ようこそ非日常の溢れる教室へ   作:地支 辰巳

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策謀として成立させるには時間がいる

 

 誰がどんなテストを担当するかを振り分け、それなりに準備が整ってきたCクラス。そんなCクラスは相手がDクラスなのもあってか、少し油断や浮ついていた雰囲気だったが、リーダーである龍園はそこまで楽観的に考えておらず、呼び出された人物との会合に幽や伊吹とともに臨んでいた。

 

「待ったか?」

 

「ええ、そこそこ待ったんですよ? もう来ないかなって思っちゃいましたよ」

 

 既にカラオケルームに居たのはDクラスの美香の姿。彼女は遅れてきた龍園に対して自分が呼び出したにも関わらず、笑顔は見せずにこの会合も苦肉の策であると3人に大きく感じさせた。

 

「いいじゃん。そっちから呼び出したんだし」

 

「いやいやー私だって忙しいんですよ? これから隆二くんのご飯を用意したり、おしゃべりしなきゃいけない時間がありますから」

 

「仲良さそうでなによりだぜ。いつ裏切るかも分かねぇ敵の癖にな」

 

「そんなこと私と隆二くんを遮る障害にはなりませんから黙っていてくれません?」

 

「話を進めよう。時間が無いんだったら尚更」

 

 美香の溺愛具合に理解が出来ないというように吐き捨てる龍園と伊吹。それに対して喧嘩腰になることも厭わない美香を止めるように幽は会話を遮り、本題を促す。

 

「そうですね。じゃあ、端的に言います。今回のテストの答えを渡します。なので、私と隆二くんをもしもの時に助けて下さい」

 

「話が読めないし、何であたしたちがあんたのこと助けるの? 自分のクラスメイトに頼めば?」

 

「船上試験で私と隆二くんの株は下がってます。そんな私たちを大事な時に助けてくれる保証はないですから」

 

「自業自得じゃん」

 

 美香の抱く感情、動機が全く理解出来ず、呆れ顔で言葉を返していく伊吹にこの場の雰囲気は最悪になっていき、美香の苛立ちも少しずつ上がっていく。それが表すことを端的に言うならば、伊吹と美香の相性は最悪だった。

 

「まぁ、てめぇの言いたいことは分かる。裏切る可能性のあるてめぇら2人が退学しそうになっても救う価値なんてねぇからな」

 

「ですよね! だから、わざわざ敵だとしても龍園くんにテストの答えを持って来るって言ってるんですよ」

 

 龍園にとって美香の提案は存外悪いものでは無かった。Cクラスにとっての学力は不安定であり、底辺であるDクラスにも勝てるかどうか確証のないものだった。しかし、美香の答えさえあれば、それをひっくり返し、盤石となる可能性が高かった。

 

「条件の問題だ。てめぇの救う言葉をそのまま鵜呑みには出来ねぇからな。もっと詳細に話せ」

 

「簡単な話です。私と隆二くんが退学するみたいな選択肢は選ばないで下さい。別にクラスの他の人は狙ってもいいですから」

 

「ククク……やっぱりてめぇはイカれてやがるな」

 

「どうする龍園。俺は受けても良いと思う」

 

「先に結論を急ぐんじゃねぇ。が、いいぜ。てめぇの申し出受けてやるよ。だが、てめぇの持ってきた答えが違った場合は容赦しねぇぞ」

 

「分かってますよ。じゃあ、私は隆二くんとの用事があるので失礼しますね」

 

 龍園から了承の言葉を得られたことに満足したのか、美香は機嫌良さそうにカラオケルーム出て行った。そこにこの先、この取引がどうなるかという憂いは感じさせず、ただただ隆二しか見えていないようだった。

 

「幽。この取引どう思う?」

 

「張間さんは本当に神崎くんのためなら何でもする人だと思う。でも、それが今回の取引の動機かは分からない」

 

