今回は間章みたいなものです
ベアーフォールさん誤字報告ありがとうございます!
狂気が混ざった時、誰もその末を予想出来ない
1年全員が豪華客船に乗っており、まだ帰って来ていない校内。その校内に1人、唯一の1年である坂柳有栖は生徒会室の隣の教室を開ける。
「こちら、折原さんがいる教室で合ってますか?」
不敵な笑みを崩すことなく坂柳は教室に入る。その手に持った杖やその佇まいから、女王様という言葉が似合う彼女はお目当ての人物がここにいると分かっているかのようで、中に誰がいるかも確認せずに教室内を進んで行く。
「人の部屋に入ってくるのに随分遠慮がないみたいだね。一年の間では君は女王様みたいだけど、ここに一年はいないよ? 君の目上の人間がいる場所に入るのにそういうのはお父さんに習わなかったのかい?」
人を食ったような笑みをしている坂柳のお目当ての人物の臨也は早速坂柳を煽る。その笑みも他の人間全てを下に見ているような態度もまるで道化師そのものを実体化したような人物。それが臨也だった。
「私は別に一年だけで慕われている訳ではありませんし、敬意を払う人物と払わなくていい人間は弁えているつもりですから」
その煽るような返しにも臨也は鼻にかけることはせずに目線だけで着席を促す。坂柳もそれを分かっているのか、特に何か気にすることもなく、用意された椅子へと座る。
「君の用は大体分かっているつもりだよ? でも、他の一年が居ないこのタイミングで来るなんて君も随分酷いことをするもんだね」
「試験に参加しない代わりの権利ですよ。今回の試験、あなたの私見が聞きたいと思いまして」
「疑問だね、君みたいに自分が一番賢いと思っているような傲慢な女王様タイプは俺にそんなことを聞くはずが無いんだよね。まぁ、どうだっていいけど、本当にそれだけの為に来たのかい?」
「本当にあなたの私見に興味があってきただけですよ。学校のルールから逸脱し、高みの見物を気取っているあなたの」
お互いに相手のことを探り、相手のことを見下し、煽りながらの会話。それは外の人間から見れば何処か気持ち悪さの漂う空間に見えるものだったが、本人たちからしてみればただ普通に会話しているのと変わりなかった。
「君の期待に答えてあげると、今回の試験の形だと君の配下の子が居る限り、葛城くんに勝ち目は無い。Bクラスは特に評することは無いかな。面白い子はいっぱいいるんだけど。Cクラスの王様は欲張っちゃったね。もっと人に敬意を払えばこうはならなかったのに。Dクラスは誰が行動したのかな」
時折笑みを溢しながらも折原は自身の考察を述べていく。その考察は無人島試験の結果を踏まえたものだったが、無人島試験の翌日に2年である彼が詳細に結果を知っているというのは流石情報屋といったところだろう。
「物知りですね。どこからその情報を得たかお聞きしても?」
「それは企業秘密だね。こっちもこれで商売をしているからさ。もしかしたら、君のクラスからかもね」
「では、質問を変えましょう。注目している1年を教えてくれませんか?」
坂柳はまたも良い笑顔をしながら、臨也に対して問いをかけてくる。そのするりとした質問の仕方は臨也から情報料を取らせないが為のしたたかな質問の仕方だった。そして、その質問には何か坂柳自身の人には見せない欲望が見え隠れしていた。
「君みたいな人間とはあまり対面したく無いんだけど、この狭い学校じゃあ仕方ないね。俺は君の質問に答えないことも出来る。でも、君の反応も気になるから、答えてあげることにするけど、俺から言えることはあまり多く無い。この学校に来てるのは誰も彼もが個性の塊。俺が楽しむ価値があるやつばかりどからね。ただあえて言うんだったら、俺は一年の入試の点数を知っているよ」
坂柳は入試の点数を知っている訳では無い。しかし、坂柳のお目当ての人物は実際に意味のわからない点数を取っている。そんな根拠の無い自信を確信するようにこれまでで一番の笑顔を見せる。
「そうですか……やはり……。ありがとうございました。また、来させてもらいますね」
聞くことは聞いたとばかりに坂柳は教室から出ていく。この問答に常人は意味を感じないことだろう。それはこの天才と狂人にとっても同じことで、二人にとってこの問答は言うなれば、暇つぶし。この言葉に限るだろう。
「ほんと、カマが当たってくれて良かったよ。ああいうタイプとは直接対面したくないよ、ほんと」
臨也は手にしている紙束の中から一つの紙束を撫でる。その紙束に貼り付けてある写真には綾小路清隆の顔が貼ってあった。
★ ★ ★
無人島試験が終わってかは一夜明けた豪華客船の中。その中にある蕎麦屋でDクラスのリーダーである正臣とBクラスのリーダーである一之瀬は二人でささやかながらも打ち上げのようなことをしていた。
「う〜ん! 美味しいね!」
「一之瀬の為の特別メニューだぜ? 俺の奢りだから、存分に食べて、くれ!」
「ここの料理は全部無料でしょ? 紀田くんが張り切ることは無いよー」
和気藹々と無人島試験の喜びを分かち合いながらも食事をしていく二人。そんな誰も間に入れないようなほっこりした雰囲気の中、店の扉が開き、二人のいるテーブル席に男がどっと座った。
「優雅に食事なんて余裕だな。俺も混ぜてくれよ」
その男、龍園はこのテーブルの雰囲気を分かっていなかったのか、分かった上でやっているのか、二人の雰囲気を容赦なくぶち壊す。
「そんなお前は余裕が無さげに見えるぞ? 俺たちの仲間には入らないのか?」
正臣の美少女との二人の時間を邪魔されたことからくる怒りの煽りようなものも龍園は鼻で笑い飛ばし、真正面に受け取るようなことはしなかった。
「ハッ、てめぇらの仲良しこよしの同盟なんかとは一緒にやってられねぇな」
