ようこそ非日常の溢れる教室へ   作:地支 辰巳

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 今回から前章から続く櫛田騒動に決着が着く章になります


手を差し伸べられる人と手を伸ばせない人
その秘密はまるで月のよう


 

 坂柳、吉宗のいるAクラスがBクラスとなり、一之瀬、帝がいるBクラスがAクラスとなってから数日。互いのクラス内での混乱はそこそこあれど、学年全体を通してはそこまでの変化は無く、一時の平穏が訪れていた。しかし、そんな空気と雰囲気をぶち壊すような揉め事が寮から寮への道で起こっていた。

 

「何も逃げることはねぇだろ? 俺たちに黒幕のことを聞かせりゃあ良いんだからよ」

 

「……私、探し物があって。それに龍園くんたちに下手に言えばこれからどうなるか分からないから」

 

 露骨に嫌な顔はせずに嫌そうなオーラをだけを上手く漂わせているのは先日、多くの人間に弱みが誰かに握られていると知られた櫛田。そんな櫛田に絡んでいるのは美香に一杯食わされて試験に負けてしまい、最近苛立ってる様子が見られる龍園とその龍園と唯一対等で接しているとも過言ではないCクラスの知将幽だった。

 

「じゃあ、事実だけ教えて欲しい。黒幕がそもそも居るのか、居るとして言えないのかどっちなのかを」

 

 何らかの事実を肯定することを避けている櫛田に対して、冷静にかつ、しっかりとした答えを得られる質問をする幽。そして、その幽の質問は櫛田にとって有効だったようで、さっきまでサラサラと答えていた櫛田の言葉が少し詰まる。

 

「えっと……うん……私は頼まれてることをしてるだけだから、その人のことは何も知らないの。急に掲示板を通して連絡してきたから」

 

「その事を言うだけで随分時間がかかったみてぇだな」

 

 ここまでのらりくらりと言葉を避けてきた櫛田の言った言葉を直ぐに信じるほど龍園は馬鹿でもないし、お人好しでもない。それを体現するかのように龍園はどんどん距離を詰めていき、至近距離で櫛田を睨む。

 

「龍園」

 

「うるせぇ幽少し黙ってろ。櫛田、てめぇのことは信用出来ねぇからな、証拠を見せろ」

 

 先の美香からの反省をしっかりと活かすように入念に証拠を出すように追い立てる。至近距離からの龍園の追い立てなど、常人ならばそれだけで呼吸が乱れ、恐怖を感じてしまうだろう。しかし、ここにいるのは数多の人間と接してきた櫛田。その程度の追い立てにはビビることは無い。だが、何もしなければ、この状況は変わらない。

 

「あ! どうも」

 

「チッ、てめぇ。よく俺の前に顔を出せたな」

 

 そこに都合よく現れたのは買い物袋を手にした美香。先ほどの試験のこともあり、二人が会った瞬間、この空間は重く気まずい空気に包まれる。

 

「俺らを騙しておいて、ただで済むなんて思ってねぇだろな?」

 

「いやーまさか、ハハ。私だって仕方なくやったんですよ。恨みなら紀田くんにして下さいよ」

 

「ハッ、あいつだっていずれ潰すさ。ただ、その前にてめぇを潰す方が先だ」

 

 乾いた笑みを浮かべつつ、龍園と目を離すことはしない美香。ここにいる三人全員が龍園と張り合える精神を持っており、それは全員が無意識ながらも感じていることだった。

 

「じゃあ、私は隆二くんと会わなきゃいけないので」

 

 去ろうとしている美香をこの場では何もしないというように見逃す龍園。しかし、美香と睨み合っている間に櫛田も逃げていたらしく、この場に残ったのは龍園と幽だけだった。

 

「あいつはどんな様子だった?」

 

「こちらの様子を見ながらも寮に帰っていったよ」

 

「誰に着けさせたんだ?」

 

「伊吹さんだよ」

 

「悪くねぇな」

 

