無人島生活も大詰めになった頃、未だ、Bクラスに潜入中の幽は手詰まりの状況になっていた。無人島が始まったばかりの日に偶然、正臣と一之瀬の密会を聞いていた幽だが、そんな直球にリーダーが無人島のリーダーを担っているとは考えづらく、手をこまねいていた。
だが、幽に猶予はあまり残されておらず、強硬手段を取らざる得ない状況に追い込まれていた。
「嫌われる覚悟も持たないとな」
前々から考えていた作戦を実行することにした幽は、一人、周りに誰も居ないBクラスの拠点で寂しさを滲み出そうとしてつぶやく。そんな幽は強硬手段に移るまでの間、前日までと同じように行動し始めるのだった。
そして、Bクラスのスポット占有時刻になった時、幽の姿はそのスポット占有装置のある近くの林にいた。その手に高性能のカメラを持って。
「もうすぐこの試験も終わりだね、帆波ちゃん」
「そうだね! でも、油断しちゃだめだよ千尋ちゃん。龍園くんも葛城くんもいるんだから」
周りにBクラスの何人にも囲まれた一之瀬は段々と装置の方へと近づいていく。その中の誰もが誰がリーダーなのか知る事は無く、一之瀬のみがリーダーのことを知っていた。そして、これまで通り、装置を囲み、それぞれが後ろ向きでポケットから手の中を伸ばす振りをしたが、その中では一之瀬のみが一之瀬のカードを持って装置に触れていた。
カシャ。分かりやすいシャッター音がBクラスの人間にも聞こえるように鳴る。その分かりやすい音に全員が林の中の方を見る。そこには音と共に太陽からの光がレンズに反射していた。
「誰だ!」
咄嗟にカードを隠す一之瀬。咄嗟に叫ぶ神崎。しかし、目的は達されたのか、幽は逃げるようにして林の奥へ奥へと走って行く。後ろ手には大声を上げているBクラスの生徒達が追いかけてきていたが、事前に逃走経路を準備していた幽はその道でどんどんと距離を離していき、ある場所へと着いた。
「ククク、ご苦労だったな平和島」
「こうでもしないと、無理だからな。だが、あまり上手くは撮れなかった」
撮ってきた写真を龍園に見せるも、龍園はその写真を見ていく内に怪訝な顔になっていく。
「おいおい、全然撮れてねぇじゃねぇか。これで、どうやってリーダーを知るってんだ?」
龍園が怒るのも無理は無く、撮られた写真には装置とそれを囲むように装置へ背中を近づけているBクラスの面々が写っているのみだった。全くリーダーに関する情報は一目見ても分からないが、幽は淡々と説明する。
「この写真だけじゃ分からないけど、実際には一之瀬の手のみがカードを出す動作もあるように見えた。だから、一之瀬がリーダーというのは間違っていないように思える」
幽の目で読み取っただけの情報。普通ならばリスクが高く、見間違いの可能性も高いだろう。しかし、龍園は幽の情報を聞いた上で高笑いをする。
「ククク、いいじゃねぇか。それくらいのリスクがあった方が良いだろ。どうせ、本来の目的は達したんだ。おい、平和島。採用してやるよ」
「ありがとう。俺はもう行く」
幽はカメラを龍園へと渡すと、大回りをするようにしてBクラスのキャンプへと戻っていった。その足取りは普段と変わらず、何かをしたという達成感もやってしまったという後悔も読み取ることは出来なかった。
「つまらなそうなのが玉に瑕だな」
密かにキャンプへと戻ってきた幽に対する疑惑な視線。何か情報があるわけではないが、誰もがその撮られた瞬間にこの場に居なかった幽のことを疑っているようだった。そんな視線にも関わらず、幽はBクラスへと潜入した生徒としての演技を続けていた。
「一之瀬。あいつをこのままここにおいていてもいいのか?」
「仕方ないよ。もう終わるかもって油断したのがいけないから。それに、平和島くんがやったって決まったわけじゃないでしょ?」
「それはそうだが、他の場所にいる奴が俺たちのクラスの更新時刻を知っている訳が無い」
神崎の疑わしい幽をキャンプから追い出せと暗に示している意見に優しすぎる一之瀬は決して首を縦に振ることをすることをしなかった。
今回の事態が想定外の事態だとしても、Bクラスの全員はリーダーが誰かは知らない。その為、責任が個人にはいかずにこの考えを提唱した一之瀬自身にいくことだけが、一之瀬にとっては救いとなっていった。
★ ★ ★
Bクラスで騒動が起こった頃と同じ頃、Dクラスでは既に騒動が起こっていた。
「ちょっと男子。集まってもらえる?」
その声を皮切りに始まった騒動はDクラスの女子の中でもトップのカーストの軽井沢の下着が盗まれたというものだった。この事実に軽井沢のグループを筆頭として、女子全員が男子を疑い、一気即発の事態にも発展していた。
「少しだけ、俺たちに時間くれない? みんなを説得するからよ」
「紀田くんがそこまで言うなら、良いよ」
「ちょっと松下さん! 紀田くんは女子にも優しいけど、ナンパ師だよ? やっていてもおかしくないよ」