「でも、今のポイントはAクラスが1074ポイント、Bクラスが903ポイント、Cクラスが492ポイント、Dクラスが312ポイント。その仲良し同盟の結果はすごく出てると思うんだけど」
一之瀬の言う通り、先の無人島試験はBクラスとDクラスの圧勝とも言える結果となり、実際のポイント数も今回のようなポイント差が出れば、逆転されるほどのものだった。だが、そんなことも関係ないとばかりに龍園はニヤリと笑う。
「まぁ、いつかはてめぇらと組むこともあるだろうな。せいぜい、首の根をかかれないようにしとくんだな」
まるでこれから起こる試験の内容を察しているような素振りを見せながら龍園は立ち去って行く。その背中は無人島試験で最下位を取ったとは思えないほど頼もしいものだった。
「何しに来たんだよあいつ」
「分からないけど、龍園くんには油断しない方が良いと思う。次も何かしてきそうだから」
「だよなー。何してくるか分からないのが怖いんだよな」
Bクラス、Dクラスのリーダーとして龍園へ最大限の警戒をする二人。それは実績などでは無く、龍園の持つあの絶対的な雰囲気と力が二人をそう見せていた。
★ ★ ★
担任たちが主にいる階層。そこには生徒などほとんど立ち寄ることは無く、教師たちも帰ってくる場所としてここを認識しているので、日中はあまりいないこの場所。そんなひと気の無い場所で他クラス同士の人間が会っていた。
「他に場所は無かったのかな?」
「人に見つからないところって他に思いつかなくて」
乾いた笑みを浮かべている少年、帝人。それに対してこのような開けた場所で会議することになったことに対しての不満を得意の笑顔で隠す櫛田。二人の関係を知らないものからすれば、意外な組み合わせだが、この二人からすれば、お互いにいることはもう慣れていた。
「二人に会いに行ったのは上手く行ったんだっけ?」
「上手くいったよ! 指示を出している人がいるとも言っといたから」
二人には普段人に見せている顔とは本質が異なっているという共通点があった。櫛田は意図してそうしているのだが、帝人は全く自覚無く、櫛田という様々な人物と接してきた人間だからこそ分かるような帝人の本質の違い。人と接してこなかった天才には分からないような帝人の本質だった。
「流石櫛田さん。僕の方も上手くいってるよ」
「サイトだよね? 今はどのくらいの人が入ってるの?」
「大体150人いかないくらいかな。一年生は40人も居ない」
帝人が自身のポイントと一之瀬達から借りたポイントで学校から買ったサイトの運営権。非常に高い買い物で、帝人はここ数ヶ月の間は櫛田からポイントを貰わなければ、暮らしていけないほどだった。そのサイトは昔、帝人が作ったサイトを元にしたもので、非常に快適なものとなっている。
「調子いいね。特別試験に活かしたりは出来そうじゃない?」
「出来るとは思う。でも、上級生が関わると引っかかりそうだから……分けた方が良いかも」
櫛田との会話中にも関わらず、何か考え事があるのか、片手に返事をするようになっていく帝人。その態度に少し苛立ちを覚える櫛田だったが、何度もこの光景を見ているのか、早々に諦めてメッセージを返し始める。
「……あ、ごめん! ちょっと考え過ぎてて」
「いつもその言い訳してない? 別にいいけど」
「あーそういえば! 次の特別試験どうしようか!?」
人の感情を察することが苦手な帝人であっても口調を変えた櫛田の心情は察することが出来たようで、誰にでも分かってしまう棒読みで弁解を図る。帝人のことをある程度理解し、わざとドスの聞いた声を出した櫛田は帝人のその滑稽さに心からの笑顔を溢す。
「それを話しに来たんだっただよね? どうしよっか」
「船に乗る期間はあと一週間ぐらい。その間に船で出来ることは限られてくると思うから、予想出来る試験規模ならこれを使える良いチャンスだと思う」
帝人は手に持った携帯の中に見えるサイトを櫛田に見せる。落ち着いた雰囲気を出す帝人とは対象的に櫛田はこのサイトの将来性を確信し、やる気を見せていく。
「それなら嬉しいね! 本来の目的じゃないけど」
「無人島は何も出来なかったから、次の特別試験は役立ちたいなぁ」
表に出たいのか出たく無いのか分からない帝人の態度に櫛田はこれまでの帝人との日々を振り返りながらも、未だに帝人の口からはっきりと何故こんなことをしているのかという答えを聞いていないことを思い出す。
「竜ヶ峰くん」
「どうしたの櫛田さん」
「……ううん、やっぱりいい」
その答えを聞こうとした櫛田だったが、本能的に避けるようにして聞くことを止める。自分と帝人の関係はそこまで踏み込むべきでは無い、今みたいなビジネスライクな関係で良いのだと自分に言い聞かせるようにして。
次回から干支試験へと入ります。
高円寺の出番が欠片も無いことに今更気づきました。作っていこうと思います。
カップル同士などの描写の深さについて
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仄めかしもやめてほしい
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仄めかす程度ならば問題なし
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軽い描写なら良し
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多少深くてもok
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ギリギリまで攻めてよし
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どれでも気にしない