ようこそ非日常の溢れる教室へ   作:地支 辰巳

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 今更ですが、裏では綾小路による軽井沢の引き込みがつつがなく進行しています。


大義名分さえあれば人はブレーキを失う

 

 四回目の話し合い。辰グループでは全員が緊張の表情を隠せないまま始まりを告げた。二回目の話し合いで堀北からの疑いがあった話題は三回目の話し合いではまだ平行線を続けており、今回もその話題になることは必至だった。

 

「じゃあ、今回も前回の続きで、犯人探しを始めましょうか」

 

「おいおい、くだらねぇ。もう、そんなこと辞めにしようぜ」

 

 さっそく犯人探しを始めようとする堀北に対して開口一番つかかっていく龍園。前回までは割と乗り気だったが、今回に関して言えば彼は反対派に回っていく。

 

「どうして? 貴方のクラスの優待者も当てられているのだけど。まさか、全て貴方がやったの?」

 

「違うな。俺が今回の黒幕を知っているからだ」

 

 龍園のその言葉はこの部屋の中にいるほとんどの人間の驚きを誘った。見つかったという事実に安堵する者、驚く者。龍園ということで疑う者、知っていたかのような顔をする者。そして、反応を示さない者。反応は様々だった。

 

「……聞かせてもらいましょうか」

 

「教えてやるよ。いつまで黙っているつもりだ三好」

 

 龍園によって名指しされた吉宗にこの部屋全員の視線が集まる。しかし、全員からの視線を受けてもなお、吉宗は焦るようなことも動揺するようなこともせず、ただただ落ち着き払っていた。

 

「龍園。僕が犯人だって言うのは勝手だけど、証拠とかはあるの?」

 

「だってよ、龍園。あるんだろ、証拠?」

 

 受けてたつと言わんばかりに龍園に対して反論する吉宗。それに追従するように正臣もどちらの味方か分からない意見を入れつつ、議論を進めていく。

 

「今回のことは全ててめぇの自作自演だってわけだ。あの掲示板の管理人がてめぇかどうかは分からねぇが、グルなのは間違いねぇ」

 

「初めに狙われたのはAクラスの優待者だった。わざわざ自分のクラスの優待者を狙うような真似をするのか?」

 

 龍園から明かされていく事実に何かしらの嫌な予感を感じ取った葛城は吉宗を庇うように龍園に対して疑問を投げかけていく。その反論も来ることが分かっていたように鼻で笑って答える。

 

「優待者は坂柳派の人間だ。その後に明かされたのも中立派は一人もいねぇ。こいつはAクラスにこの騒動の黒幕が居ないと思わせる為にクラスの優待者情報を掲示板に書き込み、優待者がバレた責任を他の派閥に負わせる為に他の派閥の奴の名前だけ書き込んだ。無駄に手を込めやがって」

 

「龍園。お前が言っているのはただの情況証拠からの推論に過ぎない。僕がやった確証は一つも無い」

 

 三好が言ったのは至極真っ当な意見だった。龍園の言った推理は三好を黒幕と置いた上で考えられた推理に過ぎず、三好が黒幕だという根拠にはなっていなかった。

 

「そういうことだ龍園。お前の意見は信用出来ない。三好の方がまだ信用出来る。お前が黒幕の可能性もあるんじゃないか?」

 

 三好の意見に味方するように神崎が龍園を攻め立てる。神崎は言う意見は龍園の普段の行いも含めて妥当性があり、部屋の中の空気も龍園へ疑うようになっていた。

 

「てめぇはやっぱりこいつに味方するんだな。何か理由でもあるのか?」

 

「そんなものは無い。ただ、お前よりは三好が信用出来ると思っただけだ」

 

「それなら、こいつの説明をしてもらおうか」

 

 龍園のスマホに映された動画は三好の部屋に神崎と美香が入っていく様子。撮られた時間は二つグループが終了する十分ほど前。これまでの龍園の発言を合わせると、一気に吉宗と神崎の立場が悪くなる。

 

「午グループと亥グループの優待者はDクラスとBクラスだった。説明してくれるんだよな神崎?」

 

「紀田くん。貴方まさか!?」

 

「ああ、俺は。いや、俺と一之瀬は龍園と手を組んで今回の黒幕を突き止めた。クラスの優待者を知ってる奴なんて限られるからな」

 

 正臣が龍園側として会話に参加していき、今回のことに関する真実の状況が聞いているだけだった人たちにも段々と分かってくる。しかし、吉宗と神崎が何故こんなことをしたのかという動機の部分がはっきりしてこなかった。

 

「優待者を当てた奴を探すぐらい簡単なんだぜ? とっとと吐いた方がいいんじゃねぇか?」

 

「流れが圧倒的に悪いね。リーダー格が集まってばかりいるこのグループでここまで言われたらもう何も言えないね。そうだよ、今回のことは僕が黒幕だ」

 

 ついに自白を始める吉宗。龍園も正臣もまだまだ追求出来る手札があったが、ここまであっさりと語り始めたことに奇妙な感覚を覚える。

 

「……一之瀬も知っているんだな。紀田。今回のことはすまなかった。他の人間を出し抜く為にはここまでやらなきゃいけないと、功を急いでしまった。俺の責任だ」

 

「神崎くんを巻き込んだのは僕に責任がある。本来なら少しずつ優待者を当てて、こっちで報酬を分け合う手筈だった。全クラスが同じくらいのクラスポイントの増減にしてね。これが一番堅実で確実な方法だから。でも、こんなに早くバレるなんてね」

 

 神崎は本気で悔やむように頭を抱え込み、首を下げる。吉宗も同じように今回のことを懺悔するように語り始めたが、その手はスマホに伸びていた。

 