「ううん、紀田くんはそんなことしない」
普段から何処か仮面を被っているように思わせる松下の真剣な目。そんな目に押された篠原を筆頭した女子達は元々女子からの好感度の高かった正臣ということもあって渋々納得を示す。
「んじゃあ、男子全員に集まってもらったけどよ。まず初めに盗ったって奴は手を挙げてくれ」
威圧感の籠った声。いつもはふざけていて、ギリギリのラインを攻めている正臣を持ったとしても、軽井沢が泣くようなこんな事をすることは許せないようで、怒っているのだと全員が感じていた。
「僕からもお願いするよ。今、名乗り出てくれたら、何とかはしてみせるよ」
正臣と平田。二人が自身の思いを伝えるも、名乗り出る男子は居なかった。これが男子の中に犯人が居ないということなのか、もしくは強情な犯人なのかは定かでは無いが、結果として潔白を示すということで、男子は女子達の前で荷物検査をされることとなった。
★ ★ ★
そんな風に男子全員が自分たちの処遇について話し合っている時間に、女子のほぼ全員も軽井沢のテントの周りに集まっていた。それぞれの表情は千差満別になっていたが、一様に悲しそうな顔はしていた。
「はぁ、ほんと、早くしてよね男子」
「だ、男子に居るとは分からないよ? 女の子の中にもいるかも」
そんな中で何をどう思ったのか、櫛田は女子にも疑いを向けるような発言を発した。その考えは女子の誰もが嫌がらせという動機で思い浮かんでいたが、消し去った考えであり、その発言を聞いた女子全員がそれぞれ周りの女子を見渡していた。
「櫛田さん。そのことを言っていたら、きりが無いと思うんだけど」
「念のためだよ? 怪しい行動をしてる子なんて居ないって、私も信じているけど」
話は変わるが、Dクラスの女子達には4月から主に三つの派閥が存在している。軽井沢が率いているギャル的なグループ。櫛田が率いる仲良しグループ。美香が率いる気楽なグループ。それぞれは近からず、遠からずといった距離を保っていた。
「私……見たかも。夜、張間さんどっかに行ってたよね?」
軽井沢寄りのグループの篠原から美香に対して、疑いを含むような発言が出される。この発言が嘘だったのならば篠原の立場は危ういことになるが、美香は実際にこのような行動を取っていた。
「私のこと疑ってるんですか? うーん、何してたか言わなきゃいけませんか?」
追求を受けたにも関わらず、美香はこのことをそこまで大きくは捉えて無かった。それは自身のDクラスの立場を分かっているが故なのか、絶対にやっていないと確信している故なのかは分からない。
「何か訳があるんだったら、言ってくれると嬉しいな」
「どうなの、張間さん」
自身のグループ以外の女子からの疑いの目が強くなっていく中、美香はため息をつきながらその事について話すことにする。自身のグループに属する女子達は美香が何をしていたかを薄々分かっているので、苦笑いが出ていた。
「彼氏です。彼氏に会いに行ってました。無人島の夜はいつも彼氏に会いに行ってました」
女子全員が納得の声を上げていく内に、美香自身も彼氏のことを言いたくなったのか、恍惚の表情を抱きながら、捲し立てるように彼氏であるBクラスの神崎の魅力を伝え始めようとしたのだが、流石に時と場所を弁えていないと自身のグループである長谷部に判断され、止められた。
「う、うん。これで張間さんの潔癖が証明されたね。じゃあ、男子の結果でも待とうか」
櫛田は自身で話し始めた話を自身で終わらせる。話が終わったことで、また重く苦しい空気感になったのだが、そんな場所に今まで姿を見せていなかった堀北がやって来た。
「犯人が分かったわ、全員集めてちょうだい」
そんな、堀北からもたらされたいきなりの情報に女子全員が困惑し、驚きの顔を見せる。だが、そんな女子達の様子を置いて、堀北は男子達の方にも同じことを言いに行った。その時の堀北の足取りは非常に重そうで、見る人が見れば相当悪い状態であるのはことは瞬時に分かることだった。
「そ、それで誰が犯人なんだよ!」
「まぁ、待て。今から堀北が話すんじゃないのか?」
焦る池を綾小路が宥めながらも、Dクラスの生徒全員が固唾を飲みながら堀北の言葉を待つ。堀北はそんな全員からの期待と不安の声に応えるように、冷静に自分の体調を悟らせぬように話し始める。
「今回の事件はDクラスの生徒が起こすには不明な点か多すぎるわ。疲れ切ったこんな日を狙うことも、わざわざ大事になりやすい軽井沢さんを選ぶことも。……Dクラスの中に犯人なんて居ないわ。犯人は貴方ね、伊吹さん」
論理立てて詰めていこうと堀北はしたのだが、Dクラスの生徒からの犯人を早く聞きたいという視線を優先し、てっとり早く犯人の名を口にする。その名前に全員が伊吹の方を一斉に向いた。
「私が疑われるのも無理は無い。よそもんだからな」
