試験が早く終わったことで、下船までの時間は自由時間となっている今年度の豪華客船。その自由時間を各々が楽しく使っていっている中、何故か普段は多くの友達に囲まれ、忙しくしているはずの櫛田が人通りが少ないウッドデッキのソファーのようなものに座っていた。
「あ、やっと来てくれた!! 待ってたんだよ三好くん」
一人で櫛田の前に立つ吉宗。その彼の4月辺りに会った時とは全く違うような顔つきに櫛田は何か感じるようなものがあったのか、笑みを深くしていきながら、隣に座るように手を招く。
「あんまり三好くんと会っているのが見られると不味いからさ、早く済ませよ!」
「分かってる。元々の契約通りの金額でいいだろ?」
お互いに既にある程度の打ち合わせは済んでいるのか、素早く携帯を取り出し、ポイントが吉宗から櫛田へと移動していく。その額およそ50万。この試験そのもので得られるポイントからすれば微量なものだったが、それでも大金なことには変わりない金額だった。
「やっぱり改めて見るとすごい金額だね。三好くんが計画通りやってくれたからだよ」
「いや、全部計画通りにはいかなかった。あそこで龍園くんと紀田くんが仕掛けてくるとは思わなかったし、龍園くんがBクラスとDクラスを落としてまでもポイントを取りに来ると思わなかった」
吉宗が描いていたのは誰かしらが自力で吉宗が黒幕だと勘ぐり接触して、あちら側に多少の恩恵を与えつつも、最終的にAクラスが他クラスに少し勝利する程度だった。しかし、現実はAクラスが得れた恩恵は一部で他クラスに分配されるはずの恩恵は全て龍園に吸われて、明らかな勝ちをAクラスを得れなかった。
「これでも充分だよ〜。あの掲示板とかを管理する為にいっぱいポイント使ったからね」
「そろそろ教えてはくれないのか? 櫛田が誰の指示を受けて動いているのか」
櫛田は吉宗の前で自分の本性とも言える裏の顔を見せるようなことはせずにこれ以上は踏み込むのは辞めておけということを示すように乾いた笑みを顔に貼り付ける。
「私がもし坂柳さんから指示を受けているって言ったら、三好くんは取引を持ちかけなかったよね? だから、私から正体は言えないよ」
「一応、僕としても櫛田さんが無人島から神室さんに接触してた事からその線は無いことを確認してこの取引を持ちかけたんだ。Aクラスに君の上司は居ない」
「そんなに詰められても答えられないかな。私も口止め……されてて」
実際問題として櫛田は全く持って口止めされていない。しかし、吉宗からの追及から逃げる為に同情を煽る。そして、その効果があったかは分からないが、吉宗はベンチから立ち上がりそのまま重い一歩一歩を踏み出し歩いて行く。
「僕は櫛田さんのことは言わないから、心配しないで」
「……三好くんももう悪魔と取引しちゃったんだよ? 一人だけ逃げれる訳ないよ」
櫛田の言葉が聞こえていても、いなくても、吉宗は自分が何をしたか分かっていた。勝つ為に自分は自分のクラスの力を信じることはせずに悪魔と取引したということを。そのことをしっかりと胸に刻んでいた。
★ ★ ★
Dクラスが会議していたのと同時期頃、Bクラスも同じように会議という名の話し合いを進めていた。しかし、Dクラスの会議がどちらかと言えば、中心人物のみで行なわれたものだったものに比べてBクラスの会議は40人全員で行われていた。
「えっとね、これからどうするかって話し合いを始めよっか」
「これは俺の責任が大きい。存分に俺のことを罵りながらこれからのことを話し合ってくれ」
「そんなこと出来ないよ。いくら、あんなことがあったからって」
心の底から不安が無いように進め始める一之瀬に対して、今回で実質的に補佐という役目を降りかけている神崎は自虐しながらネガティブな言葉を使いながら進行を任せていた。ただ、網倉を筆頭したBクラスメイト達はその稀なる善性により、今回の神崎のことはあまり大きな問題としては扱っていなかった。
「これからのことって実際どうすんの?」
「そうだよな。全然分からないよなー」
柴田、渡辺などの男子はこの結果に不満が無いのか、そこまで問題視は無いと楽観視しているようだったが、流石にそこはBクラスのリーダー一之瀬。その考えを止めるように声をあげる。
「うん、もちろん今回の結果は嬉しいことの方が多かったよ? でも、私たちだけの力じゃないんだ。Dクラスのみんなにも協力してくれたからこそ掴めたポイントでもあるんだ。これから、Dクラスと味方じゃない試験でも私たちの力で勝てるように色々考えておきたいんだよね」
Aクラス中で揉まれていく内にあのような手を使った吉宗や一之瀬や正臣を実質的に裏切った龍園の何としてでも勝ちを取りに行く姿勢を見ていると、一之瀬はうかうかしていられない危機感のようなものを肌で感じ取っていた。
「そうですね。一之瀬さんの言うことはもっともです。Bクラスだけでも勝てる方法を模索することは大事だと思います」
Bクラスの中でも比較的落ち着いている部類の浜口の意見が続けて出てきて、Bクラスは全員考え込むようにそのDクラスが居なくてもAクラスやCクラスに渡り合う方法というものを考えていく。しかし、良い結果が思いつかなく、誰もがその事を口に出来ず、この空間が静かになっていく。
「……難しい」
「……聞かせてくれないか竜ヶ峰」
小さいながらも静寂と言っても過言では無い空間では響いた竜ヶ峰の言葉。その言葉に何かしらの希望などを見出した神崎は黙っているつもりだったが、竜ヶ峰に答えを聞く。
「僕たちの長所はやっぱりこのチームワークだと思うんだ。それはAクラスやCクラス、Dクラスにも負けてないと思う。でも、その力は他のクラスの爆発力には絶対に敵わないと思う」
