ようこそ非日常の溢れる教室へ   作:地支 辰巳

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 お待たせしました。今回から7.5章です。色々な関係性の発展とか整理です


間章 自己を知る愚者たちと去っていく冬の日々
昨日を思い返すか明日を思うか


 櫛田の騒動が終わりを告げてから数日後のクリスマス前日。クリスマス前ということもあってカップルが何人もいるイタリアンレストラン。そこではピザを頬張っている臨也と小さな口で少しずつパスタを食している沖谷がおり、その組み合わせはここでは少しだけ目立っていた。

 

「今回は色々と動いてくれて感謝してるよ。君の助けが無ければここまでのことは出来なかっただろうね。もちろん、君本人もやりたかったことではあるだろうことだと思うけれど」

 

「僕がやりたかったではあります。でも、僕がやったことなんてハンカチの入手とそれを置いたことぐらいです。臨也さんがやったことからすれば小さいことですよ」

 

「謙遜や遠慮は君の美徳だね。他の人にも見習ってほしいところだよ。特に彼女なんかは今回でそういったところを学んだじゃないかな。そういえば君と初めて会ったときはあまりそういうところは出なかったね」

 

「昔のことはあまり言わないでください。あの時は特別です。臨也さんと初めて会いましたから」

 

「うん、君のことをあの時見いだしたのは今だって良いことだったと思っているよ。だから、ついつい初めて会った時のことを思い出すよ」

 

 臨也と沖谷が初めて出会ったのは5月の中間テストの勉強期間の真っ只中。沖谷は臨也と出会わなければ少しだけ顔が可愛い普通の学生として大して注目されずにこの学校を卒業することになっていただろう。しかし、もう沖谷がそうなることはないだろう。臨也に魅せられてしまったのだから。

 

 

     ―――――――――――――――――――――

 

 

 5月にあった初めての中間テスト。当時のDクラスとBクラスでは合同勉強会が開催されるなどしていたが、それとは別に堀北主催の勉強会が開催されたことがあった。そこには須藤や山内、池。綾小路に櫛田など中々尖った面子が揃っていたが、その場には何故か沖谷も居た。沖谷はそこにいる男子たちとはあまり仲良くは無かったのだが、平田や正臣のことは苦手としていたことからこの集まりに参加していた。そんな色んな事情のある沖谷はあまりこの場に馴染めているとは言えなかった。

 

「ほんと櫛田ちゃんは可愛いよなーー!! マジ堀北とは大違いだぜ」

 

「わかるわかる。やっぱ彼女にするならあんな感じの清楚で優しい子が良いよな!! 沖谷もそう思うだろ?」

 

 第一回のその勉強会では人との接触が少なかったことにより問題のあった堀北の態度により、須藤の堪忍袋の緒が切れたことで二人の喧嘩となりご破算となって解散していた。それに対して沖谷は残念だと思う気持ち半分ぐらいはあったものの、それ以上、何か具体的な感情を持つことは出来ていなかった。それほどまでに沖谷は人生において熱中するものも関心を寄せるものも無かったのだ。

 

「え、うん、そうだね」

 

 そんなことを沖谷が思っているとは露知らず楽しげに駄弁る池と山内。そんな二人を責めるわけでもない沖谷はさきほどよりも足取りがどんどんと遅くなっていくが、池と山内の二人はそれに気づくことはなく進んで行き、気づけば沖谷と二人の間には大きな差が開いていた。

 そして、その開いた差の間に入るような形で階段からあの男が降りてきていた。

 

「やぁ、浮かない顔をしているね。何かあったのかい?」

 

「……え、?」

 

 その時の沖谷の心の中はどうなっていたのか。それを端的に表すことは非常に難しかった。それほどまでに沖谷の頭と心は臨也という人間が持つ魅力に当てられてしまったことが大きいだろう。声と姿しか情報がなくても、そうなってしまったのは沖谷が影響を受けやすかったのか、それとも臨也の魅力がそれまでほどまでに強かったのかどちらかだった。

 

