女からもたらされた情報に対してに触れる。

 

「私は耳が良いですから、龍園くんの作戦は全部聞こえていたんです。だから、前回は途中までしか言えなかったけれど、今回は全部言うね」

 

 そして、淡々と彼女は龍園が幽や伊吹に話していたことをそのまま伝える。そこに躊躇などは存在しているようには感じられず、普通の話をするように作戦の内部まで伝える。

 

「やっぱり、あの人はスパイだったのね。今すぐ……いや、どうするべきかしら」

 

「平和島くんのこともそうなんだけど、私はリタイアした方が良いのかな?」

 

「リタイアした方が賢明ね。無理に他のクラスメイトと他の行動をすれば龍園くんに目をつけられてしまうから。それに、私と貴方の関係も他の人たちに知られては困るもの」

 

 堀北は頭に自分のクラスの底が知れず、得体の知れない人間である綾小路を思い浮かべ、警戒する。綾小路に彼女の存在が知られてしまったら、知らず知らずの内に彼女が利用されてしまう気がしたからだ。

 

「そういえば、堀北さんのあの時の合図難しかったよ」

 

「ああでもしないと、他の人たちに気づかれないようには出来ないと思ったからよ」

 

 堀北はCクラスのキャンプに行った際、帰り際に彼女に向けて、手で集合の時間を素早く表していた。それは分からない者には手を何故か動かしているようにしか見えなかったが、分かっている人間からしてみればシュールなこと上なく、普段は笑わない彼女も少し笑ってしまっていた。

 

「じゃあ、次に会うのは船の上だね。無理はせずに頑張って下さい」

 

「ええ。期待に応えてみせるわ」

 

 堀北の目はやる気に満ちており、この試験を絶対に制するという気合いが見てとれた。

 

 

★ ★ ★

 

 

 昨日から延期していたAクラスへの偵察を行う為に、正臣と堀北、綾小路の三人は無人島の中を散策していた。何の手がかりも無く歩いている訳では無く、綾小路が予想した島の中央にある洞窟の方角へと進んでいる。道中、正臣は積極的に話を二人に振ったりするのだが、コミュニケーション力が足りない綾小路と冷たく返す堀北では空気は何とも言えないものになる一方だった。そして、いよいよ洞窟までもう少しという所で彼ら三人に話しかける者がいた。

 

「あれ、みなさん、Aクラスの人じゃないですよね?」

 

 その人物は一目見るだけで誠実そうだと分かるほどの清々しい表情をしていた吉宗だった。吉宗は後ろに山村を連れて、手に木を持っていた。

 

「そうすっけど、あんたはAクラス?」

 

「うん、そうだよ。Aクラスの三好吉宗よろしくね」

 

 平田とも正臣との違うベクトルの明るさを持つ吉宗に対して、堀北と綾小路は出方を伺う。それに加えて、三好吉宗という人物がAクラスのリーダーに近い人物ならば、不用意に情報を与えるのは得策では無いと考えていたからだ。

 

「んじゃあ、単刀直入に聞いちゃうけどよー、あんた無人島のリーダー?」

 

「Aクラスのリーダーって意味でも無人島のリーダーっていう意味でも違うよ。今回の僕たちは葛城くんの指示で動いてるからね」

 

「今回の僕たちとはどういうことなんだ。三好」

 

 綾小路の疑問に三好は今のAクラスが葛城派と坂柳派に別れていることを丁寧に説明していく。それはAクラスへの背信行為では無く、いずれ説明しなくても分かることであり、ただの吉宗の親切心からだった。

 

「貴方たちのクラス、随分荒れているのね。そんなので、この試験に勝てるのかしら」

 

「あはは、そう言われちゃったら、返す言葉も無いね。でも、葛城くんも優秀だから、何とか勝ちをもぎ取ってくれると信じてるよ」

 

 その言葉は三人には葛城の優秀さを信じ、坂柳派では自分は無いと示すものに捉えられる。しかし、全ての事情を知っている山村からすれば、龍園と契約した時点で吉宗は計算の上の勝利を諦めているように感じてならなかった。

 

「あの……貴方たちの自己紹介いいですか?」

 

「おっとと、そうだった。美少女に名乗らせてもらおうDクラスの紀田正臣。正臣ーって呼んじゃって良いよ!」

 

「いえ、大丈夫です」

 

「あは、辛辣!」

 

「堀北鈴音よ。こっちは付き添いの綾小路くん」

 

 自己紹介を受けた吉宗は名前を覚えながら何度も咀嚼し、三人にAクラスを案内すると申し出る。初めは敵からの申し出に戸惑った綾小路と堀北だったが、フランクに付いていく正臣に仕方なく着いて行った。

 

「あんた、誰それ」

 

「えっと、Dクラスの人たち。偵察に来てたから、案内しようと思ってさ、このまま行かせても葛城くんと問答になるだけだと思うからさ」

 

「……そうなんですね。それだけですか?」

 

「それだけだよ?葛城くんは秘匿主義だから、絶対喧嘩にもなるだろうから」

 

 三人を案内し、洞窟の真正面まで来たところで吉宗の前に現れたのは坂柳派の筆頭である神室と杏里だった。吉宗から情報を聞いた二人は不慣れな他クラスの人との交流を前に手厳しい態度を取ろうとするも、目の前に急に正臣が現れる。

 

「ちょー可愛い女の子たち。自己紹介聞きたいなー。あと、俺のことどう?」

 

「神室真澄、無理」

 

「……園原杏里です。まだ貴方のことよく知らないので」

 

