ようこそ非日常の溢れる教室へ   作:地支 辰巳

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 まだ体育祭はしません

 ベアーフォールさん誤字報告ありがとうございます。


強さは数種類あるが絶対的な強さに定義は存在しない

 

 龍園から意味のわからない協力関係を持ちかけられた次の日、平和島静雄は1人で中庭にある自販機隣のベンチで何も考えていないような表情で空を眺めていた。そんな彼の元へ何も気を使うことをしないのか、靴の音を立てながら近づいてくる女子がいた。

 

「こんなところにいたのか。1人になりたかったのか?」

 

「……楓花か。授業はいいのか?」

 

「私にとって君は授業より優先すべきことなんだよ」

 

 その女子は女性版高円寺と言っても過言ではないほどの自由人のである2年Bクラスの鬼龍院楓花。彼女は許可を取ることもせずに静雄に隣に座る。それは大多数にとっては恐ろしくて思いつくこともしない行為だったが、鬼龍院は知った顔でそれを実行する。

 

「何でビビってるくせに俺ばっかりにヘコヘコすんだよ。偶には自分の力でどうにかしろよ。てか、俺に頼るならビビるんじゃねぇよ。ああ! イライラするぜ」

 

「うんうん、君の力を頼りたい凡人の気持ちはよく分かるよ。君は私が敵わない人間だと認定した数少ない人間だからね。クラスのやつらに何か言われたのかい?」

 

「やれ、お前が龍園と組めば百人力だの、お前が本気を出せばAクラスになれるだのうるせぇんだよ。俺が何をしたって言うんだよクソが」

 

「君の気持ちはよく分かる。私も同じだからね」

 

 有り余る人間離れした力を誇る静雄と全てにおいて高い水準の能力を持つ鬼龍院。2人に頼りたくなる周りの反応は一般的なものであり、それに縋りたくなるのは何もおかしなことでは無い。しかし、本人たちにとっては自分の思うままに普通に過ごすことが至高であり、それを邪魔されたくなかった。

 

「それで龍園と手を組むつもりかい? あまりいい噂を聞かないやつではあるが」

 

「あいつらで勝手に判断するだろ。俺はあいつらに迷惑をかけない程度でやるだけだ」

 

 静雄は人への迷惑を考えているが、去年の体育祭も似たようなことを言った挙句に大暴れした男がいう台詞としては少々説得力に欠けていた。その事は鬼龍院も分かっていたが、わざわざ言うような無粋なことはせずに立ち上がり、歩き出す。

 

「君と戦いあえることを楽しみにしてるよ静雄。私の体育祭での楽しみはそれくらいさ」

 

「……帰るか」

 

 鬼龍院の言葉が響いたかは定かでは無いが、少しの時間を置いて、静雄も歩き出す。その時の表情は最初にここに来た時よりも少しは良い顔をしていた。

 

 

★ ★ ★

 

 

 その日の放課後。2年Cクラスは荒れていた。いや、ざわざわしていると言った方が正しいか。それはCクラスの教室の椅子にどかっと座っている龍園への対処にCクラス全体が対処に困っていたからであった。

 

「とっとと決めろよ。てめぇらに元から大した選択肢なんて無いんだからよ」

 

「お前! 先輩に対して敬意は無いのか!?」

 

 龍園の物言いにまとめ役を担っている生徒が威圧をかけるように接近するも、それを防ぐようにアルベルトと石崎が立ちはだかり、逆に後退りさせる。

 

「ククク、Cクラスの先輩方になんて最低限の敬意で構わねぇよ。Bクラスに追いつくことすら苦労してるてめぇらにはな」

 

「お、お前らだってCクラスだろ!? 一年だからってそう何度もチャンスがあると思うなよ! 思い知るんだよ。AやBなんかに追いつけないってな」

 

 そのクラスポイントにはそこまで差は無いものの、2年Cクラスの生徒たちの心はほとんどが折れかかり、Aクラスを目指す戦意を喪失しかけていた。それを分かった上で煽る龍園は本当に性格が悪いものだが。

 

「そんなてめぇらを今回の体育祭で勝たせてやる。俺に協力さえすればな」

 

