「はぁーめちゃくちゃ緊張すんだけど!!」
「静かにしようよ柴田くん。みんな集中してるんだから」
「分かってる。分かってるけどよ! ここでAクラスに勝てたら俺たちがAクラスだぜ? 緊張するなって方が無理だろ!!」
「それはそうかもね」
ペーパーシャッフル開始まで1時間が切ったBクラスの教室。この場ではAクラスに追いつけるかもという緊張感で雰囲気が完全に固まっており、全員が全員その雰囲気に押しつぶされそうになっていた。
「みんな落ち着こう! この試験で緊張するのも無理はないと思う。私だって緊張してる。でも、みんながしてきた努力は私が一番知ってる。だから、その努力を信じてこの試験に挑もう。きっと良い結果が出ると思うからさ!」
けっして特別な言葉ではないが、人の心にすっと入ってくるような言葉の数々。それはこの針詰まった空間によく響き、全員の意識から緊張を解いていく。他クラスのリーダーでは絶対に同じ手段を取ることは出来ないこの癒すような言葉は一之瀬のもっとも分かりやすい武器ではあるが、それを脅威だと思っているような人間は現時点でこの学校にほとんど居なかった。
「じゃあそろそろペーパーシャッフルを始めるね! みんながAクラスに上がるのを楽しみにしてるからね!」
最後の最後の詰めの時間の終わりを告げるように担任である星乃宮からわざと煽るような言葉が送られる。しかし、その言葉を聞いても先ほど一之瀬から加護のようなものをもらったBクラスの生徒たちに緊張が舞い戻ることはなく、各々が真剣な目線で星乃宮の期待に応えるように拳を握りしめる。
「うん! みんなの気合いは伝わったよ! 応援してるからね!!」
このペーパーシャッフルのことが発表されたその日から何度も何度も集団勉強会をしたり、勉強が不安な人には一之瀬や勉強が得意な人がサポートするなど他クラスよりも何倍もの努力をしてきたBクラス。その自信が今の彼らを支え、その実力を発揮することに全力を注いでいた。
★ ★ ★
各々が各々のクラスなりに努力した結果が出る二日間のペーパーシャッフルが終わりを告げた。勝者がいて、敗者がいるのがどんなものにもある仕組み。そして、今回にもそれは適応される。
「ペーパーシャッフルご苦労だった。Dクラスという学力で大きく劣るお前たちだが、今回は中々に頑張ったようだな。素直に感心したよ。心からの祝福を送ろう。おめでとう」
祝福する気があるのか、ないのか分からない茶柱の言葉だったが、そんなものは既に慣れっこなのかDクラスの生徒たちは言い返すことはせずにじっと詳細な結果を待つ。
『Aクラス対Bクラス 勝者Bクラス
Cクラス対Dクラス 勝者Dクラス』
『Aクラス 824ポイント
Bクラス 953ポイント
Cクラス 492ポイント
Dクラス 212ポイント』
「以上通りだ。お前たちには関係無いかもしれないが、以上の結果を受けてBクラスがAクラスへと昇格し、AクラスはBクラスへと降格した」
茶柱の言葉だけでは出なかった歓声とも言える喜びの叫びが結果が張り出された途端に強く教室中に響いた。それを受けて茶柱もそこまで喜びの声が出るとは思わなかったのか、少し笑みが溢れてしまっていた。
「これから先も期待しているぞ」
淡白な感想を終えると茶柱は生徒たちに後を委ねるように自分は教室の後ろにはけていく。そんな行動を茶柱がすることが分かっていたのか、正臣は教卓にゆっくりと手をつき、軽く演説を初めていく。
「さえちゃんありがとね!! いやー俺たちってやっぱやれば出来ちゃうんだよな。そう思わね? だってよ、Cクラスに純粋な学力で勝ったんだぜ? 祝うしかないよな。打ち上げ行くしかないでしょ!!」
段々と声を上げていき、最後には打ち上げの開催を宣言した正臣に呼応するように拍手とさっきと変わらぬ歓声が上がり、正臣の求心力がさらに上がったのだとこれを見た者ならば確信するような光景だった。
「んで、真面目な話なんだけどよ。これからも俺たちは一之瀬ちゃんのクラスと手を組んでいきたいって思ってる。どう思うか意見が欲しい」
「僕は良いと思う。一之瀬さんたちがAクラスに上がったとしても僕らと敵対する理由が無いとは思うから」
「私もそう思うわ。一之瀬さんたちもいずれは倒さなければならない敵だとしても、今は手を組む方が私たちにはメリットしかないもの」
「だよな。俺としては続けるつもりで一之瀬と交渉してくるから、もし反対って言う奴が居たら、直接言ってくれ」
一之瀬との同盟を続けることに対して意見を求めた正臣に対して平田や堀北が合理的で肯定的な意見を出し、それに頷くクラスメイトが多かったことから、正臣は反対意見を出しにくい雰囲気を意図してか天然かは分からないが創り上げ、同盟を続けることをクラスの意見とする。
「じゃあ、打ち上げの場所は後でグループに連絡しとくから、みんな見てくれよな!」
打ち上げという楽しげな話題でまとめた正臣は自分の席へと戻って行く。その途中で美香に対して何かしらの目配せをしたことに気づく人間は居なかった。
★ ★ ★
静まり返っているAクラスの教室。それは何を隠そうAクラスから転落したことを信じられないと言った生徒ばかりだからであり、そのショックで何も言えなかったからである。そして、指揮を取っていた本人である葛城はある選択を迫られていた。
「さぁ、葛城くん。選択してくれませんか? 貴方はこの後、表舞台から去るのか、それともどちらかの軍門に降るのか」
