ようこそ非日常の溢れる教室へ   作:地支 辰巳

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 今回からペーパーシャッフル編です。


霞んでいく表側と見えてくる裏側
受け継ぐ意思のことを人は人間讃歌という


 

 体育祭という一大行事が終わったとしてもこの学校では安心する期間は無い。それを示すように今日は生徒会の選挙があり、生徒会の堀北学を始めとする3年生が引退し、新たに2年生の南雲雅が会長へと就任した。南雲の掲げる思想は堀北の掲げていた思想とまるで違うものであり、この先の学校生活が変わるであろうことは誰の目にも明らかだった。そんな行事が行われた日の夜、堀北学はある人物たちを中庭に呼び出していた。

 

「綾小路くん。本当に兄さんが呼んだのかしら?」

 

「ああ。堀北兄はお前の連絡先を持っていなかったらしいからな。俺が代わりに呼び出した。それでもう1人は連れてきてくれたのか?」

 

「……ええ。兄さんが聖辺さんに用があるとは思えないけど」

 

「よろしくお願いします」

 

 堀北学から綾小路を通じて呼び出された堀北鈴音とルリの3人が集まったところであまり人に見つからないようにしているのか、存在感をほとんど隠していた堀北が現れた。

 

 

「兄さん! 私たちを呼び出したのは何故ですか?」

 

「話を急かすな鈴音。今回、呼び出したのは他でもない、これからの学校生活をお前たち3人に託したいと思ったからだ」

 

 堀北学から告げられた衝撃的な内容。それに綾小路は聞いてないぞというような目線で睨み、堀北鈴音は話が見えないのか困惑し、ルリは何故自分なのかという疑問に思っていた。

 

「堀北兄、話が違うぞ。俺は関係ないはずじゃなかったのか?」

 

「鈴音と聖辺だけでも十分だろう。だが、綾小路、お前の力も欠かせないものだと俺は直感している」

 

「……理由になってませんよ」

 

 最初から綾小路たちに選択肢は無いのか、堀北学は逃すつもりが無いようにと、それを目と態度で示す。それを受けて、綾小路はほとんど諦めたが、堀北鈴音はあんなにも疎遠になっていた兄からの突然の誘いに疑問を投げかける。

 

「どうして……兄さんは私を嫌っていたはずじゃあ」

 

「嫌ってはいない。鈴音、お前は俺に憧れようとするあまり、自分というものを消し去り、孤高になりきろうとして孤独になった。そんなお前の成長を阻害すると思い、俺はお前と距離を置いた」

 

「だったら……どうして」

 

「分からないか鈴音。お前にはもう立派に友だちと言える存在がいる。もう、中学のお前とは違う。そう、直感したからこの場に呼んだんだ。鈴音、もう俺がいなくてもお前は成長していける」

 

 褒められると思っていなかった堀北鈴音は急に憧れていた兄と褒められたことで感極まって涙を流してしまう。それは多分、初めてと言える堀北鈴音が自分から泣いてしまった出来事だった。そんな堀北鈴音をルリは優しく抱擁した。

 

「どうして私も呼ばれたんですか?」

 

「鈴音の初めての友だちに会ってみたかったというのもあるが、一番はこれからの学校を任せられる人物なんだと確信したからだ」

 

「俺も何故呼ばれたのか聞きたいです」

 

 堀北学が誰でもなくこの3人に学校を託そうと思った理由。それは綾小路も聞いてこなかったことで、堀北鈴音との蟠りも解けた堀北学はその理由について口にしていく。

 

「俺たち三年が卒業した後にこの学校の最高学年となるのは南雲や折原、平和島などの二年だ。あいつらの思想は危険であり、それらはこの学校に伝統として残ってはいけないものだ。そこで、お前たちに学校を変えていって欲しいと思って召集した」

 

「綾小路は未知の実力、聖辺は未知の運動能力、鈴音は未知の成長。3人にはそれぞれあいつらに対抗出来るものが思い、お前たち3人を誘ったわけだ。断るのは自由だが、ここまで話を聞いてしまってはただで返すわけにはいかないな」