「そんな惚けた顔をするなんてね。俺を見てそんな顔をする人間は初めてだよ。君はよく他の人にそんな顔をしているのかい?」

 

「いや、初めてです。あなたは……誰ですか?」

 

「折原臨也。この学校にいるなら名前ぐらいは聞いたことあるんじゃないかい? まぁあまりいい噂は聞かないだろうけどね」

 

「たしか……2年の」

 

 入学して一ヶ月ほどしか経っていない沖谷ですら、やんちゃな先輩がいると言う名目で聞いていた名前。その本人が目の前にいると理解しても沖谷はそんなにもやんちゃな先輩が目の前にいる臨也だとは思えなかった。

 

「沖谷くんだとね。顔と大体の情報は聞いてるよ。でも、聞いてた話よりは面白そうだね。どうだい食事でも」

 

「は、はい」

 

 女子にしていたのならナンパにすら思われる誘い文句。しかし、臨也はこれまでも今回もそんなつもりでこの言葉を吐いたわけではない。この目の前にいる人物が自分の想像を超える人物かどうか、それを見極める為の誘い文句に過ぎなかった。

 そして、そんな事情を知らない沖谷はただ自分という人間を吐き出したい為に、それだけの為に臨也の後に着いていく。

 

「僕は昔から他の男子よりも身体が劣ってました。そんな周りのみんなに憧れていたんです。男らしいみんなに。でも、僕がどれだけ頑張ってそうなれませんでした。誰かに憧れるような男に。でも、折原さんを見た時、僕のこれまでの認識がひっくり返されました。あなたこそ、真に僕が憧れる相手だと」

 

「……そんなこと、初めて言われたよ。俺なんかよりも立派な人間たちはこの世にはいっばいいると思うし、そっちに憧れた方が君の為にもなると思うけれど」

 

「何でここまで僕自身、折原さんに憧れたかは分かりません。でも、どれだけ筋肉をつけても、頭を良くしても折原さんには敵わない。そう思わされたんです」

 

 ここまで饒舌に物事を語ることは沖谷の人生で初めてのことだった。そして、臨也もここまで人に憧れられるという経験も初めてだった。人から嫌味や恨み、怒りしか買ってこなかった臨也にとっては本当に新鮮な経験だった。だからこそのワクワクを沖谷から臨也は感じとっていた。

 

「君が俺になれるなんて全く思わないよ。そもそも能力的にも性格的にも足りないし君の個性というものを消してしまうかもしれないしね。でも、君が俺になろうとすることを否定しない。それこそ、君の人間らしさになるかもしれないからね」

 

 この異質な導きと運命によって、臨也の駒として働いていくことめ臨也のようになることを誓った沖谷。この出来事を沖谷は一生忘れることはないだろう。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「君もあの日を思い起こしていたのかい? 本当に俺への憧れが強いんだね」

 

「はい。あの日こそ、今の僕の原点で折原さんは僕の目標ですから……これからはどうするんですか?」

 

「特に何も考えていないよ。俺が何もしなくてもこの学校が何かしてくれるだろうからね。とりあえずは……それを楽しむことにするよ」

 

 静雄と喧嘩をし、櫛田の精神を脅かした臨也は次に起こるであろう嵐を予感し、それをとりあえずは外側から楽しむことにする。自分が何もしなくても何かをしてくれるのだという人間の可能性を信じて。臨也の言うことを忠実に実行していき、自分という人間を変容させていく沖谷もこれから訪れる様々な試験などで自分がどう行動するのかを己の行動にも関わらず楽しみにしていく。

 二人がこの騒動から得たものは混乱ぐらいだろう。だが、それでも二人はこの騒動に関わった誰よりも楽しそうだった。

 

 

★ ★ ★

 

 

 12月24日。カップルももちろんだが、誰とこの日に遊ぶかで様々なことが変わってくる日。その日に櫛田は網倉と遊ぶことを選んでいた。男子と遊ぶことは変な噂を呼ぶことになることから選択肢になく、女子の集団で遊ぶことを櫛田は入学当初は考えていた。しかし、つい数日前の出来事から、櫛田は網倉を選択していた。

 