「……分かっている。ケジメはつけるつもりだ」
負けたことによる葛城の謝罪は終わり、その処遇とケジメを迫る坂柳。葛城とて、リベンジが出来るのならば、したいだろう。しかし、このクラスの空気感はそう言ったものではなかった。ただただ葛城に何かしらのケジメを取らせなければ終わらない。そんな暗い雰囲気が漂っていた。
「今回の結果により、Bクラスに落ちたのは俺の責任だ。そして、そのケジメとして俺は表舞台から降りる。だが……俺は……三好のことを推したいと思っている」
表舞台から去ろうとしている男から出されたその言葉はこの教室にいるあらゆる生徒に多くの驚きと動揺をもたらしたが、その答え合わせをすることなく葛城は席に座り、沈黙に伏した。
「葛城くんからの言葉は嬉しいし、僕も葛城くんのことは尊敬している」
そんな空気感の中、渦中の人物であるからこそなのか、自分の意見を述べていく吉宗を周りの生徒たちはここからどんな言葉を言うのだろうと緊張した面持ちで見守っていく。
「そして、僕はそんな葛城くんにこんな若輩者の僕をサポートして欲しい」
中立派として穏健派の葛城と対立していた吉宗による葛城のスカウト。それを予想していたのかのように坂柳は笑みを深め、葛城はまさかこうなるとは思っていなかったのか、怪訝な顔を崩してしまう。
「何故そんな事をする三好。皆の失望を背負った俺など必要では無いはずだ」
「いや、必要だよ。葛城くんはここにいる誰よりも俯瞰して、みんなのことを見てくれる人間だ。それに、葛城くんは僕に賛同すると言ってくれた。だったら、僕のこの選択にも賛同して欲しい」
強引な意見も織り交ぜつつ、葛城を引きこもうとする吉宗。そんな失敗した人間を引き込もうとする吉宗に葛城も諦めがつき、静かに頷いていく。
「いいでしょう。これにて、今回の試験に対する反省会は以上としましょう。リーダーが二人となったことでどちらのリーダーが良いかは決めやすくなりましたね」
この敗北によるAクラスのBクラス転落は確実にAクラスの生徒たちの空気感を変えていき、より洗練されたリーダーを求めるようになっていくだろう。
★ ★ ★
いつものカラオケルームでは無く、珍しく幽の部屋に居るのはその家主である幽本人と龍園の二人。二人ともがペーパーシャッフルの結果を受けてか、テンションは高くないようで殺伐とした部屋の中になっていた。
「何か次の策はあるの? 龍園」
「ないなら、てめぇの部屋までノコノコ来るわけねぇだろ」
「だけど、龍園は容易く張間さんに騙された。しっかりと策は話して欲しい」
「ハッ、そんなこと言われても分かってんだよ」
今回のペーパーシャッフルでのCクラスの敗北には美香が大きく関わっており、彼女は龍園と取引したにも関わらず、いくつかのテストにおいて偽のテスト問題を渡していた。
「あいつには俺らを裏切った報いを与えてやるよ」
「それは自由にすればいいけど、次の策は?」
幽の重ねるような問いかけに顔を顰めた龍園だったが、既に新しい策の具体的なものを練っているのか、美香の話を切り、その具体的な話の方を話し始める。
「金田の野郎が新しい情報を持ってきやがってな。Dクラスの櫛田のバックには黒幕がいるらしいってな。胡散臭いが探って損があるものじゃねぇからな」
「そんな素振りは櫛田さんに会った時に感じたこと無いかな」
「てめぇが気づく程度のものなんて、探る意味なんてねぇだろ」
幽はあの天使とも言われる櫛田が誰かに指示されて何かを動いて姿が想像出来ず、疑問的な顔をするも龍園はその意見を根本から折るように何枚かのコピーされた紙を差し出す。
「あの掲示板か。この田中って人は誰か分かってるの?」
「分からねぇな。だが、その内容を読む限り櫛田に近けぇやろうだろうな」
金田から龍園に渡されたその紙の内容は橋本や網倉に送られたものとほとんど内容は同じものであり、帝人がその内容から櫛田を疑ったのと同じように龍園も櫛田の近辺を疑っていた。
「確かに。たまたまその場面を目撃したりした人物がこんなことを人に言うリスクは犯さない」
「だからこそ、怪しいのはDクラスやあいつの交友関係周辺だ。それに加えて、この間のあれだ。こっちから招かれてるようなもんだろ」
金田から渡されたこの紙だけでは龍園も動くのはもう少し様子を見ていただろう。しかし、ついこの間騒動になった寮のポストに投函されていた櫛田に対する紙の数々。あれで、龍園は動き出すことを決めていた。
「あれも俺たちのようなのを誘う為の者かもしれないよ」
「それはそれで構わねぇ。櫛田を裏で操る怪しい奴か櫛田を陥れたい奴のどっちかの正体を突き止められるんだ。やって損はないだろ」
特別試験で敗北になったにも関わらず、龍園は笑みを崩すことは無い。それはこの先、坂柳という強敵と戦う時に揃えておける手札は揃えておきたいという精神と自分の障害になり得るかもしれない人物を先に潰しておけると考えているからだった。
次回からは7巻編に入りますが、原作と違いDクラスが躍進という躍進をしておらず、紀田という明確なリーダーが存在していることで龍園がX探しをしないので、原作とは大きく違うストーリーになります。
カップル同士などの描写の深さについて
-
仄めかしもやめてほしい
-
仄めかす程度ならば問題なし
-
軽い描写なら良し
-
多少深くてもok
-
ギリギリまで攻めてよし
-
どれでも気にしない