初心に還って違う視点から見ると新しい発見がある
夏休みの太陽が頂点に立ち、暑さが増しているある日。吉宗は自身の部屋で山村に膝枕されながら、ぐっすりと眠っていた。暑さはクーラーでなくなりつつも、その心地よい温度感を頭に感じながらぐっすりと。そんな吉宗の頭を小さく撫でながら、山村は吉宗と初めて会った日のことを思い出していた。
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5月に入り、Aクラスの中で葛城派と坂柳派に別れそうになった時、その持ち前のコミュ力を発揮し、Aクラスの中で存在感を出していた吉宗は僕はどちらにも加わらないと宣言した。それを聞いて、そんな選択肢があるんだと思った人は割と多く、山村もその内の一人だった。
「他クラスに勝つことも大事だけど、幸いにも僕たちはAクラスだ。これから、仲良くしながら適度に勝っていこうよ」
誰にもプレッシャーをかけず、縛ることもない吉宗の態度に山村は密かな憧れというものを持っていた。しかし、彼女はAクラスの中でも断トツに影が薄く、存在感が無いに等しかった。それに比べて吉宗は坂柳や葛城と変わらない存在感を出している。山村はその憧れを心の奥底に沈めていた。変な気を起こさないように。
「はぁー会合……疲れるなぁー」
葛城派と坂柳派。どちらの会合にも出席し、お互いの手を取り合うように努力している吉宗。その働きは中立派という名ばかりの派閥の中では充分に役目を果たしていた。そんな会合終わりの吉宗をたまたま見つけた山村は彼を尾けていた。あんなにも聖人な訳が無いと確かめる為に。
「……三好くん」
吉宗の足取りはしっかりとしたものとは言いづらく、少しクラクラしているのかあまり定まっていなかった。その内に彼はベンチに座り込み、半目となり、眠そうにする。
「そこにいるんでしょ。気づいてるよ。山村さんなんでしょ? 少しだけ話そうよ」
バレていると言われた山村は直ぐにその場を離れようとするも、あの吉宗に声をかけられ、話すことを求められた。このまま生活していてもそんな機会は訪れることの無かった吉宗と話す機会。山村は勇気を出した。
「なんで……気づいたの?」
「僕は山村さんが気になっていたんだ。クラスであまり馴染めていなくて、どちらの派閥にも所属していない……そんな君が。いつか話したいなーって思ってたから、尾けてくれてよかった」
そんなにも吉宗に把握されていた事実に山村は何の言葉も出せなくなり、正面に出てきたはいいものの何を話すか考えていなかった。
「僕は派閥ばかりのこのクラスはいつの日か、内部分裂で崩壊しちゃうと思ってるんだ。それだけは防ぎたい。せっかく、Aクラスになって余裕のある状態で始まったのにそんなことで落ちちゃったら笑えないからね」
「そ、そうだね。私もそう思うかも」
「だから、僕はそれを防ぐ為に頑張りたいんだ。みんなが仲良く出来るために」
吉宗の決意は固かった。平和的に穏やかにこのクラスを良いクラスにしていこうとただただ純粋にそう思っていた。その目を見た山村は吉宗の夢を応援していきたいという思いが強くなっていった。
「それで、いきなりなんだけど、その目的の為に力を貸してくれないかな? 山村さんの力が必要なんだ」
眠たそうな目をピキッと開き、吉宗は立ち上がって山村の肩を優しく持って頼み込む。吉宗が山村を選んだことはその類稀なる影の薄さを買ったというところもあるのだが、それよりも、純粋にその人間性を信じたからに他ならなかった。
「わ、私なんかには無理です。三好くんの役には立てません」
そんな吉宗の誘いにも山村は自己肯定感の低さから吉宗を振り切って逃げて行く。そんな逃げた山村を吉宗は諦めることなく追って行った。これが二人のファーストコンタクト。この出来事があってから、二人は段々と距離が縮まっていく。
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「うん? おはよう山村さん。膝貸してもらっていたんだね。ごめん」
「大丈夫。三好くんは最近ずっと疲れていたから」
出会ったばかりのことを思い出していた山村の顔をいつの間にか目を覚ましていた吉宗は下から見ていた。そして、時間が少し経ったところで、山村に声をかける。
「これからのことを詰めようか。次の特別試験とかの話とか、葛城くんと坂柳さんとの指揮の話とか」