自傷気味に笑う伊吹に堀北は容赦しないように鋭い視線で目を合わせていく。その瞳は覚悟の瞳であり、自身の唯一の友達である彼女の為に絶対に逃さないという覚悟からだった。
「伊吹さん。いい加減白状したらどうかしら? 貴方が龍園くんから送り込まれたスパイだということを」
唯一の友達であるCクラスの彼女からの情報、自身が得られた洞察力や推理力からの情報、それらを駆使して伊吹に認めさせようとする堀北。
「私がスパイ? 言ってるだろ? 龍園に追い出されてここに拾ってもらったって」
「それはどうかしら。今日の朝、私は龍園くんに会いに行っていたのよ。そこで取り引きをして、貴方がスパイである龍園くんは認めたわ」
正臣、綾小路を含め、Dクラスの全員がその事実に様々な表情を顔に出して行く。朝から姿が見えなかった堀北がそこまでのことをしていたことと、龍園と取り引きしたということに。
「……スパイだったとしても、私が下着を隠したとは限らないだろ」
伊吹は困惑し、迷う。一番最新で会った時の龍園はそのような素振りを一切見せていなかった。そこから分かることは堀北鈴音のハッタリなのか、龍園と本当に取引したということなのかのどちらということになる。
「いいえ。貴方にはDクラスが混乱するという明確なメリットがある。それに先ほども言ったけれど、Dクラスにはこの状況で人の下着を盗むような度胸がある男子はいないわ」
徐々に追い詰められているように見える伊吹は考えを巡らせるのに精一杯で、直ぐに言葉が出てこない。それを好機と見たのか、堀北は最後の一言を告げる。
「龍園くんから伝言を預かってる。目的は達成した。平和島も直に戻ってくるから、お前も戻ってこいだそうよ。一度戻った指示を仰いだ方がいいんじゃないかしら」
平和島の名前まで出されてしまえば、伊吹も信じない訳にもいかない。ここにいても、もうスパイの任務を出来ないと悟った伊吹は自分勝手な龍園の意見に舌打ちをしながら、Dクラスのキャンプから去って行った。
「……堀北ちゃん。マジで龍園と取り引きしたの?」
「だ、大丈夫な取り引きだったんだよね?」
伊吹が去ったことで、Dクラスの面々は疑問だった龍園との取引について堀北に寄ってたかって詰め寄る。もしかして、ポイントを多く支払う約束をしてしまったのでは無いかなど。
「……嘘よ。ブラフに決まってるじゃない。怪しさしかない龍園くんとなんて取引するわけが無いわ」
その堀北の淡々としつつ、しっかりとした態度にみな一様に安心するが、堀北はその瞬間、倒れてしまった。アリバイ作りに歩き回って、体に無理をしたことで風邪が悪化したらことが原因だった。高熱と多大なる倦怠感によって、堀北はリタイアを余儀なくされ、茶柱先生から強制的にリタイアを告げられた。
★ ★ ★
「龍園。何だよ取引って」
龍園が今、寝ぐらとしている場所までやってきた伊吹は開口一番に龍園に対して取引のことを詰め寄る。対して、龍園は寝耳に水な出来事に怪訝な顔を示すが、段々と分かってきたのか、獰猛な笑みを浮かべる。
「おい、それ、誰が言ってやがった?」
「堀北だけど」
「ククク、伊吹、てめぇは騙されたんだよ。俺はあいつと取引なんてしてねぇし、密会もしてねぇ。お前はスパイだと認めた上で何の収穫も無く帰ってきたんだよ」
告げられたその事実に伊吹の顔は怒りで真っ赤になる。上手く騙せてると思った堀北にここまで上手く操られていた事実に憤慨した伊吹は色んなことに対する怒りで手をぐっと握る。
「あの堀北とかいう奴、許さない」
「侮ってたぜ鈴音。可愛げだけじゃすまねぇなこれは」
伊吹とは反対に楽しそうにする龍園。自身が潜伏してることを伊吹によってDクラスに悟られてしまったことで、もう得れるポイントを無いと確信し、Aクラスだけでも同じように引きずり落とそうと考える。
その後、堀北がリタイアしたのと同じ頃、伊吹もリタイアしていた。
通信機を買わない代わりに原作よりも良いカメラを買っています
カップル同士などの描写の深さについて
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仄めかしもやめてほしい
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仄めかす程度ならば問題なし
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軽い描写なら良し
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多少深くてもok
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ギリギリまで攻めてよし
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どれでも気にしない