「ククク、それはそうだな。だが、そうだとしても、この取引に乗らねぇ手はねぇな」

 

「龍園が決めればいい。俺はそれ以上口出さないから」

 

 単純な学力という側面が強い今回の試験に湧いて出てきた龍園側にあまり損のない取引。自クラスを裏切ったという前科もある美香からの提案もあり、策を練らずに正面から挑むよりは良いと決め、龍園はこの取引に対して前向きに考えていた。

 

 

★ ★ ★

 

 

 Bクラスと戦うことになったAクラスは葛城の指揮の元、堅実にテスト勉強に取り組み、高レベルなテストを作成していた。そして、その方針に表向きには全てのクラスメイトが従っていたが、実際にはテスト勉強は各々が個人的にやることの方が多かった。そんな作戦を続けた末、日付はもうペーパーシャッフル数日前となっていた。

 

「そうだね。そこの作者の気持ちはここの段落を読んだ方が良いよ」

 

「うーん、難しいですね。作者の気持ちなんて分かる訳ないと思いませんか三好吉宗」

 

「僕だって人の気持ちは分からないよ。でも、人の気持ちを知れたらこの世はもっと良くなるはずだよね」

 

「貴方は変わっていますね三好吉宗。ですが、それも魅力的ですね」

 

「……手を動かして下さい」

 

 最近は何故か中立派と一緒にいることが多くなっている森下。中立として今回は表に出ることなく地道に頑張っている吉宗。そして自分のポジションが取られるようで最近急接近してきた森下に対して嫉妬心というのを抱いてしまっている山村という三者三様の心持ちで3人は図書館で勉強に励んでいた。

 

「んーそろそろ退散するとします。山村美紀とも親しくなれましたので」

 

「……全然なってません」

 

「では」

 

 山村と親しくなったと本当に思っている森下は先ほどの問題が解けると、まるでこれから用事があるかのように去って行く。それを何とも言えない表情で見送る山村と吉宗の会話は一時的に途切れる。

 

「これから……どうするんですか?」

 

「あんまり考えていないかな。今回の試験も何もする気はないからね」

 

「でも、それじゃあ吉宗くんのことをみんなが……」

 

「良いんだ。僕が目指すのはAクラスが仲良く過ごせること。その為に僕の評価が下がっても何の問題もない」

 

 Aクラスの為ならば、自分の身や評価さえも犠牲とする覚悟を持っている吉宗。そんなブレない吉宗へまたも山村はその忠義と尊敬を増していく。もう、山村から吉宗への感情は限界値までいっていた。

 

「そろそろ行こっか。もう暗くなってきたし」

 

「……そうですね」

 

 夕日すらも暮れかけて、オレンジ色の空が曇り始めたのを確認すると二人は図書館を後にして、寮への道を歩いて行く。会話は少ない訳でもなければ、富んでいたわけでもない。二人の会話量はいつもこれだったが、特に変わる必要性は感じていなかった。

 

「……なんでしょう?」

 

「ちょっと見てくるよ」

 

 寮の入り口近くには多くの人々が溜まっており、騒ぎのようなものが出来ていた。何故そんなことになっているのかをその場にいる人に聞きに行った吉宗は複雑そうな表情をしながらある一枚の紙を持って帰ってきた。

 

「……これがみんなのポストの中に入っていたみたい」

 

『櫛田桔梗は弱みを握られ命令を受けて行動している』

 

 学校中に知り合いのいる人気者の櫛田に関する意味深な紙。その意味深な秘密に対して、多くの人間が様々な考察や予想していくが、この紙を見た吉宗や山村もその例外ではなかった。

 

「美紀さんはどう思う? この紙について」

 

「無い話じゃないと思います。櫛田さんは色んな人の情報を持ってるから」

 

「そうだね。櫛田さんを信用している人は多いだろうし」

 