「うん、分かった」
それからの時間2人は次の特別試験の内容予測だったり、体育祭や文化祭の可能性に対して触れていき、その時のAクラスの指揮系統も考えていく。そんな話している時の吉宗の目は初めの頃にあった平和で温和な方法でクラスを良くしていきたいと語っていた純粋そのものだったものとは少し違っていた。
★ ★ ★
ある晴れた夏の日。この日も一人の少女がランニングをしていた。それに着いていくようにも見える距離で走っているもう一人の少女。二人の距離はあまり離れていなく、わざとその距離を離しているようだった。
「流石、早いわね。こんな炎天下でもそのパフォーマンスは素直に感心するわ」
「ありがとうございます。身体能力だけには自信があるから」
一通りランニングを終わらせた二人はいつものようにベンチに座り、買ってきた水をぐいっと飲む。二人の間にあまり会話はないものの、この二人にとって会話の沈黙は苦にはなっていなかった。
「そういえば、ケヤキモールにジムがあるらしいです。会員制の。一緒にいきません?」
「……悪くないわね。いいわ、行きましょう」
二人ともが人としゃべることを得意としておらず、ぎこちないキャッチボールばかりが続いていたが、ルリの提案により、また二人は動き出す。今度も着かず離れずの距離感で。そんな二人の出会いは随分前に遡る。
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5月の上旬のある日の早朝。堀北鈴音は昔から続けていたランニングを今日もしていた。しかし、今日のランニングのスピードは明らかに堀北本人の体力を越していた。
「はぁはぁ、私は……私は……もっと、もっと出来るはず」
いつものランニングコースをいつもの2倍近くのスピードで走り終えた堀北は疲れ切り、譫言を呟きながら、ベンチに座る。彼女はここ数日、自分が不良品などDクラスに配属されたべくして配属されたなどと言われ、精神的に大きくダメージを負っていた。そんな鬱憤を晴らすように彼女は過度なランニングをしていた。
「大丈夫ですか。これ、お水です」
見るからに不機嫌な堀北に臆することなく、初対面のルリは買ったばかりの水を渡す。急な親切に堀北は戸惑うも、いつもの態度を崩さないように応対する。
「なんなの貴方? 私に対して用でもあるのかしら?」
「? 何か疲れているみたいだったので、お水をと」
堀北の冷たい返答にもルリはあまり感じるものは無く、引き続き水を受け取ってくれるように差し出す。そんなルリに堀北も諦めがついたのか、ため息をつきながらも水を受け取り、グッと飲んだ。
「ありがとう。それで、貴方は誰かしら? 見たことない気がするのだけど」
「1年Cクラスの聖辺ルリです」
自己紹介されたことで堀北は改めて聖辺ルリと名乗った相手をじっくりと見る。アイドルにいても遜色ない顔と華奢な体つきの上から着ているジャージ。その姿を認識したことで堀北は彼女もランニング中だと察する。
「そう、Cクラスなのね。私はDクラスの人間よ。あまり仲良くは出来ないでしょうね」
「Cクラスの中に友だちは居ません。何処か遠ざけられている気がして」
Cクラスだと聞いて、クラス分けにまだ不貞腐れている堀北は嫌味で返したが、ルリはその嫌味に気づいていないのか、自身の状況を語る。ルリは浮世離れした心身をしており、所謂、高嶺の花という理由で誰も近寄らないのが実情だった。その事情を語られないまでも理由を察した堀北は彼女をベンチの隣へと促す。
「私は未だにクラス分けに納得いっていないわ。いや、否定されたくないのだと思うわ。自分が今までの人生で兄に近づいていると思って努力してきた結果が無駄なみたいで。それを認めるのが……嫌なのよ」
何処かで今の自分の思いを吐き出したかった堀北はただ頷くだけのルリにぽつりぽつりと自分の今の気持ちを吐き出していく。別にアドバイスなどが欲しかったわけじゃない。ただ、ずっと誰かに認めて欲しかった。自分という存在を。
「私は堀北の目標に向かって努力するの凄いと思います。私にはそんな事出来なくて、自分のこともまだよく分かっていない。自分のやりたいことが分かっているだけで私は羨ましいな」
「そう……正直な意見をありがとう……堀北鈴音よ」
「よろしく、堀北さん」