 そもそもとして龍園はこの櫛田への詰めで容易く成果が得られるとは思っていない。そんな事ならば櫛田という背後にいる存在は学校中に確かな存在として知られており、櫛田とは数少ない交流しかしていない龍園ながらも、この学年での人気を鑑みるならば、櫛田はここで吐くような玉では無いとは確信していた。

 

「ククク、あいつがどう動いてくるか楽しみで仕方ねぇな」

 

「何かしらの動きがあることは確かだろうね」

 

 龍園は近づきず、遠過ぎず、この櫛田を巡る問題を見つめる。この裏にいる黒幕の手のひらの上で自分が踊らされないように。

 

 

★ ★ ★

 

 

 龍園が櫛田に絡んだ日から一日後、普段は色々な女性に居ることが多い正臣はその中では珍しい女子生徒と一緒に居た。二人ともがお互いのことを何となく嫌ってわけでもなく、大した理由があるわけでもない。ただただ何となく合わないと思っていたから交流していなかったに過ぎなかった。

 

「んで、急に呼び出したってことはもしかして、俺に惚れちゃった?」

 

「馬鹿なこと言うの辞めてもらえません? 私は隆二くん一筋。貴方なんか興味ないんで」

 

「んーやっぱ愛する人がいる子からの言葉はキツイな」

 

 他の女生徒に接するように美香に話しかける正臣だったが、そんな冗談は全く持って聞きたくないというように美香に感情を失ったような表情を向けられる。そんなにも言われると思わなかった正臣は心を入れ替えるように真剣な表情に変える。

 

「実際ところどういう用なんだ? あの件ことか?」

 

「ええ、あの件です。実はあの件について龍園くん直々に宣戦布告を受けたんですよ。だから、あの件の約束をしっかりと言っておきたくて」

 

「あんだけのことをやってもらったんだ。約束はしっかり守るぜ。張間と神崎に対して退学に等しいことが無いようにする。そして、二人の関係に対しての口出しをさせない。えっと、BじゃなくてAクラスとDクラスの同盟の永続だろ? ちゃんと覚えてるよ」

 

「なら、良いんですよ。私はあそこまでのリスクをしてしたんですよ? これでも破格なぐらいですよ。守る気……ありますよね?」

 

 守る気が無いのなら、どんな手にも出るぞというように乾いた笑みすら無い表情でぐっと正臣の顔を見る。普通の人ならば多少なりともその美香のスタンスに引けを取るところだが、正臣とて多彩で多様な人生経験をしてきた身。このくらいの脅しには大した反応をすることは無い。

 

「俺がそんな薄情なやつに見えるか? 麗しい美女との約束は守る男だぜ」

 

「それなら良いんです。ちゃんと録音もしたので期待してますから」

 

 期待していた言質を正臣から取られことで満足したのか美香はさっさと正臣の元から去って行く。そんな美香の様子に正臣は多少の後悔をする。負けているといったはずの負けはしていないはずだが、圧倒的に他クラスと離れているDクラスのクラスポイント。それを少しでも上げる為とは言え、クラスを裏切るとしても不思議はない美香を使って龍園に策を講じたことを。

 

 

★ ★ ★

 

 

「橋本くん。これについての色々と話してもらいたいことがあるのですが?」

 

「いやーそれはちょっと困るな姫さん。これは俺だけでやろうと思ってたんだけどな」

 

 橋本はある日幾分か珍しく坂柳に呼び出されていた。Bクラスに落ちたことによる作戦会議かと思っていた橋本に突きつけられたのはこの間広まった櫛田に関する紙と橋本が櫛田に詰め寄っている場面を取った写真だった。それに対して、橋本は本人すらも動揺してしまったと自覚するほどのリアクションを取ってしまっていた。

 

「あなたが話さないならそれも構いません。ですが、それを隠すということはそれなりの信用を失うことだと言うことを理解してくださいね?」

 

