今回は場面転換が激しいです。ご了承下さい。
ベアーフォールさん誤字報告ありがとうございます。
多くの生徒が待ち遠しくしていると思われる体育祭がようやく開催した。それぞれのクラスが自主練習に励み、自分たちの上げてきた能力の成果をここで出していくというのは普通の体育祭の場合だけだ。今回の体育祭に関しては自主練習をしているものの、常にピリピリした空気感が纏わりついており、初めての体育祭である一年もそれに感化され、緊張を隠せずにいた。
「竜ヶ峰ー。一位目指して頑張ろうぜー」
「渡辺くんならいけると思うけど、僕は無理だよ。みんな早そうだもん」
100m走で同じ組になった渡辺と帝人。最近は距離が近づきつつある2人からしてみれば、同じ組に分けられたのは幸運と言えるものだったが、同じ組にはDクラスの筋肉バカである須藤がおり、その存在感は誰よりも強かった。
「全員ぶっちぎってやる」
結果は一瞬で着いてしまった。須藤が他の誰よりも差をつけて一位でゴールし、他の人たちは消化試合といったところだった。渡辺は3位、帝人は5位で互いに須藤と同じ組に当たったことを呪いあい、労いあった。
その調子で何のトラブルも無く、100m走は終わりを告げ、ハードル走が新たに始まった。
「今回は敵同士だけど、油断はしないよ一之瀬さん」
「うん! 私も望むところだよ! 紀田くんにも負けないとは伝えたから」
ハードル走で同じ組になったのはDクラスの松下とBクラスの一之瀬。どちらもが正臣と関わりのある女子で、松下は大きなライバル心を一之瀬に対して抱いていた。その逆に一之瀬は松下に対して、正臣と仲の良い女子ぐらいにしか思っていなかった。
「早いね松下さん。本気でやったのに負けちゃったね」
「ありがとう。でも、一位はそっちのクラスの五十嵐さんに負けちゃったから、ちょっと悔しいかな」
この組のハードル走は一位がBクラスの五十嵐という生徒で二位は松下、三位は一之瀬といった結果になった。松下は一之瀬に勝てて素直に嬉しかったのだが、一位はBクラスの生徒に取られており、勝負に勝って試合に負けたという感覚が拭えなかった。
★ ★ ★
次に始まった種目は男子の競技の棒倒し。一年のDクラスとAクラス対CクラスとBクラスの対決が始まる。事前の葛城と吉宗と正臣の相談により、全員攻める側と守る側に好きな方にいくことになっていたが、吉宗と葛城が守る側にいったことで、守りにつくAクラスが少し多そうだった。
「んじゃあ、帝人に会いに行きますか」
「平田ー後ろは任せたぜ」
「うん、しっかり守っておくよ」
主要な面子で言えば、攻める側にいるのさ正臣に須藤、鬼頭だけであり、他は運動神経が良い人で固められた15名ほどだった。守りのAクラスDクラスからすれば相手にはアルベルトなどもいる。用心しておくに越したことはなかった。
「ハッ、雑魚どもが。どれだけ守りを固めても意味ねぇんだよ」
「龍園くん。僕たちをあんまり舐めちゃダメだよ」
「裏からこそこそしか出来ねぇ野郎に負けることなんてねぇな」
龍園含めたガタイの大きい何人もの生徒たちが棒に向かって突撃していく。それを防ぐのは葛城や吉宗、平田などのオールラウンダーたち。Cクラスの戦略は反則ギリギリの体使いを使ってくるものだったが、元よりそれを分かっていたのか、Aクラスの生徒とDクラスの生徒はあえて外から見えるような配置どりをしており、不用意に龍園たちが反則行為を出来ないようにしていた。
「帝人ー! その棒譲ってくれない?」
「無理に決まってるよ!」
「じゃあ、やりますか」
攻めていくのはAクラスとDクラスの中ではガタイの大きいや運動神経の良い人たち。それに対するBクラスは運動神経こそ整っているが、力関係に富んだ者はいない。このことからも攻め側の方が少々有利だったが、人数が少ないことで、棒をそう簡単に倒すことは出来なかった。
そして、制限時間が迫り、終了を告げるホイッスルが鳴る。その時点ではどちら側の棒も倒れておらず、結果はより角度をもたらしたAクラスとDクラスに一本目の勝利が渡された。
「チッ、次はてめぇらが倒してこいよ」
「ああ。Cクラスの尻拭いをしてくるさ」
今度はCクラスが棒を守り、Bクラスが攻めに行く。龍園なりの発破も神崎は観客席にいる美香に手を振りながら、軽くいなしていく。そこに居た神崎はあの船上試験の上からは幾分かは回復しているようだった。
「ここまでこっちが上手くいったのも紀田くんのおかげじゃないかなと思うんだけど、葛城くんはどう?」
「ああ。あいつの求心力というか人を惹きつける能力は格段に違う。特にはみ出しものには効くようなそのカリスマ性は目を見張るものがある……注意が必要だな」
AクラスもAクラスで自分たちの目的を達成しながらも試験に対して挑んでいく。如何に優秀な人材が多くてもそれがしっかりと機能しなければならない。それを実感することになった葛城と吉宗だった。
2本目も相当な接戦を繰り広げたが、結果は何とかDクラスとAクラスが勝利をもぎ取っていた。こんなにも事前に予想された番喰らわせが起こるとは誰も結果を見るまで思っていなかった。
そして、次に行われた2年の棒倒しでも何故か臨也が欠席し、Cクラス以外の生徒たちから静雄は体をぶつけられてばかりだった。その奇妙な光景は外の人間からも違和感が分かるほどで、静雄もその異常さに段々と気づいていき、ぷつんと静雄の中でまた何かが切れた。
「なんだよこれはよ。あのノミ虫のせいだ。そうだ、そうに違いねぇ」
「……」