「ほんとうに良かったのかな? 桔梗ちゃんと遊びたい人いっぱいいるんじゃない?」

 

「ううん、そんなことないよー。みんな自分が一番過ごしたい人と過ごしてるよ。私もそうだから」

 

「そんなこと言われちゃったら照れちゃうよー」

 

 和やかな雰囲気に包まれている女子二人。既に龍園が動くことはなくなり、黒幕であった臨也も何も関与しなくなった為、そんな二人を見る目というのは多少は好奇の目があったが、先日の買い物よりは格段に減っていると言えた。

 

「いっぱい買ったねー!」

 

「そうだね!! 桔梗ちゃん夜ご飯はどうしよっか?」

 

「こことかこことかどうかな?」

 

 一日、存分に買い物や遊んだりした二人に窓から暮れていく夕日の光が目に入る。それは網倉に夜ご飯を想起させ、櫛田はそんな網倉に和食とオムライスを提案する。二人は歩きながら相談し、最終的にオムライスを食べることを選ぶ。

 

「やっぱりオムライスはおいしいよね!! 可愛いし」

 

「うんうん。麻子ちゃんの食べっぷり見てると可愛さ倍増だよー!」

 

「えーそんないっぱい食べてないよー」

 

 和気藹々とした雰囲気が続き、食べ終わった後の雑談の熱も冷めて来たころ、櫛田のいつもの笑顔溢れる表情は少しずつ崩れていき、緊張したような引き攣ったような笑みになっていく。

 

「ねぇ、麻子ちゃん。麻子ちゃんには色々と感謝してるんだ。私が困っている時に声をかけてくれたり、南雲先輩に声をあげてくれたり。本当に色々と感謝しかないんだ。これ、感謝のしるしに受け取ってくれるかな?」

 

 櫛田の手に握られていたのはラッピングされた長方形の小さな箱。まさか網倉もプレゼントが渡されると知らなかったので、戸惑い、申し訳なさに苛まれるが、それを和らげるように櫛田は網倉の手を握る。

 

「何も言わずに受け取って欲しい。私のせめてもの気持ちだから。中身も麻子ちゃんのことを本当に考えつもりだから、受け取って欲しい」

 

 いつもの櫛田とは思えないほどに強引に渡されるプレゼント。それに色んなことを考えながらも櫛田の気持ちを読み取って黙って受け取る網倉。それに櫛田は少しだけほっとしたように息を吐く。

 櫛田とて自分の気持ちに整理がついているわけでは無かった。自作自演行為に網倉を使ったこと、それを知らないとはいえ、果敢に南雲に対して庇ってくれたこと。その二つのことを考えてしまうと何かしなければという気持ちにかられたことからのプレゼントだった。言ってしまえば謝罪のプレゼント。そんなこれまでの人生であげたことのないプレゼントの類だからこそ、櫛田は渡すことにこんなにも戸惑っていたのだった。

 

「桔梗ちゃん。プレゼントありがとうね!! 絶対にお返しはするから!」

 

「そんなの大丈夫だよ! 私が勝手にあげたものだから。これは私の感謝の気持ちだから」

 

「うーーん、分かった。桔梗ちゃんの気持ちしっかりと受け取っておくね」

 

 櫛田はこれで網倉からの評価が下がっても構わなかった。これでプレゼントを受け取ってしまっては自分は本当に自分の為に人のことを利用したみたいで。臨也のようになってしまいそうだったから。

 

「明日は……あいつの家にでも行こうかな」

 

 そして、櫛田の頭に思い浮かぶ人物はあの時直接自分を助けてくれたあの男。前までは魅力も何も感じない。そんな関係だった。だけど、今は帝人に対して確かな頼もしさと親しさも持っていた。




 次回は前章で思ってたよりもあまり出番を持たせられなかったキャラたちの様子を書きます

カップル同士などの描写の深さについて

  • 仄めかしもやめてほしい
  • 仄めかす程度ならば問題なし
  • 軽い描写なら良し
  • 多少深くてもok
  • ギリギリまで攻めてよし
  • どれでも気にしない
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