 不適に笑いながらも龍園のその瞳は静雄を貫いていた。幽も弟として兄の様子を観察していたが、そろそろキレるだろうとは直感的にだが、感じ取っていた。だが、そのことを龍園に忠告するようなことはしない。それは龍園が望んでいたことだから。

 

「どうだ。平和島パイセンもそれで良いだろ?」

 

「うるせぇ、うるせぇ、うぜぇ。ノミ虫みてぇな口調で来やがって。ああ? あの野郎の差金か? そうだ、そうに違ぇねぇ。幽まで利用しやがるなんてあのノミ虫野郎が!!」

 

 ぷつんとリミッターの外れた静雄は机を持ち上げ、ぶん回す。それによって、アルベルト、石崎たちはぶっ飛ばされるも、龍園は間一髪で避けて、狂ったように笑う。

 

「ハッ! 噂以上じゃねぇか!! もっと見せて見ろよ!!」

 

 自分が敵わないことは本能的に分かっている龍園。しかし、龍園の中にある抑えきれない好奇心というものが静雄の実力を確かめられずにいられなかった。

 

「平和島! オレが勝てると思うか?」

 

「兄さんは止まらないよ。俺にも無理だ」

 

 無表情で動かない幽を置いて、龍園と静雄はやり合う形を取る。しかし、その化け物じみた身体能力に龍園のストレートはダメージにならず、逆に龍園の身体が教室の扉を突き破り、廊下へと吹っ飛ばされる。

 

「てめぇらも殺す気でやれよ。伊吹、てめぇもだ」

 

「ぶっ殺されたら責任取れよ!」

 

 アルベルト、石崎、伊吹、龍園の4人がかりで静雄に挑んでいくも、静雄に攻撃が通った様子は無く、一方的にやられていく4人。数分持っただけでも大したものだったが、その代償として教室の備品はほとんどが壊れさっていた。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、クソが!」

 

「兄さんその辺にしておいてよ。この人もわざとやったわけじゃないんだ」

 

「あぁ?! どういうことだ幽」

 

 落ち着いて話してくる自身の弟に多少は気分も落ち着いたのか、キレる気持ちを無くし、静雄は幽の言葉に耳を傾ける。そんな中、倒れさる面々の中で龍園が少し顔を上げる。

 

「ククク、あの平和島静雄の本当の実力を知る為にやったんだが、想像以上だな」

 

 龍園は身体がもう動かないのか、大の字で倒れさったまま声を張って静雄にアピールする。それに対して、他の面々は倒れたまま動けないようで、声も出せなかった。

 

「そ、それじゃあこの暴れたのは無かったことにしてくれるのか?」

 

「うん。俺たちは被害を訴えるつもりは無いから」

 

 何が起こっているのよく分からないまま進んでいく話に静雄は頭を悩ませるも、とりあえず今いる奴らは幽の認めるというだけを理解して、落ち着きを取り戻す。

 

「あーで、何がしたいんだお前らは」

 

「俺らはあんたの味方だって証明するために決まってんだろ? お互いにお互いの実力ぐらいは知っておいた方が良いからな」

 

 ここで2年Cクラスの面々も静雄も龍園が本気の本気でこのクラスと手を組もうとしていたのだと理解する。だが、それを理解したところで1年Cクラスで今のところまともに話が出来る状態にあるのは幽ぐらいだったが。

 

「兄さんを説得するなら、これくらいしないといけないと思って」

 

「お前が言ったら信用してたぞ幽」

 

「それに龍園も望んだことだったし。俺は反対したんだけどね」

 

「あんなもん反対なんて言わねぇよ幽がよ」

 

 龍園と幽が2人で話し合った時に龍園の交戦的な様子に幽はやめた方が良いと思う程度しか言っておらず、龍園にすれば、反対されたとほとんど感じていなかった。そして、平和島という名が2人もこの場所にいることで、龍園は珍しく人のことを下の名前で呼ぶことにした。

 

「それで俺らは何すれば良いんだ? 本当に勝たせてくれるんだろうな」

 

「最初からそうしてれば良かったんだよ。いいぜ、てめぇらのことを勝たせてやるよ」

 