ルリとの会話に堀北は苦痛を感じていなかった。それは自分のことを認めてくれたからだけかもしれない。しかし、それでも彼女はこれまで会ってきた人たちと彼女は違うのだと直感していた。これがこれから友だちとなっていく二人の初めての出会いだった。
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「中々良かったわね。入会しようと思うのだけど、聖辺さんはどうするの?」
「もちろん。友だちと会う時間が少なくなるのは嫌だから」
「そ、そう。ありがとう」
ジムの体験入会を終え、入会の手続きを始める二人。堀北の懐事情からすれば、割と痛い出費だったが、彼女はルリも入りたいだろうなと思いながら入会の話をしていた。ルリも堀北が自分が了承しないと入る決断しないだろうことは分かりながら、了承していた。それは数ヶ月を過ごし、二人がお互いのことが分かるようになってきたという証明に他ならなかった。
★ ★ ★
「そう、君にはそうして欲しいんだ。──と──は特に面白い行動をしてくれるだろうからさ、どんどん接触していって、掻き乱してほしい。ああ、勘違いしてほしくないんだけど、積極的に何かしろって訳じゃ無い。それは時期がきたらやってもらうからさ」
捲し立てるように目の前に座る人物に指示を出す臨也がいるのはいつも占拠している教室では無く、彼自身の自室。置いてあるものはトランプや将棋、囲碁まであの教室に置いてあるものと大して変わりは無かった。
「君がもたらしてくれた情報には感謝してるんだ。無人島や干支試験。ここで頭角を表す人間や面白い奴は動き出すからね。最速で情報をくれて、君が優秀だと言うことをまたも認識させられたよ」
臨也の褒めるような言葉に前に座った人物は嬉しそうに少し笑う。その二人の関係性は学年が違うこともあって、奇妙だった。先輩、後輩という関係では無く、友達という訳でもない。どちらかといえば、先生と生徒が正しかった。
「君と会って早、数ヶ月ってとこだったね。あの龍園くんの一件の前ぐらいで……まぁそれはいいや。君の仕事は──と出来れば──に接触することで、──は違うクラスだから、無理しなくて良いよ。受けてくれるね──」
「……はい、臨也さん」
折原臨也という人間のカリスマ性に惹かれる人はそう多くはないが、確かに存在する。それは危険分子に他ならなく、早めに退治しなければ周囲を壊しつつ進み続ける。自身が壊れることを構うこともせずに。しかし、もうそれは動き出してしまった。臨也の引いた路線を何の疑いもなく進み続けることを。
体育祭編からは折原臨也のシンパを探す第二章になります。多分、2年生のホワイルルーム生探しには焦点は当てれませんから。疑いのある候補たちは夏休み編の中で出していきます。
あと本当に今更、今更ですが、アンケートを実施します。
「聖辺ルリ」 ひじりべ るり
クラス 1年Cクラス
学生番号 S01T004325
部活動 無所属
評価
【学力】B
【知性】B+
【判断能力】C
【身体能力】A+
【協調性】D−
面接官からのコメント
受け答えもはっきりしており、これまで何回も練習したことが分かるようなものだった。しかし、自身に関する質問などには典型的な答え方しか出来ていなかった点などが目立つ。
担任のコメント
一人でいることが目立っており、他の人たちと会話することはほとんど無い。しかし、真面目に授業を受けており、協調性さえあれば優秀な生徒と断言出来ます。
カップル同士などの描写の深さについて
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仄めかしもやめてほしい
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仄めかす程度ならば問題なし
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軽い描写なら良し
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多少深くてもok
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ギリギリまで攻めてよし
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どれでも気にしない