「紀田正臣、よろしくねー」

 

 適度な距離を保ちつつ、正臣は熱烈にアプローチする。そのアプローチに引きつつ二人は会話を吉宗に任せるように目配せを送る。それを受け取った吉宗はため息をつきながらも、それを実行し、三人を連れて洞窟の玄関まで行く。しかし、吉宗も少し予想していた通り、他クラスを洞窟の玄関に近づけたことで葛城から厳重注意を受けることになり、渋々帰ることになった。

 

「ごめん。もう少し案内したかったんだけど」

 

「いんや、問題ねぇって。杏里ちゃんと真澄ちゃんにも出逢えたことだしな」

 

 まだ堀北と綾小路はAクラスを観察したくて不満があったようだが、正臣は偵察も達成出来て、可愛い女の子達とも出会えたことに満足したようで、そのままDクラスへ戻って行く。各々がこの3クラスを見た上で考えてこみながら。

 

 

★ ★ ★

 

 

「ねぇ。どうして、あの人達を案内したの?」

 

「うーん、どっちの派閥の人にも会わせたかったからかな」

 

 日も落ちかけ、綺麗な夕暮れが見えるビーチで吉宗と山村は話し込む。山村から見えた吉宗は夕暮れの日が当たって、非常に幻想的に見えて、いつもとはまるで見え方だった。

 

「?」

 

「山村さんも察したと思うけどさ、龍園くんと契約した時点で自分たちの力で勝つことはこのクラスは無理になっちゃったんだ。そうなったら、坂柳派の妨害は勢いを増すっていうか、容赦が無くなるんだ。だから、変化が欲しくてさ」

 

「どっちに転ぶのかも分からないのに?」

 

「うん。バランスを保つにはこれくらいしか無さそうで」

 

 山村も理解した通り、吉宗の今日の行動は最後のささやかな抵抗、それも運に任せるようなそんな不安定なもの。もしかしたら、もっと坂柳派が動きやすくなるような危うさもあるようなものだった。

 

「やっぱり無理だったのかな。僕にはリーダーというか、もうレジスタンスみたいなものだけど」

 

「そんな事ない」

 

 力強く吉宗も驚いて山村を改めて見つめるほどの声。山村自身も自分が出した声だと信じられず、吉宗のことを直視出来なくなっていく。

 

「えっと、私は三好くんがAクラスの王に相応しいと思う。誰よりもみんなのことを考えてくれているから」

 

 いつかの日に確信した吉宗への信頼感、それを初めて声に出す。誰も見ていないからこそ言える思い、誰よりも吉宗の側にいると自負出来るこその思い。そんな言葉を聞いた吉宗は呆気に取られる。全く知らなかった思い、そんな思いを山村が持っていたなんて、知らなかったこそ出来る顔をしていた。

 

「あ、ありがとう。そんな風に言ってくれて嬉しいな。転校ばっかりで人からそんなこと言われたことが無かったらから、凄く、嬉しいな」

 

 どちらともがむず痒い思いから声を出せなくなり、不意に目が合ったり、逸らしたりが続いていく。そして、どちらとも寄せ合っていき、肩が触れ合う。その行為に意味を求めるのは無粋だろう。だが、強いて言うならば、相手を身近に感じたかったのみだ。

 

 

★ ★ ★

 

 

「ハッ、だから言っただろ。無線機を買った方が良いってよ」

 

「でも、バレる心配は少ない方が良い。それに手間だから」

 

 深夜3時頃、Cクラスがキャンプを張っていたビーチ近くの森。そこには龍園と幽、伊吹が数日ぶりに揃っていた。幽は潜入している時のキャラクターでは無く、いつもの仏頂面の幽だった。

 

「そんなことより、ここに集まった方がリスクでしょ」

 

「バレてると思うけど」

 

「まっ、そうだろうな。どいつもこいつもバカだが、察しが悪い訳じゃねぇ。だが、バレても問題ねぇ作戦なのさ、これはな」

 

 龍園はニヒルに笑みを深くする。甘ったるい空気感なんて全く無く。龍園を中心とした悪い空気感が辺りを支配していた。

 

「どうゆうことなの、それ」

 

「お前らがもし情報を持って来れなくてもAクラスのリーダーを当てれる。それに最低限の目標である契約も達した。俺にとっては消化試合なんだよ」

 

「こんな身体張ってるのに、ほんといけすかない」

 

「龍園。報告だけど、紀田将臣と一之瀬帆波が密会していた。そこでお互いがリーダーだと言っていたんだけど」

 

 幽のもたらした報告に伊吹もそれを裏付けるように夜に正臣が消えた事を報告する。思いがけない報告に龍園はしばし考え、口を開く。

 

「てめぇらのことがバレた上で仕込んでいる可能性が高けぇな。無人島のリーダーがクラスのリーダーなんて安直なことしやがるとは思えねぇからな。絶対的な証拠がまるまでは信用できないな」

 

「じゃあ、次はリーダーのカードを取ってくることにするよ」

 

「何でこんな身体張らなくちゃならないの」

 

「ククク、任せたぞお前ら」

 

 二人をそれぞれが潜入しているキャンプに戻した後、龍園は一人この場で目を瞑ることにするのだった。




それぞれがそれぞれの思惑で自由に行動しています

カップル同士などの描写の深さについて

  • 仄めかしもやめてほしい
  • 仄めかす程度ならば問題なし
  • 軽い描写なら良し
  • 多少深くてもok
  • ギリギリまで攻めてよし
  • どれでも気にしない
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