誰もが言えなかったような意見をはっきりと言い切る帝人。その意見をBクラスの中でも目立たない普通の人だった帝人が出したと言うことに誰もが驚きを隠せない中、一之瀬はうんうんと頷きながらその意見を受け止める。
「そうだね。まさしく、竜ヶ峰くんの言う通り。私たちの安定的な強さは他クラスにも負けてないと思う。でも、やっぱりそう、搦め手なんかには勝つことは難しい。だから、これを機にみんなで考えながらやっていきたいんだ」
一之瀬は帝人の意見を加えながらも、リーダー的で皆に聞いてもらえるように話していく。その言葉はこれまでは一之瀬や神崎だけで考えることが多かったクラスの戦術などをクラスみんなで考えようというものだった。今までとそこまで違うのものだとは一見分からないものだが、クラス全員で考えれば龍園や坂柳に対抗出来る方法も思いつくだろうというものだった。情報漏洩の可能性はあれど、これがBクラスの底力を一番を発揮できるものだった。
「もちろん、神崎くんもね?」
「一之瀬。お前はまだ……俺のことを」
「みんなも神崎くんにはまだまだ引っ張って欲しいもんね」
「そうだぜ、神崎! お前がこのクラスには必要なんだって」
一之瀬に続くようにBクラスの中から神崎に対するこれまで通りの活躍を期待する声が上がっていく。そんな中で神崎も数日前から晴れていなかった顔が少しずつ晴れていく。
「……前までのようにはいかないと思うが、よろしく頼む」
この失敗をも包んでいくBクラスの雰囲気。それは美しくこの現代社会においては稀に見る素晴らしいものだが、実力主義の学校にはあまりにも向いていなかった。
★ ★ ★
下船が完了して、ようやく一年生全員に安心安全の夏休みが訪れた。試験の結果がどうにせよ、せっかく休みに楽しまないのは損というように開放的なテンションで一年生のほとんどは自由を謳歌していた。そんな中、いつもは他多数に合わせているはずの櫛田の姿は今日、男の子の部屋にあった。
「これ、誰が言ってるかも分かるの?」
「うん、見ようと思えば見れるよ。でも、僕はしたくないと思ってる。ここはそんな風に使う場所じゃないから」
自分で作り、この学校で生き残る為に作ったこの掲示板を荒らすことは許さない。そんな静かな信念を覗かせながらも、帝人はそのサイトの調整に今の時間を使っていた。
「もし、竜ヶ峰くんがその使い方をするとしたら、どんな時なの?」
興味本意もしくは、何かしらの魂胆があるのか、櫛田は竜ヶ峰の内側に触れることを承知で、この掲示板の匿名性という部分を探っていく。
「……そんな事考えてないよ。みんながクラスの分け隔たりなく得られる居場所が欲しいから」
竜ヶ峰は高く高く目標を持つ。それがある意味で本心だと言うことは櫛田の経験からして察することが出来たが、それはそれとして、この目標を掲げるにしては噛み合っていないことがあることに櫛田は気づく。
「でも、それじゃあ今回みたいな試験に利用するのは信念に反しない? 今回は私も協力しちゃったけど」
「それはこの学校の特色だから、僕は受け入れたい。でも、過度に利用とかはされたくない」
竜ヶ峰の自分なりの自分のためだけの意見。それを聞けて満足したのか、櫛田は笑顔のまま頷く。そして、竜ヶ峰は自分の意見が独善的かつ矛盾を孕んでいることなど気づいていない。この学校で新しい手段が増えるということはそれを利用しようとするものが現れないことなどあり得ないのだと。
「じゃあ、これからは一旦様子見ってことで良いのかな?」
「うん。今回は三好くんに協力してもらってここに人を増やしたけれど、もうこれ以上は流れに任せたいんだ。僕はただこの学校を楽しみたいだけだから」
探りあい探りあいをしつつ、この二人の関係は前に進んで行く。竜ヶ峰と櫛田は自分の欲求を求めているだけかもしれない。だが、この掲示板の登場によって特別試験により苛烈さと陰謀を加速させていくことを二人は分かっていなかった。
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「そろそろ……体育祭の季節か。静ちゃんも暴れるだろうし、俺も動こうかな」
男は立ち上がり、不敵に笑う。誰に手綱を握らせず、自分で他全ての手綱を握ろうとする男が動きだす。彼が動きだす理由は一つしか無い。そう、ただ人間を愛しているからに他ならない。
神崎は補佐を降りますし、BクラスとDクラスの同盟に変わりはありません。全員の意識の問題です。
こんな感じの終わり方ですが、4.5巻を挟みます。
新年になったので活動報告を書きました。暇だったら読んでください。
カップル同士などの描写の深さについて
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仄めかしもやめてほしい
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仄めかす程度ならば問題なし
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軽い描写なら良し
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多少深くてもok
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ギリギリまで攻めてよし
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どれでも気にしない