「おい、こいつを押さえろ!!」

 

 龍園の叫びも虚しく、吉宗によって画面がタップされる。それと同時に、今や情報収集の為に一年生全員が加入した掲示板にメッセージが一件送られる。それはこの船にいる人間全てが確認したと同義だった。

 

『干支試験の優待者が全て判明した。このメッセージを見た中で知りたい人は個人的にメッセージを送って下さい。得られるプライベートポイントの8割そちらにお渡しします。ご連絡お待ちしてます』

 

「これで何人かは僕に連絡くれると思います。龍園、抑え切れるのかなみんなの欲望を」

 

「ハッ、面白いことやってくれるじゃねぇか。てめぇにしちゃあな」

 

 吉宗によって掲示板に貼られたメッセージ。それは一年生全員にとって悪魔の囁きとなることと同時に、未だに具体的な指示や音沙汰も無いクラスのリーダーよりも黒幕が勝ったと勝利宣告をしたようなものだった。

 

「丁度チャイムが鳴ったね。ここから何グループが無くなるかな」

 

 自身のほとんどの目的を達成した吉宗。いつもはしない嬉しそうな笑みを浮かべながら、部屋から一番に出ていく。その後の辰グループは暗い雰囲気が少し蔓延っていた。

 

 

★ ★ ★

 

 

 四回目の話し合いが全グループで終わった後、神崎と美香は正臣と一之瀬と共に自分たちの部屋で話し合っていた。そこで神崎と美香は背信行為とも言える今回の試験での行動に対する理由を求めらていた。

 

「どうしてこんな事をしたの神崎くん。やっぱり私が頼りないからかな」

 

「……そんなことは無い。ただ俺が無駄に空振っただけだ」

 

 神崎の表情はまるで絶望の淵にいるかのようだった。一之瀬のことを裏切るような行動を取り、ただただ自クラスに混乱を起こしただけ。そんな事実を再認識し、神崎は一之瀬の顔をまともに見れなかった。

 

「今回のことは私のせいでもある。頼りないリーダーの私の。だから、神崎くんにはこれからもBクラスのことを支えて欲しいの」

 

「いや……俺にはもうそんなことが出来る資格なんて無い。柴田や浜口……竜ヶ峰の方がよっぽど適任だ」

 

 神崎の声は誰よりも弱々しかった。一之瀬の右腕として手腕を振るっていたいつもの神崎は見る影も無いように。その光景を見る正臣はあまりにも痛々しい光景だったからか、それとも、既視感のある光景だったからか、目を伏せていた。

 

「みんなにももちろん助けて欲しい。そこに神崎くんも居てほしいの。Bクラスの為にここまでしてくれる神崎くんが」

 

 まるで女神のような慈しみ。それは目を真っ赤にしていた神崎にはよく刺さり、神崎は初めて会った時にしたであろう握手のようにまた一之瀬の手を取った。そこに自分と神崎を重ね合わせたのか、正臣は直視することが出来ず、美香を呼び出しながら廊下へ出る。

 

「俺は全女性の味方だ。でも、許すことは出来ないことだってある」

 

 正臣は何かしらの確信があるかのように美香に対して睨みを効かせる。対する美香は感情が失ったかのように真顔で正臣の睨みに応じる。

 

「何の話ですか? 今の私はあまり機嫌が良くないんですが」

 

「神崎は独断でこんな危険なことは決めない。でも、張間が居たなら違うだろ?」

 

「今の私はストレスで吐き出したいことばかりです。だから、特別に色々言いますよ」

 

 美香はやけになっている訳では無かったが、冷静でも無かった。今回の結果が自分の目指した結果と違い、今のこの状況も不満があるようなものだったから。

 

「実は龍園くん達による尾行には気づいていました。あまりにも杜撰だったんで。でも、バレて欲しかったのでそれで良かったんです」

 

「じゃあ、何でこんなことをしたんだ?」

 

「三好くんの目的とかはどうでも良かったんです。隆二くんにクラスの中心に立って欲しく無かっただけ。だから、一之瀬さんとの仲を悪くなってもらう為に今回のことしました」

 

「だけど、一之瀬はそんなことはしなかった」

 

「そうなんです。あのまま隆二くんをクラスの中心から外してくれれば良かったのに。あの人優し過ぎますよね」

 

 美香は残念そうな苦笑しながら、遠くを見つめる。今回のことはいくら神崎にこれから先、危険なことをしてもらわず、普通に過ごしてもらおうと思ってもやり過ぎなことなんだと少し反省していた。

 

「これから先は神崎の為にやることでも俺に相談してくれ。クラスのみんなを裏切って思ったならさ」

 

「……良いですよ。隆二くんに余程のことが迫らなければ」

 

「分かったよ」

 

 会話は終わったとばかりにまた正臣と美香は部屋に中に入る。美香は自分の知っている全てのことを神崎にも正臣にも話していない。彼女が独自に入手した情報。それは知られていると知っている人間は誰も居ないし、美香も誰かに話すつもりは無い。この情報は神崎の為だけに使うと誓って。

 

「誰にも隆二くんが生きるのを邪魔させません。私が隆二くんを。私だけが」

 

 正臣の説得を受けても尚、美香の考え方が変わることは無かった。彼女がクラスの人間を優先して、神崎の障害を増やすことなんてありえない。彼女が愛した者に尽くす以上の大事なことなんてものは無かった。





 これで神崎は一旦補佐から退きます。張間は特に変わりませんが。

カップル同士などの描写の深さについて

  • 仄めかしもやめてほしい
  • 仄めかす程度ならば問題なし
  • 軽い描写なら良し
  • 多少深くてもok
  • ギリギリまで攻めてよし
  • どれでも気にしない
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