 

 堀北学の釘を刺すような言葉に綾小路はやってしまったと思う。もうここまで聞いてしまえば、簡単には抜けれない。それに堀北鈴音もやる気であり、ルリも同じように参加を表明するだろう。もう綾小路だけが抜け出すことは出来ない。

 

「やります。兄さんの後を継ぐために聖辺さんとともにやってみせます。聖辺さんも……それで大丈夫かしら?」

 

「うん。私もそれで大丈夫」

 

「……綾小路くんはどうするのかしら?」

 

「……分かった。だが、俺がやるのは2人のサポートだ。それでも良いならやってもいい。どうだ、堀北兄」

 

「……ふっ。それでも構わない。こちらで得られる情報は出来る限り提供しよう。期待しているぞお前たち」

 

 新しく堀北鈴音とルリと連絡先を交換した堀北学はまたも人気を避けるように帰って行く。それを確認した堀北鈴音とルリも一緒に帰っていき、この場に残ったのは綾小路だけであり、綾小路は最大限の譲歩は引き出したにも関わらず、顔は晴れていなかった。

 

 

★ ★ ★

 

 

 その堀北による密会があった日から数日後、正臣も別の人物によって密会のようなものに誘われており、その姿はボーリング場にあった。

 

「久しぶりに誘ったにしては随分重そうな空気っすね」

 

「お前がハニーだったら、俺もテンションを上げるんだけどな。こればっかりは仕方ないってやつだ」

 

 正臣がボウリングの相手をしているのは3年の千景。随分前に一之瀬のことを託されてからなので、久しぶりの再会ではあった。しかも、今回は千景も取り巻きの女性たちを連れずに正臣と会っており、お互いに女性と会っているイメージの2人にこの光景は珍しいものであった。

 

「それで用ってなんなんすか? 俺はこれからデートの約束があって忙しいすよね」

 

「それは俺もだ坊主。俺もこの後はデートの約束ばっかりなんだよ」

 

 ボウリングのスコアだけでなく、こういったところでもマウントを取り合う彼らは仲が悪いとかではなく、どちらかと言えば、同族嫌悪というところが大きかった。といっても、そこまで深刻なものではないが。

 

「用っていうのはお前の一之瀬ちゃんへの確認と色々だ」

 

「……色々って。俺はちゃんとやってますよ。帆波が苦労したり苦難に合わないように最大限の努力はしているつもりっす」

 

「へぇそうか。なら、お前に聞くけど、ここから先、お前ら一年は誰かを退学させなきゃ生き残れない戦いに向かっていくことになる。その時に一之瀬ちゃんを守るために他のやつを退学させる覚悟がお前にあるか?」

 

 急にドスの効いた声を響かせる千景に対して、正臣は色々なことを頭の中で考える。千景の言っていることは十中八九事実で、これからは退学する可能性が高い試験ばかりだろう。そして、ここでいの一番に千景に啖呵を切れるほど正臣は自信家では無かった。

 

「正直言って、言い切れることは出来ないです。俺は他の奴を退学させるほど優れてるわけじゃない」

 

「……理由は気に入らねぇけど、それで良いんだよ。他の奴の中にはハニーも含まれてる。そんな別のハニーを犠牲にするなら、俺自身が犠牲になる。それくらいの気概がなけりゃあ、漢じゃねぇな」

 

 理由は違えど、結果的には他の人に犠牲を強いることはしないという結論に達した正臣を千景は評価する。いや、このような回答をするような漢じゃなければ、初めから正臣に対して一之瀬のことを託していなかったのかもしれない。

 

「まっ、てめぇの過去に何があったかは興味はねぇけどよ。もうちょい、自信を持ってやらねぇと誰も着いてこねぇぞ。最低でも俺にボウリングで勝てるぐらいだな」

 