 多くの人の秘密を知っている櫛田。櫛田を脅し利用するのならば、その秘密を手にしたも同然であり、櫛田を利用するのは他の人物よりも理にかなっていた。しかし、吉宗はいくつかのことについて疑問に思う。吉宗が船上試験の後に会った時の櫛田は誰かから指令を受けていたが、それに対して脅されている雰囲気も様子も一切無かったということ。そして、その時にあんなにも警戒していたのにこんな断片的な情報が誰に知られる形で出てきたこと。

 

「一体どれが本当なんだろう」

 

「みなさん! ご迷惑をおかけてしてごめんなさい!! でも、私は誰かの命令で動いたことはありません!」

 

 騒ぎに気づいた本人である櫛田。彼女は他の人から見せられたその紙を何度も読み直すと、頭を下げ、この場に溜まっている全員に聞こえるような声で自分の無実を叫んだ。そんな清純そうな子の心からの叫びに誰も彼もが心の疑念心というものを打ち払っていき、騒ぎも収まっていった。

 

「櫛田さん? 大丈夫」

 

「……あ、うん。全然大丈夫だよ三好くん。心配してくれてありがとね」

 

 騒ぎが収まったことで足早に寮の中へと入っていく生徒たちに対して吉宗は櫛田へと近づいていき、心配するように言葉をかけていく。吉宗の元来からの性格の良さというものも、もちろんあるが、それと同じぐらいに櫛田が今、どんな状況にあるのかということを一度取引した仲から気になったからに他ならなかった。

 

「それで……櫛田さんはこれが誰からされたのか心当たりはある?」

 

「……ううん。本当になくて、こんなひどいことをする人なんて全然思いつかないよ」

 

 嘘だ。櫛田はこの事をしそうな人物に心当たりがある。櫛田がこのような状況になっているという嘘を知っていたのは、櫛田自身が掲示板でやりとりをした4人と先日、自分から告白した堀北と綾小路、そして先日の竜ヶ峰だった。無人島などでその辺りを見せた神室や杏里、吉宗も該当するが、そもそも詳細は話しておらず、櫛田はこの短時間で綾小路や橋本に目星をつけていた。

 

「……分かった。でも、僕はこの先の脅威の為にもその犯人を調べたいと思っている。大丈夫かな?」

 

「……うん、分かった。でも、もし犯人が分かったら最初に私に言って欲しいな。その人にも理由があるだろうから、それを直接聞いてみたいから」

 

「分かった、そうするよ。じゃあ、気をつけて」

 

 二人はあたかもほとんど接点の無いような関係性の会話をし、別れて行く。この状況において接触してくる吉宗に櫛田は多少は警戒したものの、櫛田は吉宗のことを悪魔のような取引をした間柄という点からよく分かっていた。だからこそ、櫛田はその信頼とも言えない信用から吉宗からの犯人の特定の提案を暗に肯定していた。

 

「……吉宗くん。犯人のことは探すの?」

 

「うん、そうしようと思ってる。美紀さんも手伝ってくれるかな? この先、Aクラスが進む為にも必要なことだと思うんだ」

 

「もちろん。吉宗くんの役に立てるならなんでもするつもりだから」

 

「ありがとう美紀さん。ほんとうに頼りにしてる」

 

 二人は否応なく櫛田を中心とした怪しい渦に巻き込まれていく。それは吉宗が悪魔と契約してしまった時から訪れることが決まっていたのかもしれない。それがどんな結末を迎えるのかはこの紙を仕込んだ人間も櫛田本人にも分からないことだった。




 後、今更ですが、綾小路グループは一応結成されています。特に変更などが無いのです描写していませんが。

 次回でペーパーシャッフル編は終わります。

カップル同士などの描写の深さについて

  • 仄めかしもやめてほしい
  • 仄めかす程度ならば問題なし
  • 軽い描写なら良し
  • 多少深くてもok
  • ギリギリまで攻めてよし
  • どれでも気にしない
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