 元から大して信用してないだろと心の中で思いながらも橋本は考えを巡らせる。ここからどれくらいを坂柳に話すべきかを。他学年の普通の生徒には櫛田の対応からあんな紙がデマだと知れ渡っているが、橋本が知っていることと言えば、それが嘘だと言うことぐらい。それを言って、坂柳がクラス闘争よりもそっちに関心を寄せてもらっては橋本は困るのだ。

 

「俺が知っていることと言えば、櫛田が誰かに脅されて動いているかもしれないっていう情報だけだ。これくらい、あんたなら直ぐに仕入れるだろ? だから、もう少し仕入れておこうと思ってたんだ」

 

 橋本の言葉に坂柳の側に居た杏里と神室の顔がしかめ面になり、何故、そんな表情をするのか分からないことに橋本が同じくしかめ面になるが、坂柳は変わらない笑みを浮かべ、まるでこの結果が予想通りのようだった。

 

「実は無人島で神室さんと園原さんは櫛田さん本人から指示を受けているといういった言葉を聞いているのです。しかし、橋本くんが聞いたのは脅されて指示されているといった言葉。さて、可笑しな話です」

 

「確かに……そうですね」

 

「ここから導ける予想はそう多くありません。櫛田さんの言っているどちらかが嘘だということ。脅されている人間が自分から平気な顔で指示を受けているとは言わないので、十中八九、本人も了承の元で指示を受けていたのでしょうね。もしくはそもそも黒幕なんて居ないこともあり得ますね」

 

 ここまで櫛田の性格からその可能性を全く追っていなかった3人は坂柳の推理に感嘆し、その可能性もあってしまうのではないだろうかと思ってしまう。

 

「ここまでの推理にはそれなりに自信があります。そして、この件には2人の人物が関わっています。櫛田さんの裏にいるだろう黒幕、そして櫛田さんの裏に黒幕が居ることを知っている人の2人が。どちらを追うとしても特定は難しいことになるでしょう」

 

「で、姫さんはどちらを追うつもりなんだ?」

 

「いえ、私はどちらも追うつもりはありませんよ。この意図されたような空気感と追ってくれというようなお膳立てが気に入りませんから」

 

「今回は……傍観ってこと?」

 

「そういうことです。いずれ、誰かが特定すれば広まることになるでしょうから」

 

 龍園も感じているであろうこのきな臭い空気感を坂柳も同じように感じ取る。しかし、その選択に置いては龍園と坂柳は別々の選択肢を取っていた。罠を張ったかもしれない人間ごと食おうとする龍園と罠を張った人間もかかった人間もどちらも外から余興として眺めようとする坂柳といったように。

 

 

★ ★ ★

 

 

 じわりじわりと櫛田に関する噂が広がっているような中、生徒会室に入ろうとしているのはついこの間会長へと就任した南雲だった。南雲とて、その噂は耳にしているが、一年の中での小競り合いだと思い、生徒会に持ち上げることも誰かと必要に語り合うこともしなかった。そんな中、生徒会室前の廊下に何らかの紙切れとハンカチが落ちていた。それを興味本意で拾った南雲だったが、その紙切れには顔が少し歪む。

 

「何故……こんな物が」

 

 その紙切れには女遊びが激しい南雲が関係を持っている女子生徒の名前が書かれており、しかも、近々で何処で会ったかも詳細に書かれているものだった。南雲が遊んでいる人だということを知っている人間は多いが、ここまで詳細に書いてあることに南雲は普段の生活では得られないほどの嫌悪感を感じる。

 

「誰だか知らないが、気色の悪い野郎だ」

 

 これを書いたであろう人を特定しようと決める南雲。そして、一緒に有ったそのハンカチには小さくK.Kという文字が刺繍で縫われていた。




 色々と察するところもあるかと思いますがこの章は色んな人間が色々動いていきながら進んでいきます。

カップル同士などの描写の深さについて

  • 仄めかしもやめてほしい
  • 仄めかす程度ならば問題なし
  • 軽い描写なら良し
  • 多少深くてもok
  • ギリギリまで攻めてよし
  • どれでも気にしない
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