 話は終わったとばかりに最後のボウリングの球を投げた千景はとっとと帰ってしまった。その結果は千景が言うよりは良い勝負が出来ていた。正臣も少しだけ1人でほおけていたが、覚悟を決めたように動き出した。

 

 

★ ★ ★

 

 

 その日のBクラスはいつものようにわいわいしていたが、チャイムが鳴り、入ってきた星乃宮のいつもと違うテンションから様々なことを察していた。

 

「わぁー静かになるのが早いね。もしかして察しちゃった? 先生もまだまだだなー。そんなことは置いておいて、中間テストの結果だよ。みんな、流石だね! 退学者も居なくて素晴らしい結果だと思う!!」

 

「じゃあ、そろそろ小テストと期末テストについての話でもしよっかな?」

 

 それまでも静かだったが、星乃宮の重要そうに吐かれた言葉にBクラス内の空気が引き締まる。それはこの試験がBクラスにとってAクラスに上がる為の正念場ということが大きな要因としてあるからだ。

 

「前からお知らせしている通り、小テストは8教科の問題が出る100問、100点満点のテストだよー。成績には一切影響しないから安心してほしいけど、次の期末テストにはすごーーく影響するから気をつけてね」

 

 毎度、何かしら重要な事項がある時に星乃宮は明らかに誇張してその部分を言ってくる。それは1学期にはいまいち分からないことだったが、今となってはBクラスの生徒全員がそのことを理解していた。

 

「その影響はね、この小テストの結果によって期末テストでクラス内の誰かと一蓮托生の2人1組のペアを作ることになるよ。試験科目は各教科50問の8教科合計400問のテストで、もちろん100点満点の800点満点だよ」

 

「でも、どの教科でも60点以下を取ってしまうと、2人ともが退学だけど、これは2人の合計点だから、多分みんななら大丈夫! もう一つある退学基準はペアの総合点がボーダー以下を取ってしまっただよ。詳しい数字は言えないんだけど、いつもは700点前後かな」

 

 軽い口調で所々に応援コメントを入れながら、ルール説明をする星乃宮だが、その言葉の中に退学という言葉があったことは全員が気づいていた。その二文字に一之瀬は少し鼓動が早くなったが、必死で抑え込み星乃宮の顔を見据える。

 

「次にみんなもお楽しみな今回の特別試験でポイントを得る方法だよ。まず、期末テストで出る問題はみんなに考えてもらうことになってるよ。その問題は他クラスに対して攻撃みたいな感じで出される。出されたクラスはそれを防衛する感じかな。それで、お互いの総合点を比べて、勝ったクラスが負けたクラスからクラスポイント50ポイントを得る」

 

「お互いに攻撃しあった場合は負けたクラスから勝ったクラスに100ポイント取られるから、しっかり覚えておいてね。引き分けだったら、ポイントの移動はないけど、これはあんまり無かったかな。問題を締め切りまで出せなかったら、私たちが出すことになるけど、難易度は簡単になってるよ」

 

「私たちがチェックするから、難し過ぎないやつで、テストを作る為なら何を使っても良いからね。挑みたいクラスは私に言ってくれたら大丈夫だから。他クラスと被っちゃったらクチ引きになっちゃうから、よーーーく考えてね」

 

「これが今回の特別試験のペーパーシャッフルだよ」

 

 ここまでの説明を聞いてBクラスのほとんどが気づく。ここで勝てればAクラスに上がることが出来るという事実に。だからこそ、星乃宮は今回の試験説明をいつもよりも重点的にして、一之瀬の顔をたびたび見ていた。こここそがBクラスの正念場、自分たちの全力を尽くすに相応しい舞台だった。




 この章はペーパーシャッフルともう一つを主軸に展開予定です。

カップル同士などの描写の深さについて

  • 仄めかしもやめてほしい
  • 仄めかす程度ならば問題なし
  • 軽い描写なら良し
  • 多少深くてもok
  • ギリギリまで攻めてよし
  • どれでも気にしない
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