 静雄相手にここまで身を張って、それが仕組んでのことだったことから、龍園の本気度を思い知った面々は恥を忍んで龍園と手を組むことを決意する。そして、静雄も渋々ながら殴ってしまった責任感を感じたこともあってそれに対して何も言わなかった。

 

 

★ ★ ★

 

 

 同日同時刻。1年Aクラスの教室ではまたもピリピリした空気感が漂っていた。数日前にあった体育館での体育祭の他クラスとの交流ではAクラスの内情を知られないようにそれを出さなかったが、Aクラスだけの今は別だった。

 

「さて、今回の体育祭は私が指揮や順番を考えよと思っているのですが、どうでしょう?」

 

「そこに異論は無いよ。でも、方向性ぐらいは聞きたいな」

 

「俺も三好と同意見だ。Dクラスとどこまで協力するかなどのことは話してもらいたい」

 

 この場では主に実質的なAクラスのリーダーである三人が話していた。攻撃的で冷徹な女王坂柳有栖、堅実で何事にも冷静な葛城康平、開花したばかりだが何よりも平和を望んでいる三好吉宗。三者三様のこの会話には他の人が入れるような隙は無かった。

 

「私としてもDクラスの方向性ぐらいは確かめたいものですが、それ以上は今のところ協力する気は無いですね」

 

「それは何でかな? 理由を教えて欲しいんだけど」

 

「今回の体育祭荒れるのは分かりきっています。主に2年生の影響で。それならば、私たちが今回の体育祭で何かをしたところで意味がない。無難に動くのが正解ですね」

 

 個人的な情報網から今回の体育祭で何かは起こるだろうと察知している坂柳は今回の体育祭を捨てると言っても過言では無い発言をする。それに対して吉宗も葛城も同じような情報は掴んでいるのか、少し押し黙りつつも、建設的な話し合いの為に疑問を投げかけていく。

 

「全力でやることと無難にやることの違いはあるのか? 全力でやらなくてはDクラスへの失礼にも当たるのでは無いか?」

 

「もっともなご指摘ありがとうございます。しかし、私から言わせればAクラスはこと運動能力に関して言えば他クラスほど優れてはいません。そんな中で全力でやるよりは他クラスの能力把握に努めつつも、無難にやる方が正解だと思いませんか?」

 

「確かにそれは一理あると思う。でも、その匙加減は個々に任せるのはどうかな?」

 

「いいでしょう。ですが、競技表は私と数人で選定させていただきます。情報がどこから漏れるか分かりませんから」

 

 クスッと笑いながら情報漏洩を警戒している坂柳だが、その坂柳自身がそう言った行為を一番容認しているということを坂柳の隣で控えていた神室と杏里はよく分かっていた。

 

「それもそうだ。だが、過度に無理はさせるようなものにしないことと、提出直前ぐらいは俺と三好に見せるぐらいのことはしてもらいたい」

 

「僕も葛城くんに賛成かな。議論や戦略ぐらいはその場でしたいかな」

 

「……わかりました。では、そろそろお開きにしましょうか。他クラスに嗅ぎつけられる訳にはいきませんから」

 

 坂柳のお開き発言によって、Aクラスはそれぞれのペースで教室から出ていく。そんな中、鬼頭と橋本を帰らせた坂柳は杏里と神室と共に寮への道を歩いて行く。

 

「お二人は今回の体育祭どう見ますか?」

 

「警戒し過ぎなんじゃない? 何も起こらないことだってありえるし」

 

「……園原さんもそう思いますか?」

 

「何も起こらないのが一番ですけど。やっぱり警戒しておくに越したことは無いと思います」

 

「ええ、お二人の言うことももっともですよ。ですが、何かは起こります。これは断言しましょう。あの男が関わっているのですから」

 

 遠くを苦虫を噛み潰したような顔で見る坂柳。それは坂柳が情報屋と接触した時に感じ取ったその男とある種の同族であることからくる直感にも近い根拠だった。




 一年生がそれぞれの思惑の元、二年生を警戒していきます

カップル同士などの描写の深さについて

  • 仄めかしもやめてほしい
  • 仄めかす程度ならば問題なし
  • 軽い描写なら良し
  • 多少深くてもok
  • ギリギリまで攻めてよし
  • どれでも気にしない
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