一致団結というのは結局のところ机上の空論に過ぎない
短いようで長かった夏休みが終わり、待ちに待ったと思っている人は少ないであろう二学期が幕を開けた。この学校で学校が始まるということはそれ即ち、新たな試練が生徒に訪れるということであり、それを体現するように二学期初日から行事の説明が行われた。
「10月の頭に体育祭が行われます。先に言っておきますが、これは特別試験ではありません。それがどういうことかを説明することはありませんので、各々で解釈をして下さい。では、体育祭の詳しい説明をしていきましょうか」
色んな意味で一番学校生活を楽しみにしていた龍園の所属するCクラスは担任の坂上先生から体育祭の説明を受けていた。もっとも体育祭のルールが思ったよりも複雑で、理解することを諦めた人間がほとんどで、話を真剣に聞こうとしていたのは龍園、金田、椎名、幽ぐらいなものだった。
「体育祭では全学年のAクラスとDクラスを赤組、BクラスとCクラスを白組に分けて各競技を行っていきます。そして、クラス毎の合計点で学年内の順位を決めていきます。一位のクラスはプラス50cl、二位のクラスは変動無し、三位のクラスは−50cl、四位のクラスは−100clといった具合に。それに加えて赤組白組の合計点で負けた方のチームのクラスは−100clされることになります。これで今回で変動する可能性あるclは以上です」
そのルールを聞いてほとんどクラスメイトは今回の体育祭勝てる見込みが充分にあると考えた。Cクラスは勉強方面よりも運動神経に尖った人が多く、Aクラスよりもそれは勝っている。しかも、同じ組にはバランス良く能力が整っているBクラスがいる。これは勝てると思うのも無理は無いことだった。
「食いついてきましたね。さらに個人を取ることで特典があります。競技毎に点数が加算されていき、全学年でもっとも点数を取った人物には10万prが与えられ、さらに各学年で一番だった人には学年毎に1万prが与えられというものです」
「しかし、総合成績下位10名は2学期の中間テストで全教科10点減点のペナルティです」
この言葉を聞いて多少は怯えるものがいたとしても、他クラスに比べればCクラスはそういった人々がほとんど居なかった。たった10名の中にこのCクラスが入るだろうなどということは無いだろうとたかを括って。
「説明を続けます。体育祭の競技は二つと二つの分類に分けることが出来ます。全員参加競技、推薦参加競技と個人競技、団体競技です」
「全員参加競技についてはその名の通りで、推薦参加競技は立候補する形で一部の生徒がだけが参加出来るものになります。推薦競技に参加するものが参加出来なくなった場合は欠場になり、10万prで代役を立てれます」
この説明を聞いた時の龍園の顔は目に見えて笑っていた。その内で何を考えているかは担任の坂上はおろか、いつも一緒にいる生徒たちも分かっていなかったが、碌でもないことを考えていることは確かだった。
「そして、個人競技では順位ごとに特典とペナルティがあります。例えば、一位になった生徒には5000prか二学期中間テストの点数3点プラスを選ぶ権利が与えられます。二位の生徒にも同様に3000prか2点プラスを選ぶ権利を。三位の生徒には1000prか1点プラスかを選ぶ権利を。しかし、最下位を取ってしまった場合には−1000pr。払えない場合は1点減点のペナルティが科されます」
「以上で説明を終わります。誰が何の種目に参加するかは一週間までに私に対して提出して下さい。質問は……無いようですね。では、あとはお任せします」
坂上先生は説明を終えると、龍園の顔をちらりと見てから教室外の廊下で待機する。わざわざ教室の外に出たのは他クラスによる盗み聞きを防ごうとする坂上先生のちょっとした手心だった。
「てめぇらに言うことは3つだ。これさえ守ってれば勝たせてやる。一つ、順位による報酬は全てprにしろ。二つ、組み分けは俺が独断で決める。三つ、俺の命令は死ぬ気で実行しろ」
壇上に立った龍園の命令。一つと二つはクラスメイトもある程度は予測していたものの三つ目の命令が全員からすれば不穏でならなかった。一体どんな命令が下されるのかと。
「解散だ。平和島には聞きてぇことがある。残れ」
「分かった」
珍しく幹部と言える人物たちを集めずに幽だけを召集する龍園。その光景に訝しんだ人は多かったものの、龍園に対して意見することの恐ろしさを理解しているのか声を上げるものはいなかった。
★ ★ ★
その次の時間。全学年総勢約400名が赤組と白組に別れて体育館に集められた。その中で一年Dクラスの正臣とBクラスの一之瀬は顔を合わせるとお互いに申し訳なさそうな顔をする。そんな中で赤組の総指揮は3年Aクラスの藤巻が取ることになっており、赤組の一年に対して有難いアドバイスを送っていた。
「唯々諾々に進めたいね僕の実力的には」
「何を言ってるんだ岸谷、あの情報野郎がどんなことをやってくるか分からない以上、お前にも働いてもらうぞ」
「独り言のつもりだったんだけどね。うん、去年は酷かった。折原くんと静雄がルールを無視して喧嘩したせいでお互いのクラスが−100clも無くされちゃったからね」
2年Aクラスと3年Aクラスが警戒しているのは相手のチームがどんな戦略に出るかでは無い。如何に折原臨也と平和島静雄をコントロールするか、それに集中していた。去年はその2人の規格外の喧嘩と言えるもののせいで、とばっちりを受けた人間が何人もおり、特にAクラスの生徒たちは余計なことをされて、clを減らされたくは無かった。