その暴れ回った静雄の様子に綾小路は何の言葉も出ず、表情も動かなかった。いや、その状態は彼にしては驚いており、実際に内心では静雄の動きが人間としては並外れたものだという感想を抱いており、それはここにいる他の人たちとは全く違った感想だった。
そんな綾小路の観察のままに静雄は瞬く間に相手を蹴散らしていき、1人で棒を倒してみせた。そのままの勢いで静雄は2本目も速攻で棒の元へ駆け寄り、倒してみせる。まさに鬼人と呼べるが活躍。彼以上にこの場の目線を寄せ付ける人物はいなかった。
★ ★ ★
静雄の大暴れというトラブルがあったものの、まるでそれが天災だったかのようにスムーズに次の競技に進んでいく。その次の競技である女子の玉入れはあっという間に終わったが、やはり玉入れということもあって盛り上がりには少々欠けていた。そして、次に行われた綱引きも一年生では単純に運動が得意な人物が多いCクラスとBクラスが勝利を納め、2年では静雄がいるCクラスが勝つというさっきも見たような展開が続いた。
「たまたまよね?」
「うん。たまたまです」
次に行われるのは障害物競争。その組みでは堀北とルリが同じ組に振り分けられており、今回は美香に釘を刺した程度であまりクラス運営に関わっていなかった堀北はこのことに心底驚いき、真剣勝負の前に自分の心を曝け出す。
「この学校に入るまでの私。いえ、あなたと会うまでの私は兄さんのように成りたがっていたわ。なれやしないのにね。でも、あなたと関わってみて分かったの。社会での立場なんて誰でも代わりがいることと誰かの隣にいる人には代わりが居ないことに」
「堀北さんの言いたいこと分かるかも。役の主役は誰でも代わりが出来ますから」
照れ臭くなり、小さくなった堀北の言葉にルリは少しだけ経験したメイクアップアーティストから見えた視線の情報を元に応えていく。2人はこれから対決するとは思えないほどに穏やかだったが、互いにスタートの銃が撃たれると、一転して本気で競い合う。
ルリの身体能力はほとんどの人よりも優れているが、それでも人間の枠内には収まっている。ルリの身体の限界はもっと高みにあるのだが、何のオカルトも無いこの学校ではそれは意味のないことだった。
「……やっぱり……貴方は早いわね」
「ううん、堀北さんも早いです」
他の人たちに断トツに差をつけて2人は一着、二着になり、互いに頷き合う。その光景を見た一部の人たちからは堀北とルリが知り合いなのではという疑念を産む結果になっていた。
★ ★ ★
次に行われるのは全員参加の団体戦の二人三脚。男子は男子で女子は女子同士で組むこともあって、後に行われる男女混合二人三脚よりも注目度は低かったが、それでも男女どちらも注目が集まる組み合わせばかりだった。
「頑張ろうね橋本くん」
「もちろんだ。三好と組めるなんて本当に光栄だからな」
「僕からの情報を欲しいからだよね? 良いよ頑張ってこう」
少しピリピリしているような吉宗と橋本と同じ組にいるのは正臣と平田。正臣と平田の2人は先輩たちとの付き合いがあることもあって、女子たちの声援が凄いもので、それを物とするように平田と正臣は一着でゴールしていった。
「櫛田さんと組めるなんて本当に嬉しいです!」
「本当に思ってる? でも、私も嬉しいなぁ!」
「お互いBクラスに愛する人がいる同士、頑張りましょう」
「え? あ! 麻子ちゃん!! 千晶ちゃん!!」
Dクラスの女子の組み合わせは櫛田と美香の2人。2人は互いにDクラスの中でのカーストが強いが故に必要最低限の親交しかしておらず、まともに話したのだって今回の練習ぐらいだった。そんな2人だったのだが、美香の変な発言に櫛田はなんらかの危機感を感じ、同じ組で走ることになるBクラスの2人に声かける。
「久しぶり桔梗ちゃん!!」
「同じ組だったんだね」
同じ組で走るのはBクラスの網倉と五十嵐千晶。2人ともクラスの運営に積極的に関わっていく性格ではないが、クラスの中心でみんなの士気を盛り上げる役目で、Bクラスにとっては欠かせない存在の2人だった。
「うん! 2人には負けないよー」
「私のことも忘れないでくださいよー」
「張間さんも神崎くんが見てる前だから本気出すでしょ?」
「もちろんですよ! 隆二くんは一着を取ったら褒めてくれますから」
神崎を迎えに行く関係でBクラスによく行く美香にとっては網倉や千晶は見知った仲であり、櫛田と同程度にはBクラスの女子には親しい人が多かった。そんな単純そうで複雑な関係の2人と2人は互いに健闘を誓い合うと、二人三脚を走り出す。他の組みよりも接戦の組みだったが、ギリギリのところで神崎への愛が勝ったのか、櫛田と美香が一着となった。
体育祭はまだまだ続いていく。
次回は体育祭後半戦、臨也も道楽を楽しんでいきます。
カップル同士などの描写の深さについて
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仄めかしもやめてほしい
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仄めかす程度ならば問題なし
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軽い描写なら良し
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多少深くてもok
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ギリギリまで攻めてよし
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どれでも気にしない