「そのことも折原の野郎が仕組んだろ? 今回もどんなことを仕組んでくるか分からないのは確かだからな。お前に任せるぞ岸谷」
「僕はそういうの得意じゃないんだけどな」
そんな風に2年Aクラスの南雲と新羅が話している場所から少し離れた場所で件の静雄の真正面に立つ人が2人居た。
「初めましてだな平和島先輩。あんたの実力は聞いてるぜ」
「ああ、よろしくな。……幽、知り合いか?」
「クラスのリーダー。頼りになるよ」
誰もが恐れる平和島静雄の正面。そこに何を恐ることも無く堂々と構える龍園とその傍らにいる静雄の弟である幽。そんな2人を心配しているように見ているのは周りの全ての人間だったが、その視線を当事者である三人は意にも返していなかった。
「まぁ、なんだ……幽のことよろしく頼むな」
「そういう態度なのは気に食わねぇが、俺と手を組まねぇか? 平和島先輩」
噂とは違う腑抜けた対応に期待外れのような顔をするも、龍園は元の目的を果たすように平和島へ手を組むように誘いをかける。今回の体育祭のルールで手を組むも無いのだが、そんな事を考えるよりも先に、周りはこの2人が組むかもしれないという事実に危機感を覚える。
「ちょっと、ちょっとー! 何やってるの龍園くん? 勝手にそんなことしちゃダメでしょ?」
「てめぇには話しかけてねぇよ一之瀬」
「さっき三年の先輩が学年ごとで話してって言ってたよね? なら、私には抗議する権利があると思うんだけど?」
「ククク、確かにな。だが、俺はお前らと話すことはねぇ。俺と話したところでどうせお前らは俺のことを信用できねぇだろうからな」
自分が干支試験で裏切った結果としてのそういう状況にも関わらず、それを理由として対話を拒否する龍園。だが、龍園の言っていることはもっともで、一之瀬は龍園と話し合いをしようとも信用する気など一切無かった。
「そうなんだー。じゃあ、BクラスとCクラスは連携しないってことでいいかな?」
「そういうことだ。邪魔せずとっとと失せろ」
もう会話するのすら、この限られた時間では無駄だと感じた一之瀬は先に自分たちのクラスだけで集まって体育祭に対しての戦略を練っていく。それを確認した龍園はもう一度静雄の方に視線を向け、答えを待つ。
「あー手を組むとかよく分からねぇからよ。そういうのは他の奴に言ってくれ。すまんな幽と……リーダーさん」
「大丈夫だよ、兄さん。俺たちは兄さんの味方だから」
「龍園翔だ。俺らは味方ってことさえ覚えとけばいいぜ」
誘いは断れたものの龍園の笑みを崩すことは無く、体育館から去って行く。今回の龍園の行動はBクラスとの対話を拒否しているにも関わらず、静雄に対しては共闘を持ち掛けているという構図であり、それが周りの人間には奇妙に映った。
★ ★ ★
「一体どういう意図での行動だったんだろうね。静ちゃんに誘いをかけるなんて、ほんとイカれてるとしか思えないよ」
「お前が仕向けたことじゃないのか? 去年の体育祭のようにな」
先ほどの時間に体育館に居なかったにも関わらず、状況を完璧に把握している臨也。そんな臨也に対して今更詰めるようなことはせずに単純な疑問を返す生徒会長堀北学。そんな堀北の疑問すらも馬鹿馬鹿しいと言うような顔をしながら臨也はベンチへと腰掛ける。
「俺を疑い過ぎなんじゃない堀北さんはさ。まぁ、それ相応に色んなことをしてきた自覚はあるし、静ちゃんを退学させたいとも思ってる俺だけど、そんな無垢な一年生を利用するような真似はしませんよ」
「龍園が無垢な一年生かはともかく、体育館でお前の息がかかった2年や3年は監視していたが、連絡した素振りも変な行動していたことも無かった。だとしたら、今回の件そのものがお前の描いた策略かもしくは……」
「一年生で俺に情報をくれた親切な人間がいるかってことですよね? そんな心優しい人間は残念ながらCクラスには居なくてさ、俺も困ってるんですよね。せっかく静ちゃんを退学させれる良い機会なのにこんなことされちゃったらさ、残念な気持ちになっちゃったりして」
堀北から見て臨也が嘘をついているようには思えなかったが、臨也の全てを信じる訳にもいかなかった。臨也はその情報収集能力と個人の興味で多くの場をかき乱してきた人物であり、堀北としても南雲と同程度には警戒しなければならない存在だと本能で分かっていたからであった。
「ああ、もちろん堀北さんの言いたい事も分かりますよ? 南雲くんを監視するのだけでも精一杯なのに俺のことも監視しなくちゃならない。しかも、折原臨也は行動原理が読みにくいから余計に厄介ってな具合で。そんな堀北さんの計算を狂わせることにも興味ありますけど、まぁそれは追々で」
結局のところ、堀北は臨也からほとんど情報を得られぬまま、臨也を逃してしまった。それはいつもの事と今回の成果を思い直すと、臨也の危険性について5月頃から目をかけていた綾小路へと共有することを決めた。
ルール説明が分かりにくかったらすみません
2年生の登場を増やしていこうと思ってます
カップル同士などの描写の深さについて
-
仄めかしもやめてほしい
-
仄めかす程度ならば問題なし
-
軽い描写なら良し
-
多少深くてもok
-
ギリギリまで攻めてよし
-
どれでも気にしない